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二章
演目15 身体強化
しおりを挟む翌日、学校に来てホームルームにも出ずに屋上に直行。既にブロンドさんとマイカが待っていた。
ブロンドさんの足元には何かが入ったビニール袋が置いてあるが、気にしないようにする。
「揃ったな。今日の訓練を始める前に、継続的な訓練を一つ加えようと思う。今から二人には身体強化魔法を使い、維持した状態で日常を過ごしてもらう」
「えっ、先輩マジですか!?」
「マジだ」
マイカが驚いたことが気になり、聞いてみる。
「マイカ、身体強化魔法とやらを使った状態で過ごすのは、そんなに難しいのか?」
「うん。あんたは知らないだろうけど、身体強化魔法は魔法少女によっては洒落にならないレベルで肉体が強化されるの。それこそ、日常に支障が出るくらいに」
「そんなに?」
「すぐに分かるわ」
……覚悟しておこう。
「二人とも、スマホと魔法少女カードと家の鍵を出して。私が耐久強化の魔法を掛けて、壊れないようにするから」
言われた通り、俺とマイカは物を出した。ブロンドさんはそれに手をかざすと魔法を行使し、光の膜のような物が一瞬覆い被さって消えた。
「よし。これで君たちが馬鹿みたいに力まない限りは壊れないようになった。先に仕舞うといい」
俺とマイカは耐久強化された物を元の場所に仕舞った。
「それでは身体強化魔法について説明をしよう。身体強化魔法とは言葉通りの魔法であり、魔法少女が強力なナイトメアと戦う際に必ず使う魔法だ。効果は魔法少女としての素質や願いによってかなり個人差はあるが、最低でも普通の人間の十倍は強化される。やり方については、全身に魔力を均等に行き渡らせて自分の体が強くなることを念じればいい。ネロ、やってみてくれ」
「はい」
全身に魔力を均等に行き渡らせて……念じる。強化!
おっ、なんか体が強くなった気がする。
「多分、出来た」
「ならこれを持ってみてくれ」
ブロンドさんがビニール袋の中から、安っぽいシンプルなティーカップを差し出して来た。
俺は身体強化されていることを意識し、慎重にカップのハンドルを掴んだ。
パキッ。
「あっ」
掴んだ瞬間、一瞬にして割れた。ブロンドさんが底から持っていなければ、今頃は床に落ちていただろう。
「ふふ、もう一度やってみよう」
笑みを浮かべたブロンドさんは割れたカップを置き、ビニール袋から新しいティーカップを差し出して来た。
もう一度、さらに慎重に掴んでみる。
パキッ。
「……」
もっとか? もっと優しくしないと駄目か?!
「とまぁこんな感じに、身体強化をすると力加減が非常に難しくなる。私も魔法少女になった頃はよく物を壊していた。だから落ち込んだりする必要はない。でも、身体強化のまま過ごして体を慣らしておかないと、サキュバスやリリスとは戦いにすらならないと断言しておく」
ブロンドさんは説明しつつ、ハンドルが取れたティーカップに魔法を行使し、目の前で元に戻した。
「ネロはこのティーカップを持ってお茶が飲めるようになることが、今日の目標だ。マイカはその間、身体強化した状態で私と模擬戦を何度も行う。質問は?」
「先輩、屋上で戦ったら床が抜けたり物が壊れたりしませんか?」
「問題ない。既に私が強力な結界を張っておいた」
マイカの質問に、ダンッ、とブロンドさんが見せつけるように力強くふみつけた。すると一瞬だけ結界の膜が可視化され、すぐに透明になった。
「なら安心ですね」
「始めよう。ネロは巻き込まれないよう、隅で頼む」
「あっはい」
俺が隅へ移動し、二人はジャケットを脱いで準備を終えると模擬戦を始めた。
マイカは大太刀を振り回し火の魔法を使いながらも足裏で爆発を起こして瞬間的に加速し、縦横無尽に駆けて機動戦を仕掛けている。対するブロンドさんは左手に大盾、右手にシンプルなロングソードを持って中央で待ちの姿勢を取っている。ブロンドさんの目はしっかりとマイカの動きを捉えていて、全ての攻撃を防いでいる。
そんな戦いの様子を俺の目はしっかりと見えていた。どうやら身体強化は動体視力や聴覚といった五感も強化されるようだ。
ただ、攻撃がかなり激しく隅のベンチに座っている俺の所まで衝撃の余波が飛んで来たり、マイカの出した火の熱風が来たりしていた。
一方の俺はというと……。
パキッ。
「くそっ、またか」
ティーカップのハンドルがまた割れた。これで何度目か分からない。
ビニール袋の中に入っていた大量のティーカップは割らないように魔法で浮かせて並べたが、既に十個以上は割っている。
一応、ある程度のコツを掴めてはいる。柔らかいロールケーキの生地を潰さないようにそーっとそーっと持つようにするのだ。ただ、一瞬でも気を抜いて僅かに力みでもしようものなら即座に割れる。どうも俺の肉体強化率は相当な倍率が入っているみたいだ。
もう一度……。
パキッ。
「……」
ああああああああああああっ!!
もうやだこれ! ティーカップ脆過ぎ!
ストレスで頭をガシガシ掻いた俺はちょっと休憩する為、ティーカップと一緒にビニール袋に入っていたペットボトルの紅茶を手に取り、蓋を開けようとした。
ぶしゃー!
思いっきり力んでしまったせいで、ペットボトルが破裂した。
お陰で紅茶が自分に掛かり、びしょ濡れになった。無糖のストレートティーだったのがせめてもの救いだろう。
「はぁ~~」
嫌になったので俺は三角座りして拗ねた。
濡れた制服はシミにならないよう、魔法で綺麗にしておいた。
模擬戦の休憩時間に二人からアドバイスを貰ったりしたが、成果は出ずに昼休み。
床に寝転んでるマイカに声を掛ける。
「マイカ、大丈夫?」
「……そう見える?」
模擬戦は何度も行われ、休憩時間はたったの五分という短さのせいで息も絶え絶えで汗まみれ。シャツが透けて下着が薄っすらと見えている。薄い黄色だ。
「マイカはまだまだ体力不足だな」
そういうブロンドさんは程よい汗を流しているが、全然余裕そうだ。戦い方に疲れやすさの違いがあるとはいえ、これが魔法少女のベテランと若手の差なのだろう。
「そういえばブロンドさん、二人とも普通に制服で戦ってましたけど、変身はしなかったんですね」
「それには理由がある。変身して魔法少女衣装を着ると、全ての能力がほんのり上がる。それこそ魔力操作の感覚や身体強化の微調整なんかもやりやすくなって訓練の意味が薄れるから、敢えて変身しなかった」
「なるほど」
「それより昼食にしよう。頑張っているようだし、私の奢りで買いに行ってあげる。何がいい?」
「じゃあ、生姜焼き弁当でお願いします」
「竜田揚げ弁当で」
「分かった」
ブロンドさんは学生鞄から財布を取り出して屋内へと入って行った。
それから少しして、ブロンドさんが三つのビニール袋を持って戻って来た。
「お待たせ。希望通りの弁当が買えた。こっちがマイカ、こっちがネロの」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
受け取ってベンチに座ってから弁当を取り出そうとしたところで、手が止まる。
……これ、割り箸で食べられるのか?
顔を上げると、隣のベンチに座っているブロンドさんがいい笑顔を向けていた。
マイカは離れたベンチで既に弁当を食べている。身体強化している筈なのに、割り箸をしっかりと使っていた。
フッ、なるほど。
魔法で割り箸の耐久を強化して使っているのか。
やり方が分かれば恐れることはない。割り箸を袋から出して、ぶっつけ本番だが耐久強化の魔法を掛ける!
すると、俺の魔法によって割り箸が一瞬膜に包まれた。
これなら……いける!
勢いよく割り箸を割った。
バキッ。
「えっ」
割れたのはいいものの、その時に力んでしまったせいで握り潰して折れてしまった。
……もうやだよ身体強化!
仕方なく魔法で超頑丈な金属製の箸を生成し、泣きそうになりながら食べた。
それから放課後まで訓練は続き、自宅のマンションに帰宅。耐久強化された鍵で玄関ドアの鍵を慎重に開け、ドアノブを掴んで捻った。壊れた。
「……おぉ……」
心が折れた俺はブロンドさんの住んでいる玄関ドアに移動し、壊してもいいと自棄になってカメラ付きのインターホンのボタンを押した。魔法で強化されているのか、ボタンは壊れず普通に押せた。
インターホンが繋がる。
『ネロか。もしかしたら助けを求めに来るんじゃないかと思っていたよ』
「はい。なんかこのままの状態で家に入ると、滅茶苦茶になってしまいそうなんで泊めてください。というか責任取って泊めろ」
『ふふ、いいとも。私の家は全て耐久強化と結界の力でとても頑丈になっている。安心して寛いでくれ』
「じゃあ遠慮なくお邪魔します」
そうして俺はブロンドさんの家で一泊することになった。
因みに俺から一緒に入ろうと誘ったお風呂では、彼女の胸の巨大さと、バキバキに割れている割れている腹筋に圧倒された。
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