幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 「大丈夫、だ。少し、疲れたようだ」

 精神的なダメージが深く、絞り出す様に答えた。
 『疲れた』というワードに反応し、ティナは俺の近づき、そっと額に手をやる。

 「熱いよ~?熱があるんじゃーー」

 確かにティナの手が、冷たく感じた。
 それほどに、顔が紅潮しているのだろう。

 だがそれよりも、突如近づいたティナに、「うひゃ!」と声を上げて俺は飛びのいた。
 恥ずかしくて、近くには居られなかったんだ。

 「大丈夫!大丈夫だから!」
 「大丈夫じゃないよ~!」
 「ストォォップ!」
 「えぇ!?」

 目の前に両手をかざし、拙い壁を作る。
 そんな俺の制止に戸惑うティナ。

 すまん!
 嫌じゃないが、今は耐えられないんだ!

 色々ありすぎて、俺の精神はギリギリだった。
 これ以上の負荷には耐えられそうもない。
 すでに脳内議員の過半数以上は、情報処理のために有給申請している状態だ。
 今の俺には、時間が必要だった。

 察してくれたのは、同性のガイナス。

 「ティナ。帰るぞ?カイルは大丈夫だ」
 「お父さん」

 娘に帰宅を促し、この出来事の終着点を見出してくれる。

 有難い。
 ひとまず、これで区切る事が出来るな。

 感謝と安堵が心を和ます。
 そう、油断したのだ。

 フッ。

 流石は我が伴侶となる人。
 そんな隙を逃さない所も素敵だ。

 ティナは不意に俺の手を取り、トドメを刺した。

 「さっきは嬉しかった。私、カイルの良いお嫁さんになれるよう、頑張るから、ね?」

 フフッ。

 良いお嫁さん、か。

 そうなる為に、改めて頑張る必要など、あるのだろうか。
 今のままで十分なのに。
 お前が隣にいるだけで、俺がどれだけ幸せなのか、知らないんだろう?

 だがまぁ、そうだな。
 ティナの言う通りかもしれん。
 お互いに、成長するのは大事なこと。
 至らないところは、改善していく。
 そんな心構えは必要だな。

 しかしティナは、どんな事を頑張るんだろう。
 あれか?
 俺の為に、美味しい料理を作る練習したりか?
 この前もそんな感じで、お菓子作りをニーナさんに教えてもらっていたな。
 あれを渡された時は、恥ずかしかったっけ。

 恥ずかしい、か。

 俺も、そうだな。
 恥ずかしがり屋な所を、少しずつでも、治していかないとな。

 このままでは新婚生活はおろか、結婚式すらまともに出来ない気がする。
 ティナの、いや。
 二人の為に俺は、自分を改善していかないとな。

 俺は恥ずかしがりの性格を、治すと決めた。
 難しい事かもしれないがな。

 「カイル?」

 そんな俺にティナは呼びかける。
 しかし返事はない。

 「カイル?カイル!?」

 再びの呼びかけ。
 それも焦ったように。
 だが、それでも返答はなかった。

 俺は精神に多大な負荷を受け、石化した様に固まっていた。
 恥ずかしメーターが振り切り、限界を超えていたのだ。
 もはや何が起ころうとも、俺の心には届かないほど、全てを拒絶した。

 あとは好きにしてくれ。
 俺はもう、関われないぞ。

 そんな境地だった。

 しかし一つだけ悔やむ事がある。

 最後のティナが言った言葉が、なんたかんだ嬉しかったからな。
 その感情が表に出てしまい、ニヤけたまま、間抜け顔で固まってしまった事だ。

 「カイル笑ってるの?ねぇ!返事してよ~!」

 心配するティナをよそに、俺は石化したままだった。
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