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第11話 お一人様、バンザイ!
フンフンと鼻息荒く宮を出たトゥトゥーリア。
荷物はトランク1つに白菜が3個。
トランクよりも白菜の方が重くて持ちにくいが調理人が平身低頭で大きめの麻バッグを貸してくれたので、右手にトランク、左肩に麻バッグ。そこそこ歩いて左右の手が攻守交替しながら郊外の宮を目指した。
すたすたと歩くのだが、郊外の家に行ったのはその日の1度だけ。
道が分かれると左右?真っ直ぐ?と立ち止まって荷馬車で観た景色を思い出す。
その様子を離れた場所から見ていた従者は、通りかかった子供を呼び止め手に硬貨を握らせる。
『あの角を曲がりながら、殿下のお家はコッチ!と言ってくれ』
『それだけでいいの?誰かを案内するんじゃないの?』
『いや、喋りながら走ってくれるだけでいい』
子供は正直な生き物。
手に握らされた硬貨が100ミィなら断ろうと思ったがなんと500ミィ!しかも記念硬貨で、所謂ピカピカコインとなるとやる気満々!
欲望にも忠実な子供の目はキラキラと光る。
『うん、わかった!』
そんなやり取りが後方であったとは知らないトゥトゥーリア。
子供がわきを駆け抜けていく。
「殿下のお家はこっちだったな!」
――なるほど!左なのね。助かったわ――
危うく真っ直ぐ進んでしまう所だったが不思議な事に分かれ道で迷うと誰かが正しい方向を喋りながら走り抜けてくという光景に何度も出くわす。
――まさか、後をつけられてるッ?!――
サッと振り向くが眩しいほどの美丈夫は見当たらないし、護衛です!という兵士も見当たらない。
時々、「キャベッジ・パッチ・キッズがぁ…転んだッ?」と不定期に振り返るが怪しい人物はいない。
左右の手にある荷物を交互に持ち替えながら休むことなく進むトゥトゥーリア。
しかしヴァレンティノの執事は優秀だった。
護衛として後をつけさせる従者とは別に、先回りして郊外の家に荷物を運びこむように伝えた。
だからこそ、夜も22時ころになってへとへとのトゥトゥーリアが到着した時・・・
「しまった!鍵がないわ!入れない。どうしよう」
ここまで来て宮に戻る選択肢は考えられない。
そんなトゥトゥーリアの目に玄関扉のドアノブに紙が折られて巻き付いているのが目に入った。
「こんなの掃除した時、あったかしら」
ドアノブから取り外し、折られた紙を広げてみる。
「ポストの底を覗け?・・・何かしら」
玄関わきにある自立式のポストの底を覗くと、くっつき草で貼り付けられた鍵があった。
「助かった~。この時期、寝袋なしの野宿なんて臨死体験よ」
そうして玄関を開けると、月明かりにもよく見える。
テーブルの上にランプ。補充のオイル、そして火打石。
袋も幾つか置かれていて、ランプに火を入れて見てみると・・・
「小麦だわ。それから・・・こっちは野菜!干し肉もある!この袋はパンだわ!」
そして気が付くのだった。部屋の中が無人の筈なのに暖かい事に。
――誰かいるの?!でも灯りはついてなかったのに?!――
ランプを手に狭い家の中を調べるが人はいない。天井板の向こうにはネズミがいるのか「チュッチュー」小さな声と駆け抜ける音が聞こえるだけだ
最後に確認をした水回りでトゥトゥーリアは今日一番の驚きで声が出た。
「わぁ…竈に火が・・・」
轟々と燃えてはおらず、くべられた木が息を吹きかけると赤くなる。
竈のてっぺんに空いた穴を塞いでいるのはコポッコポッと小さな泡を出すスープの入った鍋。
振り返って湯殿に行ってみれば、バスタブに湯まで張られている。
「誰か泊りに来る予定だったのかしら…勝手に来ちゃったけどどうしよう」
しかし、それが自分用だと言うことが厨房の隅に置かれていた品で判った。
「わぁ…白菜だ。あはっ。カロンよりって書いてる」
紙を押さえるように置かれた白菜の下に、見知った名前がある事に安心をしたトゥトゥーリアはやっと緊張の糸が解け、長く息を吐きだした。
「よし!先ずは腹ごしらえね。それから・・・バスタブで湯あみなんて何時ぶり?」
と言いながらも「昨日ぶり~」と1人で突っ込んで笑う。
温かい具が沢山入ったスープと袋にあるパンで遅い夕食を済ませると、ムフムフと笑いながらバスタブの湯を桶でひと掬いする。
バッシャー!!「ヒャアウ!気持ちいいっ!!」
侯爵家にいた頃は侯爵夫人やエジェリナが使用する品の補充でしか触れた事は無く、昨日の結婚式の前に初めて「泡立つもの」だと知った石鹸まである事に嬉しくなって1時間も湯殿で過ごしてしまった。
「おひとり様、バンザーイだわっ!うふっ」
ホカホカになった体。残り湯に勢いのまま着て来たワンピースを放り込んでしまったので着る物がない?!と慌て、1つしかない部屋にタオルだけを巻きつけてトランクを手に駆け込むと寝台の上に寝間着とあのナイトガウンがあるのが目に入った。
「誰が‥‥まさか殿下?!あんな物言いだったのに?」
考えている間に湯冷めをしてしまうと寝間着を着て、ナイトガウンを羽織る。
寒かったら竈の前に行って指先を温めようと考えていたが、それも必要なさそうだと寝台に潜り込む。
「ん…なにこれ・・・」
綺麗に整えられていた寝台は外からでは解らなかったが、足元に何かあるのに気が付き、足の指で形を確認していくがさっぱりわからない。
もぞもぞと掛布に潜り込んで目当ての物に行き当たると見覚えがあった。
「湯たんぽだぁ!!お湯も入れてくれてる~」
至れり尽くせりのおもてなし。トゥトゥーリアはヴァレンティノに少しだけ感謝をした。
その様子を壁の外側で伺っていた従者は、ランプの灯りが消えると植え込みの陰に行き寝袋にくるまった。
窓を見てポツリ
「それ、殿下じゃなく執事さんです。おやすみなさい」
トゥトゥーリアも従者も瞼を閉じたのだった。
荷物はトランク1つに白菜が3個。
トランクよりも白菜の方が重くて持ちにくいが調理人が平身低頭で大きめの麻バッグを貸してくれたので、右手にトランク、左肩に麻バッグ。そこそこ歩いて左右の手が攻守交替しながら郊外の宮を目指した。
すたすたと歩くのだが、郊外の家に行ったのはその日の1度だけ。
道が分かれると左右?真っ直ぐ?と立ち止まって荷馬車で観た景色を思い出す。
その様子を離れた場所から見ていた従者は、通りかかった子供を呼び止め手に硬貨を握らせる。
『あの角を曲がりながら、殿下のお家はコッチ!と言ってくれ』
『それだけでいいの?誰かを案内するんじゃないの?』
『いや、喋りながら走ってくれるだけでいい』
子供は正直な生き物。
手に握らされた硬貨が100ミィなら断ろうと思ったがなんと500ミィ!しかも記念硬貨で、所謂ピカピカコインとなるとやる気満々!
欲望にも忠実な子供の目はキラキラと光る。
『うん、わかった!』
そんなやり取りが後方であったとは知らないトゥトゥーリア。
子供がわきを駆け抜けていく。
「殿下のお家はこっちだったな!」
――なるほど!左なのね。助かったわ――
危うく真っ直ぐ進んでしまう所だったが不思議な事に分かれ道で迷うと誰かが正しい方向を喋りながら走り抜けてくという光景に何度も出くわす。
――まさか、後をつけられてるッ?!――
サッと振り向くが眩しいほどの美丈夫は見当たらないし、護衛です!という兵士も見当たらない。
時々、「キャベッジ・パッチ・キッズがぁ…転んだッ?」と不定期に振り返るが怪しい人物はいない。
左右の手にある荷物を交互に持ち替えながら休むことなく進むトゥトゥーリア。
しかしヴァレンティノの執事は優秀だった。
護衛として後をつけさせる従者とは別に、先回りして郊外の家に荷物を運びこむように伝えた。
だからこそ、夜も22時ころになってへとへとのトゥトゥーリアが到着した時・・・
「しまった!鍵がないわ!入れない。どうしよう」
ここまで来て宮に戻る選択肢は考えられない。
そんなトゥトゥーリアの目に玄関扉のドアノブに紙が折られて巻き付いているのが目に入った。
「こんなの掃除した時、あったかしら」
ドアノブから取り外し、折られた紙を広げてみる。
「ポストの底を覗け?・・・何かしら」
玄関わきにある自立式のポストの底を覗くと、くっつき草で貼り付けられた鍵があった。
「助かった~。この時期、寝袋なしの野宿なんて臨死体験よ」
そうして玄関を開けると、月明かりにもよく見える。
テーブルの上にランプ。補充のオイル、そして火打石。
袋も幾つか置かれていて、ランプに火を入れて見てみると・・・
「小麦だわ。それから・・・こっちは野菜!干し肉もある!この袋はパンだわ!」
そして気が付くのだった。部屋の中が無人の筈なのに暖かい事に。
――誰かいるの?!でも灯りはついてなかったのに?!――
ランプを手に狭い家の中を調べるが人はいない。天井板の向こうにはネズミがいるのか「チュッチュー」小さな声と駆け抜ける音が聞こえるだけだ
最後に確認をした水回りでトゥトゥーリアは今日一番の驚きで声が出た。
「わぁ…竈に火が・・・」
轟々と燃えてはおらず、くべられた木が息を吹きかけると赤くなる。
竈のてっぺんに空いた穴を塞いでいるのはコポッコポッと小さな泡を出すスープの入った鍋。
振り返って湯殿に行ってみれば、バスタブに湯まで張られている。
「誰か泊りに来る予定だったのかしら…勝手に来ちゃったけどどうしよう」
しかし、それが自分用だと言うことが厨房の隅に置かれていた品で判った。
「わぁ…白菜だ。あはっ。カロンよりって書いてる」
紙を押さえるように置かれた白菜の下に、見知った名前がある事に安心をしたトゥトゥーリアはやっと緊張の糸が解け、長く息を吐きだした。
「よし!先ずは腹ごしらえね。それから・・・バスタブで湯あみなんて何時ぶり?」
と言いながらも「昨日ぶり~」と1人で突っ込んで笑う。
温かい具が沢山入ったスープと袋にあるパンで遅い夕食を済ませると、ムフムフと笑いながらバスタブの湯を桶でひと掬いする。
バッシャー!!「ヒャアウ!気持ちいいっ!!」
侯爵家にいた頃は侯爵夫人やエジェリナが使用する品の補充でしか触れた事は無く、昨日の結婚式の前に初めて「泡立つもの」だと知った石鹸まである事に嬉しくなって1時間も湯殿で過ごしてしまった。
「おひとり様、バンザーイだわっ!うふっ」
ホカホカになった体。残り湯に勢いのまま着て来たワンピースを放り込んでしまったので着る物がない?!と慌て、1つしかない部屋にタオルだけを巻きつけてトランクを手に駆け込むと寝台の上に寝間着とあのナイトガウンがあるのが目に入った。
「誰が‥‥まさか殿下?!あんな物言いだったのに?」
考えている間に湯冷めをしてしまうと寝間着を着て、ナイトガウンを羽織る。
寒かったら竈の前に行って指先を温めようと考えていたが、それも必要なさそうだと寝台に潜り込む。
「ん…なにこれ・・・」
綺麗に整えられていた寝台は外からでは解らなかったが、足元に何かあるのに気が付き、足の指で形を確認していくがさっぱりわからない。
もぞもぞと掛布に潜り込んで目当ての物に行き当たると見覚えがあった。
「湯たんぽだぁ!!お湯も入れてくれてる~」
至れり尽くせりのおもてなし。トゥトゥーリアはヴァレンティノに少しだけ感謝をした。
その様子を壁の外側で伺っていた従者は、ランプの灯りが消えると植え込みの陰に行き寝袋にくるまった。
窓を見てポツリ
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トゥトゥーリアも従者も瞼を閉じたのだった。
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