大好きだからこそ、です

cyaru

文字の大きさ
7 / 28

第07話  条件を飲んだ男

「夫婦って所詮は他人なの。婚姻と言う制度で成り立つ関係ね」

「そうだね。血縁者ではないからね」

「太古の昔に近親婚を行う王朝もあったけど結局は破綻しているでしょう?貴族の青い血はね、濃度に気を付けなきゃいけないのよ」

「それは僕も賛成だな。近親の交配が続くのは昆虫や植物でもいい結果にはならないからね」

「そうなの。嬉しいわ!理解してくれる人なんて久しぶりよ」


アンネマリーは弾んだ声を出し、顔の前で手のひらを合わせ嬉しそうに微笑んだ。

「他人って言うのは何年も経てば馴れ合いになるわ」

――それは解る気がする。リゼとはまさにそうだからな――

リーゼロッテの事は嫌いではないが、出会った頃の様なフレッシュさがないのはアンセルも認めているところ。かと言って不特定多数と付き合う気はない。同時進行でなんとかやりくりできるのは2人までが精一杯。今の状況でもう1人となるとアンセルは上手く回せる自信がない。

しかし、その事とアンネマリーの求婚に当たっての約束とは何だろう?アンセルは心地よい適度な不安感と答えを聞きたい期待で胸を膨らませた。

「夫は夫。その他にお互い恋が出来る相手を持つことを許しあいたいわ」

「え?は?そ、それって愛人を持つし、持てと言う事なのか?」

「愛人じゃないわ。恋人よ。愛は望んでないの。面倒でしょう?考えてみて?他人の男と女が未来永劫仲良くやっていけると思う?」

「それは…しかし、夫婦と言うのはそれを乗り越えてだな」

「そんなの乗り越えてどうなるの?誰得?もし何か得する事があるなら倦怠期なんて言葉は存在しないと思うわ。わたくしは何時だって胸が躍るような恋がしたいのよ。一緒に居ることに飽きたり、つまらないと思うような時間は過ごしたくないの。その点恋人なら替えが利くでしょう?」

「そんな生き方は寂しいんじゃないのか?年を取った時にもお互いを分かり合えないなんて事にもなる」

「ならないわよ。だってお互い好きな相手と楽しい時間を過ごすのよ?相手がいないのをこちらの責任転嫁もおかしいでしょう?夫婦ってのは体力も気力も付いていけなくなれば最後はどちらかが看取ればいい関係だと思ってるの。どう?飲めるなら結婚してあげるわ」

アンセルは迷った。

確かにアンネマリーのいう通りなのだ。
リーゼロッテとは一緒に過ごす時間が長すぎてつまらないと思う事も多くなった。倦怠期の入り口なのか、真っ只中なのか。

出会った頃の様なトキメキも無ければ、他の男に取られてしまうかも知れないという不安もない。ただ一緒に居れば気取らなくて済むので気が楽だという事もある。

それに両親を見ているとつくづく感じる。お互いがいない所で子供に欠点や短所を最大限に悪く言う。そこまで嫌なら離縁すればいいじゃないかと思うのだが、これが離縁をしない。

だったら常に恋をするような相手と楽しくやれば時間の経つのも忘れて過ごせそうだ。

色々と考える必要もなければ、何かを天秤にかける必要もない。
アンセルは確認のためにもう一度問う。

「それはお互いが恋人を作り、体の関係があっても口出しはしない、そう言う事か?」

「そうよ。わたくしには恋人がいて楽しく過ごしているのにアンセルに恋人が出来たからと言って嫉妬はしないわ。だって夫でしょう?夫と恋人は全く違うわ」


アンネマリーは言った。

夫は肉若しくは魚。恋人はスパイスなどのような調味料なのだと。

味付けのない肉や魚は食べられないわけではないが毎日続くと文句も言いたくなるが、ないと困る。
対してスパイスも同じ味付けばかりは飽きてしまう。

夫(妻)を美味しく食べようと思えば異なる調味料が沢山あればあるほどに飽きることなく楽しめるだろう。

「お互いを思いやろう、大事にしようと思えば常に新しいスパイスは必要よ。昨日と同じ今日、今日と同じ明日。なんてつまらない人生。1度しかない人生なのにそれで満足できると思う?」

2択で答えるなら「満足できない」としか思えなかったアンセルは「2つの条件を飲むよ」と答えを返したのだった。
感想 24

あなたにおすすめの小説

必要とされなくても、私はここにいます

あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。 口出ししない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 ただ静かに、そこにいるだけ。 そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。 張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。 何かを勝ち取る物語ではない。 誰かを打ち負かす物語でもない。 それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。 これは、 声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、 何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

【完結】帳簿係の地味令嬢、商会の不正を見抜いて王宮に見出されました。

夏灯みかん
恋愛
王都の商工会議所で働く、地味な帳簿係エミリー。 真面目に記録をつけることだけが取り柄の彼女は、同僚から軽く扱われ、雑用を押しつけられる日々を送っていた。 そんなある日――エミリーは、孤児院への配給物資の記録に、わずかな“ズレ”があることに気づく。 数量は合っている。 だが、なぜか中身の重量だけが減っている。 違和感を覚えたエミリーは、自ら倉庫へ足を運び、現物を確認する。 そこで見つけたのは、帳簿では見えない“静かな不正”だった。 しかしその矢先――不正の責任を押しつけられ、職場から追い出されそうになってしまう。 それでもエミリーは諦めない。ただ一つ、自分が積み上げてきた“記録”を信じて。 「では、正式な監査をお願いいたします」 やがてその記録は、王宮の政務監査官リオンの目に留まり―― 隠されていた不正はすべて暴かれる。 そして、彼女を軽んじていた者たちは、その代償を支払うことになる。 これは、地味で目立たなかった一人の帳簿係が、 “正しく記録した”ことで不正を暴き、王宮に見出されるまでの物語。

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」