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第05話 郊外の家
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白菜を厨房の片隅に置かせてもらうため一旦屋敷に戻ったトゥトゥーリア。
「昼食は不要です」と声をかけるのも忘れない。
事前に報告をしておく事は大事な事である。
白菜と言う主食にもなりうるアイテムを手に入れたトゥトゥーリアは再度、庭の探索という名目でデザートになりそうなものを探しに体を反転させた。
その時である。
「これだけでいいかな。土嚢袋はもうちょっとあった方がいいんじゃないか?」
「そうだなぁ。かなり放置してたからな」
「今で良かった。この時期じゃないと草刈りも大変だぜ」
なにやら荷馬車の周りに男性が数人集まって話をしている場に出くわした。
――もしかしたら市井に行くのかも?――
だとすればこの機を逃してはならない。
就職あっせん所で仕事を見つける絶好のチャンスではないか!
「あのぅ、どちらに行かれるのです?」
声をかけたトゥトゥーリアにお互いの顔を見て、「誰?」「知らない」首を横に振る男達。
身の回りの世話や侍女頭、従者には昨日、「正式な挨拶は後日となりますが」と断りを入れられて紹介をされたが、カロンや目の前の下男など通常あまりお目にかかる事のない縁の下の力持ちのような仕事に就いている者は「ヴァレンティノは結婚をした」「お妃様が来た」とは知らされているが、トゥトゥーリアを紹介されておらず、顔も知らないのだからそのような仕草になっても仕方がない。
そもそもでお妃様が屋敷の裏手に、町娘の他所行きのような格好で現れる事も彼らは想像だにしていないだろう。
クローゼットには目が潰れそうなくらいキラッキラのドレスがずらりと並んでいたが、1人で着用するのも難しい。どうしたものかと探してると片隅にひっそり置かれていた小さなトランク。
「あ、捨てずに置いておいてくれたんだ!」
見つけた事よりも捨てずにいてくれた事に感謝した。
トゥトゥーリアの母親の形見でもあり、バリバ侯爵家から持ってきた荷物なのだが、その中にあった一張羅を着ていただけである。
トゥトゥーリアは基本的にバリバ侯爵家では着るものは買ってもらえず、正妻の夫人若しくはエジェリナのおさがり。しかしコテコテのドレスで何処にも着て行けず、裾についていたスパンコールを手芸店に売って、服を買った‥‥それが一張羅のワンピースである。
トゥトゥーリアもそれがみすぼらしいのは理解をしているが、手持ちで一番豪華なのだから気にしない。いずれ出て行くのに夫、ヴァレンティノが購入許可をしたドレスなんか拝借した日にはクリーニングするだけで家が買えそう。
そんな身なりのトゥトゥーリアがまさかお妃様とは思うはずもなく、下男達はお妃様が来た事により雇われた新人メイドと勝手に勘違いをしたのだった。
「お前、新人だな」
――新人・・・間違いないわね。昨日からだもの――
決して嘘ではない。トゥトゥーリアは元気よく答えた。
「はい!昨日からお世話になっております」それも嘘ではない。
「屋敷の中、迷路みたいだろ。俺も来た時は庭で遭難するかと思ったぜ」
――庭で遭難・・・初日から地図なしに歩くのは危険と言うことね――
トゥトゥーリアは心の中で胸を撫でおろした。
小道から逸れて植え込みを縫うように歩いたのだ。
無事に厨房まで戻れたのはビギナーズラックに違いない。ヴァレンティノに別居用の家を与えられるまで庭を散策する時は保存食を携帯する事を心に誓った。
「皆さんはどこに行かれるのです?庭・・・ではなさそうですね」
「庭じゃ無ねぇな。郊外に遠乗りする時の休憩用の家があるんだが、殿下が結婚をしただろう?王太子様から今後利用する事もあるかも知れないから掃除をしておけとご指示があったのさ」
「郊外の家・・・」トゥトゥーリアは光を見たような気がした。
夜会や慰問の時には事前に予定も判る事だ。と、言うことは予定のない日も事前に判る。
――そこに住めば、市井で働けるんじゃないかしら?――
トゥトゥーリアは下男達に頼み込んだ。
「一緒に連れて行ってくださいませんか?」
「は?何言ってんだ。足手まといになるだけだ。ダメだ、ダメだ」
「そう言わず!草むしりも小さな鎌を貸して頂ければ出来ますし、虫も怖くはありません!蜂は苦手ですが・・・お役に立てるよう頑張ります!掃除も箒かモップがあれば出来ます。連れて行ってください!」
「どうする?」と話し合う下男達。トゥトゥーリアは敢えて誤解を招くようにとどめを刺す。
「どんな場所か知っておくのも大事なんです!」それも嘘ではない。
じぃぃっとトゥトゥーリアを見る下男達。
「それもそうだな。暫く使ってない家だし侍女やメイドも間取りなんかを知っておくのも必要だな。よし。判った。連れて行ってやるよ。ちゃんと働けよ?」
「はい!」
下男達と全天候型フルオープンの荷馬車の荷台に乗り込むと、トゥトゥーリアは郊外にあると言う家に揺られて向かった。
「わぁ…可愛い家ですねぇ」
「家にかわいいとかよく判らんが、宮よりは小さいから・・まぁ可愛いのか?」
下男達は女性の言う「可愛い~」の基準がよく判らない。
時折社交辞令も含まれていて、取り敢えずそう言っとけ!も含まれる高難度な使い分けを要求される「可愛い~」という言葉。
時々彼女から「ね?可愛い?」っと髪型や着ている服や、手にした品の感想を求められるが、「うん、可愛い」と返せば「ちゃんと見てよ」と叱られる理不尽さ。
女性はあらゆる所に地雷原があるため、「毛先だけ切った」「前髪を緩くウェーブ」に気が付いてほしいという無言の欲求も悟らねばならない。
誤った褒め方をすると、年末近くの生誕祭。未婚者ならおひとり様で過ごす事になるし、既婚者なら帰宅した後にテーブルにあるのは「骨だけの七面鳥」なのだ。
下男達の心配をよそにトゥトゥーリアはこぢんまりとした家の中を探検しつつ、掃除を始めた。
簡単なキッチンに御不浄と湯殿は別の平屋建て。
裏手の井戸は掃除は勿論だが滑車を交換せねば使えない。
部屋数は寝室が1つにリビングが1つ。使用人の仮眠室が1つの合計3つ。
遠出をする時に休憩するだけの家なのでこんな物だろうと箒を動かした。
「昼食は不要です」と声をかけるのも忘れない。
事前に報告をしておく事は大事な事である。
白菜と言う主食にもなりうるアイテムを手に入れたトゥトゥーリアは再度、庭の探索という名目でデザートになりそうなものを探しに体を反転させた。
その時である。
「これだけでいいかな。土嚢袋はもうちょっとあった方がいいんじゃないか?」
「そうだなぁ。かなり放置してたからな」
「今で良かった。この時期じゃないと草刈りも大変だぜ」
なにやら荷馬車の周りに男性が数人集まって話をしている場に出くわした。
――もしかしたら市井に行くのかも?――
だとすればこの機を逃してはならない。
就職あっせん所で仕事を見つける絶好のチャンスではないか!
「あのぅ、どちらに行かれるのです?」
声をかけたトゥトゥーリアにお互いの顔を見て、「誰?」「知らない」首を横に振る男達。
身の回りの世話や侍女頭、従者には昨日、「正式な挨拶は後日となりますが」と断りを入れられて紹介をされたが、カロンや目の前の下男など通常あまりお目にかかる事のない縁の下の力持ちのような仕事に就いている者は「ヴァレンティノは結婚をした」「お妃様が来た」とは知らされているが、トゥトゥーリアを紹介されておらず、顔も知らないのだからそのような仕草になっても仕方がない。
そもそもでお妃様が屋敷の裏手に、町娘の他所行きのような格好で現れる事も彼らは想像だにしていないだろう。
クローゼットには目が潰れそうなくらいキラッキラのドレスがずらりと並んでいたが、1人で着用するのも難しい。どうしたものかと探してると片隅にひっそり置かれていた小さなトランク。
「あ、捨てずに置いておいてくれたんだ!」
見つけた事よりも捨てずにいてくれた事に感謝した。
トゥトゥーリアの母親の形見でもあり、バリバ侯爵家から持ってきた荷物なのだが、その中にあった一張羅を着ていただけである。
トゥトゥーリアは基本的にバリバ侯爵家では着るものは買ってもらえず、正妻の夫人若しくはエジェリナのおさがり。しかしコテコテのドレスで何処にも着て行けず、裾についていたスパンコールを手芸店に売って、服を買った‥‥それが一張羅のワンピースである。
トゥトゥーリアもそれがみすぼらしいのは理解をしているが、手持ちで一番豪華なのだから気にしない。いずれ出て行くのに夫、ヴァレンティノが購入許可をしたドレスなんか拝借した日にはクリーニングするだけで家が買えそう。
そんな身なりのトゥトゥーリアがまさかお妃様とは思うはずもなく、下男達はお妃様が来た事により雇われた新人メイドと勝手に勘違いをしたのだった。
「お前、新人だな」
――新人・・・間違いないわね。昨日からだもの――
決して嘘ではない。トゥトゥーリアは元気よく答えた。
「はい!昨日からお世話になっております」それも嘘ではない。
「屋敷の中、迷路みたいだろ。俺も来た時は庭で遭難するかと思ったぜ」
――庭で遭難・・・初日から地図なしに歩くのは危険と言うことね――
トゥトゥーリアは心の中で胸を撫でおろした。
小道から逸れて植え込みを縫うように歩いたのだ。
無事に厨房まで戻れたのはビギナーズラックに違いない。ヴァレンティノに別居用の家を与えられるまで庭を散策する時は保存食を携帯する事を心に誓った。
「皆さんはどこに行かれるのです?庭・・・ではなさそうですね」
「庭じゃ無ねぇな。郊外に遠乗りする時の休憩用の家があるんだが、殿下が結婚をしただろう?王太子様から今後利用する事もあるかも知れないから掃除をしておけとご指示があったのさ」
「郊外の家・・・」トゥトゥーリアは光を見たような気がした。
夜会や慰問の時には事前に予定も判る事だ。と、言うことは予定のない日も事前に判る。
――そこに住めば、市井で働けるんじゃないかしら?――
トゥトゥーリアは下男達に頼み込んだ。
「一緒に連れて行ってくださいませんか?」
「は?何言ってんだ。足手まといになるだけだ。ダメだ、ダメだ」
「そう言わず!草むしりも小さな鎌を貸して頂ければ出来ますし、虫も怖くはありません!蜂は苦手ですが・・・お役に立てるよう頑張ります!掃除も箒かモップがあれば出来ます。連れて行ってください!」
「どうする?」と話し合う下男達。トゥトゥーリアは敢えて誤解を招くようにとどめを刺す。
「どんな場所か知っておくのも大事なんです!」それも嘘ではない。
じぃぃっとトゥトゥーリアを見る下男達。
「それもそうだな。暫く使ってない家だし侍女やメイドも間取りなんかを知っておくのも必要だな。よし。判った。連れて行ってやるよ。ちゃんと働けよ?」
「はい!」
下男達と全天候型フルオープンの荷馬車の荷台に乗り込むと、トゥトゥーリアは郊外にあると言う家に揺られて向かった。
「わぁ…可愛い家ですねぇ」
「家にかわいいとかよく判らんが、宮よりは小さいから・・まぁ可愛いのか?」
下男達は女性の言う「可愛い~」の基準がよく判らない。
時折社交辞令も含まれていて、取り敢えずそう言っとけ!も含まれる高難度な使い分けを要求される「可愛い~」という言葉。
時々彼女から「ね?可愛い?」っと髪型や着ている服や、手にした品の感想を求められるが、「うん、可愛い」と返せば「ちゃんと見てよ」と叱られる理不尽さ。
女性はあらゆる所に地雷原があるため、「毛先だけ切った」「前髪を緩くウェーブ」に気が付いてほしいという無言の欲求も悟らねばならない。
誤った褒め方をすると、年末近くの生誕祭。未婚者ならおひとり様で過ごす事になるし、既婚者なら帰宅した後にテーブルにあるのは「骨だけの七面鳥」なのだ。
下男達の心配をよそにトゥトゥーリアはこぢんまりとした家の中を探検しつつ、掃除を始めた。
簡単なキッチンに御不浄と湯殿は別の平屋建て。
裏手の井戸は掃除は勿論だが滑車を交換せねば使えない。
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