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第18話 嫁に来るか?
2人と1頭はゆっくりと歩いてオッペル男爵領に着実に近づいていたが、そのスピードは更に遅くなっていた。
「ごめんなさい。先に行ってくれてても大丈夫です。この道を真っすぐ行けばいいんですよね」
「何言ってる。こんなところに置いて行けるわけがない。ほら、足出せ」
河原で大きな石にリーゼロッテを座らせるとデルモントは火を起こし、川で水を汲んでくると馬の鞍にぶら下げた袋から小さな片手鍋を取り出すと湯を沸かす。
人肌ほどに温度が冷めるとそれでリーゼロッテの足を洗い、軟膏を塗る。
旅慣れているものでもマメや靴擦れには悩まされるものだが、歩くと言っても中途半端な距離ではない。
長い道のりでリーゼロッテはずっと我慢をしていたが、遂に歩けなくなった。
どうしたんだろうと足を庇うリーゼロッテにデルモントは靴を脱がせ、足の裏を見た。
幾つもマメが潰れていて踵も数日前に靴擦れになっていたのに無理をして歩いたものだから傷口が広がっていた。
「明日からは俺の背中に乗れ」
「そんなことできません」
「すまないがこの馬は人間の年齢で言えばもう80代なんだ。女性は軽いけれどそれでも負担になるから馬に乗ることは出来ない。なら俺が背負うしかないだろう」
傷口が治るまで野宿する事も出来ず、今日で1週間目。予定より到着はかなり遅れているがデルモントはリーゼロッテを背負って手綱を引きゆっくりと歩いた。
「だいぶ良くなったな。ジクジクした部分が乾いて来てる」
「ごめんなさい」
「全くだ。もっと早くに言ってくれたら…あ‥違うぞ?咎めた訳じゃない」
そんな事はないよと優しい声を期待した訳ではないが、全くだと呆れ気味に言われてしまったリーゼロッテは俯いて肩を落とした。
そんなリーゼロッテをデルモントは慌てて「そんな意味じゃない」と慰めた。
「ごめんなさい」
「もう謝るな。ほら、次は左足」
「はい、でもこんな事までしてもらって恥ずかしいです」
「足の付け根は見えていないから恥ずかしがることはない」
「そ、そ、そうじゃないですっ!」
「見える訳ないだろ?トラウザーズなのに」
「そうですけどっ!そうですけどっ!」
デルモントは右腕が使えないので背中にリーゼロッテを背負っても左手は手綱を握っていてリーゼロッテの腰を支える事が出来ない。
なので、馬の鞍にぶら下げていた荷物の1つを腰に巻いて簡易の椅子替わりにし、リーゼロッテは自身で両足をデルモントの臍のあたりに回す。
胸の前でたすき掛けにした布にふくらはぎを突っ込んでバランスを取るので歩くたびにふくらはぎはギシギシと締まって少し痣にもなっているが、そうしないと背負う事が出来ない。
リーゼロッテの事を軽いとは言うが40kg以上ある体重を背負って歩くのだからデルモントの負担は決して軽くない。
そして水場を見つけるとデルモントも休憩がてらだろうが、こうやって傷口を洗ってくれるのだが、人様に見せられる格好ではない。
片足ごとなので洗った方の足はデルモントの肩に乗せられてしまうのだ。
初日は恥ずかしさもあったが痛みには勝てなかった。
開き直ればいいと言われてリーゼロッテは開き直った。
1週間目となる今日は言われなくてもされるがままだ。
「辺境騎士をしてた頃は前線に食料とか背負って届けてたりしたから慣れてるよ」
「慣れてると言っても重いですよね」
「軽いと言ってるだろ?食料は70kgはあったんだぞ?そこに自分も装備。100kg近い荷物で山登りに崖登り。慣れたものさ」
「が、崖も?!」
「あぁ。ヤギより上手く崖は登れるぞ?」
「危ないからやめてください!」
「しねぇよ。片手じゃ無理だからな」
左手だけだがデルモントは器用にリーゼロッテの足の指の間まで洗ってくれる。
ムクロジの実を見つけて洗剤代わりに使う時はつるつると滑りが良くなるの擽ったくて体を捩り「やめてぇ」と懇願する事もあるが。
「もう足まで俺に洗われたんだ。他には行けないだろ。嫁に来るか?」
「え?」
「誰彼に見せるものでもないだろう?それとも結婚相手に ”他の男に足を丁寧に洗われたことがあります” ”足を肩に乗せて” って言えるか?」
「それは言えないですけど…言わなくてもいいかなとか」
「夫婦に秘密はあっちゃいけないんだ。不和の原因にしかならないからな。よし、拭き上げるぞ。傷口に当たって痛いときは痛いとちゃんと言うんだぞ」
「痛いです」
「あぁん?まだ拭いてないが?」
「冗談です」
「お前な!」
少しだけ大きい声を出すが、リーゼロッテが腰を下ろした石から転げ落ちないように差し出した左手はリーゼロッテの腰を支えている。
――こんな人が夫だったら幸せなのかな――
そんな事も考えてしまったのは背中が温かかったからだろうか。
「デルモント様は優しいのね」
「そうか?乱暴に軟膏を塗りこむこともできるが?」
「やめてください!結婚してくれるんでしょう?なら妻には優しくすべきですっ!」
「へぇへぇ。せいぜい優しくするよ。お・く・さ・ま」
「きゃぁぁ!優しくしてってば!!」
「優しいだろうが」
「優しくないっ!あははっやだっ!!擽らないで!!」
「そうか?俺には喜んでいるようにしか見えないが?」
明らかにデルモントはリーゼロッテで遊んでいる。
足裏をコショコショと擽っていたのだった。
「ごめんなさい。先に行ってくれてても大丈夫です。この道を真っすぐ行けばいいんですよね」
「何言ってる。こんなところに置いて行けるわけがない。ほら、足出せ」
河原で大きな石にリーゼロッテを座らせるとデルモントは火を起こし、川で水を汲んでくると馬の鞍にぶら下げた袋から小さな片手鍋を取り出すと湯を沸かす。
人肌ほどに温度が冷めるとそれでリーゼロッテの足を洗い、軟膏を塗る。
旅慣れているものでもマメや靴擦れには悩まされるものだが、歩くと言っても中途半端な距離ではない。
長い道のりでリーゼロッテはずっと我慢をしていたが、遂に歩けなくなった。
どうしたんだろうと足を庇うリーゼロッテにデルモントは靴を脱がせ、足の裏を見た。
幾つもマメが潰れていて踵も数日前に靴擦れになっていたのに無理をして歩いたものだから傷口が広がっていた。
「明日からは俺の背中に乗れ」
「そんなことできません」
「すまないがこの馬は人間の年齢で言えばもう80代なんだ。女性は軽いけれどそれでも負担になるから馬に乗ることは出来ない。なら俺が背負うしかないだろう」
傷口が治るまで野宿する事も出来ず、今日で1週間目。予定より到着はかなり遅れているがデルモントはリーゼロッテを背負って手綱を引きゆっくりと歩いた。
「だいぶ良くなったな。ジクジクした部分が乾いて来てる」
「ごめんなさい」
「全くだ。もっと早くに言ってくれたら…あ‥違うぞ?咎めた訳じゃない」
そんな事はないよと優しい声を期待した訳ではないが、全くだと呆れ気味に言われてしまったリーゼロッテは俯いて肩を落とした。
そんなリーゼロッテをデルモントは慌てて「そんな意味じゃない」と慰めた。
「ごめんなさい」
「もう謝るな。ほら、次は左足」
「はい、でもこんな事までしてもらって恥ずかしいです」
「足の付け根は見えていないから恥ずかしがることはない」
「そ、そ、そうじゃないですっ!」
「見える訳ないだろ?トラウザーズなのに」
「そうですけどっ!そうですけどっ!」
デルモントは右腕が使えないので背中にリーゼロッテを背負っても左手は手綱を握っていてリーゼロッテの腰を支える事が出来ない。
なので、馬の鞍にぶら下げていた荷物の1つを腰に巻いて簡易の椅子替わりにし、リーゼロッテは自身で両足をデルモントの臍のあたりに回す。
胸の前でたすき掛けにした布にふくらはぎを突っ込んでバランスを取るので歩くたびにふくらはぎはギシギシと締まって少し痣にもなっているが、そうしないと背負う事が出来ない。
リーゼロッテの事を軽いとは言うが40kg以上ある体重を背負って歩くのだからデルモントの負担は決して軽くない。
そして水場を見つけるとデルモントも休憩がてらだろうが、こうやって傷口を洗ってくれるのだが、人様に見せられる格好ではない。
片足ごとなので洗った方の足はデルモントの肩に乗せられてしまうのだ。
初日は恥ずかしさもあったが痛みには勝てなかった。
開き直ればいいと言われてリーゼロッテは開き直った。
1週間目となる今日は言われなくてもされるがままだ。
「辺境騎士をしてた頃は前線に食料とか背負って届けてたりしたから慣れてるよ」
「慣れてると言っても重いですよね」
「軽いと言ってるだろ?食料は70kgはあったんだぞ?そこに自分も装備。100kg近い荷物で山登りに崖登り。慣れたものさ」
「が、崖も?!」
「あぁ。ヤギより上手く崖は登れるぞ?」
「危ないからやめてください!」
「しねぇよ。片手じゃ無理だからな」
左手だけだがデルモントは器用にリーゼロッテの足の指の間まで洗ってくれる。
ムクロジの実を見つけて洗剤代わりに使う時はつるつると滑りが良くなるの擽ったくて体を捩り「やめてぇ」と懇願する事もあるが。
「もう足まで俺に洗われたんだ。他には行けないだろ。嫁に来るか?」
「え?」
「誰彼に見せるものでもないだろう?それとも結婚相手に ”他の男に足を丁寧に洗われたことがあります” ”足を肩に乗せて” って言えるか?」
「それは言えないですけど…言わなくてもいいかなとか」
「夫婦に秘密はあっちゃいけないんだ。不和の原因にしかならないからな。よし、拭き上げるぞ。傷口に当たって痛いときは痛いとちゃんと言うんだぞ」
「痛いです」
「あぁん?まだ拭いてないが?」
「冗談です」
「お前な!」
少しだけ大きい声を出すが、リーゼロッテが腰を下ろした石から転げ落ちないように差し出した左手はリーゼロッテの腰を支えている。
――こんな人が夫だったら幸せなのかな――
そんな事も考えてしまったのは背中が温かかったからだろうか。
「デルモント様は優しいのね」
「そうか?乱暴に軟膏を塗りこむこともできるが?」
「やめてください!結婚してくれるんでしょう?なら妻には優しくすべきですっ!」
「へぇへぇ。せいぜい優しくするよ。お・く・さ・ま」
「きゃぁぁ!優しくしてってば!!」
「優しいだろうが」
「優しくないっ!あははっやだっ!!擽らないで!!」
「そうか?俺には喜んでいるようにしか見えないが?」
明らかにデルモントはリーゼロッテで遊んでいる。
足裏をコショコショと擽っていたのだった。
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