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cyaru

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第21話  恩を返したい

コンコンコン。

「入れ」

地を這うような低音を発したのは騎士団の総指揮官でもある王弟だった。
書類を抱えた隊服の騎士は何も言わずに王弟に書類を差し出した。

ゆっくりと1枚1枚確認をしながら書類に目を走らせた。


★~★

かの日、懐かしい男が先触れも無く訪ねてきた。
王弟を庇い、騎士の道を永久に絶たれた男、デルモントだ。

その名を聞いた時は執務中だったが王弟は襟元のボタンも留めるのを忘れてデルモントを待たせている部屋に走った。

今、生きているのはデルモントが身を挺して矢を受けてくれたからに他ならない。
除隊をされるとき、デルモントにはなんでも望む物を与えて欲しいと王弟は兄の国王に頼んだのだが、デルモントは金銭すら固辞し何も欲しがらなかった。

「欲のない男」と国王は何も欲しがらないデルモントの事を評価したが、王弟はそれでは気が済まない。

領地に戻り不自由な体で男爵家を継ぎ、日々奮闘しているとは聞こえてきた。
折を見て「何か望みはないか」と領地の特産物など販促に力を貸そうとしたがそれも固辞された。

「無理やり品を買ってもらうのではなく欲しいから買う。そうでないと商売は立ちゆきませんから」

そう言って恩返しを何もさせてくれなかったデルモントが先触れもなしにやってきた。
これは何かある。逸る心を隠そうともせず扉を開けると懐かしい顔があった。

「デルモント!久しぶりだなぁ!」

「上官殿もお元気そうで何よりです」

戦が終わり、総指揮官となっても「上官殿」と昔の呼び名で呼んでくれるデルモントに王弟は嬉しくて目を細めた。

「どうしたんだ?困りごとか?」

「はい。失礼と厚かましいのを承知で上官殿にお願いがございます」

「なんだ。なんでも言ってくれ。結婚か?相手ならそうだな隣国の王女はどうだ?」

――飛躍しすぎです。それに王女様は面倒そうなので嫌です――

肩を叩き、まぁ座れとソファを勧められて向かいに腰を下ろすとデルモントは開口一番に告げた。

「ベルカム子爵家が窮地に陥っています。その原因を調べて頂きたいのです」

「ベルカム子爵家。あぁそう言えば王都を離れ領地に住まいを移すと届があったな。ベルカム子爵家に何か恩義でもあるのか?」

「恩義…はどうでしょうか。ただこのまま何もなかった事にすればより大きな問題となってしまいそうな気がするんです」

「そうか。他にはないか?その‥‥ベルカム子爵家はお前の家ではないだろう?お前自身何かないのか?」

「ないです」

「即答か!」

「ないので」

褒章も何もいらないと固辞したデルモントらしいと言えばらしいのだが、そのデルモントが敢えて頼んでくるのであれば叶えない訳にはいかない。
王弟は早速子飼いにベルカム子爵家を調べさせた。

結果として先に齎されていたベルカム子爵家には何の問題もなかった。
いや、書類には是正しようと思えばできる箇所はあった。

年度の途中で税率の変わった品があり、税金を少し多く納め過ぎていて還付せねばならない分があったが、安くなった税率ではなく高い時のままで計算をしても国には痛手がないのでどちらでもいいとされていた箇所。

2つの税率で計算をすれば書類も増えるしベルカム子爵家は多少損益になっても高い税率のままで計算をして納税を行っていただけ。

ベルカム子爵家には問題はなくても、その周囲に問題とされる行為があった。
先ずはウッサム伯爵家だ。

ただ、罪には問えない。
子息が婿入りをする予定で前納となった持参金。先に払うのは何の問題もない。
そしてそれを結婚話を無くすことの慰謝料にした事も問題はない。

慰謝料すら払わずにバックレたとなれば倫理観の欠如はあるとみられるが、残念ながら違法ではない。
その慰謝料も払っているしベルカム子爵家は受け取っている。ベルカム子爵家からの支度金も返納されている。

金の流れには問題はないが、別の問題があった。

「タッカス侯爵家か」

ウッサム伯爵家の子息アンセルはリーゼロッテからアンネマリーに乗り換えた。
それも違法ではないものの、その頃からタッカス侯爵家主導によるベルカム子爵家への嫌がらせが始まっていた。

以前からタッカス侯爵家については良い話よりも悪い話の方が先行しているが、罰するほどのものではないのがネックだった。

「この商品は良くない」「この本は面白くない」「この絵に芸術を感じない」などあくまでも主観なので、それに賛同するもしないも自由。

ただ、侯爵家という位置づけにあるので、右に倣えとしなければ自分の家がトバッチリを食らうと賛同する家が多かった。それが結果として不買になり経営が成り立たなくなる家が今までも幾つかあった。

取り締まろうにも「この商品は良い」と言うものが買い占めで店頭から無くなると、群衆心理が働き廻りもそれに追随するが購入の個数制限をしたり、量産すればいいだけ。

売れるのは良くて逆の意見はダメなのかとなれば言論も表現も自由を規制する事になる。


しかし王弟にしてみると「またやったのか」としか思えない。
どこかにタッカス侯爵家を糾弾出来る突破口がないのか。

残りの書類もあと数枚の所で王弟の手が止まった。
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