幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 「カイルは?」

 父の問いかけに、『あぁ。それで良い』なんて格好良く言い出そうとしたが、不意にティナと目が合ってしまう。
 彼女は捨てられた子犬のように、不安そうな瞳を向けていた。
 まるで、断られるのを恐れるかのように。

 いやいや、断らねぇよ!?
 この流れで『やっぱり無理だ』なんて言わないだろ!
 俺は、お前が好きなんだよ!
 他の誰かじゃダメなんだ!
 ティナだから俺は!って、何を恥ずかしい事考えてんだ俺はぁぁ!

 顔面の温度が急上昇していく。
 真っ赤になっていく自分を見られたくなく、急いで顔を下に向けるが、「どうした?カイルは、それで良いのか?」と父が再び問うてくる。
 早く返事をしなければ、変な空気が生まれてしまう。
 そんな焦りが反映され、『あぁ、それで良い』と言う予定が、咄嗟に「うん」と幼い子供のように答えてしまう。

 何をしているんだ俺は!
 『うん』って何だよ!
 小さい子供じゃあるまいし、もっと他に言いようがあるだろぉ!

 そんな後悔に苛まれているカイルの姿が可愛く、両家の母親は笑いを堪えずに、フフッと笑ってしまう。
 嘲笑とは違う、とても温かみのある笑顔だったが、その柔らかな笑い声は、カイルを羞恥の渦へ巻き込むには、十分な程の威力があった。

 今すぐ、この場から消えたい。

 恥ずかしさから顔を上げれないカイル。
 そんな彼の背中にポンと手を添え、ベイルは朗らかに言った。

 「カイルはまだ十五歳。ご覧の通り、まだまだ頼りない所がありますが、これから成長していくでしょう! ガイナスさん、ニーナさん、成長していく息子を期待して見てやって下さい」

 その言葉に、カイルは思わず父の顔を見る。
 ベイルは朗らかに笑顔を見せながらも、キリッとした良い目をしていた。

 な、なんて頼りがいのある横顔なんだ。
 格好良い。
 格好良すぎる。
 もし俺が女性なら、こんなの惚れてしまう。
 ああ、母さんが父さんと結婚した理由が、今なら理解できる気がする。

 窮地に追い込まれ、どうしていいのかわからない時に、颯爽と現れて救ってくれる。
 そんなヒーローの様な父の振る舞いに、憧れを抱いた瞬間だった。

 大人ぶって冷静な態度を見せているが、俺はたしかに未熟だ。
 ちょっとした事で動揺して、心を乱してしまう。
 本当に、まだまだ未熟だよ。

 そんな自分を信じてくれている父に、カイルは心の中で誓う。

 父さん、俺、頑張るよ。
 自慢の息子ですって、胸を張って言えるようになるから!
 必ず、必ず!

 「わかりました。ウチのティナも、まだまだ若いですからーー」

 バン!

 ガイナスが話しているにも関わらず、カイルは勢いよく立ち上がる。
 突然の事に何事かと思い、その場にいた全員の視線がカイルに集まった。

 「俺、頑張りますからっ!!」

 大声での決意表明。
 自らの熱い想いを言ったのだが、彼を待っていたのは静寂だった。
 誰も口を開かず、相対するティナは相変わらずポヤンとした表情をしているが、彼女の両親は面を食らった顔をしている。

 何か失敗した。

 そう思ってしまうカイル。
 しかしそれは、ただの杞憂だった。
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