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第16話 出立
翌日、アンセルはまた教会にやってきた。
「リーゼロッテ・ベルカムと面会をしたい。取り次いでくれ」
「少々お待ちください」
「昨日もそう言ったぞ。僕は面会がしたいんだ。2人きりに問題があるなら修道士数人が同室しても構わない。どうしても面会しなきゃいけないんだ」
「ですから、お待ちください。ベルカムさんは自主奉仕なのです。誰を付き添いにしようが会う、会わないを決めるのはベルカムさんなのです」
「チッ」
舌打ちをするアンセルを修道士は溜息を吐いて眺める。
既に昨日、リーゼロッテは自主奉仕の終了を手続きしているので教会に居ない事は解っていたが、理由があって自主奉仕を申し込んだ者を「終わってますから」と誰彼に教えることはない。
教会は人を救う場所。舌打ちをするような輩に融通を利かせる場所ではない。
奥に引いた修道士は他の修道士と茶を飲む。
リーゼロッテは部屋も引き払ったしいないのだから適当に時間を潰す必要がある。
なんならもう相手をしたくないので夕方まで10時間以上待たせる手もあるが、騒ぎ出しそうなので頃合いを見計らった。
修道士は15分ほど時間を置いてアンセルの待つ受付に向かった。
「どうだ。会えるか?何処に行けばいい?この前の部屋か?」
身を乗り出して尋ねるアンセルに修道士は静かに告げた。
「ベルカムさんは会えません。教会にお戻りになられるのは早くてもバザーの終わった翌日になります」
「なんでリゼが?教会の仕事でどこかに出向いたのか?それならお前たちの仕事だろう。自主奉仕の人間にさせる事か?!」
「何か間違って理解をされているようですが、自主奉仕の期間中は正式な修道士、修道女ではなく仮となります。仮ですが教会にいる以上は同等の役目を行うのですよ」
「役に立たねぇな!バザーの翌日だな?」
「えぇ。早ければ、ですけども。はい。次の方、お待たせしました。どうぞ」
帰っていくアンセルを修道士はカウンターに隠れた場所で小さく手を振る。
嘘は言っていない。
いつリーゼロッテが教会に戻るかは判らないが何か忘れ物でもすれば途中で引き返してくるだろうから、そうだとすれば1週間はかかると予測をしただけ。
なので「早ければ」と断りを入れた。
アンセルは「教会の仕事」と勝手な解釈をしたが修道士は一言もそんな事は言っていないし、自主奉仕の決め事も誤って理解をしているようなので説明をしただけ。
「今度来た時はなんて言おうかな」
修道士はそんな事を思いながら次に受付にやってきた親子連れの手続きを始めたのだった。
★~★
デルモントとリーゼロッテが出立をしたのはアンセルが教会を出てかなり時間の経った夕方だった。
販売所からの出立なのでアンセルもまさかここから旅立ったとは思いもしないだろう。
通常夜の移動は危険を伴うので行わないのだが、デルモントは夜の方が星が出ているので方向を間違わない可能性が高いし、虫に刺されないからと言った。
その言葉通り、王都の外周を囲っている城壁の門を出たのは深夜の23時過ぎ。
そこからは月明りを頼りに馬を引いてゆっくりと歩く。
「あの…道はこちらですけど?」
「その道は通らないんだ。遠回りになるからね。この先は獣道になるけどほぼ直線だから街道を歩くより3日は短縮できる。歩くのが辛いかも知れないが3日歩かなくていいと思えば」
――そういう理屈なんだ?――
獣道と言っても行商をする者など大きな荷馬車ではなくせいぜいが人間の単体、もしくは今のように馬を引きながらなら結構利用されているようで整備をされていないだけの道が月明りの下に見えた。
「冬場だと言っても昼間は虫に刺されるんだ。蛇なんかも夜には活動するんだけど」
「ヒュッ!!」
「あぁ大丈夫。この時期は冬眠してるよ。でも1か月だったら冬眠から目覚める時期だ」
「そ、そうなんですね」
蛇と聞いて息を飲んでしまったが冬眠中と加えられて幾分安心が出来た。
自分たちの足音だけが枯草に音を奏でさせるが、冬場の凛と冷えた空気の中を歩くのもそんなに悪くない。
歩きながらデルモントはリーゼロッテが不安にならないように話をしてくれた。
殆どはこれから向かう先のオッペル男爵領のこと。
時折王都の販売所にいるソフィー一家の事を交えてくれる。
――冷たそうだけどそんなに悪い人じゃないんだわ――
夜中の2時頃まで歩いていると少し開けた場所に出た。
「ここで待っててくれ」
馬とリーゼロッテを残してデルモントはしゃがみ込み何かを始めた。何をしているのかと問えば焚火をするので燃えやすそうな細い枝を探しているとしゃがんだ姿勢のままで返事が返って来る。
デルモントは適当な木を拾ってくると馬の鞍にぶら下げた袋から火打石を取り出してカチカチ火花を散らした。
地面すれすれに顔を付けて息を吹きかけると白い煙が棚引いて炎がポッと噴出した。
「夜食だ。そんなに腹は空いてないかも知れないが少しでも食べれば体温が上がる。寝袋で朝まで寝るんだ」
そう言いながらデルモントは「火の番を頼む」とリーゼロッテに言ってパンを口の中に捻じ込むと先に寝袋の中に入り込んで寝てしまった。
――え?まさか私徹夜なの?朝まで寝るって?え?――
混乱してしまう。よく判らないまま焚火の火は絶やしてはいけないのだろうと近場にある落ち葉を拾って放り込んでいると1時間ほどでデルモントが起きてきた。
「次は君の番だ。襲わないから安心して寝るといい」
「交代だったんですか?」
「そうだが?」
「(先に言ってよ)」
余りにも当たり前に言葉を返されてリーゼロッテは「先に言え」とは言い出せず寝袋に潜り込んだ。
「あ、あったかい…」
「当たり前だ。さっきまで俺が寝てたんだから」
――って事は先に私が寝る日は次にデルモントさんが使うって事?――
この時になって寝袋が交代で共用だという事にリーゼロッテは初めて気が付いたのだった。
道理で荷物が最小限だったはずだった。
「リーゼロッテ・ベルカムと面会をしたい。取り次いでくれ」
「少々お待ちください」
「昨日もそう言ったぞ。僕は面会がしたいんだ。2人きりに問題があるなら修道士数人が同室しても構わない。どうしても面会しなきゃいけないんだ」
「ですから、お待ちください。ベルカムさんは自主奉仕なのです。誰を付き添いにしようが会う、会わないを決めるのはベルカムさんなのです」
「チッ」
舌打ちをするアンセルを修道士は溜息を吐いて眺める。
既に昨日、リーゼロッテは自主奉仕の終了を手続きしているので教会に居ない事は解っていたが、理由があって自主奉仕を申し込んだ者を「終わってますから」と誰彼に教えることはない。
教会は人を救う場所。舌打ちをするような輩に融通を利かせる場所ではない。
奥に引いた修道士は他の修道士と茶を飲む。
リーゼロッテは部屋も引き払ったしいないのだから適当に時間を潰す必要がある。
なんならもう相手をしたくないので夕方まで10時間以上待たせる手もあるが、騒ぎ出しそうなので頃合いを見計らった。
修道士は15分ほど時間を置いてアンセルの待つ受付に向かった。
「どうだ。会えるか?何処に行けばいい?この前の部屋か?」
身を乗り出して尋ねるアンセルに修道士は静かに告げた。
「ベルカムさんは会えません。教会にお戻りになられるのは早くてもバザーの終わった翌日になります」
「なんでリゼが?教会の仕事でどこかに出向いたのか?それならお前たちの仕事だろう。自主奉仕の人間にさせる事か?!」
「何か間違って理解をされているようですが、自主奉仕の期間中は正式な修道士、修道女ではなく仮となります。仮ですが教会にいる以上は同等の役目を行うのですよ」
「役に立たねぇな!バザーの翌日だな?」
「えぇ。早ければ、ですけども。はい。次の方、お待たせしました。どうぞ」
帰っていくアンセルを修道士はカウンターに隠れた場所で小さく手を振る。
嘘は言っていない。
いつリーゼロッテが教会に戻るかは判らないが何か忘れ物でもすれば途中で引き返してくるだろうから、そうだとすれば1週間はかかると予測をしただけ。
なので「早ければ」と断りを入れた。
アンセルは「教会の仕事」と勝手な解釈をしたが修道士は一言もそんな事は言っていないし、自主奉仕の決め事も誤って理解をしているようなので説明をしただけ。
「今度来た時はなんて言おうかな」
修道士はそんな事を思いながら次に受付にやってきた親子連れの手続きを始めたのだった。
★~★
デルモントとリーゼロッテが出立をしたのはアンセルが教会を出てかなり時間の経った夕方だった。
販売所からの出立なのでアンセルもまさかここから旅立ったとは思いもしないだろう。
通常夜の移動は危険を伴うので行わないのだが、デルモントは夜の方が星が出ているので方向を間違わない可能性が高いし、虫に刺されないからと言った。
その言葉通り、王都の外周を囲っている城壁の門を出たのは深夜の23時過ぎ。
そこからは月明りを頼りに馬を引いてゆっくりと歩く。
「あの…道はこちらですけど?」
「その道は通らないんだ。遠回りになるからね。この先は獣道になるけどほぼ直線だから街道を歩くより3日は短縮できる。歩くのが辛いかも知れないが3日歩かなくていいと思えば」
――そういう理屈なんだ?――
獣道と言っても行商をする者など大きな荷馬車ではなくせいぜいが人間の単体、もしくは今のように馬を引きながらなら結構利用されているようで整備をされていないだけの道が月明りの下に見えた。
「冬場だと言っても昼間は虫に刺されるんだ。蛇なんかも夜には活動するんだけど」
「ヒュッ!!」
「あぁ大丈夫。この時期は冬眠してるよ。でも1か月だったら冬眠から目覚める時期だ」
「そ、そうなんですね」
蛇と聞いて息を飲んでしまったが冬眠中と加えられて幾分安心が出来た。
自分たちの足音だけが枯草に音を奏でさせるが、冬場の凛と冷えた空気の中を歩くのもそんなに悪くない。
歩きながらデルモントはリーゼロッテが不安にならないように話をしてくれた。
殆どはこれから向かう先のオッペル男爵領のこと。
時折王都の販売所にいるソフィー一家の事を交えてくれる。
――冷たそうだけどそんなに悪い人じゃないんだわ――
夜中の2時頃まで歩いていると少し開けた場所に出た。
「ここで待っててくれ」
馬とリーゼロッテを残してデルモントはしゃがみ込み何かを始めた。何をしているのかと問えば焚火をするので燃えやすそうな細い枝を探しているとしゃがんだ姿勢のままで返事が返って来る。
デルモントは適当な木を拾ってくると馬の鞍にぶら下げた袋から火打石を取り出してカチカチ火花を散らした。
地面すれすれに顔を付けて息を吹きかけると白い煙が棚引いて炎がポッと噴出した。
「夜食だ。そんなに腹は空いてないかも知れないが少しでも食べれば体温が上がる。寝袋で朝まで寝るんだ」
そう言いながらデルモントは「火の番を頼む」とリーゼロッテに言ってパンを口の中に捻じ込むと先に寝袋の中に入り込んで寝てしまった。
――え?まさか私徹夜なの?朝まで寝るって?え?――
混乱してしまう。よく判らないまま焚火の火は絶やしてはいけないのだろうと近場にある落ち葉を拾って放り込んでいると1時間ほどでデルモントが起きてきた。
「次は君の番だ。襲わないから安心して寝るといい」
「交代だったんですか?」
「そうだが?」
「(先に言ってよ)」
余りにも当たり前に言葉を返されてリーゼロッテは「先に言え」とは言い出せず寝袋に潜り込んだ。
「あ、あったかい…」
「当たり前だ。さっきまで俺が寝てたんだから」
――って事は先に私が寝る日は次にデルモントさんが使うって事?――
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