あなたは愛さなくていい

cyaru

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第26話  お帰りは回れ右

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叫び声をあげてアロンツォに飛び掛かって行ったマリアはサッと出てきた屈強な従者に取り押さえられて身動きも出来ない状態。

――いつの間にこんな傭兵のような従者を?――

ケネル子爵もびっくりだ。


リーディス王国の法律ではアロンツォの側からマリアに離縁を言い渡す事は出来てもその逆は出来ない。但し離縁をすれば持参金として嫁ぐ際に渡した金は利息は付かないが戻して貰える。
その他に離縁をする内容によっては慰謝料や迷惑料も請求できる権利がある。

ケネル子爵家はマリアを嫁がせる際に持参金は持たせていない。
アロンツォとマリアが結婚した年、ネブルグ公爵家はネブルグ公爵家という家が出来て以来収益の単位が「兆」を超え「京」に迫る勢いだったのだ。

ケネル子爵家も同様でケネル子爵が知る家の収益は最高値。それでもネブルグ公爵家から見れば「子供の駄賃」より少ない額なので要らないと言われたのだ。


目の前に現れたアロンツォと見たこともない女。
玄関で対応したのが先代ネブルグ公爵なのでアロンツォと女の関係は認めているということ。

ケネル子爵としては不貞行為を訴えたいが、諸刃の剣だった。
過去に離縁ではなく婚約破棄とは言えファティーナを陥れた理由も不貞行為だからである。

ケネル子爵の失敗は今に始まった事ではないが、最大の失敗は13年経った今でも「第1王子暗殺未遂事件」の
首謀者が誰なのかを知らない事だろう。

ファティーナではないだろうなとは思っていた。
小瓶に残っていた薬は色と香りは魔毒にそっくりだが、効能はと言えば強すぎる下剤だったからである。

ケネル子爵もファティーナの魔導士としての力がどのレベルかは知っていて、もし本当にファティーナなのであればそんなお粗末な薬は作らないだろうと思っていた。
だが、「では誰が?」となると見当もつかなかった。


ケネル子爵がファティーナの後見人であったのは事実だし、虚偽であったとしても婚約破棄を受け入れシード家の領地を慰謝料として差し出し、後見人を辞退したのは揺るがしようのない事実。

過去を掘り返し「娘との事も不貞だったじゃないか」と言い出せばその届け出の真偽が問われる。

虚偽だったことを認めねばならず、シード家というケネル子爵家でもネブルグ公爵家でもない家の領地をただの後見人なのに差し出してしまっているので先ずは弁済せねばならないが、弁済しようにも唯一の継承者であったファティーナの貴族籍も剥奪されているのでシード家は廃家となり手が打てない。


「不貞行為じゃないか!娘には朝から晩まで公爵夫人でありながら酒場の給仕までさせて!」
「給仕を選んだのはマリア自身だ。今まで何度も流産をしたが本当にアロンツォの子だったか甚だ疑問だな」
「なんだって?!まるでマリアに問題のある様な言い方だ!撤回しろ!」
「なら、それを証明できるのか?他の男とは寝ていないと叫ぶだけじゃないのか?」
「だったら公はどうなんだ!その女と不貞をしたんだろう!」
「まさか。彼女は新しく雇い入れた使用人だ。今日は体調が悪くてね。当主である息子が自ら介助しているだけさ。お前の娘では使用人を雇い入れる事すら出来なかったし、雇い入れたとしても采配など出来なかっただろうしな」


ケネル子爵は先代ネブルグ公爵の言葉に疑問を持った。
子が持てない理由は今の医学でどちらに理由があるか判断が出来るものではない。
言い切る事が出来るとすれば、マリアが本当に他の男との子供を産んだ場合と、アロンツォが他の女に子供を産ませた時である。少なくとも自分の生殖能力に問題がないと証明した時だ。


――まさか、隣にいる女は身籠っている?いや子を産んでいるのか?――

いいや。ケネル子爵は考えを打ち消した。
もし子供が出来ているのなら産んで直ぐは体の線がハッキリ出るような今の装いは無理だし、ネブルグ公爵家の落ちぶれっぷりは公然の秘密。

わざわざ不良債権であるアロンツォに手を出すはずがない。
あるとすれば金のある新興貴族で公爵家という肩書が欲しい者。

――そんな家、あったか?――

ネブルグ公爵家は貴族の中でも最高位。なので国内にある貴族の数は知っていても全ての家名までは知らない。逆にケネル子爵は知っている。ネブルグ公爵家に関わったばかりに落ちぶれたが少しでも繋がりがあれば、1カ月は食いつなげる仕事が回って来るので針で突いたような小さな貴族であっても他家とどんな繋がりがあるか判らず、網羅しておかねば生き残れない。

アロンツォが腰を抱いている女は見たことがなかった。

――こりゃ不貞では押せないな――

表だって騒ぎ立てるには不貞を理由にすれば良かったが、使用人と言い切られたらマリアが当主夫人となった時には使用人は通いで片手の数しかいなかった。雇い入れたと今度は雇用契約書の日付を弄った書類を作られたら一方的なケネル子爵家の言い掛かりになってしまう。


せめて貸した金は返して欲しいと言えばアロンツォは首を傾げた。

「あれはマリアに遊ぶ金として渡した金でしょう?」
「なっ!!」
「借用書がある訳じゃ無し、父親が娘にやった小遣い銭までなぜ当家の借金になるんです?」


開いた口が塞がらないとは。
親も親なら子も子。

とは、まさにこの事。


「おかえりはあちらですよ。あぁ…もっと丁寧に説明しましょう。回れ右です」
「き、貴様…」
「荷物も忘れずにお持ち帰りください」

「きゃぁ!」 従者に拘束されていたマリアがケネル子爵の足元に突き飛ばされて転がった。間、髪を入れず無造作に麻袋も3つ放り投げられた。マリアの私物だろう。

「歩き方も忘れたなら、彼らに正門前までお連れするように命じますが?」

含み笑いをしながらケネル子爵に言い放つアロンツォ。
先代ネブルグ公爵にもう一言罵声でも浴びせようと顔を向ければ、玄関の扉を開けて「こちらが出口」と手振りで示していた。

――こちらがやって来るのを見越しての事だったのか!――

感情に任せて怒鳴り込んだが慎重に事を運べば王宮の役人の前で貸した金についてのやり取りを聞いて貰えて、あり得ない言い訳だと役人を証人に訴えを起こす事も出来たのに、こうなってしまっては離縁を受け入れるからとマリアの私物をもらい受けに行くついでに役人を連れて行く事も出来ない

――しくじった!――

しくしくと泣くマリアを連れてケネル子爵は撤退するしかなかった。
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