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第16話 消えたアーシャ
とぼとぼ歩き、ココホレ教授の研究室に到着はしたのですが、研究室の中には誰も居りません。
予定表を見ると隣国との国境でチュリケラトプスの背骨と思われる骨が出たとの事で発掘に向かったようです。
「お祭り騒ぎだったんだろうなぁ。いいなぁ」
シーンと静まり返った研究室ですが、全員が出向いているとなれば大騒ぎだったでしょう。
穴だらけになったソファに寝転んでソファーテーブルの上に飾られている三葉虫の化石を見つめました。
「ブンディル侯爵家の庭の石にもあったのよねぇ」
研究室にある化石よりも小さな三葉虫でしたが、ブンディル侯爵家の庭に無造作に置かれた石にもあったのです。見つけた時は嬉しくて「ほっほぅ!!」と声をあげてしまいました。
もうちょっと固い方が寝心地は良いのですが今日は気疲れが激しすぎました。
元婚約者もレイチェルもどうでもいいのは本心。
未だに金遣いの荒さも変わってなくて「何とかなる」と誰彼構わず借金を踏み倒す癖に借りるのもどうでもいいのです。
レイチェルもお腹の子供を母子ともに健康で出産出来ればそれでいいのです。
折角決まった仕事だったけど務める前に断ってしまいました。
オランド…、ううん。「オランドの野郎」呼び名復活だわ!
面倒くさいと思いつつも、好きと言われて少しだけ心が揺れてしまったけどもう考えたくもありません。
「お腹冷えちゃう。シーツ持ってこよう」
予備のシーツが置かれているのはデスクの引き出しです。
こういうどうでもいいところがココホレ教授の良さでもあるのです。
「ひと眠りしたら購買でパン貰って教授を追いかけよう」
距離はあります。隣国との国境なので歩きどおしで3か月はかかるでしょうけど、行く事にします。だってそこにだけ太古の昔、絶滅をしてしまった恐竜の化石があるという夢があります。
――王都にいるよりずっといいわ――
綺麗に洗濯されて畳まれたシーツを取り出して掛布代わりにし、私はソファで寝ることにしたのです。
★~★
アーシャがいなくなった。
花卉市場で忘れ物があると言って事務所に戻って行ったアーシャ。
あの後、リゼを初めて叱り飛ばした。
「いい加減にしてくれよ。私よりも公爵子息の方が良いと散々に自慢したじゃないか」
「あんなの強がりよ!こうなってみてオルの方が――」
「比べるな!私にどれだけ失礼な事をしているのか解っているのか!」
「だって。だって!私だって幸せになりたいのよ!何がいけないの!」
「全部だ!リゼ。二度と私の前に姿を見せるな。最低だよ君は」
「嫌よぉ!!あの人は愛人の方を愛しているんだもの!子供だっているのよ!」
「悪いが知った事でもないし、家の事情を他家の人間に言うもんじゃない」
「だったらおば様も同じじゃない!」
「あぁ。同じだ。私はもう母を母とも思わない。軽蔑する」
泣き崩れるリゼはそれでも公爵家の従者が迎えに来ると公爵家の馬車に乗り込んで帰っていった。
そんなものだ。リゼが好きなのは何時だって自分が話題の中央にいて、愛される事。
リゼは自分を愛してはいるが他者を愛することはない。
私もそうだった。
アーシャが戻ってきたら今度こそ謝罪しよう。
そう心に決めたけれどあまりにも戻ってこないので事務所に行ってみれば、アーシャは確かに来たがさっき決まったばかりの経理の仕事を辞退すると言って出て行ったという。
私は慌てて御者にも頼み花卉市場の中を探し回った。
「もしかすると先に屋敷に戻られているのではないですか?」
御者の声に「そうだな」と希望を持って返事を返した。
そうしなければ花卉市場は競りの時間も終わり午後の茶の時間にはもう入場門を閉じてしまう。
私は激しい後悔に襲われた。
もし、アーシャにごり押しでも「侯爵家の人間なのだから」と一目で高位貴族と判る服を贈っていれば。
アーシャが嫌がっても屋敷の中に閉じ込めて外に働きに出るなんて許さなければ。
そもそもで初夜、突き放すことを言い、雑な扱いをしなければ。
監視をしていたのに肝心な時に監視できていないなら意味がないじゃないか。
自分を責めても仕方がないことは解っている。
しかし、屋敷に戻ってもアーシャの姿はなかった。
離れと本宅を行ったり来たりするが、どちらにもアーシャは戻ってこなかった。
予定表を見ると隣国との国境でチュリケラトプスの背骨と思われる骨が出たとの事で発掘に向かったようです。
「お祭り騒ぎだったんだろうなぁ。いいなぁ」
シーンと静まり返った研究室ですが、全員が出向いているとなれば大騒ぎだったでしょう。
穴だらけになったソファに寝転んでソファーテーブルの上に飾られている三葉虫の化石を見つめました。
「ブンディル侯爵家の庭の石にもあったのよねぇ」
研究室にある化石よりも小さな三葉虫でしたが、ブンディル侯爵家の庭に無造作に置かれた石にもあったのです。見つけた時は嬉しくて「ほっほぅ!!」と声をあげてしまいました。
もうちょっと固い方が寝心地は良いのですが今日は気疲れが激しすぎました。
元婚約者もレイチェルもどうでもいいのは本心。
未だに金遣いの荒さも変わってなくて「何とかなる」と誰彼構わず借金を踏み倒す癖に借りるのもどうでもいいのです。
レイチェルもお腹の子供を母子ともに健康で出産出来ればそれでいいのです。
折角決まった仕事だったけど務める前に断ってしまいました。
オランド…、ううん。「オランドの野郎」呼び名復活だわ!
面倒くさいと思いつつも、好きと言われて少しだけ心が揺れてしまったけどもう考えたくもありません。
「お腹冷えちゃう。シーツ持ってこよう」
予備のシーツが置かれているのはデスクの引き出しです。
こういうどうでもいいところがココホレ教授の良さでもあるのです。
「ひと眠りしたら購買でパン貰って教授を追いかけよう」
距離はあります。隣国との国境なので歩きどおしで3か月はかかるでしょうけど、行く事にします。だってそこにだけ太古の昔、絶滅をしてしまった恐竜の化石があるという夢があります。
――王都にいるよりずっといいわ――
綺麗に洗濯されて畳まれたシーツを取り出して掛布代わりにし、私はソファで寝ることにしたのです。
★~★
アーシャがいなくなった。
花卉市場で忘れ物があると言って事務所に戻って行ったアーシャ。
あの後、リゼを初めて叱り飛ばした。
「いい加減にしてくれよ。私よりも公爵子息の方が良いと散々に自慢したじゃないか」
「あんなの強がりよ!こうなってみてオルの方が――」
「比べるな!私にどれだけ失礼な事をしているのか解っているのか!」
「だって。だって!私だって幸せになりたいのよ!何がいけないの!」
「全部だ!リゼ。二度と私の前に姿を見せるな。最低だよ君は」
「嫌よぉ!!あの人は愛人の方を愛しているんだもの!子供だっているのよ!」
「悪いが知った事でもないし、家の事情を他家の人間に言うもんじゃない」
「だったらおば様も同じじゃない!」
「あぁ。同じだ。私はもう母を母とも思わない。軽蔑する」
泣き崩れるリゼはそれでも公爵家の従者が迎えに来ると公爵家の馬車に乗り込んで帰っていった。
そんなものだ。リゼが好きなのは何時だって自分が話題の中央にいて、愛される事。
リゼは自分を愛してはいるが他者を愛することはない。
私もそうだった。
アーシャが戻ってきたら今度こそ謝罪しよう。
そう心に決めたけれどあまりにも戻ってこないので事務所に行ってみれば、アーシャは確かに来たがさっき決まったばかりの経理の仕事を辞退すると言って出て行ったという。
私は慌てて御者にも頼み花卉市場の中を探し回った。
「もしかすると先に屋敷に戻られているのではないですか?」
御者の声に「そうだな」と希望を持って返事を返した。
そうしなければ花卉市場は競りの時間も終わり午後の茶の時間にはもう入場門を閉じてしまう。
私は激しい後悔に襲われた。
もし、アーシャにごり押しでも「侯爵家の人間なのだから」と一目で高位貴族と判る服を贈っていれば。
アーシャが嫌がっても屋敷の中に閉じ込めて外に働きに出るなんて許さなければ。
そもそもで初夜、突き放すことを言い、雑な扱いをしなければ。
監視をしていたのに肝心な時に監視できていないなら意味がないじゃないか。
自分を責めても仕方がないことは解っている。
しかし、屋敷に戻ってもアーシャの姿はなかった。
離れと本宅を行ったり来たりするが、どちらにもアーシャは戻ってこなかった。
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