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第03話 マーガとリーンの推し
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【推し】とはなんだ?
セレナは初めて聞く言葉に食いついた。
「推しって言うのは、慕っているってのもあるんですけど、えへっ、恋愛感情って言うよりも兎に角応援したい!とかそんな気持ちの方が強いかなぁ」
「つまり…すごく応援したい人って事?」
「そうなんですけど、なんて言うか…それだけじゃなくて推しが幸せそうだって思うとこっちもすっごく幸せな気分になれるんです。で、自分の事を覚えててもらってたりするとそれだけで生きて行けそう!って思っちゃう」
「ふむ。そうなのね。それが推し…でもどうして私なの?」
「それはですね~」
マーガとリーンは顔を見合わせてにこっと笑うとマーガが右手、リーンが左手を突き出す。
その手の親指と人差し指で輪っかにならない輪っかを作り、2人は指を合わせてハートを作った。
「私たちの恩人でもあり、大好きな人だからでーす」
セレナにはサッパリ意味が解らない。
キョトンとしていると教えてくれた。
「私達、聖ヨハネス教会の孤児院の出なんですぅ」
「慰問に来てくれましたよねっ♡」
――そんな事もあったかしら――
申し訳ないのだが、国内にある教会、特に孤児院や医療院を併設しているところには週に1回ないし2回慰問に回っていたので4年半となると相当な数になる。
セレナはそういう施設に慰問に行ったことは覚えていてもマーガとリーンの事は覚えていなかった。
「ごめんなさい。2人の事はちょっと記憶になくて」
「いいんですよぉ。セレたんが慰問する施設の数も、そこで会う孤児の数も相当な数です。それが4年半なら覚えている方が嘘くさいですよぅ」
「正直なセレたん。萌えるぅ~」
「そ、そうなんだけど…(萌えるって何??)」
「でも、これは覚えてるかもです。孤児院に配布する食料を2日に1食から1日に1食にする!」
「それは…えぇ。だってどこも2日に1食、3日で2食とかあんまりだと思ったから」
「やぁん。やっぱりセレたん、女神~。優しさが胸熱ぅ~」
「その法律。ダグラス殿下のおかげって大人は言いましたけど、ダグラス殿下の事、みんな嫌ってましたから絶対にないな―って」
ダグラスは月に10回程度予定されている慰問に一緒に出向くのは1回あるかないか。
理由は「汚いから行きたくない」だったのだ。
偶に出向いても「殿下だ!」と喜んで駆け寄ってくる子を兵士を使って追い払う。
子供の目線にしゃがみ込んで話をするセレナとは対照的だった。
確かに孤児院や医療院はお世辞にも綺麗とは言えなかった。
そこにいた人の顔までは覚えていないけれど、今でもハッキリ覚えているのは13歳でダグラスの婚約者となり初めて行った先の孤児院の状況だ。
食事は泥水の上澄みのようなスープに真っ黒になるまで火で炙ったパン。
何故そんな事をするのかと問えば「こうすれば黴が見えなくなる」と平然と答えを返された。
しかもそんな食事でもありつけるだけマシ。空腹で砂を食べたり壁をむしり取って食べる子もいたのだ。
医療院も病人を収容しているのに小さな窓は締め切られてジメっとした部屋に何人もが雑魚寝。
セレナが一番最初にした執務はそんな孤児院や医療院に清掃員を置くことと食料を配布する事だった。
その後も予算をもぎ取ってはまだ使える古書を買い取り、配布。
仕事のない低位貴族の子女に教員となって貰って収容されている者に文字の読み書きを教える仕事を与えた。
結果は出ていないに等しいがこの4年半で平民の識字率はほぼ0%から7%になった。
――だけどそうしたばかりに国庫を財布にしてると言われたのよね――
セレナの施策で助かったと言ってくれる声もあるが、言ってみれば社会の底辺で生きる者の声。小さな声なので声が大きな者にはかき消されてしまう。
かき集めて配分した予算があるから、それに上乗せをして賭博費用を捻出したダグラス。
セレナはしている事が良い事なのか悪い事なのか解らなくなった。
しかし予算をかき集め配分する事を中止すれば医療院も孤児院も元に戻ってしまう。
ダグラスに利用されていると解っても止めることは出来なかった。
「私達、孤児院で文字を覚える事ができたから侯爵様に雇って貰えたんです」
「その時にね、先生が教えてくれたんです。こうやって教える事が出来るのはセレナ様のおかげって」
「でもセレナ様のおかげって言うと配給が止まるんです。ダグラス殿下のおかげって言わないといけないから、セレたんって呼ぶことにして、推す事にしたんです」
「そうだったのね。でも推されるほどじゃない気がするんだけど‥」
「もぉ!!謙遜するセレたんっ!ご褒美ですか!」
「は?」
「やぁん。惚けるセレたん頂いちゃった~」
今1つ理解は出来ないが、マーガとリーンにとって自分は恩人であり、推しであることは解った。
そして「推し」を推すことで何か幸せな気分になれるのだろうと。
なんだか楽しそう。
漠然としていたが、セレナはマーガとリーンに「推し活」について詳しく聞くことにした。
セレナは初めて聞く言葉に食いついた。
「推しって言うのは、慕っているってのもあるんですけど、えへっ、恋愛感情って言うよりも兎に角応援したい!とかそんな気持ちの方が強いかなぁ」
「つまり…すごく応援したい人って事?」
「そうなんですけど、なんて言うか…それだけじゃなくて推しが幸せそうだって思うとこっちもすっごく幸せな気分になれるんです。で、自分の事を覚えててもらってたりするとそれだけで生きて行けそう!って思っちゃう」
「ふむ。そうなのね。それが推し…でもどうして私なの?」
「それはですね~」
マーガとリーンは顔を見合わせてにこっと笑うとマーガが右手、リーンが左手を突き出す。
その手の親指と人差し指で輪っかにならない輪っかを作り、2人は指を合わせてハートを作った。
「私たちの恩人でもあり、大好きな人だからでーす」
セレナにはサッパリ意味が解らない。
キョトンとしていると教えてくれた。
「私達、聖ヨハネス教会の孤児院の出なんですぅ」
「慰問に来てくれましたよねっ♡」
――そんな事もあったかしら――
申し訳ないのだが、国内にある教会、特に孤児院や医療院を併設しているところには週に1回ないし2回慰問に回っていたので4年半となると相当な数になる。
セレナはそういう施設に慰問に行ったことは覚えていてもマーガとリーンの事は覚えていなかった。
「ごめんなさい。2人の事はちょっと記憶になくて」
「いいんですよぉ。セレたんが慰問する施設の数も、そこで会う孤児の数も相当な数です。それが4年半なら覚えている方が嘘くさいですよぅ」
「正直なセレたん。萌えるぅ~」
「そ、そうなんだけど…(萌えるって何??)」
「でも、これは覚えてるかもです。孤児院に配布する食料を2日に1食から1日に1食にする!」
「それは…えぇ。だってどこも2日に1食、3日で2食とかあんまりだと思ったから」
「やぁん。やっぱりセレたん、女神~。優しさが胸熱ぅ~」
「その法律。ダグラス殿下のおかげって大人は言いましたけど、ダグラス殿下の事、みんな嫌ってましたから絶対にないな―って」
ダグラスは月に10回程度予定されている慰問に一緒に出向くのは1回あるかないか。
理由は「汚いから行きたくない」だったのだ。
偶に出向いても「殿下だ!」と喜んで駆け寄ってくる子を兵士を使って追い払う。
子供の目線にしゃがみ込んで話をするセレナとは対照的だった。
確かに孤児院や医療院はお世辞にも綺麗とは言えなかった。
そこにいた人の顔までは覚えていないけれど、今でもハッキリ覚えているのは13歳でダグラスの婚約者となり初めて行った先の孤児院の状況だ。
食事は泥水の上澄みのようなスープに真っ黒になるまで火で炙ったパン。
何故そんな事をするのかと問えば「こうすれば黴が見えなくなる」と平然と答えを返された。
しかもそんな食事でもありつけるだけマシ。空腹で砂を食べたり壁をむしり取って食べる子もいたのだ。
医療院も病人を収容しているのに小さな窓は締め切られてジメっとした部屋に何人もが雑魚寝。
セレナが一番最初にした執務はそんな孤児院や医療院に清掃員を置くことと食料を配布する事だった。
その後も予算をもぎ取ってはまだ使える古書を買い取り、配布。
仕事のない低位貴族の子女に教員となって貰って収容されている者に文字の読み書きを教える仕事を与えた。
結果は出ていないに等しいがこの4年半で平民の識字率はほぼ0%から7%になった。
――だけどそうしたばかりに国庫を財布にしてると言われたのよね――
セレナの施策で助かったと言ってくれる声もあるが、言ってみれば社会の底辺で生きる者の声。小さな声なので声が大きな者にはかき消されてしまう。
かき集めて配分した予算があるから、それに上乗せをして賭博費用を捻出したダグラス。
セレナはしている事が良い事なのか悪い事なのか解らなくなった。
しかし予算をかき集め配分する事を中止すれば医療院も孤児院も元に戻ってしまう。
ダグラスに利用されていると解っても止めることは出来なかった。
「私達、孤児院で文字を覚える事ができたから侯爵様に雇って貰えたんです」
「その時にね、先生が教えてくれたんです。こうやって教える事が出来るのはセレナ様のおかげって」
「でもセレナ様のおかげって言うと配給が止まるんです。ダグラス殿下のおかげって言わないといけないから、セレたんって呼ぶことにして、推す事にしたんです」
「そうだったのね。でも推されるほどじゃない気がするんだけど‥」
「もぉ!!謙遜するセレたんっ!ご褒美ですか!」
「は?」
「やぁん。惚けるセレたん頂いちゃった~」
今1つ理解は出来ないが、マーガとリーンにとって自分は恩人であり、推しであることは解った。
そして「推し」を推すことで何か幸せな気分になれるのだろうと。
なんだか楽しそう。
漠然としていたが、セレナはマーガとリーンに「推し活」について詳しく聞くことにした。
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