幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 俺の名はカイル。
 家族認定の、ドレスフェチ長男だ。

 妹の忘れ物を取りに来た俺は、今、苦悩の最中にいる。
 目の前には、わざとらしく広げたドレスが一着、ベットの上に置いてある。
 昨日、プリシラが寝るときに着ていた、純白のドレスだ。
 抜け殻の様な、そのドレスが妙に艶かしく、触っていい物かどうか悩んでいた。

 落ち着け!俺よ。
 昨日、プリシラと一緒に寝ていた時は、意識する事は無かっただろう?
 その時、普通に触っていたじゃないか!
 そう、一度触っているんだ!
 平気なんだ!

 だが、腕は伸びていかない。

 しっかりしろ!
 カイル!あれは、ただの服だ!
 なんなら布だ!
 そう、綺麗な布だと思え!
 触ってもいいんだ!
 行けぇぇ!

 グワッと勢いをつけ、掴もうとした。
 だが、既のところで手が止まる。

 「くぅぅ!やっぱり触れない!」

 なんなんだ!
 なぜかプリシラの顔がチラつく!
 妹に変な事をしているようで、罪悪感が半端なく押し寄せてくる!
 お、俺は、どうしたらいいんだ!?
 うわっ!!

 突如、ドレスが神々しく輝いて見える。
 そんな事あるわけないのだが、カイルは幻覚を見る程、追い詰められていた。

 なんなんだ、コレは!?
 もはや神のお召し物なのか!?
 こんな物、恐れ多くて触れないぞ!

 それでも時間は、無情にも流れていく。

 おい!カイル!
 プリシラが待ってるんだ!
 時間が無いんだぞ!
 俺がやらねば、誰がやるんだ!!
 長男だろう?覚悟を決めろ!

 「行っけぇぇぇ!!」

 俺は目を瞑り、勢いをつけて、ドレスの端をチョンと摘んだ。

 行けた!
 やれば出来るじゃないか!
 よぉし!後はこのまま持ち上げてっと!
 あとは袋に入れれば!
 ん?袋?

 俺は袋を探す為に、目を開けた。
 その瞬間、視界に飛び込んできたのは、ドレスのスカート部分。
 俺が摘んだのはスカートの端らしく、ペロンとめくれて裏地が見え、ドレスの内側が脳裏に焼き付いた。
 胸の膨らみ部分の縫製が見える。
 それが、妹の裸姿を連想させた。

 『もぉ!お兄ちゃんのエッチ!』

 胸を隠して、膨れっ面を見せる幻プリシラ。

 「ち、違うんだ!プリシラァァ!」

 罪悪感から思わず叫んでしまう。
 何事かと、父が部屋に飛び込んできた。

 「どうしたカイル!?」

 その時、二人の時間が止まった。

 父は思う。

 『妹のドレスで、何をやってるんだ。我が息子よ。ドレスが好きなのは分かるが、それはダメだぞ』

 それを感じ取り、息子は目で訴える。

 『そうじゃないんだ!ドレスは好きだが、俺は間違った事はしていないんだ!』

 それを返す父。

 『じゃあ、その手にしたドレスは何だと言うんだ?現行犯じゃないか』
 『これは!忘れ物なんだ!』
 『そんな言い訳、見苦しいぞ!男なら、認める所は認める気概を持て!』
 『ち、違うんだ!』

 全て親子しか出来ないアイコンタクト。
 無言での不毛なやり取りが、永遠と続くかに思われた。
 だがそこに、慈母の女神現る。

 「二人とも、何をやっているの?カイル。プリちゃんの忘れ物って、そのドレスの事?」
 「そ、そうなんだ!どうやら、このドレスみたいです。はい」

 俺は焦りすぎて、言葉がおかしくなった。

 「ドレスを、そんな持ち方したらダメでしょう?まったく、男の子は無頓着なんだから。ほら、貸してごらんなさい」

 母はドレスを奪い取ると、綺麗に折り畳んだ。

 「ハイ!プリちゃんが待ってるわよ?」
 「あ、あぁ。ありがとう、母さん」

 先程まで、触るのにあれだけ葛藤し、苦労していたのに。
 母の手を介して渡されると、何も感じない。
 上質な生地なのだから、サラサラとした肌触りが心地良いのは感じる。
 だが、ただの服なのだ。

 一体、俺は何と戦っていたのだ?

 幻と対峙した奇妙な感覚。
 改めて見ると、ただの服だ。

 俺はどうかしてるな。
 妹だぞ?
 変に意識しすぎてるな。
 改めなければ。

 俺が考えを改めていると、母が声をかける。

 「カイル!プリちゃん待ってるわよ!」
 「あ、あぁ。すまない、すぐ行く」

 部屋を出ようとした時、父と目が合う。

 『すまんなカイル。早とちりだった』
 『気にしないでくれ父さん。ただ、俺の妹なのだから、変な感情は抱かない事は、覚えておいて欲しい』
 『わかった。覚えておくよ』
 『まったく、父さんのプリシラ愛には困ったもんだ』
 『当然だろう?息子よ』

 完璧なアイコンタクト会話。
 それを見ていた母は言う。

 「見つめ合って何をしてるの!?カイル!父さんは母さんを愛してるんだからね!?」

 何の勘違いをしているのだ、母よ。
 そんなボーイズラブ、あるわけないだろう。

 「何を言い出すんだい、カータ。僕が愛するのは君だけさ」
 「貴方」

 母は瞳をウルウルさせて、父の瞳を見つめる。

 「その。俺、行くよ」

 両親は無言で頷き、その場で見つめ合い続けている。

 まったく、見てるこっちが恥ずかしい。
 イチャつくなら、子供が見てない所でして欲しいものだ。

 俺は駆け足で、その場を離れた。

 玄関の扉を勢い良く開ける。
 外に出た時の一瞬の出来事。
 ティナが自宅に入る所が見えた。
 一瞬なので確かではないが、泣いているようだった。

 何かあったのか?
 うぅ、気になる。

 もし泣いているのだとしたら、話を聞いてあげたい。
 だが、妹が待っている。
 後ろ髪を引かれる思いだったが、俺はプリシラの元へ急いだ。
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