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第13話 適材適所の職業案内
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メイリーンはトリスタンの部屋の隣にあるコネクティングルームに放り込まれた。
トリスタンの部屋とは扉一枚でその扉には鍵は付いていない。
再現をする準備が出来るまで放り込んでおけば出口は2つしかないので見張りも容易い。ついでに放り出す時も離れた場所に居られるよりも手間が省ける。そう言う事だろうなとトリスタンは肩を落とした。
「元婚約者って言ってたな…本当にもう駄目なんだろうか」
大きく溜息を吐いた時、扉が開いてメイリーンがやってきた。
ちらりと顔を上げたが、視界にメイリーンが映るともう顔も見たくないと目だけでなく顔を背けた。
「何よ。こうなったの。アンタのせいじゃない!なんとかしてよ!」
「・・・・」
「黙ってないで!ねぇってば!」
メイリーンは近寄ってきてトリスタンの腕を掴んだが、トリスタンはその手を振り払った。
「何とかしろ?こっちが言いたいよ!全部!全部だ!何かも嘘じゃないか!さぞかし面白かっただろう?王子の僕がお前なんかの嘘で赤くなったり、青くなったり!終いにはやらかしたんだからなッ!」
「やらかしたのはアンタじゃない!偉そうなことバッカ言ってたけど結局こうなってんだから世話ないわ!それより!池に落ちたり、階段とか!マジな訳?絶対無理!代わってよ!」
「お前が言い出した事だろう?有言実行!パドマも言ってたじゃないか。一度経験してるなら2度目はもっとうまくやればいい。経験者なら問題ないだろ?せいぜい頑張るこった」
「なぁんですって!!ア・ン・タがやれぇぇ!!」
「ちょっ!やめろって!痛っ!洒落になんねぇからやめろって!」
メイリーンはトリスタンに飛び掛かると髪を引っ張り、顔を引っ掻き、トリスタンが防御のためにメイリーンの手を掴めばガブリと嚙みついた。
ドン!と突き飛ばすと床に転ぶがメイリーンはまた襲い掛かって来る。
メイリーンも必死だった。もうこうなったら助かるためには城から逃げ出すしかないが城の中なんて生まれて初めて入ったのだ。
右も左もわからず逃げ回るのは入り組んだスラム街を走るのと大差はなくても隠れる場所がない。直ぐに見つかってしまって捕まるのがオチだ。
なら城の中を良く知っているトリスタンが手引きをすればよいだけ。
ここからだせ。アタシを逃がせと取っ組み合いになると、メイリーンは力任せに拒否するトリスタンのシャツを引き裂く。突き飛ばしてもまた飛び掛かってくるので着ている服もボロボロ。
バシッ!!「あぁーっ!」
バシッ!!「あぐぅーっ」
ドカッ!!「きゃぁぁ!」
半裸にも等しい状態で床をゴロゴロ右に左に転がっていると扉が開いた。
やってきたのはパドマ。
手には書類を持っていて床に転がる2人に聊か驚いた顔をしたけれどすぐに澄ました表情になった。
「あら?お楽しみ中でしたの?床ではなく寝台でなされば宜しいのに」
「ち、違うんだ!これはっ!」
「こちらに置いておきますわ。後で目を通して頂ければ」
メイリーンを引き剥がそうとするも破れたシャツを片手に巻きつけるようにして空いた手はトリスタンにパチンパチンと張り手を食らわせるメイリーンにはトリスタンが動きを止めた事は解っても、パドマの気配も声も感じ取れていないようだった。
メイリーンと体が離れないままのトリスタンを横目にパドマは書類を渡す用件だけをテーブルの上に置くことで完結させると騎士と共に部屋を出て行った。
何の書類を置いて行ったのか。
メイリーンの指を手の甲の側に思い切り捻じ曲げ、痛みでメイリーンの体が離れるとトリスタンはテーブルの上の書類を鷲掴みにしてメイリーンにあてがわれた部屋に駆けこむと扉を背にして開かないようにして書類に目を通した。
「え?これって…求人の募集??」
表紙になっていた紙にはパドマの直筆があった。
【お2人が適任と思う職種をピックアップ致しました。応募されるのであれば口利きをしておきます】
トリスタンには商店街のイベントや公演中の劇のチケットが余っている場合など客を呼び込んだりする「呼子」
必要なのは木箱の上で人目を引くような仕草が出来る事と大きな声。
呼び込む際の文言などは決められているので考えなくていいし、それによって客の入りが悪くても責任を問われることはない。
キャバレーなどの客引きと違って歩合でもないので日給が減ることも無い仕事だった。
そしてメイリーンには地方巡業をメインとする芝居小屋の女優兼小道具係兼雑用係。
必要なのは台本に添った迫真の演技をする事と、それに見合う小物を作ったり、移動の芝居小屋なので設営をしたり撤去したり。そして長旅になるので基本が歩き。長距離を天候に関係なく歩けることだった。
「あはは…まさに適材適所って…うぅぅっ…」
書類を握りしめてトリスタンは泣いた。
トリスタンの部屋とは扉一枚でその扉には鍵は付いていない。
再現をする準備が出来るまで放り込んでおけば出口は2つしかないので見張りも容易い。ついでに放り出す時も離れた場所に居られるよりも手間が省ける。そう言う事だろうなとトリスタンは肩を落とした。
「元婚約者って言ってたな…本当にもう駄目なんだろうか」
大きく溜息を吐いた時、扉が開いてメイリーンがやってきた。
ちらりと顔を上げたが、視界にメイリーンが映るともう顔も見たくないと目だけでなく顔を背けた。
「何よ。こうなったの。アンタのせいじゃない!なんとかしてよ!」
「・・・・」
「黙ってないで!ねぇってば!」
メイリーンは近寄ってきてトリスタンの腕を掴んだが、トリスタンはその手を振り払った。
「何とかしろ?こっちが言いたいよ!全部!全部だ!何かも嘘じゃないか!さぞかし面白かっただろう?王子の僕がお前なんかの嘘で赤くなったり、青くなったり!終いにはやらかしたんだからなッ!」
「やらかしたのはアンタじゃない!偉そうなことバッカ言ってたけど結局こうなってんだから世話ないわ!それより!池に落ちたり、階段とか!マジな訳?絶対無理!代わってよ!」
「お前が言い出した事だろう?有言実行!パドマも言ってたじゃないか。一度経験してるなら2度目はもっとうまくやればいい。経験者なら問題ないだろ?せいぜい頑張るこった」
「なぁんですって!!ア・ン・タがやれぇぇ!!」
「ちょっ!やめろって!痛っ!洒落になんねぇからやめろって!」
メイリーンはトリスタンに飛び掛かると髪を引っ張り、顔を引っ掻き、トリスタンが防御のためにメイリーンの手を掴めばガブリと嚙みついた。
ドン!と突き飛ばすと床に転ぶがメイリーンはまた襲い掛かって来る。
メイリーンも必死だった。もうこうなったら助かるためには城から逃げ出すしかないが城の中なんて生まれて初めて入ったのだ。
右も左もわからず逃げ回るのは入り組んだスラム街を走るのと大差はなくても隠れる場所がない。直ぐに見つかってしまって捕まるのがオチだ。
なら城の中を良く知っているトリスタンが手引きをすればよいだけ。
ここからだせ。アタシを逃がせと取っ組み合いになると、メイリーンは力任せに拒否するトリスタンのシャツを引き裂く。突き飛ばしてもまた飛び掛かってくるので着ている服もボロボロ。
バシッ!!「あぁーっ!」
バシッ!!「あぐぅーっ」
ドカッ!!「きゃぁぁ!」
半裸にも等しい状態で床をゴロゴロ右に左に転がっていると扉が開いた。
やってきたのはパドマ。
手には書類を持っていて床に転がる2人に聊か驚いた顔をしたけれどすぐに澄ました表情になった。
「あら?お楽しみ中でしたの?床ではなく寝台でなされば宜しいのに」
「ち、違うんだ!これはっ!」
「こちらに置いておきますわ。後で目を通して頂ければ」
メイリーンを引き剥がそうとするも破れたシャツを片手に巻きつけるようにして空いた手はトリスタンにパチンパチンと張り手を食らわせるメイリーンにはトリスタンが動きを止めた事は解っても、パドマの気配も声も感じ取れていないようだった。
メイリーンと体が離れないままのトリスタンを横目にパドマは書類を渡す用件だけをテーブルの上に置くことで完結させると騎士と共に部屋を出て行った。
何の書類を置いて行ったのか。
メイリーンの指を手の甲の側に思い切り捻じ曲げ、痛みでメイリーンの体が離れるとトリスタンはテーブルの上の書類を鷲掴みにしてメイリーンにあてがわれた部屋に駆けこむと扉を背にして開かないようにして書類に目を通した。
「え?これって…求人の募集??」
表紙になっていた紙にはパドマの直筆があった。
【お2人が適任と思う職種をピックアップ致しました。応募されるのであれば口利きをしておきます】
トリスタンには商店街のイベントや公演中の劇のチケットが余っている場合など客を呼び込んだりする「呼子」
必要なのは木箱の上で人目を引くような仕草が出来る事と大きな声。
呼び込む際の文言などは決められているので考えなくていいし、それによって客の入りが悪くても責任を問われることはない。
キャバレーなどの客引きと違って歩合でもないので日給が減ることも無い仕事だった。
そしてメイリーンには地方巡業をメインとする芝居小屋の女優兼小道具係兼雑用係。
必要なのは台本に添った迫真の演技をする事と、それに見合う小物を作ったり、移動の芝居小屋なので設営をしたり撤去したり。そして長旅になるので基本が歩き。長距離を天候に関係なく歩けることだった。
「あはは…まさに適材適所って…うぅぅっ…」
書類を握りしめてトリスタンは泣いた。
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