呪われ侯爵のお嫁様★嫁いだら溺愛が始まるなんて聞いてない★

cyaru

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第28話(S)  考えることをやめた

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「はぁ~寒い」

ケイトリンは部屋からは出してもらえたが、それからの生活は奴隷のようなもの。
寒い冬に頼りになるのは自分の吐く息だけ。

冷たさでビリビリと痛みの走る指。
何か所もあかぎれになってしまい、握っても開いても皸が肌を裂いていく。

あかぎれのない指がなくなっちゃった」

かじかんでしまっても井戸から水を桶に汲んで傷む手を誤魔化しながら水瓶をいっぱいにする。水汲みが終われば一番鶏が鳴く。

竈に火を起こし、暖炉にも火を入れて全員の朝食を作り始める。
パンの生地に血が混じってしまうと義父に殴られるので、布で手を覆って生地を捏ねる。

いたっ…うぅぅ…」

腕には皮膚こそ裂けてはいないが3日前にスープの味が薄いと義母に竈に掛けたままの鍋をひっくり返されて、スープを浴びた腕が火傷になりじくじくと傷む。

なんとか食事を用意して義両親を起こし、義両親が食事をしている最中に義祖父の介護をする。

寝たきりの義祖父は体が自由に動かないだけで頭と口は健在。
褥瘡が出来ないように使用人も手伝って寝返りは打たせてくれるけれど、ケイトリンに寝る時間はほとんどない。

余りにも憐れだと使用人が「今なら2、3時間は寝られますから」と夜中に気を使ってくれる。

義祖父の世話が終わればコーネリアスとアンジーのいる離れに食事を運ぶ。
生れたままの姿で日中も過ごすので夏は良いが、冬は離れの暖炉にも火を入れて温めておかねばならない。


ケイトリンがすれば済む事だと使用人も数人解雇してしまったので、ケイトリンは食事も作れば洗濯もして、掃除を終えれば買い出しにも行く。

空いた時間が昼間に出来れば執務をさせられるのだが、指がペンを握れないし、皸がパチンとぱっくり開くと書類に血がついてしまうので役立たずと怒鳴られ、殴られる。


「あんたは本当に役に立たないね。何にもしてないのに!この無駄飯食らいがッ!!」


義母はケイトリンを探して見つければ嫌味を言う。
時に洗濯物を干す時に使う棒で足や背中を殴られる。

頭や顔などを狙わないのも訳がある。
参加必須の王家主催の夜会にはケイトリンは次期当主の正妻なので出席をせねばならない。ドレスを着て見えない部分は殴る事は出来ても、隠せない部分は手を出してこないのだ。

「ほら、恵んでやるんだからありがたく使いな!」

義母が床に叩きつけるのは手袋。

指先があかぎれだらけで誤魔化せないので、夜会の時は義母のお下がりだが、買い出しに行く時は誰が使っていたか判らない手袋がケイトリンに与えられた。

食事は与えて貰えない。

部屋に閉じ込められていた時ですら水のようなスープだけは1日1回だったが、いつのパンか判らない固いパンが2、3日に1回だった。

今は調理の最中にする少しの味見。勿論具を食べることはない。
固形物があるとすれば食後、義両親やコーネリアス、アンジーが食べ残したもの。

「誰かの残りがご馳走と思う日が来るなんて」

フェキ伯爵家も貧乏だったが、残飯としか思えないものを食べるほどは落ちぶれてはいなかった。

すっかり冷えたスープを温める暇などない。
夕食が終われば義両親が清拭をしろと怒鳴るので急がねばならない。

義両親が寝た後は深夜0時か1時か。義祖父に寝返りをさせねばならないし、竈に火を入れていると「薪の無駄使い」とまた叱られてしまうので温める事も出来ないのだ。


逃げなさいと言った使用人もいた。
でも、ケイトリンは逃げなかった。

逃げれば何とかなる。
そう言えるのは逃げねばならないような生活をしたことがない人の言葉で、ケイトリンのような状況の場合は、「逃げる」という行為が選択肢から消えるのである。

逃げようと考えた時もあったが、その後を考えてしまう。

実家に連絡をされてまたここに連れ戻されたら。
誰を、どこを頼って逃げればいいのか。
どうやって生活をすればいいのか。

思考する力があるとつい考えてしまい、「今の方がマシかも?」悲観した比較をしてしまう。

ケイトリンは父親が来た時「これで帰れる」と期待をした。
嫁いで直ぐの頃だったのでこんな扱いをされるのなら!と弱みはあるとは言え怒ってくれると思った。

結果は真逆。ケイトリンは体よく追い出され、家族にも捨てられた。
唯一の肉親、しかも実の父親からの言葉はケイトリンに絶望を与えた。

肉親ですら助けてくれないのに他人が助けてくれるはずがない。

「逃げなさい」と言った使用人もケイトリンが酷い言葉を浴びせられていたり、棒で叩かれている場では見て見ぬふり。

義両親が確実に来ない時に「酷いことするね」と同情し「警備隊に言ってあげる」とは言うものの、所詮他人事なので言うだけなのだ。

そんな彼らに「言ってくれたのかな?」と期待したのもいつの日だったか。
2年経ち、3年経つと他人に期待することもやめた。

ケイトリンは考えることもやめて、ただ日常を流れるように過ごし、眠い、空腹など人間が感じる最後の感情を感じる時だけ「まだ生きてるんだな」と神がまだ御許に迎えてはくれない事を恨んだ。
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