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cyaru

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第19話  焚火の炎よりも

リーゼロッテはデルモントの距離感を取りながらでも人としてすべきことを敢行する姿勢には感謝をしていた。両親の手前、放っておくことは出来ないにしても絶対に無理はさせない。

リーゼロッテの事も馬の事も考えて自分が辛いであろうことが容易に想像できるのにこうやって背負ってくれる。

「重くないですか?」

「全然」

素っ気ない返事でもどこか温かく感じる。
3日目だったか4日目だったか。夜に雨が降った時は寝袋にリーゼロッテを放り込んでデルモントは「冷えるから」と一晩中洞穴の中で火の番をしながら抱いてくれていた。

翌日は一睡もしていないので眠いだろうにリーゼロッテを背負って馬の手綱を引きまた歩く。

「行軍は48時間歩きっぱなしってのもあったから平気だ」

そうは言うものの疲れていないはずがないのにデルモントは弱音を吐かないのだ。
その姿には心を動かされるものがあった。

冗談交じりでも「嫁に来るか」と言われた時は、胸の奥がじわっと温かくなった。
気恥ずかしくて誤魔化してしまったけれど、デルモントとオッペル男爵領で働くのも悪くないだろうなと想像してしまった。


♡~♡

デルモントは少しばかり焦っていた。

他者からは右腕が使えない事で散々に言われたし、女性からも「子供まで片腕が飾りなのかも知れない」などと言われた。娼婦ですらデルモントの右腕を見てまるで見世物のように見た。

身体的に人と違う。それだけで評価がまるで違う。人として扱ってくれない事だってあった。

リーゼロッテをオッペル男爵領で暫く預かると言った言葉は嘘ではない。
誰だって謂れなき中傷で傷つきたくはない。経験があったからこそベルカム子爵領で受け入れる環境が整うまで面倒を見ても良いと思ったのだ。

出立をしてかなりの道のりを歩いたのに文句ひとつ言わないリーゼロッテを不思議に思った。
疲れただの、馬がいるんだから乗せろと言い出すかと思いきや必死で歩いてくる。

時折歩くペースが落ちるが小走りになって追い付いてくるし、気概があるなと思っていたら遂に歩けなくなった。

もしや?と足を見れば辛うじて皮があるくらいになっていて辺境騎士でもこんな状態になったら泣き出しているのに堪えているリーゼロッテが不思議な生き物に見えた。

背負う事にしたのはそれ以外に方法が無かった。
横抱きにしようにも右腕は使えないので横抱きは無理だった。

歩ける状態ではないのに「歩きます」と言うリーゼロッテにデルモントは疑問符が飛ぶ。

――そこは馬に乗せろじゃないのか?――

「これしか方法がない」

そう言って無理やり背中に背負った。

進むペースは格段に落ちたけれど、背負っているリーゼロッテと交わす会話を途切れさせたくなくて休憩場所を「もう1つ先まで伸ばそう」とする自分がいた。

それだけリーゼロッテとの会話は楽しかったのだ。

背中が今まで感じたことのない温もりを感じ、ふと祖母の言葉を思い出した。

【好きな人の為なら苦労は苦労でなくなるんだよ】

リーゼロッテには「軽い」と言った。確かに軽いと言えば軽いが負担にならないわけではなく体には疲労が蓄積していく。

実際足はもうパンパンで1歩が辛いけれど、それを辛いと思わず背中の温もりをずっと感じていたいと思う自分がいるのも事実。

――婚約、断ったけどこの子が妻になったら楽しいかもな――

心の中にそんな思いがあったからか、ついリーゼロッテの足を洗っている時に「嫁に来るか」と言ってしまった。取り繕おうとしたがリーゼロッテの反応が悪くなかった事に図に乗ってしまった。


♡~♡

そのまま今夜は河原で過ごすことにした2人。
デルモントはまだ冷たいであろう川にザブサブと入ると浅瀬で石を積み始めた。

よたよたと歩き、「何をしてるの?」とリーゼロッテが声を掛けると「魚を獲るんだ」と答えた。

流れに沿って石を積み上げて堀を作るとそこに迷い込んだ魚をデルモントは素手で捕まえて「今夜は晩餐だ」ニマっと笑った。

「晩餐って手のひらサイズの魚じゃないの」

「解ってねぇなぁ。これが旨いんだよ」

「そうなの?ほっぺが落ちたらどうしましょう」

「拾ってくっつけてやるさ。領に行けばもっと旨い木の実とかあるからな。ここで落としたままにしとけないだろ」

味付けもない子魚が美味しかったかと言えば噓になる。食材としては最高でもやはり味付けは必要だと思いつつ、そして到底これだけで腹が満たされる筈も無かったけれど、リーゼロッテは魚をがぶりとワイルドに丸かじりするのは生れて初めての経験。

カブっと齧りつくと焦げの味の中に魚独特の香りが鼻孔に抜ける。

「旨いだろ」

「うーん…」

「そこは旨いって言うんだよ。魚にも失礼だろが」

「美味い…んにゃ…痛っ」

「どうした?」

ひゃんはなにかかはい固い…」

「骨でも刺さったか?見せてみろ」

「ふぇっ?」

「こっち来て口の中を見せてみろと言ってるんだ」

のみほんではい飲み込んでないっ!」

「いいから!見せてみろって」

ひゃはぁやだぁ!!」

嫌がっても逃げられるはずがない。リーゼロッテはデルモントの膝枕で口を開けさせられて口の中をじっくりと観察されてしまい、人生で最大級の羞恥を感じ、焚火の炎よりも顔が紅潮してしまった。
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