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12:第二王子の訪問
すっかり商人も帰ってしまい、荷物は溢れているが落ち着きを取り戻したコルネット伯爵家。使用人達は食堂の荷物を壁際に寄せて、食卓の上にも積まれていた木箱をどけた。
さぁ話し合いだと思った時、来客だと従者が告げた。
「先触れなどあったか?」
カミーユの問いに誰もが首を横に振った。当然ブランディーヌも知らない。来客があるのならその当日に伯爵領から戻るなどという無茶な日程は組まない。
今回は帰ることが出来ているが、長い馬車の旅となれば何があるか判らないからだ。
来客は誰かと思えば第二王子殿下だった。
「カミーユ。私の承諾もなく護衛騎士を辞めるとはどういう事だ」
第二王子はかなり不機嫌なようで、ピリピリとした空気が部屋に張りつめた。
だが、エミリアは例えそれが愛するカミーユが逆らう事の出来ない人間であっても関係がない。
「なに、このおじさん。お兄様に凄く偉そうな態度。信じられないわ」
「リア、何を言うんだ」
「だってそうでしょう?来るって言う連絡もなく突然やってきて。お兄様が辞めたいんだからいいじゃない」
「やめるんだ。リア。頼むから黙っててくれ」
「もう!なんなの!お義姉様といい、このおじさんといい。わたくしとお兄様をどれだけ苦しめたら気が済むのよ」
ニヤリと口角をあげる第二王子だが目は笑っていない。
カミーユは歯がガチガチと音を立てて震え出した。
「なかなか面白い猿を飼いだしたようだな。猿の面倒をみるために職を辞したのか」
「いえ、そうではなく…」
「もう!帰ってよ!」
「やめるんだ。リアッ!!」
だが、カミーユの制止は遅かった。テーブルにあった茶器を掴んだエミリアは第二王子にむかってそれを投げつけようとしたのだ。
ゴッ!!
「えっ?!」
「ディーッ!?」
エミリアの動きを見ていたブランディーヌは手を広げてカミーユとエミリアの前に飛び出した。エミリアの投げた茶器は取っ手が指に引っ掛かり、一部分だけがエミリアの指にぶら下がっている。
第二王子には到底届かなかったが、直前に飛び出したブランディーヌの額で割れ、そのまま思い切り抉った。
「いやぁぁっ!!お兄様っ!」
カミーユに抱き着いたエミリアだったが、カミーユは縋るエミリアを突き飛ばしブランディーヌに駆け寄った。エミリアは腰から床に落ち、数回転転がった。
しかしブランディーヌは「大丈夫かっ?」と駆け寄ったカミーユを手で制した。
「私よりも先に殿下に謝罪を」
「あ、あぁ…判った」
額から流れ出た血は頬を伝って顎から滴り落ちる。
エミリアを背に、カミーユは臣下の礼の非礼を詫びる形を。ブランディーヌは深いカーテシーを取った。
「飼い主としての責務を果たすか」
「殿下、申し訳ございません」
フンと一つ鼻を鳴らした第二王子は、カミーユの頭をコツンと軽く叩いた。
「側近に戻れ」
「いえ、私は既に辞した身。殿下のお側に仕える事は出来ません」
「ならば細君を貰い受けるまでだな」
「どういう事です?」
「ブロイ伯爵家ブランディーヌにこそ価値がある。と言えば良いか?断るのであれば惜しみながら漆黒の夜に消える事にもなるがな」
俯いたままブランディーヌはクっと小さく笑った。
「第二王子殿下に申し上げます」
「なんだ。ブロイ」
「1年間の猶予を頂きたく存じます」
「何故1年なのだ。見限ったところで惜しい伯爵家でもあるまい」
「惜しいのです」
「ほぅ…続けよ」
顎に手を当て、ニヤリとする第二王子にブランディーヌは頭を上げた。
「コルネット伯爵家無くしてはならぬ事業も御座います。手土産は1つでも多い方が御為かと存じます」
「どういう…えっ?」
訳が判らず、正面の第二王子の顔と、ブランディーヌの横顔を交互に眺めるカミーユ。第二王子は「だが利息代わりに護衛には戻って貰う」と告げた。カミーユは訳が判らずとも頷くしかない。
「明日より出仕せよ」と言い残し第二王子は帰って行った。
「どういう事だ?」
夫婦の寝所で手当てを受けたブランディーヌが横たわる。
カミーユは寝台の横に跪いて目線を合わせた。
「何も気が付かなかったのですか‥‥お目出度い人ですわね」
「そう言われると…」
ふぅと一息吐いたブランディーヌは天井に目を向けたままでカミーユに告げた。
「第二王子殿下は玉座を狙っていますのよ」
「えっ?でもそんな事は全然…」
「上に第一王子がいるのにペラペラと喋る筈がないでしょう?」
「で、でもそれでどうしてディーが」
「私ではないわね。ブロイ伯爵家がほしいのですわ。後ろ盾に」
ブランディーヌの父親は狡猾な男である。商人としての顔も貴族としての顔も持ち合わせ、広く貴族の間にはまるでカビが胞子を持った触手を伸ばし浸食するようにそれぞれの家の奥深くまで入り込んでいる。
大きな事業に名を連ねなくとも、その後ろには必ずいるのがブロイ伯爵。
後ろ盾となれば、第一王子の婚約者の実家も第二王子派となる。
「黙っていた事があります」
「なんだろうか」
「私には婚約者がいました。もう…亡くなってしまいましたが」
「亡くなっ…そうか…」
「野盗に襲われたとなっておりますが…第二王子でしょうね」
「えぇっ?そんな…」
「ブロイ伯爵家を後ろ盾にするに簡単なのは私を召し上げる事ですが、既に王子妃殿下がいてそれは叶わない。兄は完全に中立派。その辺の破落戸に襲わせたところで父の持つ私兵には敵わない。婚約者は…今思えば私を連れて海の向こうの大陸に行こうとしていましたから」
「まさか殿下がそんな事をするなんて」
ブランディーヌは肘をついて上半身を起こそうとした。カミーユは背に手を回す。
「お花畑はもう卒業して頂かねば困ります」
「そうだな…買い物なんてしてる場合じゃないって事だな」
「えぇ。手土産代わりに貴方を利用させて頂きますから」
カミーユは背中の中心を冷たいものがスゥーっと流れる感触を味わった。
「利用させて頂く1年間の前金として、貴方とエミリアさんが本日までにお買い物をした代金。私がお支払いします。但し以後は関与いたしません。1年という期限が付いた今、そんな事をしている時間はありませんので」
「わかった。あの…これからは言動を改める。だからやり直して…くれないか」
「それも1年。様子を見させて頂きます。貴方は当主として執務をし、殿下の元に出仕し護衛を務めて下さればそれでいいのですから」
「1年だな。判った。手始めに…寝間着を着る事から始めるよ」
「是非、そうなさって?前金が手切れ金とならないように」
☆彡☆彡☆彡
申し訳ない<(_ _)> 夜中に終わらせるつもりが長引いてしまいました~。
タイピング終わっているのでチャッチャと公開いたします<(_ _)>
第13話 8時10分
第14話 8時40分
第15話 9時10分(最終話)
10話くらいで終わるかと思ったら…5話もオーバーしてしまいました。
ショートショートから短編に切り替えておきます。(;^_^A
さぁ話し合いだと思った時、来客だと従者が告げた。
「先触れなどあったか?」
カミーユの問いに誰もが首を横に振った。当然ブランディーヌも知らない。来客があるのならその当日に伯爵領から戻るなどという無茶な日程は組まない。
今回は帰ることが出来ているが、長い馬車の旅となれば何があるか判らないからだ。
来客は誰かと思えば第二王子殿下だった。
「カミーユ。私の承諾もなく護衛騎士を辞めるとはどういう事だ」
第二王子はかなり不機嫌なようで、ピリピリとした空気が部屋に張りつめた。
だが、エミリアは例えそれが愛するカミーユが逆らう事の出来ない人間であっても関係がない。
「なに、このおじさん。お兄様に凄く偉そうな態度。信じられないわ」
「リア、何を言うんだ」
「だってそうでしょう?来るって言う連絡もなく突然やってきて。お兄様が辞めたいんだからいいじゃない」
「やめるんだ。リア。頼むから黙っててくれ」
「もう!なんなの!お義姉様といい、このおじさんといい。わたくしとお兄様をどれだけ苦しめたら気が済むのよ」
ニヤリと口角をあげる第二王子だが目は笑っていない。
カミーユは歯がガチガチと音を立てて震え出した。
「なかなか面白い猿を飼いだしたようだな。猿の面倒をみるために職を辞したのか」
「いえ、そうではなく…」
「もう!帰ってよ!」
「やめるんだ。リアッ!!」
だが、カミーユの制止は遅かった。テーブルにあった茶器を掴んだエミリアは第二王子にむかってそれを投げつけようとしたのだ。
ゴッ!!
「えっ?!」
「ディーッ!?」
エミリアの動きを見ていたブランディーヌは手を広げてカミーユとエミリアの前に飛び出した。エミリアの投げた茶器は取っ手が指に引っ掛かり、一部分だけがエミリアの指にぶら下がっている。
第二王子には到底届かなかったが、直前に飛び出したブランディーヌの額で割れ、そのまま思い切り抉った。
「いやぁぁっ!!お兄様っ!」
カミーユに抱き着いたエミリアだったが、カミーユは縋るエミリアを突き飛ばしブランディーヌに駆け寄った。エミリアは腰から床に落ち、数回転転がった。
しかしブランディーヌは「大丈夫かっ?」と駆け寄ったカミーユを手で制した。
「私よりも先に殿下に謝罪を」
「あ、あぁ…判った」
額から流れ出た血は頬を伝って顎から滴り落ちる。
エミリアを背に、カミーユは臣下の礼の非礼を詫びる形を。ブランディーヌは深いカーテシーを取った。
「飼い主としての責務を果たすか」
「殿下、申し訳ございません」
フンと一つ鼻を鳴らした第二王子は、カミーユの頭をコツンと軽く叩いた。
「側近に戻れ」
「いえ、私は既に辞した身。殿下のお側に仕える事は出来ません」
「ならば細君を貰い受けるまでだな」
「どういう事です?」
「ブロイ伯爵家ブランディーヌにこそ価値がある。と言えば良いか?断るのであれば惜しみながら漆黒の夜に消える事にもなるがな」
俯いたままブランディーヌはクっと小さく笑った。
「第二王子殿下に申し上げます」
「なんだ。ブロイ」
「1年間の猶予を頂きたく存じます」
「何故1年なのだ。見限ったところで惜しい伯爵家でもあるまい」
「惜しいのです」
「ほぅ…続けよ」
顎に手を当て、ニヤリとする第二王子にブランディーヌは頭を上げた。
「コルネット伯爵家無くしてはならぬ事業も御座います。手土産は1つでも多い方が御為かと存じます」
「どういう…えっ?」
訳が判らず、正面の第二王子の顔と、ブランディーヌの横顔を交互に眺めるカミーユ。第二王子は「だが利息代わりに護衛には戻って貰う」と告げた。カミーユは訳が判らずとも頷くしかない。
「明日より出仕せよ」と言い残し第二王子は帰って行った。
「どういう事だ?」
夫婦の寝所で手当てを受けたブランディーヌが横たわる。
カミーユは寝台の横に跪いて目線を合わせた。
「何も気が付かなかったのですか‥‥お目出度い人ですわね」
「そう言われると…」
ふぅと一息吐いたブランディーヌは天井に目を向けたままでカミーユに告げた。
「第二王子殿下は玉座を狙っていますのよ」
「えっ?でもそんな事は全然…」
「上に第一王子がいるのにペラペラと喋る筈がないでしょう?」
「で、でもそれでどうしてディーが」
「私ではないわね。ブロイ伯爵家がほしいのですわ。後ろ盾に」
ブランディーヌの父親は狡猾な男である。商人としての顔も貴族としての顔も持ち合わせ、広く貴族の間にはまるでカビが胞子を持った触手を伸ばし浸食するようにそれぞれの家の奥深くまで入り込んでいる。
大きな事業に名を連ねなくとも、その後ろには必ずいるのがブロイ伯爵。
後ろ盾となれば、第一王子の婚約者の実家も第二王子派となる。
「黙っていた事があります」
「なんだろうか」
「私には婚約者がいました。もう…亡くなってしまいましたが」
「亡くなっ…そうか…」
「野盗に襲われたとなっておりますが…第二王子でしょうね」
「えぇっ?そんな…」
「ブロイ伯爵家を後ろ盾にするに簡単なのは私を召し上げる事ですが、既に王子妃殿下がいてそれは叶わない。兄は完全に中立派。その辺の破落戸に襲わせたところで父の持つ私兵には敵わない。婚約者は…今思えば私を連れて海の向こうの大陸に行こうとしていましたから」
「まさか殿下がそんな事をするなんて」
ブランディーヌは肘をついて上半身を起こそうとした。カミーユは背に手を回す。
「お花畑はもう卒業して頂かねば困ります」
「そうだな…買い物なんてしてる場合じゃないって事だな」
「えぇ。手土産代わりに貴方を利用させて頂きますから」
カミーユは背中の中心を冷たいものがスゥーっと流れる感触を味わった。
「利用させて頂く1年間の前金として、貴方とエミリアさんが本日までにお買い物をした代金。私がお支払いします。但し以後は関与いたしません。1年という期限が付いた今、そんな事をしている時間はありませんので」
「わかった。あの…これからは言動を改める。だからやり直して…くれないか」
「それも1年。様子を見させて頂きます。貴方は当主として執務をし、殿下の元に出仕し護衛を務めて下さればそれでいいのですから」
「1年だな。判った。手始めに…寝間着を着る事から始めるよ」
「是非、そうなさって?前金が手切れ金とならないように」
☆彡☆彡☆彡
申し訳ない<(_ _)> 夜中に終わらせるつもりが長引いてしまいました~。
タイピング終わっているのでチャッチャと公開いたします<(_ _)>
第13話 8時10分
第14話 8時40分
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