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一章
演目8 ベテラン魔法少女
しおりを挟む学校の屋上に帰還すると、外に置き去りにしていた弁当がカラスたちに食われていた。折角の弁当が台無しになってしまったが、金ならナイトメア討伐でそれなりにある。
変身を解いて元の制服姿に戻った私は購買部へ行こうとした。
だが、屋内へ入るドアを開けようとしたところで、背後から手が伸びてドアを開けるのを塞がれた。
振り返るとブロンドさんの胸元が一番に目に入り、次に顔を見る。
彼女の青い瞳は俺をジッと見つめていた。
「ネロ、少しいいだろうか?」
「……はい」
この状況って所謂、壁ドンでは?
思ったが、ブロンドさんは気にしている素振りが無い。
「君の魔法は随分と独特で面白い。それにあれだけの規模で出して疲労すら感じていないのは相当な魔力量がある証拠だ。というわけで、少し前に言いそびれたが……私と模擬戦をしないか?」
ちょっ、顔近付けないでほしい!
美しくてドキドキが――ってか、これ脅し? それとも自分の魅力を使ったお願い?
「駄目か?」
おっふ……そのちょっと悲しそうな微笑み顔は反則だ!
「あっ、いえ、大丈夫です」
「そうか! なら放課後グラウンドでやろう。約束だ。楽しみにしているぞ♪」
ブロンドさんは満面の笑みを見せ、俺の両肩を掴んで横へ退かせるとドアを開けて屋内へ行ってしまった。
「……演技、か?」
分からない。
女性はみんな女優と聞くが、彼女は元男だ。もし今のが演技だとしたら、女性として相当な時間を生きていることになる。
それはともかくとして、今のは奇術師として見習うべきだろう。
ただまぁ……ドキドキが収まるのに一分ほど静かに過ごす必要があった。
結局、お昼ご飯は中途半端な空き具合のお腹を考慮してエナジーバーで済ませた。
授業は出ずに屋上のベンチで昼寝をして過ごし、時間はあっという間に過ぎて放課後となる。
約束通りグラウンドに行くと、階段になっている校舎側の斜面には沢山の生徒が集まっており、俺に気付くと道を開けてくれた。
その間を通っていると、生徒たちの中からコソコソと話し声が聞こえた。
「ブロンドさんと新人、どっちが勝つと思う?」
「そりゃあブロンドさんだろ。メイン盾だし」
「俺は新人かな。何も賭けないけど」
「やばい、すっげぇ美人だ。ワンチャン狙って告ってみようかな?」
「無理だろ。それに元男かもしれないぞ?」
「それでもいい。いやむしろそれがいい」
「魔法少女ってやっぱりスタイルいいなぁ」
「またマジック披露してくれるかな?」
「……綺麗」
等々だ。
魔法少女になったせいか、視力や聴覚も強化されているのでよく聞こえる。
グラウンドの真ん中では腕を組んで仁王立ちするブロンドさんとマイカがいた。
五メートルほど離れた位置で止まると、マイカが威勢よく言った。
「よく逃げずに来たわね!」
そのセリフはブロンドさんが言うものでは?
言わないけど。
「……約束したから」
「そう。一応言っておくけど、ブロンド先輩は魔法少女の中で屈指の硬さを誇る人よ。生半可な攻撃ではダメージすら通らないから、覚悟して臨みなさい!」
「ああ」
アドバイス……でいいんだよな?
マイカが離れると、ブロンドさんは胸を支えるようにしていた腕組みをやめた。
「では始めようか。観客がいるから流石に全力を出せとは言わないが、マイカが言った通り、私に生半可な攻撃は通じないぞ」
変身し、黄金の鎧ドレスを身に纏ったブロンドさんはすぐさま黄金の大盾を生成。威圧するように大盾をドスンとグランドに突き刺した。
対抗するように私も変身。奇術師風の燕尾ジャケットを羽織るブレザー制服の魔法少女衣装を纏い、瞬時に紫のハットとステッキを生成。カッコつけて右手をハットに添え、左手に持ったステッキの先端を地面に着けた。
「それなら爆弾――は流石に警察が来そうだから自重して、好きにやらせてもらおう!」
ハットから右手を離し、指パッチン。
カッコつけと共に魔法の偽造を兼ねた合図を出し、演目として適当に技を言う。
「真・ホームラン打撃」
ブロンドさんの背後に瞬時に生成した黄金バットで大きなお尻をフルスイング!
ガンッ!
……ガン?
大きな音が出たが、それだけだった。
ブロンドさんは一ミリも動いていない。表情だって眉一つ変わらない。
どういうことかとちょっと黄金バットを浮かせてみれば、殴った方のバットが完全に折れ曲がっていた。
……まぁ、車とか弾き返してたし、ね。小手調べ小手調べ……。
指パッチン。
「失敗串刺しボックス」
ブロンドさんを生成した“?”マークの箱に閉じ込め、同じく生成した鋭く大きな複数の剣で突き刺す。
が、なんか突き刺した瞬間に剣が砕ける音が聞こえた。
箱を展開してみると、つまらなさそうな顔をしたブロンドさんが無傷で立っていて、案の定、砕けた剣の欠片が散らばっていた。
ならこれは?
指パッチン。
「終幕黒曜石」
頭上に全長十メートルはあろうかという長方形の漆黒の石を生成。急降下させて潰す。
だが、石の方が砕けた。ブロンドさんは微動だにしていない。
……硬いな。マジで。
これは本当に本気出さないと駄目だ。
俺はステッキを右手に持ち替えて左手でハットを押さえ、突きの構えを取った。
この距離からでは突きを当てるのは不可能ではあるが、問題無い。イメージでどうとでもなる。
「マジ・ステッキ」
演目を口にすると同時、本気の突きを繰り出す。
数年前に死んでいる元自衛官の祖父から習った銃剣による素早くも重い突きは、見えない収束された衝撃波となって飛び、イメージ通り硬いブロンドさんを吹っ飛ばした。
――マジか!?
だが、吹っ飛ばしただけで姿勢を崩すには至らず踏ん張って十数メートルグラウンドに跡を残して耐えてしまった。
ブロンドさんの表情は変わり、好敵手を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべると動き出した。
ドンッ! と離れた場所からでも聞こえる強い足音を立て、一気に加速して迫って来る。その速度は最早人間を軽く超えていた。
俺は大きな黒い布を生成し、視界を遮るように前に広げる。同時に瞬間移動で背面へと移動。
すると黒い布はブロンドさんのシールドバッシュの衝撃によって吹っ飛んでいた。
大きな隙を見出した俺は即座にブロンドさんの横腹にステッキの先端を着けた。
「チェックメイト」
ズドンッ! ってね!
表面ではなく鎧の内部に一点集中した衝撃波を発すると、ブロンドさんはビクリと一度体を跳ね上げさせた。
「がはっ」
どうやらダメージが入ったようで、ブロンドさんの姿勢が崩れる。そのまま倒れるかと思ったが、ダンッ! と気合を込め直すかのように一歩踏み出して耐え、姿勢を戻した。
「……まだやるかい?」
模擬戦だからこそ追い打ちなど掛けずに声を掛けると、彼女はゆっくりと振り返った。その顔はどこかスッキリとした笑みに変わっていた。
「いや、充分だ。これ以上となると加減が厳しくなってお互いに危険だ。私の負けでいい」
「……そうか」
それは良かった。
ネタ切れのせいで、さっきの攻撃が効いていなかったらどうしようもなかった。一応、まだまだ戦えるがこれ以上となるとどうしても周囲を巻き込んでいただろう。
模擬戦が俺の勝利で終わったことを伝える為、俺は観客たちに向かって右手の拳を空高く突き上げた。
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