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第18話 あっさり逆鱗に触れる
世の中、価格が高ければ中身も良いとは限らない。
オクタヴィアンの持ち込んだ茶葉。おそらく一番摘みの煎じ方を変えれば最高級となるのだが、入っていたのは2番摘みが5割、残り半分1番摘みであっても前年度に煎じたまま年を越して出番のなかった茶葉を混ぜた物。
ブリュエットから見れば「人様にお金を払わせる品」ではないシロモノだった。
「凄く人気なんだよ。この店は衣料品とか小物、化粧品なんかも扱ってるんだ」
――なるほど。ブランド名だけで商売をしてるってことね――
何でも屋をしている時にこのブランド店の店舗清掃を任された事もある。
お客様から見える部分は本当に高級感溢れる特別感を感じさせる空間なのだが、裏手は酷いものだった。
商品は無造作に積み上げられているし、そのわきをゴキブリやネズミが走り回り、部分的に糞が付着した商品もあるのだが、お客様に出す時は綺麗に拭き取るのでお客様は気が付かない。
従業員の休憩室。テーブルには食べ残しの食品が紙ナプキンの上に置かれているその隣に化粧品の入ったポーチ。試供品で配る化粧品の中身を自分の容器に移し替えるので、足元には空き容器が転がっている。
使用後のコットンなどもゴミ箱から溢れかえっているのにその上に投げ捨てるのでゴミ箱を部屋の隅に置いておくとゴミ箱が見えなくなるまでゴミが山を作っている。
元々はバッグや帽子などのブランドだが、ドンドン手を広めて現在は「健康志向!体の内側も磨き上げたオンナ」をキャッチフレーズに健康食品も売り出している。
「こういう本業以外に手を広げた商品に当たりはないのに」
「そうなのか?友人に聞いたら奥方には人気らしいんだが」
「そりゃそうでしょうね。お茶の席にもわざわざこのブランドの茶葉を使ってますって箱を置いたりしてるんでしょうし」
「凄いな!そうなんだよ。代理店もしているみたいで店舗と同じ価格で買えるんだが、友人割引って事で1割引きしてもらったんだよ」
ブランド品を扱う店は基本が「割引」などない定価販売。
清掃などをしていると実態を知る事も出来たブリュエットからすればボッタクリ価格だ。
――1割引きでお得感を感じるんだから幸せな人なんだわ――
折角持って来てくれたのだからとブリュエットは箱に書いてある通りに茶葉を蒸らしてオクタヴィアンに茶を淹れた。その向かいで申し訳ないのだけど、お月様が再来週あたりかな?という体の予告を感じていたブリュエットはオリジナルブレンドの茶を飲む。
「それは何だ?いい香りがするなぁ」
「当帰茶です。体を温める作用があるんです」
「冷えるのか?今日はそんなに寒くはないと思うんだが…。私なんか今朝から全身がこう…燃える感じだ」
――脂肪燃焼効果があるのかしら…お腹下しそうな古い茶葉なのに――
飲む前から高級感だけで燃えるような効果を感じるのならそれもブランド品の特性なのだろうか。
――確かに新製品の時は予約できたって喜びもあるみたいだし――
自由になる金のなかったブリュエットには無縁の世界だが、何でも屋で働く従業員の中には金を貯めてやっとバッグが買える、小銭ケースが買えると予約できた喜びに頬を赤く染めている者もいたのは知っている。
しかし、向かい合って茶を飲んでいるとオクタヴィアンはちらちらとブリュエットを見てくる。
「どうされました?」
「いや…その・・・君が飲んでる茶も飲んでみたいなぁ…なぁんて。アハハ」
「どうぞ。構いませんよ。茶器を持ってきますのでお待ちください」
「これを飲み干したからそのままここに注い――」
バンっ!!ブリュエットの手がテーブルを叩き、茶器が少し浮いた。オクタヴィアンの尻も浮いた。
「いいですか?たかがお茶、ですが!!されどお茶・・・ですっ!」
「はぃ・・・」
「茶器の底にほんの少し残ったお茶。そこに違う茶を注ぐ。茶葉を作る時は ”この味を味わってもらいたい” と相手を思いながら煎じたり、煮だしたり…根についた土を隅々まで気を使い洗い流すんですっ」
「はぃ‥‥」
「なのに、ここに注げ?そんな味変不要ですッ」
「ち、違うんだ!そういう意味じゃなく私にそこまで手間をかけなくて‥いいって」
――それを言うなら、貴方がここに来る事が手間なの――
「ほら、見て?このロゴ。あるだけで華やかになるだろう?」
「ほぅ。なら箱を後生大事になされば?」
「いや、その・・・どうせ大事にするなら君のほうがいいかなーっとか思っちゃ…いや、ちゃんと言う。コホン」
姿勢を正したオクタヴィアンは両手をきゅっと軽く握って両膝に置いた。
ペコリと頭を下げる。
「わっ、私達は夫婦だ。私の誤解しか招かない言動で君には不都合を押し付けてばかりだ。先ずはだ。かの日の言葉を撤回させてくれ。こんな所に君を置いたのは私だが、本宅で自由に過ごして欲しいんだ!」
――は?こんな所?――
確かに雨漏りはするし、オクタヴィアンからすれば不便に見えるかも知れないが、この小屋にはブリュエットの心を満たすものが沢山ある。
所有権はオーストン公爵家にあるとしても結構楽しく自由を満喫しているのに??
「あのぅ。それってどういう…」
「だから!私と君は夫婦だから夫婦らしい事をしたいし、過去を悔いている私を側で見て欲しいってイウカ・・・とっ兎に角だ。こんな小屋にいなくていい。畑だってフレッドにやらせればいいし、君には何不自由ない生活を本宅でしてほしいんだ!」
しばし流れる沈黙。
「GO‥‥」ぼそっとブリュエットが呟く。
「GO??」 あ、不味いかも?と感じたオクタヴィアンは冷や汗を垂らす。
「away!!」 キッ!顔をあげてオクタヴィアンを睨むブリュエットが扉を指差した。
「あ、あの…」
「GO!away!!私はここが気に入ってるの!畑をフレッドさんに任せろですって?寝言なら私室に戻って吠えて来なさい!沸騰するスープで顔を洗って出直して来なさいッ!!」
ブリュエットの逆鱗にあっさり触れてしまい、思いっきり逆撫でしてしまった事にオクタヴィアンは気が付かなかった。
毛を逆立てた猫が威嚇するようにフーシャー状態になったブリュエットに襟元を掴まれ、小屋の外に放り出されてしまったオクタヴィアンは・・・。
ドンドン!!「開けてくれ!話を聞いてくれ!!」
玄関前で必死に叫ぶのだが、ブリュエットは籠を手に勝手口から外に出ると野草摘みに出掛けてしまった。
オクタヴィアンの持ち込んだ茶葉。おそらく一番摘みの煎じ方を変えれば最高級となるのだが、入っていたのは2番摘みが5割、残り半分1番摘みであっても前年度に煎じたまま年を越して出番のなかった茶葉を混ぜた物。
ブリュエットから見れば「人様にお金を払わせる品」ではないシロモノだった。
「凄く人気なんだよ。この店は衣料品とか小物、化粧品なんかも扱ってるんだ」
――なるほど。ブランド名だけで商売をしてるってことね――
何でも屋をしている時にこのブランド店の店舗清掃を任された事もある。
お客様から見える部分は本当に高級感溢れる特別感を感じさせる空間なのだが、裏手は酷いものだった。
商品は無造作に積み上げられているし、そのわきをゴキブリやネズミが走り回り、部分的に糞が付着した商品もあるのだが、お客様に出す時は綺麗に拭き取るのでお客様は気が付かない。
従業員の休憩室。テーブルには食べ残しの食品が紙ナプキンの上に置かれているその隣に化粧品の入ったポーチ。試供品で配る化粧品の中身を自分の容器に移し替えるので、足元には空き容器が転がっている。
使用後のコットンなどもゴミ箱から溢れかえっているのにその上に投げ捨てるのでゴミ箱を部屋の隅に置いておくとゴミ箱が見えなくなるまでゴミが山を作っている。
元々はバッグや帽子などのブランドだが、ドンドン手を広めて現在は「健康志向!体の内側も磨き上げたオンナ」をキャッチフレーズに健康食品も売り出している。
「こういう本業以外に手を広げた商品に当たりはないのに」
「そうなのか?友人に聞いたら奥方には人気らしいんだが」
「そりゃそうでしょうね。お茶の席にもわざわざこのブランドの茶葉を使ってますって箱を置いたりしてるんでしょうし」
「凄いな!そうなんだよ。代理店もしているみたいで店舗と同じ価格で買えるんだが、友人割引って事で1割引きしてもらったんだよ」
ブランド品を扱う店は基本が「割引」などない定価販売。
清掃などをしていると実態を知る事も出来たブリュエットからすればボッタクリ価格だ。
――1割引きでお得感を感じるんだから幸せな人なんだわ――
折角持って来てくれたのだからとブリュエットは箱に書いてある通りに茶葉を蒸らしてオクタヴィアンに茶を淹れた。その向かいで申し訳ないのだけど、お月様が再来週あたりかな?という体の予告を感じていたブリュエットはオリジナルブレンドの茶を飲む。
「それは何だ?いい香りがするなぁ」
「当帰茶です。体を温める作用があるんです」
「冷えるのか?今日はそんなに寒くはないと思うんだが…。私なんか今朝から全身がこう…燃える感じだ」
――脂肪燃焼効果があるのかしら…お腹下しそうな古い茶葉なのに――
飲む前から高級感だけで燃えるような効果を感じるのならそれもブランド品の特性なのだろうか。
――確かに新製品の時は予約できたって喜びもあるみたいだし――
自由になる金のなかったブリュエットには無縁の世界だが、何でも屋で働く従業員の中には金を貯めてやっとバッグが買える、小銭ケースが買えると予約できた喜びに頬を赤く染めている者もいたのは知っている。
しかし、向かい合って茶を飲んでいるとオクタヴィアンはちらちらとブリュエットを見てくる。
「どうされました?」
「いや…その・・・君が飲んでる茶も飲んでみたいなぁ…なぁんて。アハハ」
「どうぞ。構いませんよ。茶器を持ってきますのでお待ちください」
「これを飲み干したからそのままここに注い――」
バンっ!!ブリュエットの手がテーブルを叩き、茶器が少し浮いた。オクタヴィアンの尻も浮いた。
「いいですか?たかがお茶、ですが!!されどお茶・・・ですっ!」
「はぃ・・・」
「茶器の底にほんの少し残ったお茶。そこに違う茶を注ぐ。茶葉を作る時は ”この味を味わってもらいたい” と相手を思いながら煎じたり、煮だしたり…根についた土を隅々まで気を使い洗い流すんですっ」
「はぃ‥‥」
「なのに、ここに注げ?そんな味変不要ですッ」
「ち、違うんだ!そういう意味じゃなく私にそこまで手間をかけなくて‥いいって」
――それを言うなら、貴方がここに来る事が手間なの――
「ほら、見て?このロゴ。あるだけで華やかになるだろう?」
「ほぅ。なら箱を後生大事になされば?」
「いや、その・・・どうせ大事にするなら君のほうがいいかなーっとか思っちゃ…いや、ちゃんと言う。コホン」
姿勢を正したオクタヴィアンは両手をきゅっと軽く握って両膝に置いた。
ペコリと頭を下げる。
「わっ、私達は夫婦だ。私の誤解しか招かない言動で君には不都合を押し付けてばかりだ。先ずはだ。かの日の言葉を撤回させてくれ。こんな所に君を置いたのは私だが、本宅で自由に過ごして欲しいんだ!」
――は?こんな所?――
確かに雨漏りはするし、オクタヴィアンからすれば不便に見えるかも知れないが、この小屋にはブリュエットの心を満たすものが沢山ある。
所有権はオーストン公爵家にあるとしても結構楽しく自由を満喫しているのに??
「あのぅ。それってどういう…」
「だから!私と君は夫婦だから夫婦らしい事をしたいし、過去を悔いている私を側で見て欲しいってイウカ・・・とっ兎に角だ。こんな小屋にいなくていい。畑だってフレッドにやらせればいいし、君には何不自由ない生活を本宅でしてほしいんだ!」
しばし流れる沈黙。
「GO‥‥」ぼそっとブリュエットが呟く。
「GO??」 あ、不味いかも?と感じたオクタヴィアンは冷や汗を垂らす。
「away!!」 キッ!顔をあげてオクタヴィアンを睨むブリュエットが扉を指差した。
「あ、あの…」
「GO!away!!私はここが気に入ってるの!畑をフレッドさんに任せろですって?寝言なら私室に戻って吠えて来なさい!沸騰するスープで顔を洗って出直して来なさいッ!!」
ブリュエットの逆鱗にあっさり触れてしまい、思いっきり逆撫でしてしまった事にオクタヴィアンは気が付かなかった。
毛を逆立てた猫が威嚇するようにフーシャー状態になったブリュエットに襟元を掴まれ、小屋の外に放り出されてしまったオクタヴィアンは・・・。
ドンドン!!「開けてくれ!話を聞いてくれ!!」
玄関前で必死に叫ぶのだが、ブリュエットは籠を手に勝手口から外に出ると野草摘みに出掛けてしまった。
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