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第54話 階段は3段飛ばしで、全力で
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「後から来たくせにしゃしゃり出るな!」
ダンっと大きな音がして流石の使用人たちも身構えたのはカイゼルが手にしていた2本の斧の内1本を怒りにまかせ投げたからである。
大きな音を立てて斧は壁に刺さった。
「何をしているんだ!早く取り押えろ!」
フェリクスは声を荒げるが、2本が1本となればさらに斧を振る回す事が出来るので迂闊には近寄れない。カイゼルが睨んだ通り、剣で立ち向かっても剣もそれなりに重さがある。斧に当たれば握っている手は衝撃で痺れてしまうし、剣で受けず体で斧を受ければ命が消えてしまう。
フェリクスも帯剣していたサーベルを抜いたがカイゼルも騎士。一瞬を突くのも困難だった。
「どうでもいい。お前ら王族だろ?女なんかより取り見取りじゃないか。平民になったオフィーリア様の事はもう諦めろよ!なんで付き纏うんだよ!」
「お前に指図される謂れはない。それに何で付き纏う?お前にその言葉をそのまま返してやるよ」
「俺は‥‥俺は…過ちを犯してしまった。それを償うためにここにいるんだ!」
その声は4階にいるオフィーリアにも聞こえてきたが「はて?」首を傾げた。
「どうされたんです?」
「なんか違うな―ッと思って。償うって加害者が押し付ける思いではないと思うのよね」
それにはメイドたちも同感だ。
オフィーリアの言葉を聞かせてやりたいが、カイゼルが取り押えられるか、斧を手放すかしないと危険すぎて近寄れない。
そんな中…。
「あのっ!ちょっといいですか!」
オフィーリアの伝言を伝えるために階下に降りたメイドの声が聞こえた。
意表を突く言葉。フェリクスもカイゼルもふっと強張る体から緊張が抜けた。レナードはその一瞬を見逃さなかった。
「アグワァッ!!ゴフッ」
レナードはカイゼルの間合いに踏み込み、右手で首に手刀。左手でみぞおちにパンチを叩きこんだ。
そのまま斧を持つ手の手首を握り、不気味な音をさせてカイゼルの手首が逆を向くと斧が床にごとりと柄を落とす音がした。
「今だ!捕縛しろッ!」
斧を蹴り飛ばし、床を滑らせると従者がカイゼルに飛び掛かり、カイゼルは抵抗するよりも痛みに悶えたままであっという間に捕縛をされた。
「殿下?剣の出番はもうありませんよ。仕舞って下さい」
「あ、あぁ…助かったよ。ありがとう」
「殿下を助けた訳じゃない。これ以上屋敷を壊されたら出費が嵩むんでね」
フェリクスに話しかけながらもレナードはカイゼルの前髪を掴んで顔を上げさせた。
「存分に可愛がってやるからな。お前の行いは腹に据えかねているんだ。半年とは言わない。せめて3日。命乞いをしながらも死にたいと思わせてやる」
「あぐぅぅ…痛い…痛いぃぃ!!手が!俺の手がぁ…ガァァーッ」
その様子を見た伝言を伝えるために階段を決死の覚悟で降りたメイドが3段飛ばしで4階まで駆け上がってきた。
「もう大丈夫ですよッ!」
「本当に大丈夫?肉離れ起こしてない?」
驚異の3段飛ばしで1階と2階の間にある踊り場から4階まで駆け上がってきたメイドの筋力を心配してしまう。
「大丈夫ですよ。重量登山でも私は駆け足なんです」
「じゅ、重量登山?!なにそれ」
「3年に1回やってるんですけども、若様に仕える使用人は全員重量登山って言う自分の体重の3倍の荷物を背負って4000m級の山に3時間以内で登頂するってイベントしてるんです。次で3回連続女性部門で1位なんですよ。3回連続1位になるとワイハーへの旅行券貰えるんで鍛えてるんですよぅ♡」
4000mと言えば4km。平坦な道ではないし、道なき道を駆けあがる登山。空気も薄くなるのに自分の体重の3倍の重さを背負う。
――ブルブル!!私は万年スタート地点で待つ人で良いわ――
修羅場が見られなくて残念な気持ちもあるが、カイゼルもフェリクスも揃ってオフィーリアを目当てに来たのなら釘を刺すには持ってこい。
フェリクスは自分の体を受け止めるために負傷させてしまったので、申し訳ないなとは思うがカイゼルには何の情も沸かない。階下から聞こえてくる声に疑問符が飛ぶだけで不法侵入の上に斧を振り回すなんて常軌を軽く逸脱している。もう知り合いだとも思いたくなかった。
――同じ言語なのに理解不能な事を喋る人って本当にいるんだわ――
オフィーリアはメイドたちと階段を降りた。
ダンっと大きな音がして流石の使用人たちも身構えたのはカイゼルが手にしていた2本の斧の内1本を怒りにまかせ投げたからである。
大きな音を立てて斧は壁に刺さった。
「何をしているんだ!早く取り押えろ!」
フェリクスは声を荒げるが、2本が1本となればさらに斧を振る回す事が出来るので迂闊には近寄れない。カイゼルが睨んだ通り、剣で立ち向かっても剣もそれなりに重さがある。斧に当たれば握っている手は衝撃で痺れてしまうし、剣で受けず体で斧を受ければ命が消えてしまう。
フェリクスも帯剣していたサーベルを抜いたがカイゼルも騎士。一瞬を突くのも困難だった。
「どうでもいい。お前ら王族だろ?女なんかより取り見取りじゃないか。平民になったオフィーリア様の事はもう諦めろよ!なんで付き纏うんだよ!」
「お前に指図される謂れはない。それに何で付き纏う?お前にその言葉をそのまま返してやるよ」
「俺は‥‥俺は…過ちを犯してしまった。それを償うためにここにいるんだ!」
その声は4階にいるオフィーリアにも聞こえてきたが「はて?」首を傾げた。
「どうされたんです?」
「なんか違うな―ッと思って。償うって加害者が押し付ける思いではないと思うのよね」
それにはメイドたちも同感だ。
オフィーリアの言葉を聞かせてやりたいが、カイゼルが取り押えられるか、斧を手放すかしないと危険すぎて近寄れない。
そんな中…。
「あのっ!ちょっといいですか!」
オフィーリアの伝言を伝えるために階下に降りたメイドの声が聞こえた。
意表を突く言葉。フェリクスもカイゼルもふっと強張る体から緊張が抜けた。レナードはその一瞬を見逃さなかった。
「アグワァッ!!ゴフッ」
レナードはカイゼルの間合いに踏み込み、右手で首に手刀。左手でみぞおちにパンチを叩きこんだ。
そのまま斧を持つ手の手首を握り、不気味な音をさせてカイゼルの手首が逆を向くと斧が床にごとりと柄を落とす音がした。
「今だ!捕縛しろッ!」
斧を蹴り飛ばし、床を滑らせると従者がカイゼルに飛び掛かり、カイゼルは抵抗するよりも痛みに悶えたままであっという間に捕縛をされた。
「殿下?剣の出番はもうありませんよ。仕舞って下さい」
「あ、あぁ…助かったよ。ありがとう」
「殿下を助けた訳じゃない。これ以上屋敷を壊されたら出費が嵩むんでね」
フェリクスに話しかけながらもレナードはカイゼルの前髪を掴んで顔を上げさせた。
「存分に可愛がってやるからな。お前の行いは腹に据えかねているんだ。半年とは言わない。せめて3日。命乞いをしながらも死にたいと思わせてやる」
「あぐぅぅ…痛い…痛いぃぃ!!手が!俺の手がぁ…ガァァーッ」
その様子を見た伝言を伝えるために階段を決死の覚悟で降りたメイドが3段飛ばしで4階まで駆け上がってきた。
「もう大丈夫ですよッ!」
「本当に大丈夫?肉離れ起こしてない?」
驚異の3段飛ばしで1階と2階の間にある踊り場から4階まで駆け上がってきたメイドの筋力を心配してしまう。
「大丈夫ですよ。重量登山でも私は駆け足なんです」
「じゅ、重量登山?!なにそれ」
「3年に1回やってるんですけども、若様に仕える使用人は全員重量登山って言う自分の体重の3倍の荷物を背負って4000m級の山に3時間以内で登頂するってイベントしてるんです。次で3回連続女性部門で1位なんですよ。3回連続1位になるとワイハーへの旅行券貰えるんで鍛えてるんですよぅ♡」
4000mと言えば4km。平坦な道ではないし、道なき道を駆けあがる登山。空気も薄くなるのに自分の体重の3倍の重さを背負う。
――ブルブル!!私は万年スタート地点で待つ人で良いわ――
修羅場が見られなくて残念な気持ちもあるが、カイゼルもフェリクスも揃ってオフィーリアを目当てに来たのなら釘を刺すには持ってこい。
フェリクスは自分の体を受け止めるために負傷させてしまったので、申し訳ないなとは思うがカイゼルには何の情も沸かない。階下から聞こえてくる声に疑問符が飛ぶだけで不法侵入の上に斧を振り回すなんて常軌を軽く逸脱している。もう知り合いだとも思いたくなかった。
――同じ言語なのに理解不能な事を喋る人って本当にいるんだわ――
オフィーリアはメイドたちと階段を降りた。
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