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第12話 いけ好かない執事
翌日の昼に目が覚めたヴァレンティノは慌てた。
二日酔いもあったが、現実逃避が加わり一度は起きたものの寝台に転がったのだが二度寝ではない。
――不味い事になった――
結婚式の翌日に妃に逃げられるとなると相当な失敗である事は間違いない。
庭で白菜を運んでいたとか、色々と言い訳を考えて見るが妙案が浮かぶはずもない。
何が不味いのかと言うと、明日の昼食は国王、王妃と共に取る事になっている。勝手知ったる宮だがここに国王と王妃がやって来るのに肝心の妃がいない。
――でも、何処に行ったんだ?――
初夜の話の様子ではバリバ侯爵家に出戻るのは考えられない。
ならあば知人の元に身を寄せたかと思うが、トゥトゥーリアとの結婚は急な事で、バリバ侯爵家からの身上書に似せたものしか届いていなかった。
本来なら婚約期間を置くのだが、各国に結婚式の招待状は既に送っていて、各国の王族や皇族、大使などが予定を組んで参列となっていたので変更する事が出来ず、ヴァレンティノは結婚式で誓いのキスのヴェールをあげるまでトゥトゥーリアの顔を知らなかった。
身上書に寄れば、社交的ではなく臆病な性格で華やかな場には行きたがらないとあり、側付の護衛などにも聞いては見たが、茶会や夜会という社交の場だけでなく、観劇をするご令嬢の中にトゥトゥーリアはいなかったのではないかと言われた。
「あの…殿下?」
呼ばれて寝台わきにメイドが洗面用の桶を抱えて立っていた事に気が付いたヴァレンティノ。
「どうしたんだ?」
「もう少しお休みになれますか?」
――あぁ、そうか。洗面をしなければならないからか――
王族も貴族も面倒な生き物。
使用人に顔を洗ってもらうまでは寝台から出てはいけないと教えられている。
温かい湯に浸し絞ったタオルで顔を拭いてもらい、何時ものように目元を温めてもらっていると、そんな事もお構いなしに自分で全てを済ませてしまったトゥトゥーリアを思い出し小さく笑いが零れた。
「何か御座いましたか?」
心配そうなメイドの声。色々な意味での間違いがあってはならないと使用人は働いている。メイドも不手際があったのではと声が怯えているのである。
「何もない。着替えをする」
その声に今度はヴァレンティノに衣類を着せるためだけの為に雇われている使用人が来る。彼らはその仕事にプライドもあるだろうし文句を言うような事もない。
ただ、そこでヴァレンティノはあの体の全てが透けたような服から自分でワンピースを着たであろうトゥトゥーリアを思い出すとまた小さく笑いが零れた。
執務室に行くと、いつもより遅くなった事に文句を言うものは誰一人いない。ヴァレンティノはいつものように執務机に向かい、椅子を引いて腰を下ろした。
「今日の執務はこれだけか?」執事に問う。
「はい。1カ月はゆっくりするようにと陛下が申されておりました」と執事。
通り一遍はマニュアルに書かれているが残念な事に夜、体力を使う行為はない。そのような場合でも1カ月は夫婦としての時間を作り、これからの事を話し合ったりすると書かれていた。
――話し合おうにも出て行った時は対策が書かれてないんだよな――
チラリと執事の顔を見たヴァレンティノは書類を読むふりをして問いかけた。
「妃の行きそうな場所を知らないか?」
「行きそうな場所は存じませんが、現在の所在は判っております」
「はっ?何故教えなかった!」
「聞かれませんでしたので」
シレっと答えるいけ好かない執事。
だが、答えると言うことは執事の判断で安全は確保をしたと言うこと。ヴァレンティノは安堵した。
「聞かれな――いや、いい。何処にいるのだ」
「郊外の家で御座います」
「本気だったのか?!だが鍵も持ってないだろう」
「鍵はご用意しておきました。今朝は6時には起床になり朝食を召されたと」
下男達と郊外の家に荷馬車で出向いた事も知ってはいたが、本当に郊外の家に行ったとなればトゥトゥーリアにはもしや「帰る場所」がないのでは?とも思い至った。
そして思いだす持参金の話。
「バリバ侯爵家からの持参金はどうなっている?」
「現在名義を殿下から妃殿下へ変更中です。前例が御座いませんので手間取っているようですが、あと4、5日で完了するかと」
「手続きを止めろ。持参金は私の名義のままにしておいてくれ」
「宜しいのですか?そうなれば妃殿下の経費は宮から出す事になりますが」
言葉は丁寧だが、顔はニコニコとしている。執事も当初は持参金を全てトゥトゥーリアの名義にし生活全般はそこから出すようにさせると言うヴァレンティノの案には反対をしていた。
「構わない。必要なものは全て宮の経費から購入する。それから近日中、バリバ侯爵家から持参金を回収に従者が来ると思うから私に通してくれ」
「持参金を回収に?それもまた前代未聞なお話で。畏まりました。では手続き差し止めの書面をお願いいたします」
「判っている。直ぐに纏める」
書類を作成するヴァレンティノを執事は黙ってみている。
それがどうにも責められているようで居た堪れず、顔を上げた。
「なんだ?さっきから。言いたい事があるのか?」
「いえ。ただ、夫婦喧嘩は犬も食わぬと申しますが、話し合いは早めにされた方がよろしいかと」
しばしヴァレンティノは手を止めてただ執事を見ていたが「書類を作ったら出掛ける。準備を頼む」と言い、書面に視線を戻した。
二日酔いもあったが、現実逃避が加わり一度は起きたものの寝台に転がったのだが二度寝ではない。
――不味い事になった――
結婚式の翌日に妃に逃げられるとなると相当な失敗である事は間違いない。
庭で白菜を運んでいたとか、色々と言い訳を考えて見るが妙案が浮かぶはずもない。
何が不味いのかと言うと、明日の昼食は国王、王妃と共に取る事になっている。勝手知ったる宮だがここに国王と王妃がやって来るのに肝心の妃がいない。
――でも、何処に行ったんだ?――
初夜の話の様子ではバリバ侯爵家に出戻るのは考えられない。
ならあば知人の元に身を寄せたかと思うが、トゥトゥーリアとの結婚は急な事で、バリバ侯爵家からの身上書に似せたものしか届いていなかった。
本来なら婚約期間を置くのだが、各国に結婚式の招待状は既に送っていて、各国の王族や皇族、大使などが予定を組んで参列となっていたので変更する事が出来ず、ヴァレンティノは結婚式で誓いのキスのヴェールをあげるまでトゥトゥーリアの顔を知らなかった。
身上書に寄れば、社交的ではなく臆病な性格で華やかな場には行きたがらないとあり、側付の護衛などにも聞いては見たが、茶会や夜会という社交の場だけでなく、観劇をするご令嬢の中にトゥトゥーリアはいなかったのではないかと言われた。
「あの…殿下?」
呼ばれて寝台わきにメイドが洗面用の桶を抱えて立っていた事に気が付いたヴァレンティノ。
「どうしたんだ?」
「もう少しお休みになれますか?」
――あぁ、そうか。洗面をしなければならないからか――
王族も貴族も面倒な生き物。
使用人に顔を洗ってもらうまでは寝台から出てはいけないと教えられている。
温かい湯に浸し絞ったタオルで顔を拭いてもらい、何時ものように目元を温めてもらっていると、そんな事もお構いなしに自分で全てを済ませてしまったトゥトゥーリアを思い出し小さく笑いが零れた。
「何か御座いましたか?」
心配そうなメイドの声。色々な意味での間違いがあってはならないと使用人は働いている。メイドも不手際があったのではと声が怯えているのである。
「何もない。着替えをする」
その声に今度はヴァレンティノに衣類を着せるためだけの為に雇われている使用人が来る。彼らはその仕事にプライドもあるだろうし文句を言うような事もない。
ただ、そこでヴァレンティノはあの体の全てが透けたような服から自分でワンピースを着たであろうトゥトゥーリアを思い出すとまた小さく笑いが零れた。
執務室に行くと、いつもより遅くなった事に文句を言うものは誰一人いない。ヴァレンティノはいつものように執務机に向かい、椅子を引いて腰を下ろした。
「今日の執務はこれだけか?」執事に問う。
「はい。1カ月はゆっくりするようにと陛下が申されておりました」と執事。
通り一遍はマニュアルに書かれているが残念な事に夜、体力を使う行為はない。そのような場合でも1カ月は夫婦としての時間を作り、これからの事を話し合ったりすると書かれていた。
――話し合おうにも出て行った時は対策が書かれてないんだよな――
チラリと執事の顔を見たヴァレンティノは書類を読むふりをして問いかけた。
「妃の行きそうな場所を知らないか?」
「行きそうな場所は存じませんが、現在の所在は判っております」
「はっ?何故教えなかった!」
「聞かれませんでしたので」
シレっと答えるいけ好かない執事。
だが、答えると言うことは執事の判断で安全は確保をしたと言うこと。ヴァレンティノは安堵した。
「聞かれな――いや、いい。何処にいるのだ」
「郊外の家で御座います」
「本気だったのか?!だが鍵も持ってないだろう」
「鍵はご用意しておきました。今朝は6時には起床になり朝食を召されたと」
下男達と郊外の家に荷馬車で出向いた事も知ってはいたが、本当に郊外の家に行ったとなればトゥトゥーリアにはもしや「帰る場所」がないのでは?とも思い至った。
そして思いだす持参金の話。
「バリバ侯爵家からの持参金はどうなっている?」
「現在名義を殿下から妃殿下へ変更中です。前例が御座いませんので手間取っているようですが、あと4、5日で完了するかと」
「手続きを止めろ。持参金は私の名義のままにしておいてくれ」
「宜しいのですか?そうなれば妃殿下の経費は宮から出す事になりますが」
言葉は丁寧だが、顔はニコニコとしている。執事も当初は持参金を全てトゥトゥーリアの名義にし生活全般はそこから出すようにさせると言うヴァレンティノの案には反対をしていた。
「構わない。必要なものは全て宮の経費から購入する。それから近日中、バリバ侯爵家から持参金を回収に従者が来ると思うから私に通してくれ」
「持参金を回収に?それもまた前代未聞なお話で。畏まりました。では手続き差し止めの書面をお願いいたします」
「判っている。直ぐに纏める」
書類を作成するヴァレンティノを執事は黙ってみている。
それがどうにも責められているようで居た堪れず、顔を上げた。
「なんだ?さっきから。言いたい事があるのか?」
「いえ。ただ、夫婦喧嘩は犬も食わぬと申しますが、話し合いは早めにされた方がよろしいかと」
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