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1- 異世界の神

『俺』にとってはこいつらは雑魚なわけで。

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「あ?」
傍から見れば恥ずかしい言葉を発した俺のかざした手からは、なんの反応もなく、俺の耳にはただ目の前のチンピラの間抜けな声が虚しく響いただけだった。けなすような、あざ笑う声で彼は、
「ひゃっひゃ!バカかてめぇ」
と言い、今度は彼が手をこちらに向けてかざした。
「喰らえ!魔法っていうのはこうやるんだよ!」
意味はないとわかっていながら、手で頭を抱える。目をつぶってしまったところで、
「おらぁ!」
という叫び声と共に、かがんだ身体に強い衝撃が走り、路上に転がり、土を味わう。
魔法を使うというのはブラフだったのか。思ったよりも強い蹴りの衝撃に身体がしびれる。

「くそっ!」
俺は即座に立ち上がり、3対1だが、怯まず立ち向かう。

渾身の一撃であるはずの回し蹴りは、手でいとも簡単に止められ、俺の無力さを思い知らされる。
「こっちは体格差も、人数差もあるんだよ!」
ごもっとも、と言う前に、俺は拳に口を塞がれた。

その後来た複数の衝撃は、俺が夢に飛ぶには十分だった。

___

あたりを見回し、戻ってくる記憶と共に自らがどこにいるかを認知する。
盗賊……だったのか?チンピラか。寝ぼけたような意識は、急に覚めた。

眼下には、信じられない光景が広がっていた。

道には血が染み込み、赤い点がポツポツと垂れている。
がたいの良い男が二人、気絶しているのは壮観だった。しかし、問題は自分1人しかいなかったはずなのに、何が起こったか、ということであって。

《スキル【追憶】を使いますか?》

例の中性的な声が、また便利なスキルを紹介した。
承諾を念じると、気絶していた時の景色が自分視点で脳内に浮かび上がる。

・・
俺は、意識外にいたはずなのに、その時の記憶をたどるという信じられないような体験をしていた。
『てめぇ、よくもやってくれたな』
映像の中の『俺』は、立ち上がり減らず口を叩く。
『はっ、てめぇそんなヘニャヘニャな身体でどうやって俺たちと張り合うっていうのさ』
自分が無力であることは前世の記憶からもわかっているが。しかしこの『俺』は、そんなことなどまるで無視でもするように黙って仁王立ちをしている。

側にいた無口の大男が二人、両脇から襲いかかってくる。動きが早いわけではないが、頑丈な身体とその迫力ある巨体に威圧される。
しかし、『俺』は、二人など眼中にないように、手をさっと動かしたかと思いきや、彼らは衝撃とともにずしりと土の上に転がった。
先ほどとは違う『俺』の雰囲気を感じ取ったのか、そのチンピラは『ヒッ…』と、小さな叫び声を上げて逃げ去った。

しかし、『俺』はそれを見逃さなかった。
刺突スティング
そう小さくつぶやく。

刺突スティングとは、鋭利な魔力の結晶を前方に飛ばす魔法で、単純で威力の低い魔法です》

どんな魔法か、と疑問に思った刹那に説明が脳内に流れ込むが、目の前に広がる光景は「威力が低い」なんてものじゃない。

濃い赤色の血が傷口から流れ、大きな傷を肩に負っている。彼は痛みからか、出血からか、数歩逃げようとヨタヨタ足跡を作るが、バタリと倒れる。

裏路地に連れ込まれた俺は、『俺』によって見事に反撃をくれてやったわけだが。
・・

ここで【追憶】は終わっていた。

 脳に流れ込む映像と体験が途絶えるとともに、俺の頭にはある疑問がくっきりと浮かび上がる。



あの【追憶】の中の俺は、一体何者なのか?
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