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第34話 今しかない!
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フェリクスが目覚めるより2日早くオフィーリアは目が覚めた。
「痛ててて…上手く受け止めたと思ったんだけどなぁ」
コキコキと首を鳴らすとこの2か月無かったものが目に入った。
肩口から三つ編みに編み込んだ久しく見なかった自分の髪が胸元に落ちてきたのだ。
「え・・・。えぇーっ?!」
「妃殿下、どうされました?!」
「メイド・・・さん?」
「そうですよ?メイドのカーマです。私が判りますか?」
「解る。解る。解る…って…私は…」
「妃殿下ぁ!!あぁお労しいッ!頭の中が痛むのですね?直ぐに侍医を!!」
「いえいえいえいえいえ。頭の中の痛みって頭痛もないし、脳のこの辺とか解らないから!それよりも…私は誰?」
「妃殿下ぁ!!妃殿下は妃殿下で御座います。オフィーリア様でございますよぅ!!」
――オフィーリア?そう。私はオフィーリア…って事は?――
ダッと寝台を降りて床に足を付けたまでは良かった。
「いったぁぁぁーい!!」
「ダメです!酷い捻挫で足首は象の足より腫れているんですよっ!」
「なぁんですってぇ?!それを先に言ってよぅ」
象の足は言い過ぎだが、確かに腫れていた。包帯は巻かれていて薬草湿布の香りがする。
――あんにゃろぉ!!あれだけ気を付けろって言ったのに挫いたのね!――
怒りもあるが、今は元に戻った事が嬉しい。
――そうか。レナードさんが言った通り…落下も大事だったのね――
同じようにしてみるのにスリスリ、ゴリゴリと試したが落下は無かった。
パチパチっと何か感じた時は確かに落下するような感じに近かった。
――今はそんな事はどうでもいいわ。元に戻れた。これで自由よ!――
そうと解ればこうしては居られない。
「ねぇ、貴族院に連れて行ってくれない?」
「貴族院?何故です?」
「ちょっと用事があるの。直ぐに終わるから…ダメ?」
「今日は難しいですね。殿下はまだお目覚めになっておりませんし、妃殿下も侍医様の診察が1時間後ですから」
「私はもう診てもらわなくても大丈夫。この通りピンピンしてるわ!」
「いいえ。足はまだ痛いはずです。先ほども叫ばれたではありませんか」
「お願い!!」
「うーん…解りました。ですが午後になりますよ?午前中は厩舎で馬を洗っている時間になるので」
「ありがとう!恩に着るぅ」
ダメなものを無理強いしたらあれこれと詮索をされる。
オフィーリアは今日の所は大人しくしておくことにして、貴族院には明日午後出向くのを許されたので、馬車の用意をして欲しいと頼んだ。
侍医の診察によればオフィーリアは足首の捻挫の他には擦り傷。
「殿下が身を挺して受け止めてくださったからですよ」
――それ、私な――
足首は痛いけれど、フェリクスも後頭部を7針縫うケガだと聞いて「申し訳ないけど‥相殺させてもらうわ」オフィーリアはこの半年の待遇と足首の捻挫で痛み分けとしよう。勝手に決めた。
――そうと決まれば、出ていく準備もしないとね――
オフィーリアの荷物は多くない。正確にはほぼないと言っていい。
入れ替わった時にワンピースに部屋着に寝間着と色々買ったけれど、中身がフェリックスのオフィーリアが使ったものなので、オフィーリアから見ると自分の体が使ったものでも他人が使ったものと大差ない。
荷物が少なければ離縁した後にあれこれと持ち出さなくて済む。
ほぼ手ぶらなのだから気付かれることもない。
明日は午後に貴族院に行って…申し訳ないけどそのままトンズラする事にした。
礼儀だのなんだのと順序を踏んでいたら、フェリクスは離縁は恥ずかしいので別れる時は死別だと明言している。元の体に戻ったのは自分だけでなくフェリクスも戻っているのだ。
間違いなく宮のどこかに幽閉をされてしまう。
それが地下室ではない部屋だとしても、飼い殺しをされる人生は真っ平だった。
逃げるチャンスが目の前にあるのに礼儀だなんだと良い子を演じていたらチャンスを潰す事になる。
手持ちのお金もないけれど、草むらに入って即興で作れる薬草でも売れば日銭は稼げる。オフィーリアは「よし!」1人で気合を入れた。
☆~☆
翌日、午後に貴族院に出向いたオフィーリアはフェリクスの体で離縁届を預けた窓口で声を掛けた。
「ここに第1王子殿下が預けた書類があると聞いたのですが」
係員はオフィーリアを見た。
「ありますよ」
信用をさせるためにオフィーリアは何の書類なのかを告げた。
「離縁書ですよね。殿下の署名だけ先に入っている筈です。マーフェス公爵家には戻りませんので今、手続きをします」
係員は怪訝そうにオフィーリアを見たけれど、その事実を知っている者は少ない。
フェリクスがリザーブしていった離縁書を取り出し、オフィーリアに手渡した。
オフィーリアはサラサラと記入の必要な欄に署名し、係員に差し出した。
「受理致しました。念のためお聞きしますが本当に離縁、籍を戻す必要は御座いませんね?」
「えぇ。離縁しますし、この先は平民として生きていきます」
「解りました。では慰謝料など手続きで必要な時はまたお声がけください」
窓口を離れたオフィーリアは表玄関ではなく、サブ玄関から外に出ると「うーん!」両手を空に突きあげて背伸びをすると、片足を引きながら歩いて行った。
「痛ててて…上手く受け止めたと思ったんだけどなぁ」
コキコキと首を鳴らすとこの2か月無かったものが目に入った。
肩口から三つ編みに編み込んだ久しく見なかった自分の髪が胸元に落ちてきたのだ。
「え・・・。えぇーっ?!」
「妃殿下、どうされました?!」
「メイド・・・さん?」
「そうですよ?メイドのカーマです。私が判りますか?」
「解る。解る。解る…って…私は…」
「妃殿下ぁ!!あぁお労しいッ!頭の中が痛むのですね?直ぐに侍医を!!」
「いえいえいえいえいえ。頭の中の痛みって頭痛もないし、脳のこの辺とか解らないから!それよりも…私は誰?」
「妃殿下ぁ!!妃殿下は妃殿下で御座います。オフィーリア様でございますよぅ!!」
――オフィーリア?そう。私はオフィーリア…って事は?――
ダッと寝台を降りて床に足を付けたまでは良かった。
「いったぁぁぁーい!!」
「ダメです!酷い捻挫で足首は象の足より腫れているんですよっ!」
「なぁんですってぇ?!それを先に言ってよぅ」
象の足は言い過ぎだが、確かに腫れていた。包帯は巻かれていて薬草湿布の香りがする。
――あんにゃろぉ!!あれだけ気を付けろって言ったのに挫いたのね!――
怒りもあるが、今は元に戻った事が嬉しい。
――そうか。レナードさんが言った通り…落下も大事だったのね――
同じようにしてみるのにスリスリ、ゴリゴリと試したが落下は無かった。
パチパチっと何か感じた時は確かに落下するような感じに近かった。
――今はそんな事はどうでもいいわ。元に戻れた。これで自由よ!――
そうと解ればこうしては居られない。
「ねぇ、貴族院に連れて行ってくれない?」
「貴族院?何故です?」
「ちょっと用事があるの。直ぐに終わるから…ダメ?」
「今日は難しいですね。殿下はまだお目覚めになっておりませんし、妃殿下も侍医様の診察が1時間後ですから」
「私はもう診てもらわなくても大丈夫。この通りピンピンしてるわ!」
「いいえ。足はまだ痛いはずです。先ほども叫ばれたではありませんか」
「お願い!!」
「うーん…解りました。ですが午後になりますよ?午前中は厩舎で馬を洗っている時間になるので」
「ありがとう!恩に着るぅ」
ダメなものを無理強いしたらあれこれと詮索をされる。
オフィーリアは今日の所は大人しくしておくことにして、貴族院には明日午後出向くのを許されたので、馬車の用意をして欲しいと頼んだ。
侍医の診察によればオフィーリアは足首の捻挫の他には擦り傷。
「殿下が身を挺して受け止めてくださったからですよ」
――それ、私な――
足首は痛いけれど、フェリクスも後頭部を7針縫うケガだと聞いて「申し訳ないけど‥相殺させてもらうわ」オフィーリアはこの半年の待遇と足首の捻挫で痛み分けとしよう。勝手に決めた。
――そうと決まれば、出ていく準備もしないとね――
オフィーリアの荷物は多くない。正確にはほぼないと言っていい。
入れ替わった時にワンピースに部屋着に寝間着と色々買ったけれど、中身がフェリックスのオフィーリアが使ったものなので、オフィーリアから見ると自分の体が使ったものでも他人が使ったものと大差ない。
荷物が少なければ離縁した後にあれこれと持ち出さなくて済む。
ほぼ手ぶらなのだから気付かれることもない。
明日は午後に貴族院に行って…申し訳ないけどそのままトンズラする事にした。
礼儀だのなんだのと順序を踏んでいたら、フェリクスは離縁は恥ずかしいので別れる時は死別だと明言している。元の体に戻ったのは自分だけでなくフェリクスも戻っているのだ。
間違いなく宮のどこかに幽閉をされてしまう。
それが地下室ではない部屋だとしても、飼い殺しをされる人生は真っ平だった。
逃げるチャンスが目の前にあるのに礼儀だなんだと良い子を演じていたらチャンスを潰す事になる。
手持ちのお金もないけれど、草むらに入って即興で作れる薬草でも売れば日銭は稼げる。オフィーリアは「よし!」1人で気合を入れた。
☆~☆
翌日、午後に貴族院に出向いたオフィーリアはフェリクスの体で離縁届を預けた窓口で声を掛けた。
「ここに第1王子殿下が預けた書類があると聞いたのですが」
係員はオフィーリアを見た。
「ありますよ」
信用をさせるためにオフィーリアは何の書類なのかを告げた。
「離縁書ですよね。殿下の署名だけ先に入っている筈です。マーフェス公爵家には戻りませんので今、手続きをします」
係員は怪訝そうにオフィーリアを見たけれど、その事実を知っている者は少ない。
フェリクスがリザーブしていった離縁書を取り出し、オフィーリアに手渡した。
オフィーリアはサラサラと記入の必要な欄に署名し、係員に差し出した。
「受理致しました。念のためお聞きしますが本当に離縁、籍を戻す必要は御座いませんね?」
「えぇ。離縁しますし、この先は平民として生きていきます」
「解りました。では慰謝料など手続きで必要な時はまたお声がけください」
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