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第06話 望むのは恋か愛か
隠し事をしていれば、いつかは露呈してしまうものだ。
アンセルの秘密は兄のケインによって暴かれてしまった。
「お前、どういうつもりなんだ?」
「どういうも何も。侯爵家のお嬢様のお気に入り。それだけだよ」
「誤魔化すな。高位貴族だけの夜会だからバレないとでも思っているのか」
「そんなわけない。あれは頼まれたからエスコートしただけさ」
アンネマリーは侯爵家を継ぐ訳ではない。かと言って休眠中の爵位もタッカス侯爵家にはないのでアンネマリーの兄が家督を継げばアンネマリーの身分は貴族籍を持ってはいるが実質平民になる。
それは既定路線でアンネマリーはそこに拘りはなかった。平民に嫁ぐ事に憂いがない訳ではなく相手の身分については関心がないのである。
なので相手が平民であっても貴族籍はそのままに結婚をするので離縁となればまた侯爵家に堂々と出戻れる。それはアンネマリーだけではなくタッカス侯爵家を継がない弟妹達の認識は共通していた。
――持てるだけの財があればそう言う考えにもなるんだな――
アンセルは他家の事は深く掘り下げては知る必要もなかったし、運よくタッカス家を担当していた営業が定年でなければ一生知ることもなかった貴族の生き方の1つを知ったのだった。
「だって、生きていくのに必要なお金は持たせてくださるもの」
「だとしてもだ。社交界とかで肩身が狭い思いをするんじゃないのか?」
「そうかも知れないわ。でも王弟殿下のご子息だって同じよ。家の爵位は1つしかないんだから兄弟姉妹がいるなら必ずあぶれる者がいるわ。だからタッカス家はね、誰が家督を継ぐかを兄弟姉妹で話し合うのよ。継がない者は食べるに困らない分だけ回してもらえるから社交をする必要もないの。言わばお詫びね。だからわたくし、社交はそんなに好きじゃないから早々に家督争奪レースからは降りたの」
「え?そうなのか?」
「令嬢だったら誰でも豪奢なドレスに宝飾品で、なんて思わないで。年配者は立てなきゃいけないし、うっかりの一言が命取りになる綱渡りの会話。具合が悪くても微笑んでなきゃいけないとか何の咎めかしら。あぁ嫌だ、嫌だ。そんな堅苦しい事なんかお兄様がすればいいのよ。わたくしはお零れに肖るだけで十分よ」
要は営業をしなくても侯爵家が引き受けた事業で手頃なものが回される。
あくせくと仕事を貰うために頭を下げる必要すらない、失敗したって実家の責任。完全なるおんぶに抱っこのイイとこ取り。それがアンネマリーの未来だった。
更にアンネマリーは驚くことを平然とアンセルに問うた。
「アンセルはわたくしと恋がしたいの?それとも結婚?」
見透かされているようでアンセルはドキリとした。侯爵家の力を使えば、いや、使うほどでもないだろうがリーゼロッテとの事はもう知られているだろう。
隠しても仕方がない。
アンセルはにこりと笑って答えた。
「マリーと結婚がしたいよ。マリーが僕の妻になってくれれば僕は死んでも幸せだと思う」
「まぁ、嬉しい事を言ってくださるのね。でもその求婚に応えるのに2つ約束をしてくださらない?」
「なんだろうか」
「まず、子供は要らないわ。手間と時間、労力が必要だし何よりわたくしは妊娠、出産で体の線が崩れるのは勘弁してほしいと思ってるわ
「子供は…どうしても女性の負担が大きいからね。飲むよ」
本音で言えばアンセルも自分の子供は欲しいと思うが、育児は綺麗ごとだけでは成り立たない。侯爵家の後継者ともなれば乳母をはじめとして使用人を多くつけて面倒事は任せきりにも出来るが、親であるからこそせねばならない事もある。
例えばアンセルがベルカム子爵家に婿入りをする際の持参金である。
貴族である以上、見栄もあり用意した金額はそこそこの金額だった。そう思えるのもアンセルが商会で実際に給料をもらっていたから「そこそこの金額」と思えるのであって、働いた経験がなければありがたみも判らなかっただろう。
何よりアンネマリーは侯爵家から出るので爵位がない。爵位はないけれどアンネマリーは侯爵家に籍があるままなので、アンネマリーとの子供は単純に考えて侯爵家クラスの各種待遇を子に施さねばならなくなる。
深く考えもせずアンセルは「子供は僕も欲しいとは思わない」ともう一度答えを返した。
そして残りの1つ。
アンネマリーは悪党が腹の内が読めたとほくそ笑んだような笑みを浮かべ「今夜のメインは鴨が良い」そんなノリで軽く言い放った。
アンセルの秘密は兄のケインによって暴かれてしまった。
「お前、どういうつもりなんだ?」
「どういうも何も。侯爵家のお嬢様のお気に入り。それだけだよ」
「誤魔化すな。高位貴族だけの夜会だからバレないとでも思っているのか」
「そんなわけない。あれは頼まれたからエスコートしただけさ」
アンネマリーは侯爵家を継ぐ訳ではない。かと言って休眠中の爵位もタッカス侯爵家にはないのでアンネマリーの兄が家督を継げばアンネマリーの身分は貴族籍を持ってはいるが実質平民になる。
それは既定路線でアンネマリーはそこに拘りはなかった。平民に嫁ぐ事に憂いがない訳ではなく相手の身分については関心がないのである。
なので相手が平民であっても貴族籍はそのままに結婚をするので離縁となればまた侯爵家に堂々と出戻れる。それはアンネマリーだけではなくタッカス侯爵家を継がない弟妹達の認識は共通していた。
――持てるだけの財があればそう言う考えにもなるんだな――
アンセルは他家の事は深く掘り下げては知る必要もなかったし、運よくタッカス家を担当していた営業が定年でなければ一生知ることもなかった貴族の生き方の1つを知ったのだった。
「だって、生きていくのに必要なお金は持たせてくださるもの」
「だとしてもだ。社交界とかで肩身が狭い思いをするんじゃないのか?」
「そうかも知れないわ。でも王弟殿下のご子息だって同じよ。家の爵位は1つしかないんだから兄弟姉妹がいるなら必ずあぶれる者がいるわ。だからタッカス家はね、誰が家督を継ぐかを兄弟姉妹で話し合うのよ。継がない者は食べるに困らない分だけ回してもらえるから社交をする必要もないの。言わばお詫びね。だからわたくし、社交はそんなに好きじゃないから早々に家督争奪レースからは降りたの」
「え?そうなのか?」
「令嬢だったら誰でも豪奢なドレスに宝飾品で、なんて思わないで。年配者は立てなきゃいけないし、うっかりの一言が命取りになる綱渡りの会話。具合が悪くても微笑んでなきゃいけないとか何の咎めかしら。あぁ嫌だ、嫌だ。そんな堅苦しい事なんかお兄様がすればいいのよ。わたくしはお零れに肖るだけで十分よ」
要は営業をしなくても侯爵家が引き受けた事業で手頃なものが回される。
あくせくと仕事を貰うために頭を下げる必要すらない、失敗したって実家の責任。完全なるおんぶに抱っこのイイとこ取り。それがアンネマリーの未来だった。
更にアンネマリーは驚くことを平然とアンセルに問うた。
「アンセルはわたくしと恋がしたいの?それとも結婚?」
見透かされているようでアンセルはドキリとした。侯爵家の力を使えば、いや、使うほどでもないだろうがリーゼロッテとの事はもう知られているだろう。
隠しても仕方がない。
アンセルはにこりと笑って答えた。
「マリーと結婚がしたいよ。マリーが僕の妻になってくれれば僕は死んでも幸せだと思う」
「まぁ、嬉しい事を言ってくださるのね。でもその求婚に応えるのに2つ約束をしてくださらない?」
「なんだろうか」
「まず、子供は要らないわ。手間と時間、労力が必要だし何よりわたくしは妊娠、出産で体の線が崩れるのは勘弁してほしいと思ってるわ
「子供は…どうしても女性の負担が大きいからね。飲むよ」
本音で言えばアンセルも自分の子供は欲しいと思うが、育児は綺麗ごとだけでは成り立たない。侯爵家の後継者ともなれば乳母をはじめとして使用人を多くつけて面倒事は任せきりにも出来るが、親であるからこそせねばならない事もある。
例えばアンセルがベルカム子爵家に婿入りをする際の持参金である。
貴族である以上、見栄もあり用意した金額はそこそこの金額だった。そう思えるのもアンセルが商会で実際に給料をもらっていたから「そこそこの金額」と思えるのであって、働いた経験がなければありがたみも判らなかっただろう。
何よりアンネマリーは侯爵家から出るので爵位がない。爵位はないけれどアンネマリーは侯爵家に籍があるままなので、アンネマリーとの子供は単純に考えて侯爵家クラスの各種待遇を子に施さねばならなくなる。
深く考えもせずアンセルは「子供は僕も欲しいとは思わない」ともう一度答えを返した。
そして残りの1つ。
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