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第14話 言葉だけを信じて
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フェリクスはカイゼルを睨んだ。
「何の用だ」
「殿下。妃殿下を離れの屋敷にお戻しください。私の仕事を奪っているんですよ?」
カイゼルの言葉にはオフィーリアも鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
――私の仕事だと?それにあの地下室とは口調がまるきり違うぞ?――
オフィーリアの考えを打ち消すようにヨルムンドがカイゼルに加勢した。
「そ、そうですよ。妃殿下には離れで学んで頂くのが一番ですよ。住み慣れていますし執務室で緊張しながら学ぶよりずっと捗りますよ。彼も役目を果たせま――」
「殿下、お待たせいたしました。経理担当が参りました」
従者の声にフェリクスは机の天板に広げた書類の上に手にしていたペンを軽く放り投げるとこっちにこいと経理担当を手招き。カイゼルは邪魔が入った事にムスっと顔を顰め、ヨルムンドは口が開いたままになった。
「で、殿下…あの‥‥」
「ヨルムンド。発言は許していない」
「も、申し訳ございません」
ヨルムンドを一喝したフェリクスは経理担当にドストレートに尋ねた。
「この報告書にある宝飾品だが、確認は取ったのか?」
「か、確認で御座いますか?えぇーっと…」
経理担当はヨルムンドに視線を向けた。
目が合ったヨルムンドは経理担当から顔ごと視線を逸らせた。
「2度も問わねばならないのか?先ほどの言葉が理解できなかったと?」
「い、いえ。そうではありません。妃殿下の買い求めた宝飾品や調度品、絵画に幼児用玩具ですが都度ヨルムンド様に確認を頂いております」
「そうか。なら丁度だ。誰か!購入した物全てを宮に運び入れろ」
「す、全てですか?あの3か月前に購入した絵画は壁一面の大き――」
「関係ない。離れより宮の方が広い。こちらに飾ればいいだろう」
ヨルムンドはもう終わったと諦めかけたが、返答に窮した経理担当に泥船という名の助け船を出したのはカイゼルだった。
「お待ちください!離れにはそのような品々は御座いません!」
カイゼルの言葉は事実。
品物はヨルムンドが勝手に買い漁ったもので離れにはない。
あるとすればヨルムンドの妻と子供がいる家か愛人の家。
経理担当は品物も無事搬入をされたとヨルムンドの言葉を鵜呑みにして実物は確認をしていなかった。あくまでも請求書に書かれている品を文字のままに記憶しているだけだったのだ。
「ヨルムンド殿、どうなっているんですか?離れにはないんですか?!」
経理担当も焦った。
フェリクスが親の国王よりも信頼をしているヨルムンドの言葉だから信じたのに違ったのか。
馬鹿ではないので言葉だけを信じ、実際に確認を取ってない行為がお咎めなしで済むとは思えない。
「あーっと…えぇっと…」
しどろもどろになるヨルムンドに経理担当は何かを察知し顔色が真っ青になった。
カイゼルも焦っていた。
今、オフィーリアが使っているとされている離れに人をやられては困る。
宮そのものと離れの使用人は行き来をする事がほぼない。フェリクスがオフィーリアとは接点を持ちたくないと指示をしていたので、離れでの生活状況を報告する必要も無かったからである。
誰が1人行き来をする者がいればいいので、その役目はヨルムンドだった。
ヨルムンドは離れの使用人の給金分だけを渡すと食費などは一切渡さなかったしヨルムンドに離れの使用はしないようにとカイゼルが厳命された時、オフィーリアを懲らしめるための都合の良い状態だった事に驚いたくらいだ。
捨て置かれた妃としてティリアの悔しさを身をもって思い知らせてやるとカイゼルは地下室で暮らすオフィーリアを護衛の名のもとに言葉や時に腕ずくで罰を与えていた。
だからこそ、今、何も知らない宮の使用人を連れて離れに行かれては離れに品物があるかどうかなんてどうでもいい。離れを使っていない事がバレてしまう事の方が不味かった。
カイゼルはヨルムンドとは違う意味で慌てて弁解した。
「殿下。離れは現在清掃をしている時間ですので」
「護衛騎士如きのお前に指図をされる覚えはない。清掃中だろうが解体中だろうが宮の敷地内にある物は全て私の所有物ではないのか?」
「そ、そうですが…お、お待ちください。妃殿下も女性です。夫と言えど見せたくないものも散乱しているのです」
「だから清掃中なのだろう?ここから離れに行くまでには片付いているだろう」
「お、お待ちください」
「待たなくていいわ!」
オフィーリアはヨルムンドの態度もだが、カイゼルの言動にも不信感を覚え声をあげて立ち上がった。
護衛騎士のカイゼルの目はオフィーリアを地下室にいた時と同じく睨みつけていた。
オフィーリアは正義感に駆られた訳ではないけれど、カイゼルに近寄ると頬を張ろうと手を挙げた。
ガッ!!
振り下ろされる途中で手はカイゼルに掴まれて頬に届かなかった。
すっかり忘れていたが、薬草湿布で痛みは緩和されたと言えど騎士のカイゼルに掴まれれば痛みが全身に走り、頭の中だけオフィーリアの顔が歪んだ。
「何の用だ」
「殿下。妃殿下を離れの屋敷にお戻しください。私の仕事を奪っているんですよ?」
カイゼルの言葉にはオフィーリアも鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
――私の仕事だと?それにあの地下室とは口調がまるきり違うぞ?――
オフィーリアの考えを打ち消すようにヨルムンドがカイゼルに加勢した。
「そ、そうですよ。妃殿下には離れで学んで頂くのが一番ですよ。住み慣れていますし執務室で緊張しながら学ぶよりずっと捗りますよ。彼も役目を果たせま――」
「殿下、お待たせいたしました。経理担当が参りました」
従者の声にフェリクスは机の天板に広げた書類の上に手にしていたペンを軽く放り投げるとこっちにこいと経理担当を手招き。カイゼルは邪魔が入った事にムスっと顔を顰め、ヨルムンドは口が開いたままになった。
「で、殿下…あの‥‥」
「ヨルムンド。発言は許していない」
「も、申し訳ございません」
ヨルムンドを一喝したフェリクスは経理担当にドストレートに尋ねた。
「この報告書にある宝飾品だが、確認は取ったのか?」
「か、確認で御座いますか?えぇーっと…」
経理担当はヨルムンドに視線を向けた。
目が合ったヨルムンドは経理担当から顔ごと視線を逸らせた。
「2度も問わねばならないのか?先ほどの言葉が理解できなかったと?」
「い、いえ。そうではありません。妃殿下の買い求めた宝飾品や調度品、絵画に幼児用玩具ですが都度ヨルムンド様に確認を頂いております」
「そうか。なら丁度だ。誰か!購入した物全てを宮に運び入れろ」
「す、全てですか?あの3か月前に購入した絵画は壁一面の大き――」
「関係ない。離れより宮の方が広い。こちらに飾ればいいだろう」
ヨルムンドはもう終わったと諦めかけたが、返答に窮した経理担当に泥船という名の助け船を出したのはカイゼルだった。
「お待ちください!離れにはそのような品々は御座いません!」
カイゼルの言葉は事実。
品物はヨルムンドが勝手に買い漁ったもので離れにはない。
あるとすればヨルムンドの妻と子供がいる家か愛人の家。
経理担当は品物も無事搬入をされたとヨルムンドの言葉を鵜呑みにして実物は確認をしていなかった。あくまでも請求書に書かれている品を文字のままに記憶しているだけだったのだ。
「ヨルムンド殿、どうなっているんですか?離れにはないんですか?!」
経理担当も焦った。
フェリクスが親の国王よりも信頼をしているヨルムンドの言葉だから信じたのに違ったのか。
馬鹿ではないので言葉だけを信じ、実際に確認を取ってない行為がお咎めなしで済むとは思えない。
「あーっと…えぇっと…」
しどろもどろになるヨルムンドに経理担当は何かを察知し顔色が真っ青になった。
カイゼルも焦っていた。
今、オフィーリアが使っているとされている離れに人をやられては困る。
宮そのものと離れの使用人は行き来をする事がほぼない。フェリクスがオフィーリアとは接点を持ちたくないと指示をしていたので、離れでの生活状況を報告する必要も無かったからである。
誰が1人行き来をする者がいればいいので、その役目はヨルムンドだった。
ヨルムンドは離れの使用人の給金分だけを渡すと食費などは一切渡さなかったしヨルムンドに離れの使用はしないようにとカイゼルが厳命された時、オフィーリアを懲らしめるための都合の良い状態だった事に驚いたくらいだ。
捨て置かれた妃としてティリアの悔しさを身をもって思い知らせてやるとカイゼルは地下室で暮らすオフィーリアを護衛の名のもとに言葉や時に腕ずくで罰を与えていた。
だからこそ、今、何も知らない宮の使用人を連れて離れに行かれては離れに品物があるかどうかなんてどうでもいい。離れを使っていない事がバレてしまう事の方が不味かった。
カイゼルはヨルムンドとは違う意味で慌てて弁解した。
「殿下。離れは現在清掃をしている時間ですので」
「護衛騎士如きのお前に指図をされる覚えはない。清掃中だろうが解体中だろうが宮の敷地内にある物は全て私の所有物ではないのか?」
「そ、そうですが…お、お待ちください。妃殿下も女性です。夫と言えど見せたくないものも散乱しているのです」
「だから清掃中なのだろう?ここから離れに行くまでには片付いているだろう」
「お、お待ちください」
「待たなくていいわ!」
オフィーリアはヨルムンドの態度もだが、カイゼルの言動にも不信感を覚え声をあげて立ち上がった。
護衛騎士のカイゼルの目はオフィーリアを地下室にいた時と同じく睨みつけていた。
オフィーリアは正義感に駆られた訳ではないけれど、カイゼルに近寄ると頬を張ろうと手を挙げた。
ガッ!!
振り下ろされる途中で手はカイゼルに掴まれて頬に届かなかった。
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