5 / 28
第05話 生きるために身につけた技
しおりを挟む
1人は1人でも住む場所が違えばこうも違うものなのか。
執事に「食事は使用人さんの残りで良いです」と言ってみた。確かにブレックファスト、ランチ、ディナーと言った類ではないけれど、口の中で蕩けそうな具沢山のスープに柔らかいパン。
「世の中にこんな至福の食材があったなんて!!」
運んできてくれるのも申し訳ないと本宅まで取りに行くのだが、ブリュエット以上に「ごめんね」と申し訳なさそうな使用人達。
「こんな贅沢なご馳走なのに」と思ってみるが、使用人達は自分たちと同じ賄である事が申し訳ないと感じている。
ウロウロしていてうっかりオクタヴィアンに出会ってもいけないと暫くは炭にする為の薪を作ろうと二の腕よりは少し太いけれど、太ももよりは細い木の幹にノコギリを入れて適当な大きさにすると樹皮を剥ぐ。
樹皮を剥いだものは乾燥をさせるために積み上げる。冬場は炭も使うが薪そのものも使うためである。樹皮があるとパンパンと弾けてしまって小さな火の粉が飛ぶので毛足の長い絨毯のある部屋は危険なのだ。
剥いだ樹皮も無駄にはしない。こちらは着火しやすいので厨房の竈に火を入れる時に活躍する。剥いだ後に繊維に添って石で叩いたりして置くと繊維が毛羽立ってより火が点きやすくなる。
「このひと手間が大切なのよね。それが大事だよぅ~」
タンタン!小気味よい音をさせていると「精が出るね」と声を掛けられた。振り返ってみると庭師が立っていた。
「若奥様なんだからもっと贅沢すりゃいいのに。樹皮を叩いてるご夫人なんざ聞いた事も見たこともないよ」
「あら?では初のお目見えで御座いますわね。素人の見様見真似ですけどもお好きなだけご覧になってくださいませ」
「じゃぁ休憩がてらにちょっくら見せてもらうとすっかな?」
「まぁ、休憩?ではお茶を淹れますね。野草茶はお好きですか?」
「いいねぇ。最近じゃ小洒落たモノばかりだが野草茶たぁ珍しい。寄ってみるもんだな」
あと3年で引退だという庭師は御年67歳。随分と長い現役だが先々代の頃から公爵家の庭を手掛けて来て誰よりも庭の事を知っているので現公爵からも「気が変われば引退を伸ばしてもいい」と言われている。
手にしていた荷物を置いて、薪割り用の木の株に腰を下ろした庭師の名前はフレッド。
ブリュエットは小屋の周りに自生する野草を取っては洗って乾燥をさせて細かく砕き、竈で沸かしたゆで沸騰をさせた中に放り込んで煮だしたものや、常温より少しだけ熱い湯でゆっくりと成分を抽出した茶を適量ブレンドしてフレッドに手渡した。
「おぉ珍しい。柿の葉‥いやドクダミか??オオバコの味もするな」
「うふふ。出来れば枇杷の葉もあればいいんですけども、枇杷の木はあまり植える人もいないので。実はとっても美味しいと思うんですけどね」
「やぶ蚊が凄いけどな。確かに旨い。今度案内してあげるよ」
「あるんですか?枇杷の木」
「あるよ。こことは逆の庭に植えてある。先代様の奥様が枇杷が大好きで縁起が悪いとかどうこうよりも食欲の方が勝ったからなぁ。今じゃ食べる人もいないが…植えている事も旦那様は忘れているだろうなぁ」
オクタヴィアンからみれば曾祖父の代の庭師に弟子入りをしたフレッドは庭木の全てを任せてくれた先代を思い出したのか目を細めて周囲の庭木を眺めながらブリュエットの淹れた茶を飲み干し、お替りも要求した。
「柿の葉は独特のエグ味があるが、まろやかだなぁ」
「お褒め下さってありがとう。でもこれはきっと手入れが行き届いているので葉が肉厚だからですわ」
「参ったな。逆に褒められちまったよ。アハハ」
ブリュエットが野草などのお茶をブレンド出来るようになったのは下世話な話でいえば金が欲しかったから。
マーシャル子爵家では無給だったので成長に合わせて服も靴も買う金はなかった。
なので庭や仕事の行き帰りに自生している野草を見つけては野良犬などに悪さをされていなさそうな部分の野草を千切り、持ち帰って洗って乾燥させて屋台で茶葉を売る店主に卸して小銭を稼いだ。
子供だったのもあって、服を買う、靴を買うと言えば少し割り増しして買い取ってくれた。買った服や靴を見せると「なんてこった」と抱きしめてくれる店主もいた。
地味に生きて来られたのは時にアドバイスも貰いながらだったが、その後も店主が野草茶を買い取ってくれた。その甲斐もあったのかフレッドが美味しいと言ってくれるのがブリュエットにはとても嬉しかった。
「お茶でも売って生計立てようかしら??」
安易だが今の現状で一番手っ取り早く稼げる方法である。
忘れてはならない離縁後の計画。
以前のように服や靴を買う金だけあればいいという訳にはいかない。
「住居費でしょう・・・食費に医療品・・・薬草茶を作るのにも鍋とか必要よね…屋台を出すのには場所代も必要なのかしら?手数料も必要と考えたら…」
2年間切り詰めて節制をしてもあっという間に手渡される金も消えてしまうんじゃないか。
そう思うとブリュエットは更に生活を引き締めるとともに、稼ぐ手段を本格的に考えなきゃ!と意気込んだ。
執事に「食事は使用人さんの残りで良いです」と言ってみた。確かにブレックファスト、ランチ、ディナーと言った類ではないけれど、口の中で蕩けそうな具沢山のスープに柔らかいパン。
「世の中にこんな至福の食材があったなんて!!」
運んできてくれるのも申し訳ないと本宅まで取りに行くのだが、ブリュエット以上に「ごめんね」と申し訳なさそうな使用人達。
「こんな贅沢なご馳走なのに」と思ってみるが、使用人達は自分たちと同じ賄である事が申し訳ないと感じている。
ウロウロしていてうっかりオクタヴィアンに出会ってもいけないと暫くは炭にする為の薪を作ろうと二の腕よりは少し太いけれど、太ももよりは細い木の幹にノコギリを入れて適当な大きさにすると樹皮を剥ぐ。
樹皮を剥いだものは乾燥をさせるために積み上げる。冬場は炭も使うが薪そのものも使うためである。樹皮があるとパンパンと弾けてしまって小さな火の粉が飛ぶので毛足の長い絨毯のある部屋は危険なのだ。
剥いだ樹皮も無駄にはしない。こちらは着火しやすいので厨房の竈に火を入れる時に活躍する。剥いだ後に繊維に添って石で叩いたりして置くと繊維が毛羽立ってより火が点きやすくなる。
「このひと手間が大切なのよね。それが大事だよぅ~」
タンタン!小気味よい音をさせていると「精が出るね」と声を掛けられた。振り返ってみると庭師が立っていた。
「若奥様なんだからもっと贅沢すりゃいいのに。樹皮を叩いてるご夫人なんざ聞いた事も見たこともないよ」
「あら?では初のお目見えで御座いますわね。素人の見様見真似ですけどもお好きなだけご覧になってくださいませ」
「じゃぁ休憩がてらにちょっくら見せてもらうとすっかな?」
「まぁ、休憩?ではお茶を淹れますね。野草茶はお好きですか?」
「いいねぇ。最近じゃ小洒落たモノばかりだが野草茶たぁ珍しい。寄ってみるもんだな」
あと3年で引退だという庭師は御年67歳。随分と長い現役だが先々代の頃から公爵家の庭を手掛けて来て誰よりも庭の事を知っているので現公爵からも「気が変われば引退を伸ばしてもいい」と言われている。
手にしていた荷物を置いて、薪割り用の木の株に腰を下ろした庭師の名前はフレッド。
ブリュエットは小屋の周りに自生する野草を取っては洗って乾燥をさせて細かく砕き、竈で沸かしたゆで沸騰をさせた中に放り込んで煮だしたものや、常温より少しだけ熱い湯でゆっくりと成分を抽出した茶を適量ブレンドしてフレッドに手渡した。
「おぉ珍しい。柿の葉‥いやドクダミか??オオバコの味もするな」
「うふふ。出来れば枇杷の葉もあればいいんですけども、枇杷の木はあまり植える人もいないので。実はとっても美味しいと思うんですけどね」
「やぶ蚊が凄いけどな。確かに旨い。今度案内してあげるよ」
「あるんですか?枇杷の木」
「あるよ。こことは逆の庭に植えてある。先代様の奥様が枇杷が大好きで縁起が悪いとかどうこうよりも食欲の方が勝ったからなぁ。今じゃ食べる人もいないが…植えている事も旦那様は忘れているだろうなぁ」
オクタヴィアンからみれば曾祖父の代の庭師に弟子入りをしたフレッドは庭木の全てを任せてくれた先代を思い出したのか目を細めて周囲の庭木を眺めながらブリュエットの淹れた茶を飲み干し、お替りも要求した。
「柿の葉は独特のエグ味があるが、まろやかだなぁ」
「お褒め下さってありがとう。でもこれはきっと手入れが行き届いているので葉が肉厚だからですわ」
「参ったな。逆に褒められちまったよ。アハハ」
ブリュエットが野草などのお茶をブレンド出来るようになったのは下世話な話でいえば金が欲しかったから。
マーシャル子爵家では無給だったので成長に合わせて服も靴も買う金はなかった。
なので庭や仕事の行き帰りに自生している野草を見つけては野良犬などに悪さをされていなさそうな部分の野草を千切り、持ち帰って洗って乾燥させて屋台で茶葉を売る店主に卸して小銭を稼いだ。
子供だったのもあって、服を買う、靴を買うと言えば少し割り増しして買い取ってくれた。買った服や靴を見せると「なんてこった」と抱きしめてくれる店主もいた。
地味に生きて来られたのは時にアドバイスも貰いながらだったが、その後も店主が野草茶を買い取ってくれた。その甲斐もあったのかフレッドが美味しいと言ってくれるのがブリュエットにはとても嬉しかった。
「お茶でも売って生計立てようかしら??」
安易だが今の現状で一番手っ取り早く稼げる方法である。
忘れてはならない離縁後の計画。
以前のように服や靴を買う金だけあればいいという訳にはいかない。
「住居費でしょう・・・食費に医療品・・・薬草茶を作るのにも鍋とか必要よね…屋台を出すのには場所代も必要なのかしら?手数料も必要と考えたら…」
2年間切り詰めて節制をしてもあっという間に手渡される金も消えてしまうんじゃないか。
そう思うとブリュエットは更に生活を引き締めるとともに、稼ぐ手段を本格的に考えなきゃ!と意気込んだ。
2,528
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる