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第20話 危機を察知したのは馬
オッペル男爵領が眼下に広がる峠に到着をしたのは王都を出立して3週間目。嫁に来るかと言われて小魚を食べた日から12日目の事だった。
リーゼロッテはデルモントに1つお願いをした。
「ねぇ、デル。足に布を巻いて欲しいんだけど、だめ?」
「却下だな」
「なんで?背負われたままなんて恥ずかしいじゃないの」
「言っただろう?今の俺は、今後もだがロゼを横抱きには出来ないんだ」
すっかり打ち解けた2人はお互いを愛称で呼びあい気安い会話を交わすのだが、横抱きに出来ないのは解っているとして何故だ?リーゼロッテが頭の中で疑問符を飛ばす。
横抱きに出来たとしてどうだというのだろうか。
――ハッ?!まさか横抱きで領民に披露する気?――
そんな事をされたら恥ずかしすぎて部屋から出られなくなる。下ろせ、下ろせと背中でじたばた暴れると手頃な岩に近づいてデルモントはリーゼロッテを背中から下ろした。
「我儘な奥さんだな」
「まだ奥さんじゃありませーん」
「遅かれ早かれだ。屋敷に付いたらご両親に手紙を書く。返事が来たら部屋から出られないと思えよ?」
「え?私、監禁されるの?まさかデルモントはそんな人だったの?!」
「違うっ!そういう性癖はない。だが…朝まで抱き潰したら立てるわけがないと言ってるんだ」
「真顔で言わないで」
「監禁とかはしないと言ってる!」
「そこじゃないわ。そのあとよ」
「どちらも事実になる。撤回はない」
――マジか――
そう思いつつも岩にリーゼロッテを座らせるとデルモントはリーゼロッテの要望通り足に布を巻く。足らない分は袖を引き千切ってグルグルと巻いていく。
その巻き方は変わっていて「立ってみろ」と言われて久しぶりに靴も履いて歩くととても歩きやすい。
「わぁ。歩きやすい。なんていうか…足が軽いわ」
「ゲートルみたいに巻いたからな。少し足が苦しいだろうが無理はするなよ?痛くなればすぐに言うんだ」
「はーい。うふっ。なんだか王都まで2、3往復出来そうな感じ」
「出来るか!させないしな」
「え?やっぱり監禁?」
「しねぇって言ってるだろ。全く…。そこまで言うって事はロゼこそされたいんじゃないのか?良いんだぞ?俺の寝台に縛り付けておいても」
「遠慮しときます」
馬を引いて峠を下るとデルモントを見つけた領民が駆け寄って来るが、隣にいるリーゼロッテを見て「誰?」と不思議そうな顔をする。
「ご領主さん。養子でもとったんですかぃ?」
「養子じゃない。妻だ」
「そうですか。妻‥‥妻っ?!え?あの、妻ってあの妻?!」
「それ以外に何の妻があるというんだ」
「ひゃぁぁ!大変だ!皆に知らせなきゃ!!」
「おい!待て!」
領民は脱兎のごとく駆け出し、大声で「妻が来たー!」と叫ぶ。
リーゼロッテとデルモントは細い目になったが、リーゼロッテがぽつりとつぶやいた。
「まだ妻じゃないのに、どうするの?」
「あ~。善処する」
「どう善処するの!そこはもうすぐ妻とか!デルはちょっとの付け足しがないから勘違いしちゃったじゃない!」
「いいよ。言ったろ?遅かれ早かれだ」
「なんだかデル…変わったわね。最初はツンツンしてる感じだったのに」
「ロゼ限定だ。誰彼に同じって訳じゃない。さ、行くぞ。屋敷まで歩けるか?」
「歩けますよ。言ったでしょう?王都まで2、3往復出来そうって。ふふっ」
屋敷までのあぜ道を馬を引いてゆっくりと歩く途中で今更の質問をデルモントがリーゼロッテに問いかけた。
「なぁロゼ」
「なに?」
「本当に俺でいいのか?今ならまだ結婚は調ってないしどうにでもなる。俺はこの通り右手が飾りだしロゼがその事で何か言われるのは――」
「何を言ってるの。私が好きになったのはデルなの。右手も全部ひっくるめて大好きだからこそ結婚しようと決めたの。飾りの部分なんか何処にもないわ。ずっと背負ってきてくれたでしょう?気にしている右手が瑕疵になった事なんて一度も無かったわ」
「そっか…それならいいんだ」
「だったらデルはどうして私と?それこそ謎だわ」
「そうだな。うーん…全部?と言いたいが、しいて言えば背中に当たる双璧が俺の背を押してたからかな」
「え…」
「ブルルッ!!ブルッ!」
リーゼロッテが足を止め、クワっと目を見開いたのを最初に感知した年老いた馬は少し小走りになる。
危険を察知し主のデルモントの窮地を救おうとしたのだった。
「こらぁ!デルっ!逃げるなぁ!」
「違うって。こいつが突然っ。おい!止まれって!」
馬の足はどんどん速くなる。次第にデルモントは馬を引いているのではなく、馬に引かれて駆け足になるが、その後ろをリーゼロッテは追いかける格好になったのだった。
リーゼロッテはデルモントに1つお願いをした。
「ねぇ、デル。足に布を巻いて欲しいんだけど、だめ?」
「却下だな」
「なんで?背負われたままなんて恥ずかしいじゃないの」
「言っただろう?今の俺は、今後もだがロゼを横抱きには出来ないんだ」
すっかり打ち解けた2人はお互いを愛称で呼びあい気安い会話を交わすのだが、横抱きに出来ないのは解っているとして何故だ?リーゼロッテが頭の中で疑問符を飛ばす。
横抱きに出来たとしてどうだというのだろうか。
――ハッ?!まさか横抱きで領民に披露する気?――
そんな事をされたら恥ずかしすぎて部屋から出られなくなる。下ろせ、下ろせと背中でじたばた暴れると手頃な岩に近づいてデルモントはリーゼロッテを背中から下ろした。
「我儘な奥さんだな」
「まだ奥さんじゃありませーん」
「遅かれ早かれだ。屋敷に付いたらご両親に手紙を書く。返事が来たら部屋から出られないと思えよ?」
「え?私、監禁されるの?まさかデルモントはそんな人だったの?!」
「違うっ!そういう性癖はない。だが…朝まで抱き潰したら立てるわけがないと言ってるんだ」
「真顔で言わないで」
「監禁とかはしないと言ってる!」
「そこじゃないわ。そのあとよ」
「どちらも事実になる。撤回はない」
――マジか――
そう思いつつも岩にリーゼロッテを座らせるとデルモントはリーゼロッテの要望通り足に布を巻く。足らない分は袖を引き千切ってグルグルと巻いていく。
その巻き方は変わっていて「立ってみろ」と言われて久しぶりに靴も履いて歩くととても歩きやすい。
「わぁ。歩きやすい。なんていうか…足が軽いわ」
「ゲートルみたいに巻いたからな。少し足が苦しいだろうが無理はするなよ?痛くなればすぐに言うんだ」
「はーい。うふっ。なんだか王都まで2、3往復出来そうな感じ」
「出来るか!させないしな」
「え?やっぱり監禁?」
「しねぇって言ってるだろ。全く…。そこまで言うって事はロゼこそされたいんじゃないのか?良いんだぞ?俺の寝台に縛り付けておいても」
「遠慮しときます」
馬を引いて峠を下るとデルモントを見つけた領民が駆け寄って来るが、隣にいるリーゼロッテを見て「誰?」と不思議そうな顔をする。
「ご領主さん。養子でもとったんですかぃ?」
「養子じゃない。妻だ」
「そうですか。妻‥‥妻っ?!え?あの、妻ってあの妻?!」
「それ以外に何の妻があるというんだ」
「ひゃぁぁ!大変だ!皆に知らせなきゃ!!」
「おい!待て!」
領民は脱兎のごとく駆け出し、大声で「妻が来たー!」と叫ぶ。
リーゼロッテとデルモントは細い目になったが、リーゼロッテがぽつりとつぶやいた。
「まだ妻じゃないのに、どうするの?」
「あ~。善処する」
「どう善処するの!そこはもうすぐ妻とか!デルはちょっとの付け足しがないから勘違いしちゃったじゃない!」
「いいよ。言ったろ?遅かれ早かれだ」
「なんだかデル…変わったわね。最初はツンツンしてる感じだったのに」
「ロゼ限定だ。誰彼に同じって訳じゃない。さ、行くぞ。屋敷まで歩けるか?」
「歩けますよ。言ったでしょう?王都まで2、3往復出来そうって。ふふっ」
屋敷までのあぜ道を馬を引いてゆっくりと歩く途中で今更の質問をデルモントがリーゼロッテに問いかけた。
「なぁロゼ」
「なに?」
「本当に俺でいいのか?今ならまだ結婚は調ってないしどうにでもなる。俺はこの通り右手が飾りだしロゼがその事で何か言われるのは――」
「何を言ってるの。私が好きになったのはデルなの。右手も全部ひっくるめて大好きだからこそ結婚しようと決めたの。飾りの部分なんか何処にもないわ。ずっと背負ってきてくれたでしょう?気にしている右手が瑕疵になった事なんて一度も無かったわ」
「そっか…それならいいんだ」
「だったらデルはどうして私と?それこそ謎だわ」
「そうだな。うーん…全部?と言いたいが、しいて言えば背中に当たる双璧が俺の背を押してたからかな」
「え…」
「ブルルッ!!ブルッ!」
リーゼロッテが足を止め、クワっと目を見開いたのを最初に感知した年老いた馬は少し小走りになる。
危険を察知し主のデルモントの窮地を救おうとしたのだった。
「こらぁ!デルっ!逃げるなぁ!」
「違うって。こいつが突然っ。おい!止まれって!」
馬の足はどんどん速くなる。次第にデルモントは馬を引いているのではなく、馬に引かれて駆け足になるが、その後ろをリーゼロッテは追いかける格好になったのだった。
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