氷の軍師は妻をこよなく愛する事が出来るか

cyaru

文字の大きさ
19 / 24

初めての愛の言葉

★この回はシスティとアポロンの再会になります。一人称【俺】はアポロン、【わたくし】はシスティで話し言葉ではない部分はどっちが考えている事なのか、出来るだけわかりやすいようにはしたつもりですが、不明な場合はごめんなさい<(_ _)>


(=゚ω゚)ノ では逝ってみよっ!

◆~◆~◆

扉が開くと、くしゃりと顔を歪めてアポロン様が足早にわたくしの寝台の元にやってきました。
立ったままのアポロン様は、それだけでもすごく背が高いので顔の位置が遠いです。
部屋に入ってきた時よりもかなり小さくわたくしの名を呼んで、いえ、呼んだというよりも姿を確認して思わず口から出た感じで、スっとその場に片膝をついて目線を下げてくれました。

「ティー。良かった。生きててくれて良かった」
「どうしてここに…」

「もしや公爵家になにか知らせが入っているかもと立ち寄った。その時にモリナス子爵家の使いがしばらく前に来た事を言われて、数日モリナス子爵家に通ってやっとさっきここに居ると教えてもらった」

「お仕事の合間をぬって…ご迷惑をおかけしました」

「仕事?いや…そうか。色々と誤解があると思うんだ。だから少し長くなるけど大丈夫かな?体調とか…気分が悪くなれば直ぐに止める」

「皆さんによくして頂いて、調子も良いのです。でもアポロン様、いえエンデバーグ公爵様、ここに居るよりもマイラさんの側にいてあげてはどうでしょう?マイラさ――」

「誤解だ」

「え?」

「話を遮ってすまない。誤解なんだ。先ず俺はマイラとの間には親戚であるという繋がりしかない。父上の弟がマイラの父。それだけだ。幼少の頃は手を繋いだことも家族で食事をした事も在る。それは認める。だが誓って…軍に従軍した15歳からマイラと手を繋いだこともない。すり寄って来た事はある。だが迷惑にしか感じたことはない。マイラの腹の子は他の男の子供だ。俺には関係ないと断言できる。それと‥‥もう公爵家は抜けたんだ。名前しかない。アポロンと呼んでほしい」

「で、ですが、マイラさんは…。それに公爵家を抜けたとはどういう事です?」

「ずっと前にティーが勇気を出して言ってくれたのに守り切れなくてすまなかった。階段から落ちたと聞いて…負傷したのがどうして俺ではないのだと代わりたかった。あと10日の遠征なら何とかなると思った俺の驕りだった。確かに母も姉も妹もした事は詫びて済むような事ではない。ティーが陛下から下賜された妻だという事はどういう存在なのか、そこは考えてくれるだろうという甘えがあった。守るべき順序を【してくれるだろう】と甘い認識を持っていたばかりに間違っていた。俺が何よりも守らねばならないのはシスティアナ。君だ。そして子供だ。だから公爵家は離籍をした」

その場に伏して、顔を床にされているのでしょう。
声しか聞こえなくなりました。


「勝手な事だと、ただの我儘だと判っている。だが、この腕一本で君と子供を絶対に守る。食べさせていくためなら、どぶ攫いだって下男の仕事にだって何でもして家族を養っていく。お願いだ。俺と…俺と…生涯を共にしてくれ。好きなんだ。どうしようもなくっティーを愛しているんだっ」

「そう言う‥‥そういう事はちゃんと顔を見て言ってくださいませっ!」


寝台の縁に両手の指をちょこんとかけられて、ニュっと顔をあげられます。
初めてアポロン様がわたくしを好きだと‥‥愛していると言ってくださいましたが、床に向かって言われるのがなんだか納得できません。


「許してくれる?俺を…」
「少し手を貸してくださいませ。体を起こしたいのです」
「あ、あぁ。こんな手で良ければ喜んで」

立ちあがって中腰になったアポロン様はそっと背中に手を入れて起こしてくれました。
ふと見れば、顔中傷だらけです。頬には深い切り傷が幾つもあって額にも大きな瘡蓋があります。

「まず、わたくしは離縁書にサインをしたのですよ」
「そんなものは無効だ。強制的に書かせたものだ。俺はサインなどしていない。これだろう?」

胸ポケットから出してきたのは、乱暴に折りたたまれて所々インクが滲んでいますが間違いなく、あの日イルマ様が出してきてわたくしがサインした離縁書でした。

「こんなものは‥‥こうする」

大きな手でギュウっと小さく丸めて、アポロン様はパクっと食べて飲み込んでしまいました。
そんなもの…紙は食べる物はないのに!

「あんなものはもう俺が処分した。腹の中でドロドロに溶かしてもう消えた」
「そんなに早く消化はしませんよ。それに‥‥ヤギですら紙は食べないのに」
「家はある。新しく買った。もう誰にもティーに触れさせない。だから…」
「もう一度言ってくださいまし」
「家はある―――」
「違います!ちゃんと…その…さっきの‥‥言ってくださいまし!!」


やり直す機会を俺にくれるんだろうか。
少し怒った口調のティーが愛おしくて堪らない。さっきの言葉とは…まさか!
離縁書は無効だともう一度言えばいいんだろうか。何度でも言う。あんなものは無効だからな。

「ティー。離縁書は無――」
「違います!!」
「えっと…俺がサインしてないから無効と言うんじゃなくて――」
「だから違います!!床に向かってだなんて酷い!!」

え?床…俺は足元を見た。もう一度土下座をしてやり直したほうがいいんだろうか。
そうだな。プロポーズのような物なんだ。もう一度床に伏せよう。
そう思って俺が床に膝をつこうとするとまたも【違うと言ってるでしょう!】と言うんだ。

そして、ぺちり!とティーの可愛い手が俺の頬に当たった。
なんて可愛いんだ。精一杯の力が俺は打ち震えるほどに嬉しいと感じるんだ。

「だいたいっ!そんなっ!やっと聞けたのに、床に向かってだなんてあんまりです!」

もう一度床を見た‥‥‥‥・

ハッ!!気が付いた俺は全身から炎が噴き出すかと思うほど体が熱くなった。
もし、オーラが見えるのなら一気に医院が全焼するほど火柱が上がっただろう。

小さくて柔らかい手を取って、ティーの目を真っ直ぐに見た。

「システィアナ。俺の唯一。好きだ。世界中の誰よりも愛している」

ティーの瞳が途端に涙でウルウルと小刻みに震えるのが判った。
唇が微かに動いて俺の名を呼ぼうとするのが判ると、もう我慢が出来なかった。

「ティー!愛している!もう一度俺とやり直してくれる機会をくれてありがとう!」

ギュッと抱きしめた。
耳元でティーが囁いた。





「考えておきます」

えっ‥‥。ドウシテ??
俺は動けなくなってしまった。
感想 199

あなたにおすすめの小説

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

【完結】ハーレム構成員とその婚約者

里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。 彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。 そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。 異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。 わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。 婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。 なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。 周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。 コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。

上手に騙してくださらなかった伯爵様へ

しきど
恋愛
 アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。  文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。  彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。  貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。  メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。

従姉の子を義母から守るために婚約しました。

しゃーりん
恋愛
ジェットには6歳年上の従姉チェルシーがいた。 しかし、彼女は事故で亡くなってしまった。まだ小さい娘を残して。 再婚した従姉の夫ウォルトは娘シャルロッテの立場が不安になり、娘をジェットの家に預けてきた。婚約者として。 シャルロッテが15歳になるまでは、婚約者でいる必要があるらしい。 ところが、シャルロッテが13歳の時、公爵家に帰ることになった。 当然、婚約は白紙に戻ると思っていたジェットだが、シャルロッテの気持ち次第となって… 歳の差13歳のジェットとシャルロッテのお話です。

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。