わたくしは、王子妃エリザベートです。

cyaru

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初夜。つながったもの

初夜。それは誰でも緊張するものである。

熊やイノシシ、シカにヤギ。時には毒蛇や蜂とも格闘してきたミカエル。
そんな彼でも緊張をする瞬間である。

ガチャっとドアを開けると、女神の如く光に包まれたと錯覚するほど美しい女性があられもない恰好で自分を待っていると思えば逸る心を押えろと言うのは酷である。

しかし!目の前にいる女神はミカエルにお告げを出した。

【説教】である。


「ミカエルさま、そこにお座りくださいませ」
「えっ?あの…ここ?」
「そう。ちょうどその場所が良さげですわ」
「でもここ…この部屋で唯一石張りなんだけど?」
「正座で!お座りくださいませね?」

女神の言葉には逆らえない。神を崇めよと育てられたからである。

「かの国より申し入れがあったとはいえ、バロビン国に来て大変不快に思いました」
「えっと…留守にしてから?」
「いいえ?そのままお帰り頂かずとも結構でございました」
「そんなっ…いや、でもそれは本当に申し訳なかった。この通り。ごめんなさい」

「きちんと謝る姿勢は認めましょう。で!わたくしの部屋です」
「えっと…隣だよね?この寝室の隣…」
「そうです。5つある窓のうち3つは城壁に面し開閉は不可。残り1つはハチの巣があり開閉不可。最後の一つも開ければ公衆浴場の男性風呂が一望できますので開閉不可。非常に不愉快で御座います」

「俺の部屋と交換してもいいよ?」
「是非そうさせて頂きます」
「そしたら‥‥明日にでも部屋を入れ替えよう。ねっ?」
「何を仰っているんです?あの部屋は物置とします」
「そしたら俺の部屋が…」

バシッ!扇を開く音が部屋に響き渡り、ミカエルは姿勢を正す。
パタパタと小さく扇をあおいだエリザベート。

「ミカエルさまに部屋が必要ですか?今までこの宮にも碌にお帰りになっていないと聞きましたが」
「それは、そうなんだがこれからはちゃんと帰る」
「いいえ。お帰りにならずとも結構」
「どうして?帰りたいし帰るよ」
「何故です?」

【エリザベートが好きだから】

ド直球を投げられてしまったエリザベート。これは想定外である。
残念な事にエリザベートもミカエル同様に恋愛というものをした事がない。
カ―セルにも当然そんな言葉は掛けられた事もないし、あるとすれば両親や親族である。

だが!冷静になるのも貴族令嬢の心得である。
よく考えてみろと直感が訴えかけてくる。好きだという要素は何処にあった?
まだ顔を合わせて数時間である。それに何より。

――絵姿に全く似ていない――

致命的である。パンジーやデイジーが本物認定をしなければ叩きだしている。

「ま、まぁよろしいでしょう。承りました」
「本当だ。正直に言えば今は顔と声だけだけど全部好きだ」

――それ以上、言わないでくださいまし!――

「でも、ウェディングドレス姿も美しかったしパレードのドレス姿も良かった」

――だから!それ以上は言わないで!――

「なんかこう…冷たくされるのもグっと来るものがある」

――まさかのM男カミングアウトなの?やめてっ!――

「でも、ハッキリ言える。君を愛する自信しかない」

――なんですって?ほぼ初対面なのに?早すぎない?――

「ミ、ミカエルさまのお気持ちは判りました」
「良かったぁ。嫌われたらどうしようかと自害も考えたよ」
「ヒュッ!」

――まさかと思うけれど…重すぎる男なの?――


さりげなく、立ち上がって目の前に跪くミカエルはそっとエリザベートの手を取る。
指先に軽くキスを落とし、ウルウルとした目で見上げる。

――イケメンのそれ!反則ですから!――

「ミ、ミカエルさま、先に申し上げておきます」
「なんだい?」
「愛人は何人持たれようと口を出すつもりはございま…ンギュ‥」
「冗談でもそんな事を言うな。二度と口にするな」

突然立ち上がりギュッと抱きしめるミカエル。心臓の音がドクドクと聞こえる。
微かに抱きしめる手が震えているのも感じる。

「愛人は持たない。仮に王になっても側妃、妾妃は持たない。約束しよう」
「わ、わたくしはミカエルさまの自由に‥(ぶちゅっ♡)」

キスをしたままで片手で軽々と持ち上げられ、下ろされた先は寝台。
ミカエルは唇を離すとエリザベートの手を自分の胸に当てる。
手のひらからも先程と同じように心臓の音が聞こえてくるようである。

「すまない。初めてなんだ。人を好きだと思ったのも!こんな気持ちになったのも!ついでに女性に対して下半身の自制が効きそうにない事も!」

――嬉しいようなきもするけど、最後だけは不安感を煽るわね――

「ミカエルさま、規制をかけてくださいませ」
「どうしても嫌か?」
「いえ、まぁ夫婦ですからそれはまぁ…」
「うーん‥‥わかった。今日は一緒に寝るだけにしないか?」
「大丈夫ですの?」
「まぁそこは何とかする。で、変わりになんだけど聞いてくれるか?」

寝台の上で、エリザベートを起こすと「顔を見られると恥ずかしいから」と言って後ろから座ったままでギュッと抱きしめられる。

「このまま…聞いて。大丈夫そう?」
「えぇ、まぁ」

「俺はね…国王になるつもりはないんだ。多分国王にはサージェス、あ、第2王子ね。サージェスが向いていると思うんだよ。サージェスは人の倍努力するからね」

「そうなんですね」

「それで、俺は全体を長く通して考えるってのが苦手なんだ。だから領地についても適当で・・・エリザベートには迷惑をかけてしまう事になる」

「まぁ、それは構いませんが」

「剣もあまり得意ではないんだけど害獣とか討伐したり隣国の兵とか追い払うと皆が喜んでくれるんだ。それが嬉しくて。あと王宮は何というか息苦しくて好きじゃないんだ」

「わかる気もしますわね」

「エリザベートには好きなようにしてくれて構わない。俺の名前を出す事でスムーズに事が運ぶならそうしてくれて構わない。俺の名はエリザベートだけに自由に使える権利を与えるよ」

「なるほど…それはありがたいですわ」

「だから…申し訳ないけどもし…」
「もし?なんですの?」
「エリザベートが王妃になりたいのなら…それは叶えてあげられない。すまない」

肩を包み込むように抱きしめるミカエルの手をポンポンと優しくたたくと少しだけ後ろを振り向く。ミカエルはさっと顔を逸らせるが耳が赤くなっている。

「ふふっ…ミカエルさま?」
「な、なんだろうか」
「もし、わたくしがやり過ぎて国王に押されたらどうなさいます?」
「んん~…どうしようか。王妃…なりたいか?」
「いいえ?わたくしは王妃になりたいとは思いませんがそうなったらどうするかと」

「エリサベートには悪いけど…断る…かな」
「判りました。では、きちんとお顔を見せてくださいませ」
「いや、今は…情けない顔をしているから」
「ならばこれから先、わたくしもミカエルさまの前で泣いたり怒ったり出来ませんが」
「それは困るな」

ふいと向けた顔は確かに、面目ないという少し曇った表情である。だがそれも言いにくい事をきちんと言ってくれたからだと思うとエリザベートは嬉しいような悲しいような気持ちになる。
同時に、「愛しいというのはこういう事かも知れない」と感じた。

「エリザベート‥‥リザって呼んでも良いかな」
「はい。構いません。では、わたくしは…エル様とお呼びしましょう」
「あはっ…なんかこそばゆいな」
「そうですわね」


初夜、体は繋げなくても手を握って眠る事でなんとなく距離が縮まった2人。
しかし!翌朝。

「あら?エル様。お出かけになりませんの?」
「行かない」
「えぇぇー!どっか行ってくださいましな」

やはり昨夜は規制をかけるのではなかったと後悔するミカエルであった。
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