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第23話 集まった領民に
オッペル男爵領にあるデルモントの屋敷には何故か訪問する気はないのに領民が集まって来る。
「見世物じゃない!散れ!」
「デル。言い方。何か御用があるかも知れないでしょう?話を聞かずに散れだなんて。横暴な領主様って呼ばれちゃうわよ。いいわ。デルは部屋に居て。私が対応します」
窘めるリーゼロッテだったのだが、実はデルモントの通常運転。
男爵家の当主であり、領主ではあるものの代替わりをした時には既に右手が飾りの状態だったデルモントに務まるものかとそっぽを向いた領民も多いし、高齢者の中には悪魔に魅入られたから右手を差し出したとか、災いが降りかかるとかそれはもう迷信を信じて言いたい放題した者達も多かった。
比較的年若い者達は「バカバカしい」と高齢者の言葉を信じなかった者が多いけれど、長く続く慣習で意見が分かれたのがソフィーの世代である。
ソフィーの一家は配送など力仕事をする者が多い家系だが、領に暮らしていた頃は冬は討伐隊などに出稼ぎ騎士になる者も多かった。そのせいで負傷して帰還する者もいて「国民が安寧に暮らすために戦ったのにその言い草はなんだ!」と実際身内に腕がない、脚がないとなったものがいたので眉唾な迷信を信じる者がいなかっただけだ。
散々な言われ方をした過去があり、デルモントは領民だと言っても全員に心を許している訳ではない。収穫や仕事に対しては公平にしているが、私情となると途端に線引きをして冷たくなる。
そしてやってきた領民はデルモントが遂に妻を迎えると聞いて喜ばしい事だと祝いの言葉を届けに来た者もいるけれど「どこのモノ好きだろう」「何か問題があって問題児同士じゃないか」など悪意を持って噂話のネタの1つでも拾ってやろうとやってきた者もいる。
領民との確執もあるとなるとこれは簡単ではないなとリーゼロッテは領地の屋敷を取り仕切る家令と共に不貞腐れたデルモントを部屋に押し込んで領民の対応に追われた。
「奥様、どうぞっ!」
「まぁ、ありがとう」
花を手渡すと恥ずかしそうに走り去る少年もいれば・・・。
「どこか悪いところがあるの?」
不思議な質問をしてくる中年女性もいる。
「悪いところとは?」
「ほら、子供ができにくいとか虚弱体質とかいろいろとあるじゃない?」
「あぁ、体質ですのね。特にこれと言ってお医者様から指摘されたことは御座いませんわ。家の方も子爵家ですしこちらに嫁ぐことになったので以後は国内ではなく隣国相手に商売をしますしそちらも問題御座いませんわ。他に何か?」
「そ、それならいいんだけど…」
デルモントよりも上の爵位と聞こえた者たちは途端に顔色を変える。
爵位の差を盾に取るのは打つ手としては悪手に近いが権力に弱い人間の特性を突く1つでもある。
「そう言えば!」リーゼロッテは突然大きな声をこれ見よがしに発すると注意を引くためにパンパン!!手を打ち鳴らした。
一斉に視線がリーゼロッテに集まった。
――これはこれで緊張するわね――
「オッペル男爵領産の羊毛を使い、編んだ布。こちらはこれから隣国への輸出も始まります。皆様の協力無くしてこの事業は成り立ちません。どうか夫に皆様のお力を貸してくださいませ」
リーゼロッテは領民に深く頭を下げた。
どよっと領民たちからどよめきも起きる。
デルモントですら領民に頭を下げることはないのに、その妻が自分たちに「力を貸してくれ」と頭を下げるとは思わなかった。
「ロゼっ!」
「あら。デル。どうされたの?」
「どうされたのじゃない。なんで頭を下げているっ」
「当たり前で御座いましょう?実際に羊の世話をしたり洗ったりとデル1人が出来るわけではないのです。確執があるのは重々承知。ですけれど…かと言って古い柵、思いを信じ、囚われて未来を見ないのは本末転倒ですわ。そんな詰まらない事に拘るよりもお父様から舞い込む大量受注に備えるべきです。その為にデル、貴方は王都まで馬を引いたのですよ」
デルモントを窘めているようで実は領民に言い聞かせる。
迷信を信じるのは自由。信じた結果に領主を蔑む貴方達のためにデルモントは販促をするために王都まで歩いたのだと言い聞かせるのが狙いである。
後ろめたい思いを抱える領民は後ずさりをしてその場から息を潜めて去っていく。
所詮他者の悪口を言って注目を集めたいものなどその程度の気概しか持っていないのだ。
「デル。領主夫妻が頭を下げねば誰が下げるのです」
「ロゼ…解った。ロゼだけにそんな事をさせるわけにはいかない」
デルモントがリーゼロッテの隣で領民に頭を下げるとその場はシーンと静まり返る…のだが何故か最前列にいる老女は涙ぐんでいる。
「あ~‥‥乳母だ」
「まぁ。そうでしたの」
「あの悪戯坊主が…立派に女房の尻に敷かれる日を生きてみられるとは…いつ神に召されても構いません」
――そんなに?!――
乳母の老女とデルモントを交互に見ていると領民たちからは笑い声も聞こえてくる。
残っているほとんどは古い迷信に捉われずにデルモントを支えてくれた領民だったが、明日からはきっとこの場を去った領民だって解ってくれる。
これからは新生オッペル男爵領となるのだ。
リーゼロッテは乳母に泣かれて照れ臭そうにするデルモントの動かない右手をそっと握った。
「見世物じゃない!散れ!」
「デル。言い方。何か御用があるかも知れないでしょう?話を聞かずに散れだなんて。横暴な領主様って呼ばれちゃうわよ。いいわ。デルは部屋に居て。私が対応します」
窘めるリーゼロッテだったのだが、実はデルモントの通常運転。
男爵家の当主であり、領主ではあるものの代替わりをした時には既に右手が飾りの状態だったデルモントに務まるものかとそっぽを向いた領民も多いし、高齢者の中には悪魔に魅入られたから右手を差し出したとか、災いが降りかかるとかそれはもう迷信を信じて言いたい放題した者達も多かった。
比較的年若い者達は「バカバカしい」と高齢者の言葉を信じなかった者が多いけれど、長く続く慣習で意見が分かれたのがソフィーの世代である。
ソフィーの一家は配送など力仕事をする者が多い家系だが、領に暮らしていた頃は冬は討伐隊などに出稼ぎ騎士になる者も多かった。そのせいで負傷して帰還する者もいて「国民が安寧に暮らすために戦ったのにその言い草はなんだ!」と実際身内に腕がない、脚がないとなったものがいたので眉唾な迷信を信じる者がいなかっただけだ。
散々な言われ方をした過去があり、デルモントは領民だと言っても全員に心を許している訳ではない。収穫や仕事に対しては公平にしているが、私情となると途端に線引きをして冷たくなる。
そしてやってきた領民はデルモントが遂に妻を迎えると聞いて喜ばしい事だと祝いの言葉を届けに来た者もいるけれど「どこのモノ好きだろう」「何か問題があって問題児同士じゃないか」など悪意を持って噂話のネタの1つでも拾ってやろうとやってきた者もいる。
領民との確執もあるとなるとこれは簡単ではないなとリーゼロッテは領地の屋敷を取り仕切る家令と共に不貞腐れたデルモントを部屋に押し込んで領民の対応に追われた。
「奥様、どうぞっ!」
「まぁ、ありがとう」
花を手渡すと恥ずかしそうに走り去る少年もいれば・・・。
「どこか悪いところがあるの?」
不思議な質問をしてくる中年女性もいる。
「悪いところとは?」
「ほら、子供ができにくいとか虚弱体質とかいろいろとあるじゃない?」
「あぁ、体質ですのね。特にこれと言ってお医者様から指摘されたことは御座いませんわ。家の方も子爵家ですしこちらに嫁ぐことになったので以後は国内ではなく隣国相手に商売をしますしそちらも問題御座いませんわ。他に何か?」
「そ、それならいいんだけど…」
デルモントよりも上の爵位と聞こえた者たちは途端に顔色を変える。
爵位の差を盾に取るのは打つ手としては悪手に近いが権力に弱い人間の特性を突く1つでもある。
「そう言えば!」リーゼロッテは突然大きな声をこれ見よがしに発すると注意を引くためにパンパン!!手を打ち鳴らした。
一斉に視線がリーゼロッテに集まった。
――これはこれで緊張するわね――
「オッペル男爵領産の羊毛を使い、編んだ布。こちらはこれから隣国への輸出も始まります。皆様の協力無くしてこの事業は成り立ちません。どうか夫に皆様のお力を貸してくださいませ」
リーゼロッテは領民に深く頭を下げた。
どよっと領民たちからどよめきも起きる。
デルモントですら領民に頭を下げることはないのに、その妻が自分たちに「力を貸してくれ」と頭を下げるとは思わなかった。
「ロゼっ!」
「あら。デル。どうされたの?」
「どうされたのじゃない。なんで頭を下げているっ」
「当たり前で御座いましょう?実際に羊の世話をしたり洗ったりとデル1人が出来るわけではないのです。確執があるのは重々承知。ですけれど…かと言って古い柵、思いを信じ、囚われて未来を見ないのは本末転倒ですわ。そんな詰まらない事に拘るよりもお父様から舞い込む大量受注に備えるべきです。その為にデル、貴方は王都まで馬を引いたのですよ」
デルモントを窘めているようで実は領民に言い聞かせる。
迷信を信じるのは自由。信じた結果に領主を蔑む貴方達のためにデルモントは販促をするために王都まで歩いたのだと言い聞かせるのが狙いである。
後ろめたい思いを抱える領民は後ずさりをしてその場から息を潜めて去っていく。
所詮他者の悪口を言って注目を集めたいものなどその程度の気概しか持っていないのだ。
「デル。領主夫妻が頭を下げねば誰が下げるのです」
「ロゼ…解った。ロゼだけにそんな事をさせるわけにはいかない」
デルモントがリーゼロッテの隣で領民に頭を下げるとその場はシーンと静まり返る…のだが何故か最前列にいる老女は涙ぐんでいる。
「あ~‥‥乳母だ」
「まぁ。そうでしたの」
「あの悪戯坊主が…立派に女房の尻に敷かれる日を生きてみられるとは…いつ神に召されても構いません」
――そんなに?!――
乳母の老女とデルモントを交互に見ていると領民たちからは笑い声も聞こえてくる。
残っているほとんどは古い迷信に捉われずにデルモントを支えてくれた領民だったが、明日からはきっとこの場を去った領民だって解ってくれる。
これからは新生オッペル男爵領となるのだ。
リーゼロッテは乳母に泣かれて照れ臭そうにするデルモントの動かない右手をそっと握った。
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