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cyaru

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第01話  最悪の相席

その日、ベルカム子爵家のリーゼロッテは婚約者のウッサム伯爵家のアンセルとデートの約束で待ち合わせ場所に出向いていたのだが、やってきたのはウッサム伯爵家の執事だった。

『申し訳ございません。アンセル様は今朝方から熱を出されまして』

『そうなの?大変。具合はどうなのかしら。熱は高いの?』

『え、えぇ。高いと言えば‥高いでしょうか。ですので本日の待ち合わせには来ることが出来ません。また…申し訳ございませんが感染うつると大変ですのでお見舞いもご遠慮頂けますと‥』

『そうね。解りました。では良くなられましたら連絡いただけますと幸いです』

『本当に申し訳ございません』

平身低頭な執事は走ってきたからか汗びっしょり。
久しぶりにアンセルに会えると思ってお気に入りのワンピースも念入りに鏝でアイロンをしたし、髪もわざわざ髪結いにまで行って纏めてもらったのだが病気なら仕方がない。


実は今日はアンセルに聞きたい事があったのだ。

2、3か月ほど前からリーゼロッテの元に聞こえてきた噂があった。

【ウッサム家の子息とタッカス侯爵家の令嬢が結婚するらしい】

ウッサム家には子息は2人いる。
1人はアンセルなのだが、アンセルは次男でアンセルとは4歳違いの兄ケインがいる。

最初にその噂を聞いた時、リーゼロッテはおかしな噂だな?とは思ったのだ。
ケインは既に結婚していて半年前に第2子が生まれたばかり。

結婚は18歳にならないと親の承諾があっても出来ないので先に18歳になったリーゼロッテは間もなく誕生日のアンセルと両家を交えて結婚の話も順調に進んでいた。

リーゼロッテは1人っ子なのでアンセルは婿養子となって子爵家を2人で継ぐ予定になっている。

ベルカム子爵家からは既に支度金がウッサム家に支払われているし、ウッサム家からは持参金も預かっている。

だからウッサム家には相手が侯爵家だろうと婿入り以前に結婚する子息はもう売り切れているハズなのだ。


今日のデートで問うてみようと思ったのは、噂が聞こえてくる少し前からアンセルと会う機会が極端に減った。

アンセルは中堅どころの加工食品卸をしている商会で働いていて休みは10日に1日。
しかし「付き合いでウサギ狩り」「得意先に今日来てほしいと言われている」「決算期で忙しくて休めない」など言い訳は色々だったけれどアンセルの休みはリーゼロッテと会う時間を捻出できる状況に無くなってしまった。

そこに噂が聞こえてきたものだから火のない所に煙は立たぬとも言うし「ま、噂よね」と笑い飛ばすつもりで問うてみようと思っていたのだ。


「病気なら仕方ないわよね。早く良くなると良いけど」

そう思い、そのまま帰っても今日のデートのために数日は気忙しく頼まれていた縫物を終えてしまったのでする事もない。

買うかどうかは別にしてウィンドウショッピングでもしながら時間を潰そうと商店街を歩いていた。


どれくらい時間が経ったのだろうか。

小腹が空いたのでお一人様もお手の物。
流行りのカフェでも覗いてみようかなと立ち寄れば流行っているだけあって大盛況。

「相席でしたらご用意できます」と言うので「それでお願いします」と店員に頼んだ。

王族や高位貴族は別として庶民も利用する店。
殆どの店はカウンターなどなら隣の人と1席空けたりせず隣同士に座るし、ブース風になっているのなら向かい側を空けて相席になるのも当たり前。

店にしてみれば客を捌いてナンボなので客の方も相席となったところで何も思わない。
他人との相席が嫌なら、相席の出来ない店に行けばいいだけの話である。

「ご用意出来ました。こちらです。どうぞ」

店員に先導されて隣の席との間に衝立もない席に案内をされる途中でリーゼロッテは固まってしまった。

――どうして貴方がここにいるの?――

そこには相席を頼まれた先客、アンセルがいた。
アンセルの隣にはタッカス侯爵家の令嬢アンネマリー。

しかも案内をされそうになっている席はまさにアンセルとアンネマリーのブース。


アンネマリーが買い物をしたのだろうか。
幾つかのショップでの買い物袋をアンセルに手渡し、座っていた席を移動しようとしていた。

心臓が口から飛び出しそうな緊張感のリーゼロッテと目が合ったアンセルは驚いて目を見開いた。

アンセルもまさか相席になるのがリーゼロッテだとは思わなかったのだろう。
先ほどの執事以上に額に汗が噴き出したようでハンカチでは足らないのか袖に汗を吸わせている。

アンネマリーはリーゼロッテには背を向けていて気が付いていない。

――病気なんじゃなかったの?――

リーゼロッテがそう思うのも致し方ない。

ここにいる、つまりは病気などではなかったという事だ。
そうなると今までなんだかんだと理由をつけてデートも出来なかった訳が否が応でもリーゼロッテには理解できる。

「こちらのお席になります」

給仕に声を掛けられるまで時間にして1分も経っていなかったけれどリーゼロッテには倍、いや10倍以上の時間のように思えた。

「ごめんなさい。用事を思い出してしまったの。折角相席を用意してくださったのに申し訳ございません」

「いいんですか?こちらの方は相席でも構わないと」

「いえ、急ぎの用事を思い出したんです。ごめんなさい」

最後は声が震えてしまった。
もう何かを問われても泣いてしまいそうになったリーゼロッテはペコリと頭を下げると逃げるようにその場を去った。
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