25 / 28
第25話 不届き者の巣窟
デルモントからリーゼロッテの手紙が発送された翌日の王都では早朝から騎士たちが長い列を作ってタッカス侯爵家に向かっていた。
同時に人数は多くないが10人ほどの騎士がウッサム伯爵家にも向かう。
先頭の騎乗した騎士から開門を命じられた門番はタッカス侯爵に伺いを立てることもなく正門を開けた。
ぞろぞろと中に入ってく隊列は途切れることがない。騒々しさに隊列と並走して先頭を追いかけた民衆が野次馬となって正門周辺にたむろしていた。
玄関に到着をすると使用人が扉を開ける。
目の前の光景に驚いた使用人は慌てて家令を呼び、家令は「旦那様を叩き起こせ!」声を荒げた。
家令も何故騎士たちがここにやってきたのか理由が判らない。
アプローチから正門方向の門道に目をやると教会が所有する馬車が騎乗した騎士をモーゼの十戒のように両脇に退けて進んでくる。
家令に頼まれてタッカス侯爵夫妻を叩き起こした使用人にタッカス侯爵は非常に機嫌が悪かったけれど、そんな事を言っている暇はなかった。
寝台から起き上がり、床に足を付ける前にタッカス侯爵夫妻の寝所にはリーゼロッテが世話になった教会にいる神父(司祭)を取りまとめる大司祭が入ってきたのである。
大司祭から直接言葉を掛けられるとなれば一大事。
教皇の次に権力のある大司祭にタッカス侯爵夫妻は寝台から転げ落ちて乱れた寝間着のままで膝を付く。
「こ、これは…何事で御座いましょうか」
祈るように手を組んだタッカス侯爵は大司祭に問いかけたが大司祭は口を真一文字に結んだまま口を開かない。代わりに答えを教えてくれたのは王城内を警備する第1騎士団ではなく王族を警護する近衛騎士団の団長だった。
「陛下から勅旨を申し渡す。タッカス侯爵家、世に騒乱を起こす謀略ありとし取り潰し。直系は斬首とする」
「え?あ?お、お、お、お待ちください!そのような大それたことは何もしておりません!」
申し開きをしようにも物言わぬ大司祭が何故此処にいるのか。
そこに原因があるような気がして‥‥そう思った時にタッカス侯爵はハッと気が付き夫人と顔を見合わせた。
教会は完全なる一夫一妻を広く説いていて、姦淫は神を冒涜する行為と見做されていて罪はその命で償うとされている。
貴族にも平民にも不貞行為、浮気と言う言葉がその意味を知られているように禁忌の行為に身を落とす者は一定数いる。
かく言うタッカス侯爵にも愛人はいるし、夫人にも若い愛人が複数人いた。
ここで申し開きをするのに「他にもやってる人がいる」などと責任を転嫁したところで、そちらはそちら、アナタはアナタと線引きをされて処罰される人間が増えるだけの話。
お互いがお互い様と認めているから良いのだ。なんていう問題ではない。
タッカス侯爵夫妻はその身分故に愛人と密会をするときは最新の注意を払っていた。
高位貴族でもあるが、国の守りの要である侯爵家が風紀を乱しているとなれば笑い話で済む問題ではなくなる。
太古の昔から権力者の元にはハニートラップが仕掛けられるなんて言うのは良く聞く話で色仕掛けで権力者が落とせるのなら国防とは何ぞやという話にまで発展してしまう。
国王ですら側妃制度は建国以来設置されておらず、子が出来ぬ場合は血筋から養子を迎えて血を繋いで来た。それもこれも教会を怒らせないための措置である。
宗教とは時に国王の権力すら無力にしてしまうのだから。
注意をしていたのに何故。冷や汗が背中を伝う夫妻の元に恋人と騎士たちが踏み込んだ時点でもお楽しみのラストスパートだったアンネマリーとその間男がシーツすら纏わない姿で連行されてきた。
恥ずかしい事に男の方は口枷を嵌めていて、ギャーギャー騒ぐからかと思われたが踏み込んだ時からだという。騒ぐ声を黙らせるのなら喚き散らすアンネマリーに嵌めた方がより効果があるだろう。
「女、この男はお前の夫となる男か」
近衛騎士団団長の問いかけにアンネマリーは喚くのをやめて「は?」顔を見上げた。
タッカス侯爵夫妻は「そこは嘘でもそうですと言うんだ!」祈る気持ちでアンネマリーを見たがアンネマリーは良くも悪くも正直だった。
「違いますわよ。なんでわたくしがこんな平民風情を夫に迎えねばならないのです」
「では夫となる男ではないのだな?」
「違うと言っておりますでしょう?夫になるのはウッサム伯爵家のアンセルですわ」
「馬鹿者!!」
思わず叫んでしまったタッカス侯爵だったが、アンネマリーは自分が悪いことをしたとは全く思っていない。むしろ両親も愛人を作り宜しくやっているし、その愛人は元犯罪者だったり、愛人にも家庭があったりする者だ。
なぜ自分だけが「馬鹿」と言われねばならないのか。理解が出来なかった。
だから…。
「お父様もお母様も一緒じゃないの。何故わたくしがバカと言われねばなりませんの!」
そこに更に合流したのは突然騎士が押しかけてきて何のことだかさっぱり意味が解らないウッサム伯爵夫妻と、アンネマリーのあの言葉で自身の選択ミスに気付き後悔に襲われていたアンセルだった。
アンセルは裸で組み伏せられているアンネマリーを見て笑い出した。
「ハハハ。アハハ。ざまぁねぇな!この売女!」
「なんですってぇ?夫にしてもらう分際でその言い草はなんなの!」
髪を振り乱したアンネマリーはアンセルに食って掛かろうとするが押さえつける騎士の力が強くて体を起こす事も出来ない。
そんなアンネマリーとアンセルを見て大司祭は盛大な溜息を吐いた。
「ここは神の理をも畏れぬ不届き者の巣窟。淫行に耽り悪魔に魅入られた魂の浄化を祈りましょう」
大司祭の言葉は国王の勅旨よりも効力が強い。
その瞬間にタッカス侯爵家の直系は処刑が決定された。
同時に人数は多くないが10人ほどの騎士がウッサム伯爵家にも向かう。
先頭の騎乗した騎士から開門を命じられた門番はタッカス侯爵に伺いを立てることもなく正門を開けた。
ぞろぞろと中に入ってく隊列は途切れることがない。騒々しさに隊列と並走して先頭を追いかけた民衆が野次馬となって正門周辺にたむろしていた。
玄関に到着をすると使用人が扉を開ける。
目の前の光景に驚いた使用人は慌てて家令を呼び、家令は「旦那様を叩き起こせ!」声を荒げた。
家令も何故騎士たちがここにやってきたのか理由が判らない。
アプローチから正門方向の門道に目をやると教会が所有する馬車が騎乗した騎士をモーゼの十戒のように両脇に退けて進んでくる。
家令に頼まれてタッカス侯爵夫妻を叩き起こした使用人にタッカス侯爵は非常に機嫌が悪かったけれど、そんな事を言っている暇はなかった。
寝台から起き上がり、床に足を付ける前にタッカス侯爵夫妻の寝所にはリーゼロッテが世話になった教会にいる神父(司祭)を取りまとめる大司祭が入ってきたのである。
大司祭から直接言葉を掛けられるとなれば一大事。
教皇の次に権力のある大司祭にタッカス侯爵夫妻は寝台から転げ落ちて乱れた寝間着のままで膝を付く。
「こ、これは…何事で御座いましょうか」
祈るように手を組んだタッカス侯爵は大司祭に問いかけたが大司祭は口を真一文字に結んだまま口を開かない。代わりに答えを教えてくれたのは王城内を警備する第1騎士団ではなく王族を警護する近衛騎士団の団長だった。
「陛下から勅旨を申し渡す。タッカス侯爵家、世に騒乱を起こす謀略ありとし取り潰し。直系は斬首とする」
「え?あ?お、お、お、お待ちください!そのような大それたことは何もしておりません!」
申し開きをしようにも物言わぬ大司祭が何故此処にいるのか。
そこに原因があるような気がして‥‥そう思った時にタッカス侯爵はハッと気が付き夫人と顔を見合わせた。
教会は完全なる一夫一妻を広く説いていて、姦淫は神を冒涜する行為と見做されていて罪はその命で償うとされている。
貴族にも平民にも不貞行為、浮気と言う言葉がその意味を知られているように禁忌の行為に身を落とす者は一定数いる。
かく言うタッカス侯爵にも愛人はいるし、夫人にも若い愛人が複数人いた。
ここで申し開きをするのに「他にもやってる人がいる」などと責任を転嫁したところで、そちらはそちら、アナタはアナタと線引きをされて処罰される人間が増えるだけの話。
お互いがお互い様と認めているから良いのだ。なんていう問題ではない。
タッカス侯爵夫妻はその身分故に愛人と密会をするときは最新の注意を払っていた。
高位貴族でもあるが、国の守りの要である侯爵家が風紀を乱しているとなれば笑い話で済む問題ではなくなる。
太古の昔から権力者の元にはハニートラップが仕掛けられるなんて言うのは良く聞く話で色仕掛けで権力者が落とせるのなら国防とは何ぞやという話にまで発展してしまう。
国王ですら側妃制度は建国以来設置されておらず、子が出来ぬ場合は血筋から養子を迎えて血を繋いで来た。それもこれも教会を怒らせないための措置である。
宗教とは時に国王の権力すら無力にしてしまうのだから。
注意をしていたのに何故。冷や汗が背中を伝う夫妻の元に恋人と騎士たちが踏み込んだ時点でもお楽しみのラストスパートだったアンネマリーとその間男がシーツすら纏わない姿で連行されてきた。
恥ずかしい事に男の方は口枷を嵌めていて、ギャーギャー騒ぐからかと思われたが踏み込んだ時からだという。騒ぐ声を黙らせるのなら喚き散らすアンネマリーに嵌めた方がより効果があるだろう。
「女、この男はお前の夫となる男か」
近衛騎士団団長の問いかけにアンネマリーは喚くのをやめて「は?」顔を見上げた。
タッカス侯爵夫妻は「そこは嘘でもそうですと言うんだ!」祈る気持ちでアンネマリーを見たがアンネマリーは良くも悪くも正直だった。
「違いますわよ。なんでわたくしがこんな平民風情を夫に迎えねばならないのです」
「では夫となる男ではないのだな?」
「違うと言っておりますでしょう?夫になるのはウッサム伯爵家のアンセルですわ」
「馬鹿者!!」
思わず叫んでしまったタッカス侯爵だったが、アンネマリーは自分が悪いことをしたとは全く思っていない。むしろ両親も愛人を作り宜しくやっているし、その愛人は元犯罪者だったり、愛人にも家庭があったりする者だ。
なぜ自分だけが「馬鹿」と言われねばならないのか。理解が出来なかった。
だから…。
「お父様もお母様も一緒じゃないの。何故わたくしがバカと言われねばなりませんの!」
そこに更に合流したのは突然騎士が押しかけてきて何のことだかさっぱり意味が解らないウッサム伯爵夫妻と、アンネマリーのあの言葉で自身の選択ミスに気付き後悔に襲われていたアンセルだった。
アンセルは裸で組み伏せられているアンネマリーを見て笑い出した。
「ハハハ。アハハ。ざまぁねぇな!この売女!」
「なんですってぇ?夫にしてもらう分際でその言い草はなんなの!」
髪を振り乱したアンネマリーはアンセルに食って掛かろうとするが押さえつける騎士の力が強くて体を起こす事も出来ない。
そんなアンネマリーとアンセルを見て大司祭は盛大な溜息を吐いた。
「ここは神の理をも畏れぬ不届き者の巣窟。淫行に耽り悪魔に魅入られた魂の浄化を祈りましょう」
大司祭の言葉は国王の勅旨よりも効力が強い。
その瞬間にタッカス侯爵家の直系は処刑が決定された。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
必要とされなくても、私はここにいます
あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。
口出ししない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
ただ静かに、そこにいるだけ。
そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。
張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。
何かを勝ち取る物語ではない。
誰かを打ち負かす物語でもない。
それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。
これは、
声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、
何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
後妻の条件を出したら……
しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。
格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。
だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。
しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。
【完結】帳簿係の地味令嬢、商会の不正を見抜いて王宮に見出されました。
夏灯みかん
恋愛
王都の商工会議所で働く、地味な帳簿係エミリー。
真面目に記録をつけることだけが取り柄の彼女は、同僚から軽く扱われ、雑用を押しつけられる日々を送っていた。
そんなある日――エミリーは、孤児院への配給物資の記録に、わずかな“ズレ”があることに気づく。
数量は合っている。
だが、なぜか中身の重量だけが減っている。
違和感を覚えたエミリーは、自ら倉庫へ足を運び、現物を確認する。
そこで見つけたのは、帳簿では見えない“静かな不正”だった。
しかしその矢先――不正の責任を押しつけられ、職場から追い出されそうになってしまう。
それでもエミリーは諦めない。ただ一つ、自分が積み上げてきた“記録”を信じて。
「では、正式な監査をお願いいたします」
やがてその記録は、王宮の政務監査官リオンの目に留まり――
隠されていた不正はすべて暴かれる。
そして、彼女を軽んじていた者たちは、その代償を支払うことになる。
これは、地味で目立たなかった一人の帳簿係が、
“正しく記録した”ことで不正を暴き、王宮に見出されるまでの物語。
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。