幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 こんにちは。
 『闇の住人』、カイルです。

 いや、『闇の住人』というのは、おこがましいかな?
 とりあえず、『闇見習い』としておきましょう。

 どういう事か、ですって?

 仕方ないですね。
 説明して差し上げましょう。

 カーテンを通り抜ける弱々しい光。
 そんな薄暗い部屋で、ベットの上で体育座りをするカイル。
 暗鬱げな表情で、シーツのシワを指でなぞり、イジイジといじけている。

 私は今、もう昼だと言うのに、薄暗い自室に閉じ籠っています。
 そう。
 この暗がりが、今の私には丁度良いのです。
 今日は誰とも会いたくないですからね。

 幸い、警備のシフトは入っていないから、今日は部屋を出なくていいのです。
 一日中、こうやって引きこもる事が出来るんですよ。

 フヒヒと怪しげな笑みをするカイル。
 しかしその目は、悩みを抱えて淀んでいた。

 ずっとこのままがいいんですけど、明日は、どうしたらいいんでしょうか?

 明日は警備のシフトが入っている為、否が応でも出なければならない。
 引き籠れるのは今日だけだ。
 だがカイルは、性別が変わったの如く、乙女のような思考回路で悩んでいた。

 ハッシュ君に、シフト代わって貰おうかしら?
 でも、ハッシュ君が連続勤務になっちゃうし、迷惑かけちゃうよね。

 そうよね、うん。

 ハッシュ君が可哀想よ。
 頼めないわ。
 それに部屋から出たくないんだから、連絡手段もないし、どうしようもないわ。

 カイルは女々しく苦悩する。

 あぁ!でもでも!
 他の人に顔を合わすのは避けたいわ!
 まだ私の心は、そこまで修復出来てないのよ?
 恥ずかしくて耐えられないわ。

 カイルは昨夜、恥ずかしメーターが振り切ってしまい、情緒が不安定になっていた。
 些細な事にも耐えられる自信がなく、もはや別人の様だ。

 どうしたらいいの?
 私、どうしたらいいの!?
 教えてよ!妖精さん!

 架空の存在に教えを乞う主人公。
 作者が戸惑うほど、カイルはキャラ崩壊を起こしていた。

 このままでは、今まで築き上げてきた硬派なキャラが台無しになってしまう。
 彼のイメージを守る為にも、どうにかしなければ。
 作者は手札をきった。

 『作者のターン』
 開幕して直ぐで申し訳ない。
 しかし早く大筋の物語を進めたいので、最強の手札を使わせてもらいます。
 行きなさい!
 『慈愛』の使い手、カータ!

 作者はカータを召喚した。

 コンコン。

 「カイル、もうお昼よ?ご飯要らないの?」

 カイルの返事はない。
 カータはドアを開こうと、ドアノブに手をかけた。

 返事をできないほど疲弊していても、『慈愛』スキルで心を落ち着かせれば、こっちのものです。
 適当に宥めて、次のイベントに進んでもらいましょう。
 さぁ、カイル。
 元の硬派キャラに戻るのです!

 しかし。

 トラップカード発動。
 『ドアに鍵掛け』の効果により、カータの侵入を防ぎました。

 「あら、開かないわ?おかしいわね」

 カータは部屋に入れない。
 視野に入れる事ができない為、『慈愛』効果は適用されませんでした。

 何だって!?
 カイルの部屋に、施錠できる鍵など設置していないはずなのにーー。

 戸惑う作者をよそに、ゲームは進む。

 『カイルのターン』
 カイルは効果カード『深まる闇』を使用しました。
 これにより闇属性が一段階上がり、より硬派率が下がります。

 硬派率が下がる?
 どんな効果があるの?

 ゲームマスターが解説する。

 硬派率が下がると、男らしさが失われていきます。
 今のカイルは、硬派率がゼロに等しいので、『深まる闇』効果により、硬派率がマイナスになります。

 マイナスに?

 はい。

 どうなるの?

 会話の間に「イヒヒ」と気持ち悪い笑い方をするようになります。
 
 主人公が「イヒヒ」なんて笑い方したらマズイでしょ!
 それじゃあ悪役か、裏切り者みたいに思われちゃうよ。
 何とかしないと。

 しかし父ベイルを召喚しても、部屋に入れないから、『汚れ落とし』効果は期待できないよね?
 ドアに掛かる鍵をなんとかしないと、突破口が見えないから、えぇと。

 手札には、『ティナ』『ベイル』『ハッシュ』『ニーナ』『ガイナス』がある。

 どれも鍵を攻略出来そうにないなぁ。
 唯一『ガイナス』のパワーで破壊できる可能性はあるけど、いきなり他人の家に上がり込んで、ドアを蹴破るのは不自然だし。
 どうしようかな。
 やっぱり、困った時はヒロインかな?
 なんだかんだで、良くなるかもしれない。
 だって、『ヒロイン』なんだから。
 よし!

 『作者のターン』
 カイルの弱点と言っていい、『ティナ』を場に召喚します!
 これで彼もイチコロでしょ!

 ティナをカイルの部屋に隣接する外壁へ召喚しました。

 「カイル~?まだ寝てるの~?」

 ティナは間延びした声で、カーテンが閉まる窓から呼びかける。

 何故外壁に出したか、だって?
 外壁に召喚することによって、子供の頃にあったシチュエーションを再現したんですよ。
 ほら、壁越しに話し合ったアレです!
 過去を思い出し、自分の本質を今一度、想起してもらう戦法ですよ。
 あの頃の俺は、こんな女々しい男じゃなかっただろう?ってね!

 それに彼女の声を聞いて、心に安らぎをもたらす効果も期待できる。
 さぁ、どう出る?カイル君。

 「ティナ?」

 効果抜群だ!

 カイルは少し自分を取り戻し、呼びかけに対して応えた。

 「寝てるわけじゃないよ。ちょっと、な」
 「ちょっと~?」

 良いよティナちゃん!
 グイグイ攻めちゃって!

 しかしティナは、持ち前のアレを発する。

 「昨日の事かな?」

 空気を読まない発言。
 それにより、カイルのトラップカードが発動した。
 『それ以上言わないで』カード。
 これの効果は、今は触れないで欲しい言葉を投げかけられると、精神へのダメージが二倍になる。

 まだトラップカードが?
 しかもティナちゃんとの相性最悪な効果だよ。
 天然で抜けてて空気読まない感じが、この娘のいい所なのに。
 完全に裏目だなぁ。
 どうしよ。

 作者の予想を裏切らない、ヒロインのティナ。

 「今度はカイルから、私、キスされたいな~」

 カイルの精神に著しいダメージ。

 「ふふ。昨日、好きって言ってくれたの、凄く嬉しかった!」

 カイルの精神負荷が限界を迎えました。
 これにより『闇見習い』から『闇の住人』へと進化しました。

 進化しちゃったよ!
 失敗したなぁ。

 カイルの体に、暗黒の闘気が立ち上り始める。

 あ~あ、闇のオーラを纏う様になってしまった。
 これ以上ティナちゃんを使うと、カイルが『闇の支配者』にランクアップしちゃうよ。

 仕方ない。
 ティナちゃんは一回、離そうか。

 「あっ!いけな~い!私、そろそろ行かないと」
 「イヒヒ!どこ行くんだい?」
 「えっ!?」

 聞き慣れない声色と口調に驚くティナ。

 「その、お父さんがアレだから、お母さんの手伝いにーー。カイル、大丈夫?」

 彼女は異変を感じ、カイルの心配を始める。

 『イヒヒ』使い始めちゃったよ。
 聞いた事ないから、ティナちゃんが戸惑い始めちゃったじゃない。

 はぁ。

 こんなの、作者が思う主人公じゃないよ。
 それになんか、オネェって言うよりは、毒リンゴ持ってる魔女みたいな話し方になってるし。
 うぅむ、どうしたらいいんだろう。
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