どうせ離縁できないしとキレた奥様は推し活をすることにした

cyaru

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第20話  劇団がダメでも

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仕立て屋はマーガとリーンの推し仲間がいる店に決めた。
2人の話によると仕立て屋の女将が面倒見の良い女性で抱えているお針子たちはほとんどが孤児院出身者。数人は孤児院の出ではない子もいるが、10歳になる前から働かされて親に給金を全額奪われ、挙句に年頃になれば娼館に売られそうになって教会に逃げ込んだ子である。

「手に職があれば食べて行けるってのが女将の座右の銘ですよ」

「素晴らしいわね。見習わないといけないわ」

「でも、お針子を抱え過ぎて仕事がない子もいるんです。平民って大抵は自分で直しますし新品ってよっぽどじゃないと買わないですし。メインの仕事は大手の仕立て屋から…下請けですかね」

「違うわよ。孫請け、ううん。ひ孫請けね。面倒な仕事なのに安いっていう最悪な仕事ばかり回って来るんですよ」

「下請けはギリギリ許されているけど孫請けとか禁止されてるはずよ?」

「セレたん。下っ端はそうでもしないと仕事がないんですよ」

「そうなのね。この計画が上手くいけばいいんだけど…。新品でなくてもリメイクでもいいの。教会のバザーで売られている服、2着で1着を作るとか3着で2着を作る。そんなのでもいいのよ」

「材料費も安く済みそうですね。使わない部分を解いて糸にすればいいし」

「布を糸に戻すの?大変な作業じゃないの」

「セレたん。それも普通なんです。そこの仕立て屋。手空きのお針子は糸戻しばかりしてますよ」


セレナが考えた以上に貧困は蔓延している。懸命に執務や政務をしたつもりだったが禁止された孫請け、ひ孫請けもしなければ食べて行けない実情はなかなかセレナがいた位置まで報告が上がることもない。

――国政と言っても本当の実情を知らないままだったんだわ――

自責の念に駆られながらセレナは仕立て屋を訪問した。
マーガとリーンが言った通り女将は人の良さがにじみ出ている女性で「面白そうだ」と引き受けてくれた。

「ダメだったとしても、ウチのお針子が作った服で役者が街を闊歩してくれるんだろう?それだけで面白いじゃないのさ」

「ありがとうございます。でも面白いだけではダメです。売り上げに繋げましょう」

「そうなってくれれば万々歳。どんな服にしようかね」

「それなんですが、モデルを今からスカウトに行くんです。コンセプトはお店も役者もみんなが推し!で御座いますわ」

「アッハッハ。いいね。役者もそれで顔が売れて劇を観に来る客が増えればいう事なしだよ」

「はい。そこで…ややこしいんですけど奇抜な服ではダメなんです。でも人目も引かないとダメ。奇抜な服はそれだけで人は二度見、三度見をしますけど買おうとは思いません。着て行く場所がないので。そうではなくシンプルだけど ”ん?” って見てしまうとか、ちょっと手を入れれば普段使いが余所行きになる。そんな服にして欲しいんです」

「なるほど。難しいね。ありきたりだと誰も見向きもしないし、派手過ぎれば着て行く場所がない。そんでもって買えると思える価格帯。古着をリメイクするしかないね。新品で作るとどうしても材料費が嵩んでしまうからね」

「はい。安価で売る、それは良いんですけどお針子たちの給金を削る事があってはならないんです。なのでバザーで売られている服を単なるお直しではなく、何着かの良いとこどり。それでもいいと思うんです」

「だったらいいのがあるよ。貴族のドレスを作る時にどうしても端切れが出るんだけどそれを利用するのはどうだろうね?端切れだから掛矧かけはぎする時の共切れともぎれにしか使えないけど、貴族ってほら、ドレスは2回目、3回目になると手を入れる家もあるけど基本は1回しか着ないだろう?共切れともぎれはほとんど糸に戻してるんだよ」

「いいかも知れませんね。布は上等なものですし」

「そうそう。で、元は端切れだから欲しいなら持ってけってタダでくれる仕立て屋もあるさね」

「方法はお任せします。で、モデルにぴったりの服を作って頂きたいので後日、採寸をお願いしますわ」

「任せときな!腕の見せ所だ!」


仕立て屋の話が付けば、セレナは劇団に向かう。
少人数、小規模で劇団名も知っている人を探すのに苦労する劇団。

しかし、上手くいかない。
武具屋、メイリーン、仕立て屋までは調子が良かったけれど、3つの劇団を回ったがどこもセレナの悪評を信じていて話を聞いてはくれないし、4つ目の劇団は「婚約者時代の閨事を詳細に教えてくれるなら」と条件を付けてきた。

「あんな噂信じてるなんて!だからチケット売れないのよ!」

「リーン。そんな事を言ってはダメ。きっと着色すればいい脚本が出来ると思ってるだけよ」

「セレたん!怒っていいんですよ!そんな脚本の芝居なんか観たい人なんていませんっ」

リーンが怒ってくれるのがセレナには救いだった。
今までは誰も…カルレア伯爵家の数人の使用人しか怒ってくれる人はいなかったけれど、人目も憚らずに怒りを露わにしてくれるのはマーガとリーンが初めてだ。

その気持ちがセレナは嬉しかった。

――誰か1人でも信じてくれるなら頑張れるわ――

気持ちを入れ替えて5つ目の劇団に向かう途中だった。

「よっ!ほっ!」

数人の人だかりがあり、何をしているんだろうと思えば公園のベンチからベンチにロープを渡し、その上を大きな日傘をさし、綱渡りをしている大道芸人の芸を見ている人の輪だった。

「見事に逆にも渡れたら拍手喝采、よろしくぅ!」

息をのんで皆が見守る。無事に元居たと思われるベンチに到達をしたのだが、芸が終わっても用意した器にオヒネリを入れる客は皆無。

ちなみに拍手も無かった。
ガッカリと肩を落とす大道芸人は鼻の頭を真っ赤に塗って、目元は星マーク。道化師のメイクだった。

「あ、行けるかも」

「セレたん?どうしたんです?」

「彼よ!彼をスカウトするわ!」

何が気に入ったのかと言えば、ロープを落ちずに傘をさして渡れる体幹。それは勿論だがオヒネリがなくてもおどけた顔で芸を続けられる精神力である。

「ねぇ、貴方。モデルをしてみない?」

「は?」

道化師のメイクをしているので、驚いているのかおどけているのかは判らない。
しかしセレナは「しましょう!貴方、素敵よ!」道化師の肩を掴んでブンブンと前後に体を揺すった。
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