殿下、今回も遠慮申し上げます

cyaru

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2回目の人生

愚かすぎると笑いも出ない

母と顔を見合わせるも答えは決まっている。

執事がお待ちくださいと問いに行った時点で在宅している事が知られている。
忙しい、来客中という言い訳は通用しない。客はこの国の最高位にいる王族。
今来客中だというその客がレオンよりも上位にいる国王夫妻、側妃であれば断れるかと言えばそうでもない。その場合でも少し待ってもらうか同席するかの選択肢しか残らない。

侍女に兄はと問えば、フラフラになって帰宅した後は強制的に湯あみをさせられ、湯船で寝入って溺れかけているところを従者に頼んで今は素っ裸で熟睡中である。

「お兄様は起こせませんよね」
「そうね。4日ほどは寝ずに仕事をしての今だから無理ねぇ」

救いは母と同席が出来るという事だろうか。
レオンだけならまだしも、噂の渦中にあるアンジェも一緒だとなると意図が読めない。
ふと思い出してみる。中等部の頃は休日で登城の必要がない(茶会がない)日はレオンとは会っていない。
カフェや観劇、散策に行楽など色々と誘われたが全て「所用がある」と断ると無理強いはなかった。
突然こうやって訪問すると言う事も一度もなかった事である。

レオンはなんだかんだ言ってもヴィオレッタに甘く、何でも受け入れてきた。
前回の人生では公務まで引き受けていたが、今回全てお断りをしても【そっか。そうだよね】と引き下がってくれていたのである。

だからこの訪問の意味も意図も全く読めない。
せめてカイゼルやケルスラー、微妙であるがユーダリスがここにいれば理由も判ったかも知れないが、何時までも玄関で待たせることも出来ず、通すように執事に伝える。

「お母様、何用だと思われます?」
「ボンボンだけならデートにとか無きにしも非ずだけれど…アンジェというのは茶会や夜会でも噂をされているご令嬢でしょう?昼間から堂々と・・・。周りの屋敷の門番には見られているだろうし何かしらねぇ」

話をしていると執事に連れられて先ずはレオン、そしてアンジェが入ってくる。
客だと言う事を理解しているのだろうかと母と共に首を傾げる。

両手を大きく広げて満面の笑み。そして名を呼ぶレオン。

「ヴィオレッタ!会えて嬉しいよ」
「休暇中は登城も出来ず、申し訳ございません」
「良いんだよ。気にしないで。僕も今年はアンジェもいて楽しい休暇だよ」

アンジェを見てみると、表情は作られていて微笑んでいるように見えるが目は笑っていない。
だが、入室する際とヴィオレッタとその母の前ではきちんと礼をする。
作られたその表情を見るに【ヴィオレッタの母もいる】と言う事に驚いてる節がある。

「どうぞ、お座りになってくださいませ。そちらのお嬢さんもどうぞ」

ヴィオレッタから促す事は出来ない。
この場のホストとして年長者はヴィオレッタの母であるからだ。

「ありがとう。茶は冷たい方がありがたい。街を歩き疲れてね」
「さようで御座いますか。街に?」
「そうなんだ。アンジェがネックレスやピアスが欲しいと言うものだからね」
「まぁ、そうですか。楽しいお買い物が出来たようで何よりですわ」

レオンの発言にアンジェの顔が思わず歪むのをヴィオレッタも母も見逃さない。
目の前のレオンは考えなしなのである。
ある程度は一緒にいれば気が付くであろうが、まさか婚約者の家に来て他の女に宝飾品を買った、デートのような事をしたと平気で暴露するとはアンジェも予想外なのだろう。

レオンは後先の事や、その発言でどうなるかなど考慮して言葉を選ぶような男ではない。
その辺りは全く変わらない。ヴィオレッタが距離を置いても誰からも学ぶことはなかったのだろう。
そうでなければ、ヴィオレッタの母が扇で口元を隠すような行動は起こさない筈なのだが、続く発言にバッと扇が開く音と、ギリギリと何かが軋むような音をヴィオレッタが聞く事はなかったはずだ。

ヴィオレッタは聞くに徹する。ここは母に一任するのが得策だと判断をしたのである。

「色々とこのアンジェと話し合ったんだ。この休暇中は時間もあるし朝まで2人で何度も話をした」
「まぁ、朝まで?お二人で話をされたのですか?」
「そうなんだ。もう何度も。やっとこうしたらいいと言う結論が出たよ」
「どのようなご結論に?」

チラリとみればアンジェの顔色はすこぶる良くない。白い肌が更に白くなり蒼白である。
【朝まで2人で】などと言えば実際本当に議論を交わしただけであっても誤解を招くだけだ。
しかし、顔色を見る限りレオンの言う【結論】をここで言われるとは思わなかったのだろう。
レオンの袖を軽く引っ張っているが小声でレオンは【大丈夫だから】と言うだけで、アンジェが小さく首を横に振るのを意にも介さない。

「本当に色々と話をしたんだ。それで、ヴィオレッタは正妃に。このアンジェを側妃にしようと思う」

順番や爵位、婚約者という立場からすればそれは当たり前であるが、まだ結婚をしていない段階で側妃が決まっていると王太子が明言する事は失言に他ならない。

側妃は認められているがそれは【国王】となればの話で、条件がある。
正妃がいて、半年以上の期間を置いて【致し方なく】側妃が認められるのである。

前回は【側妃になって公務をしてくれ】と言ったレオンだったがジェシーが妊娠をしてしまったという事実があった。結果的にその子供がレオンの子だったかどうかではなく、【側妃に】という話をした時は【嫁ぐのは予定より遅くなるが】とバカはバカなりに考慮はしたのだろう。

もしかするとそれを進言という入知恵をしたのはユーダリスかも知れない。
今回、アンジェが出現した時点で側近候補でなかったのはユーダリスだけなのだから。

「殿下、年を取るといけませんわ。先程 側妃 と聞こえたのですが?」
「夫人、まだそんな年では無かろう?そうだよ。ヴィオレッタを正妃、アンジェを側妃。これでこの国も安泰だと思わないか?」

「そのお話は陛下も、王妃殿下もそして側妃のレクシー様もご存じなのでしょうか」
「アハハ。まだだよ。さっき言ったじゃないか。2人で話し合ったと。それでコルストレイ侯爵家の立場もあるだろうから先ずはヴィオレッタに側妃として認めてもらおうと思ってね。ねっアンジェ」

得意気に話を振られたアンジェは呼吸をしているだろうかと思うほどに動かない。
もはや喜劇なのではと思いつつ、ヴィオレッタは母の顔を見ると母は小さく頷く。

「殿下、側妃など可哀想ですわ。わたくしは潔く辞退を致しましょう」
「は?何を言ってるんだ。ヴィオレッタにもアンジェにも沢山子供を産んでもらわないと困る」

その言葉にアンジェは膝に両手で持っていた扇を床に落としてしまう。

「あら?殿下はアンジェ様は妹のようなものだと仰っていたと思いますが御子を?」
「そうなんだけど、やはり先に正妃となるヴィオレッタが身籠らないといけないんだと思うよ。と思ったところなんだ」

ヴィオレッタは思わず吹き出しそうになってしまうが、息を飲み込みそれを堪える。
順番は確かに大事だが、既に間違っていると教えてやりたくもなる。

聞きたい事は十分に聞けたのだろう。ヴィオレッタの母は【オホホ】と笑う。
意味を分かっていないのはレオンだけである。

「殿下、このコルストレイ侯爵家を代表してお約束致しますわ」
「そうか!助かるよ」
「えぇ。直ぐにでも陛下の目通りを願いたいと思いますわ」
「良かった。なぁアンジェ。‥‥アンジェ??どうした?」
「お連れ様はお買い物でお疲れなのでは?早くお帰りになった方が良いと思います」
「そうだな。女性はすぐに倒れたりするからな。ではまた城で」

まさか、積年の悩みの種であった婚約の解消を本人が爆弾投下してくれるとは思わなかったヴィオレッタ。母の準備は早い。執事と家令を声高らかに呼ぶと馬車の準備と身支度を始める。

先に出たレオンの馬車を追い越すのではないかと思うほどに御者は気合を入れる。
ヴィオレッタの母を乗せた馬車は城に向けて走り出した。

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