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VOL:17 広がる噂
王都のパウゼン侯爵家の本宅ではビリビリとした空気が漂っていた。
グラウペルと共に戻って来たレイニーだったが、祖父に挨拶もなしという事も出来ず「戻りました」と挨拶はしたのだが、「座りなさい」と言ったきり一言も喋らずに30分が経過した。
グラウペルは「自分の不用意な発言が原因」と詫びたのだが「君は黙っていてくれ」と一蹴されて黙るしかなかった。
静かな部屋に入って来たのはパウゼン侯爵の執事の1人。
何枚かの報告書を持って入って来た。
「目を通しなさい」と向かいに腰掛けるレイニーに告げるとレイニーは差し出された書類に目を通す。グラウペルも視界の端にその文字を捉えたが、内容はギョッとするものだった。
なのにレイニーは顔色一つ変えずに2枚目、3枚目と目を通していく。
一通り読み終わるとレイニーは侯爵に向けて書類を置いた。
「これが何か?」
「読んで何も思わなかったのか?」
「感想ですか?そうですね…くだらないと思いました」
「変わったな。お前は・・・」
前半の書類に書かれていたのは、レイニーこそ不貞があったのに力の弱いヘゼル伯爵家やゴルゾン伯爵家に責任を押し付けているというものだった。
ヘゼル伯爵家の子息フェリッツとの婚約が破棄となり、ヘゼル伯爵家はあっという間に傾いた。
慰謝料の支払いが出来ないのは相手がパウゼン侯爵家なので、商会も猫の手が借りたいほど忙しくてもヘゼル伯爵家の人間は雇わない。
ゴルゾン伯爵家も夜逃げをしたものの、逃げ切れるはずもなく3日で見つかり今は教会に身を寄せている。
問題なのはさほどに日が経っていないにも関わらず、レイニーに対し良くない噂がフェリッツとの婚約破棄からまだ18日目だというのに、驚異的な速さで広がり始めている事だった。
執事が持ってきたのは「第3弾」とも言える噂話の概要。
既に第1弾と第2弾の噂は流れてしまっているところに、今回のレイニーの家出。
噂ではなく事実とも捉えられてしまう行動だった。
おそらくはパパラッチがレイニーに張り付いていたのだろう。第3弾を名付けるなら「レイニーが愛人と逃避行」だが中身は嘘が殆ど。事実なのは幌馬車に乗って北を目指したという点のみ。
今朝の事がもう昼過ぎには噂となって流布しているのは恐怖でしかない。
異常な速さで噂が広がっているのはグラウペルとの婚約が絡んでいると思われた。
夫とするには超優良物件のグラウペルなので、狙っていた令嬢も多くトンビに油揚げを搔っ攫われるようにレイニーとの婚約となった事で恨みを買ったと思われる。
「侯爵、こんなのは嘘です。私が不用意な事を言ったばかりに彼女は「ならそうしよう」と考えただけです。こんな内容を信じる方がどうかしているッ」
「君はそうかも知れないが世間は違う。大多数の人間の声は例え事実とは真逆にあってもそれが本当だと思い込んでしまうものだ。人はね、どうしても他者と自分を比べる。どんな小さな事でも優位だという安心が欲しい生き物なんだ。だが、敵わないとなれば瑕疵を探す。瑕疵が無ければ作り出す。王子なら覚えがあるだろう?根も葉もない噂が独り歩きをしてしまう事が」
「お爺様、殿下に文句を言うのは間違いです。それから・・・この噂は出所が1つではありませんわね」
「それが誰なのかおおよその見当はついているという事か」
「えぇ。3人茶会でしか知り得ない事も書かれてますし、ヘゼル伯爵子息かゴルゾン伯爵令嬢。どちらかなのか両方なのか。そこまでは判りませんが。噂は低位貴族から流れ始めていますが、報告書の途中まで殿下との婚約については一切触れられておりません。が、後半は・・・もう妬み、やっかみでしかありません。殿下の取り巻き、いえ親衛隊では?」
「取り巻き?!親衛隊?!そんなものはいない!」
フェリッツを立てて、あまり茶会なども開かなかったので他家の令嬢に親しいほどの仲が良い者はおらず、言いようによっては「深窓の令嬢」とも言えるレイニー。
だからこそ、噂で作り上げられた人物像が前半と後半で大きく違う。
前半のレイニーは「類を見ない高慢ちき」という不名誉な二つ名を拝命しそうな内容で、ヘゼル伯爵家の子息に飽きたレイニーが美人局のように友人をけしかけ、目の前で性行為をさせたり、それに投げ銭をしたりとやりたい放題していると聞いた・・・というものが大半。
仕立て屋などでも侯爵令嬢なら屋敷に仕立て屋が出向くはずなのに店頭に来て買い漁る。その時に同行した友人にも「貴女じゃ買えないでしょう?施してあげる」と言っていたと聞いた・・・という人伝に聞いたというなんとも心無いもので、出所を隠そうとしているが隠しきれていない。
が、後半のレイニーとなるとグラウペルが断れない状況を作り出すためにあの手この手で王家に圧力をかけた「稀代の悪女」という話になり、最後に至ってはそこまでして手に入れたグラウペルとの婚約者の座なのに他の子息に目移りして王都からの逃避行。
仕立て屋などの関係者から聞いた話とある噂も、ジュディスとレイニーを置き換えての内容で反吐が出そうになる。が、仕立て屋が来店時の状況を誰かに話すとは思えない。そんなことをすれば高額な買い物をしてくれる貴族から総スカンを食らってしまう。
当初レイニーの悪評を流そうとしたフェリッツかジュディスの企みはあまり成果を見なかったのかも知れないが、グラウペルとの婚約が引き金になり、噂を流すのに適した人物が利用し乗っかった。と考えた方がしっくりくる。
では誰か?となれば、最初の噂が広がったのが低位貴族からなので、ネタ元があの2人と思い至らなければ出所は判らない。しかし、後半はその噂を知る低位貴族と接点のある者で、今朝の事がもう噂となって流れるとなればかなりの頻度で低位貴族と接点を持っているものとなる。
グラウペルと共に戻って来たレイニーだったが、祖父に挨拶もなしという事も出来ず「戻りました」と挨拶はしたのだが、「座りなさい」と言ったきり一言も喋らずに30分が経過した。
グラウペルは「自分の不用意な発言が原因」と詫びたのだが「君は黙っていてくれ」と一蹴されて黙るしかなかった。
静かな部屋に入って来たのはパウゼン侯爵の執事の1人。
何枚かの報告書を持って入って来た。
「目を通しなさい」と向かいに腰掛けるレイニーに告げるとレイニーは差し出された書類に目を通す。グラウペルも視界の端にその文字を捉えたが、内容はギョッとするものだった。
なのにレイニーは顔色一つ変えずに2枚目、3枚目と目を通していく。
一通り読み終わるとレイニーは侯爵に向けて書類を置いた。
「これが何か?」
「読んで何も思わなかったのか?」
「感想ですか?そうですね…くだらないと思いました」
「変わったな。お前は・・・」
前半の書類に書かれていたのは、レイニーこそ不貞があったのに力の弱いヘゼル伯爵家やゴルゾン伯爵家に責任を押し付けているというものだった。
ヘゼル伯爵家の子息フェリッツとの婚約が破棄となり、ヘゼル伯爵家はあっという間に傾いた。
慰謝料の支払いが出来ないのは相手がパウゼン侯爵家なので、商会も猫の手が借りたいほど忙しくてもヘゼル伯爵家の人間は雇わない。
ゴルゾン伯爵家も夜逃げをしたものの、逃げ切れるはずもなく3日で見つかり今は教会に身を寄せている。
問題なのはさほどに日が経っていないにも関わらず、レイニーに対し良くない噂がフェリッツとの婚約破棄からまだ18日目だというのに、驚異的な速さで広がり始めている事だった。
執事が持ってきたのは「第3弾」とも言える噂話の概要。
既に第1弾と第2弾の噂は流れてしまっているところに、今回のレイニーの家出。
噂ではなく事実とも捉えられてしまう行動だった。
おそらくはパパラッチがレイニーに張り付いていたのだろう。第3弾を名付けるなら「レイニーが愛人と逃避行」だが中身は嘘が殆ど。事実なのは幌馬車に乗って北を目指したという点のみ。
今朝の事がもう昼過ぎには噂となって流布しているのは恐怖でしかない。
異常な速さで噂が広がっているのはグラウペルとの婚約が絡んでいると思われた。
夫とするには超優良物件のグラウペルなので、狙っていた令嬢も多くトンビに油揚げを搔っ攫われるようにレイニーとの婚約となった事で恨みを買ったと思われる。
「侯爵、こんなのは嘘です。私が不用意な事を言ったばかりに彼女は「ならそうしよう」と考えただけです。こんな内容を信じる方がどうかしているッ」
「君はそうかも知れないが世間は違う。大多数の人間の声は例え事実とは真逆にあってもそれが本当だと思い込んでしまうものだ。人はね、どうしても他者と自分を比べる。どんな小さな事でも優位だという安心が欲しい生き物なんだ。だが、敵わないとなれば瑕疵を探す。瑕疵が無ければ作り出す。王子なら覚えがあるだろう?根も葉もない噂が独り歩きをしてしまう事が」
「お爺様、殿下に文句を言うのは間違いです。それから・・・この噂は出所が1つではありませんわね」
「それが誰なのかおおよその見当はついているという事か」
「えぇ。3人茶会でしか知り得ない事も書かれてますし、ヘゼル伯爵子息かゴルゾン伯爵令嬢。どちらかなのか両方なのか。そこまでは判りませんが。噂は低位貴族から流れ始めていますが、報告書の途中まで殿下との婚約については一切触れられておりません。が、後半は・・・もう妬み、やっかみでしかありません。殿下の取り巻き、いえ親衛隊では?」
「取り巻き?!親衛隊?!そんなものはいない!」
フェリッツを立てて、あまり茶会なども開かなかったので他家の令嬢に親しいほどの仲が良い者はおらず、言いようによっては「深窓の令嬢」とも言えるレイニー。
だからこそ、噂で作り上げられた人物像が前半と後半で大きく違う。
前半のレイニーは「類を見ない高慢ちき」という不名誉な二つ名を拝命しそうな内容で、ヘゼル伯爵家の子息に飽きたレイニーが美人局のように友人をけしかけ、目の前で性行為をさせたり、それに投げ銭をしたりとやりたい放題していると聞いた・・・というものが大半。
仕立て屋などでも侯爵令嬢なら屋敷に仕立て屋が出向くはずなのに店頭に来て買い漁る。その時に同行した友人にも「貴女じゃ買えないでしょう?施してあげる」と言っていたと聞いた・・・という人伝に聞いたというなんとも心無いもので、出所を隠そうとしているが隠しきれていない。
が、後半のレイニーとなるとグラウペルが断れない状況を作り出すためにあの手この手で王家に圧力をかけた「稀代の悪女」という話になり、最後に至ってはそこまでして手に入れたグラウペルとの婚約者の座なのに他の子息に目移りして王都からの逃避行。
仕立て屋などの関係者から聞いた話とある噂も、ジュディスとレイニーを置き換えての内容で反吐が出そうになる。が、仕立て屋が来店時の状況を誰かに話すとは思えない。そんなことをすれば高額な買い物をしてくれる貴族から総スカンを食らってしまう。
当初レイニーの悪評を流そうとしたフェリッツかジュディスの企みはあまり成果を見なかったのかも知れないが、グラウペルとの婚約が引き金になり、噂を流すのに適した人物が利用し乗っかった。と考えた方がしっくりくる。
では誰か?となれば、最初の噂が広がったのが低位貴族からなので、ネタ元があの2人と思い至らなければ出所は判らない。しかし、後半はその噂を知る低位貴族と接点のある者で、今朝の事がもう噂となって流れるとなればかなりの頻度で低位貴族と接点を持っているものとなる。
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