王子殿下には興味がない

cyaru

文字の大きさ
14 / 43

第13話   デッキブラシは最強アイテム

夜明けが午前8時とは言え、身についた習慣でトゥトゥーリアはまだ窓の外も暗い午前5時には目が覚めた。眠るのが深夜になろうと3時を過ぎていようと目が覚める。
侯爵家ではそうしないと食事が貰えなかった。

侯爵一家の目を盗んで使用人達からパンなどをもらったりしていたので生きるために身についた習慣でもある。


「ふぁぁ。良く寝た~。やっぱり柔らかい寝具は違うわね。昨日もだったけど体が何処も痛くないわ」

夏は良いのだが寒い季節になると敷布のない寝台はずっと寒いまま。掛布も年中シーツが1枚なのでとても薄く、住み込みに使用人は給金が出ると、真っ先に寝具を揃え始めるがトゥトゥーリアには給金がなかった。

エジェリナのお古のドレスが活用できないかと試した事もあったが、異様にボタンやガラス玉が付けられていて外すと布が破れてしまう。

何よりエジェリナに貰ったドレスを寝具にしている事が見つかると厳しく折檻をされたので使い勝手も悪い事だしトゥトゥーリアは丸まって眠るようにしていた。
雪の降る本当に凍りそうな夜は厨房の竈の前で座って朝を迎えた事もある。

「手も足も伸ばして寝られるなんて最高!!」

ランプに火を入れる前にトゥトゥーリアは部屋のカーテンを開けた。

「ん?あれはなんだろう?」

庭の植え込みに大きな岩があるように見えた。

「掃除をしてた時にはあんなの無かったと思うんだけど」

外はまだ真っ暗。それでも暗がりに目が慣れているので黒い塊が見えたのである。じぃぃっと見ていると‥

「動いた?!」

そっと窓から離れ、部屋から出るとトゥトゥーリアは昨日、下男達と共に片付けたデッキブラシを手に取り、そっと庭に出た。

ゆっくり、ゆっくりと近寄るとやはり黒い物体はモゾモゾと動いていた。それが「人」だと判るまで時間はかからない。ここは王家が所有する建物であり敷地なので、トゥトゥーリアは思い切りデッキブラシを振り被った。


「テェェェイッ!!」 ドゴッ!! 「ウギャっ!!」

初打撃は見事に命中。どうやら寝袋ですっぽりと頭まで被っているらしいので相手が反撃をしてくる前にとトゥトゥーリアはもう一度振り被った。

「てやぁぁぁっ!!」 ガツッ!!

コロンと転がった寝袋にデッキブラシは地面を叩いた。

「待って!待ってくださぁい!!」

寝袋からくぐもった声が聞こえてきたが、「待つわけないでしょう!」とまた振り被った。

「執事のエルドさんから頼まれたんです!!妃殿下を護衛しろとぉぉぉ!!」
「え?護衛?」
「凄く怪しく見えると思いますが、怪しい者じゃないんですぅぅ」
「怪しいわよ!!本当の事を言わないと、この御不浄掃除専用デッキブラシでお仕置きよ!」

――マジか?!良かったぁ…寝袋から出る前で――

護衛の目にはデッキブラシの先端が今まで見て来た中で最強いや最恐の武器にしか見えなかった。これほどまでに打撃を受けることもだが、受け身ですら躊躇う武器を見たことがない。


デッキブラシでツンツンと寝袋にくるまった男性を突っつきながらトゥトゥーリアは聞く。

「エルドさんって殿下と一緒にいる人?」
「そうです!左目にモノクルしてる40代の男性です!!」
「もしかして鍵とか食料とかも手配してくれてたとか?」
「私は護衛なので宮からついて来ただけです!ですが色々なものがあったとすればエルドさんだと思います!」

――え?ずっと監視されてたってこと?湯殿も?――

石鹸を泡立てるのが面白くてついつい長湯をしてしまったが、それも織り込み済みだとなると恥ずかしさが込み上げてくる。

しかし、こんな場所で寝るとなれば風邪をひいてしまうかも知れないが、それよりも庭に護衛がいると思うとおちおち窓も開ける事が出来ない。

「判りました・・・そうねぇ‥じゃ、手伝ってくださる?」
「手伝う?何をお手伝いすれば宜しいでしょう」
「朝食の準備よ。私は井戸で顔を洗ってくるから竈に火を起こしてくれる?夕べの火種が残ってると思うから直ぐに点くと思うけど」
「そんな事で宜しいんですか?うわっ」


トゥトゥーリアは強めにデッキブラシで護衛を押した。

「朝食は大事なのよ?昼と夜よりも朝食が一番大事なんだから!」
「そ、そうですよね」
「はい、寝袋から出る!今夜からは使用人さん用の控室で寝てくれる?」
「そんな!!叱られてしまいます!」
「何処の世界に寝台で寝て叱る人がいるの?そもそもで!こんな所で寝てるから!見てごらんなさい!折角の新品だったのに…これじゃ折角のデッキブラシが・・・ぐすん。デッキブラシは武器じゃないのよ?」

――デッキブラシは新品未使用?!――

護衛は思わず手を合わせ神に感謝を捧げた。このままでは寝袋も買い直し必須かと諦めていた心と財布の中身に光が差し込んだような気さえする。

「早く寝袋から出なさい!」とデッキブラシでツンツンしてくるトゥトゥーリアに、2歳になる娘も大きくなればこうなるのかなぁと我が子を重ねた。
感想 124

あなたにおすすめの小説

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

それは私の仕事ではありません

mios
恋愛
手伝ってほしい?嫌ですけど。自分の仕事ぐらい自分でしてください。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

侯爵家に不要な者を追い出した後のこと

mios
恋愛
「さあ、侯爵家に関係のない方は出て行ってくださる?」 父の死後、すぐに私は後妻とその娘を追い出した。