入れ替わ離婚

cyaru

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第45話  走るレナード

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纏め役の男性はオフィーリアと別れたその足でレナードの屋敷に向かった。
全ては良かれと思ってのこと。

1500人が一度に移住するには先ず土地を手に入れて農業をする区画と居住区を分けねばならない。その他にイモデクルンを作る工房も必要で、家屋や工房の建設も急がねばならない。

今まで通り気を拾って来て柱と梁にして布を張っただけのバラックとも呼べない家屋でも住民は文句は言わないだろう。むしろ住み慣れているので一般の平民や貴族の住んでいる家の方が使い勝手悪いと考えるかも知れない。

それでも、やはり人間らしい暮らしをするには家屋は必要。
大雨や大風の時に寝ずの番で布が飛んで行ったり破れたりしないように見守りが必要な今の生活からは脱却する時なのだと考えた。

それには自分たちが労働力になるのはいとわないが、レナードの助けがあった方が良い。
纏め役の男性はリアと名乗るオフィーリアとレナードの関係は全く知らなかったのだ。

「レナードさん。お久しぶりです」
「元気でやっているようだな。何か困りごとか?」
「はい。実はイモデクルンという食物から作ったシートを作っておりまして」
「は?イモデクルン?どこかで聞いたな…」

ちらりと専属執事を見れば専属執事は口を開けて薬を飲む真似をした。
「あれか」と思い出したレナードは纏め役の男性が画期的な事業を始めた事に嬉しくなった。

「凄いな。そんな思い付きが出来たなんて。もう俺の助けなんか要らないじゃないか」
「違うんです。あれは4カ月ほど前にスラム街にふらっとやって来たリアって子が作ったんです。凄いんですよ。その辺にある草で腹痛とか頭痛とか切り傷なんかにも聞く薬を作る子でしてね」
「リア?4か月前?」
「えぇ。可愛い子ですよ。まだ年若いのに…着ている服とかかなり良い物だったんでどこかの貴族の娘だと思うんですけどぉぉぉ?!」

レナードは纏め役の男性の二の腕を掴んだかと思うと、ギュッと抱きしめた。

==ファァァ♡レナードさん、いい香り♡==

決して男色家ではないけれど、逞しいレナードの胸に抱かれ纏め役の男性は禁断の扉が開きそうになった。

「ど、どうされ――」
「そのリアという女性。どんな女性だ?!」
「どんなって…かわいい子ですよ?年齢は20を超えたか超えないかくらいでアグレッシブでしてね。薬草なんかもですけど、川に入って子供と一緒に魚は突くし、ちょっと手がね、障害ってほどじゃないんですけど左手は逆手にしたりすると痛がるし…右手の指は何かに挟まったんですかね。傷が残ってますね。あと今は治りましたがスラム街に来た時は足を引いてました」

――オフィーリアだ。見つけた!遂に見つけた!――

レナードは居ても経っても居られず、男性と共にスラム街に向かった。

しかし、オフィーリアが寝泊まりをしている部屋には誰もいない。

「リアさんは何処に行ったんだ?」

男性が隣に住む老婆に問うと「野草を採りに行った」と答えた。

「野草?どこに?」
「何処って‥向かいの旦那さんが突き指をしたからその薬に使う薬草だよ。ジョゼフと一緒に行ったから川べりだと思うけど?」
「川べり?川べりだな?」
「あっ!レナードさん!!」

レナードは呼び止める男性の声を背中に受けて振り返らずに駆け出した。その後を男性も心配になって追いかけて来る。

レナードは皮靴がぬかるんだ泥に嵌りながらも川べりに走った。
到着をしてキョロキョロと見回すも人の姿がない。

「ここじゃなかったのか」
「どうしたんです?リアが何か?」
「オフィーリアだ」
「え?オフィ―――あぅっ!」
「名を呼ぶな。俺以外の男がオフィーリアの名を呼ぶと口の中に手を入れて全ての臓物を引きずり出したくなる」

――どういうこと?!――

纏め役の男性は真夜中に不浄に行こうとした時に、白い影をみて失禁しそうになった時くらいズボンが危うくなる寸前だった。

「リアー!ここにもあるよー!」
「すぐ行くわ。待ってて」

ジョゼフの声が聞こえて直ぐにオフィーリアの声が聞こえた。

「オフィーリアッ!!」

レナードは立ち上がって草むらから頭だけ見えるオフィーリアに向かって駆けだした。

――ゲッ?なんでここにレナードさん?!――

逃げようかなと思ったがすぐそこまで来ているレナードからは逃げられそうにもない。

――あぁ宮に戻されちゃうんだ。短い自由だったなぁ――

レナードはフェリクスの従兄弟。
不便も多いけれど、その不便が楽しかった生活はもう終わり。オフィーリアががっくりと肩を落とすと何故か体が浮き上がった。

「オフィーリア!心配した!良かった…無事で良かった」
「グ…グェ…グルジイ…」

何故抱きしめられているのかよく判らないけれど、身長差があるんだからせめて持ち上げて抱きしめないで欲しい。肺が潰れてまうやろ。

それよりも折角積んだ野草が抱きしめられた拍子に籠を落としてしまったのでその辺に散らばってしまった。

「もう離さない!」
「離してよ!折角摘んだ野草が落ちたでしょう?!それに絞め殺す気?」

レナードはあっさりオフィーリアを解放する事になり、一緒に散らばった野草を拾い集めたのだった。
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