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第15話 ちょっとしたお願い
バレス侯爵家に来たのは良いが肝心の話が出来ないまま2週間が過ぎようとしていた。
一旦ルーフェルズ伯爵家に戻っても良いのだが、ライオットは暴れることも無く、大人しく世話をされるようになってきた。
一度心が傷ついた人を、中途半端に手を出し、投げてしまうと今度はもう修復できないくらいに心が壊れてしまう。
そこにまだする事があると解っていて投げ出すのが嫌な性格のパトリシア。
あと少しバレス侯爵家に留まる事にした。
今、考えているのはライオットを部屋からどうやって連れ出すか。
夜な夜な自由に使っていいと言われた書庫でライオットの状態を改善するための方法がないかと本を探して読む。
マッサージをしていて気が付いたことがあった。
素人判断は危険だが、ライオットは足の指が少しだが動かせるのだ。
抓ったり擽ったりすると反応は鈍いけれど「触れられているのは解る」と言う。
試しに足を隠し「どっちの足を触っているか」と触ってみればちゃんと判るのだ。
(もしかしたら歩けるようになるかも知れない。時間はかかるでしょうけど)
骨折ではなく、おそらくは神経が傷んでいると思われるので昔のように走ったり、騎乗したり、何十キロもある荷を背負っての行軍は無理だろうが、部屋の中だけ、屋敷の中だけ自力で移動する事は出来るようになるかも知れない。
しかし、歩行訓練を始める前にライオットはまだ部屋から出ようとしない。窓を開けるのもパトリシアが開けても席を外している時にメイドなどに頼んでカーテンを閉じてしまう。
「先ずはテラスで良いし、部屋から出たいって思って貰わなきゃ」
そうは思うが、問題がある。自力では移動できないので移動をさせるのには男性従者数人の協力は不可欠。ライオットは粗相の始末を使用人にさせるのが嫌で遠ざけていた。
部屋を移動するのに使用人の手を借りるのならここにいると言うだろう。
なら誰の手も煩わせることはないと理解が出来れば部屋から出てくれるかも。
どうすればいいのかパトリシアは必死で考えた。
まず思い浮かんだのは荷車だった。
「うーん。どうすればいいかなぁ。ガッタンってなっちゃうわよね」
手の甲を上にしてシーソーの様に動かし悩んだが答えが出ない。
頭の中はまだもやもやするがパトリシアはライオットの待つ部屋に戻る途中で日課の庭散歩を終えた侯爵夫妻と出くわした。
「ありがとう。あの子が大人しく湯を浴びたなんて何日たってもまだ信じられないわ」
「あぁ。私からも礼を言う。ここ最近ずっと食事もきちんと完食。皿も投げなかったなんて。君のおかげだ」
「私は何もしてません。失礼かなって思う事はしちゃいましたけど」
謙遜するパトリシアの手を握り侯爵夫妻は「ありがとう」何度も言った。
パトリシアが来た翌日の朝、散歩をしていてそろそろ戻ろうか。そんな時に開かれた窓からライオットの笑い声が聞こえて来て夫婦で顔を見合わせた。
自棄になって笑っているのでもないその笑い声はライオットが本当に面白くて、可笑しくて笑っている声。
侯爵夫人は泣いてしまった。
ライオットの笑い声が聞けるなんて考えても見なかった。
「ありがとう。何でも貴女の好きにしていいわ。とことんやっちゃっていいわ」
「そうですか?ではお言葉に甘えて3つお願いしてもいいですか?」
「なんだね?なんでも言ってくれ」
「では先ず1つ目。まだ当面御厄介になるので、家には戻らないと連絡をして欲しいです」
「お安い御用だ。…そうだな50年は戻らないと連絡しておこう」
(当面で50年…暫くになると千年単位?!)
バレス侯爵は笑顔で引き受けてくれて、通りかかった従者を直ぐにルーフェルズ伯爵家に走らせた。
「もう1つなんですけども、今夜の夕食。何とかしてライオット様を食事室に連れて行きますので、ライオット様の好きな料理にして欲しいんです」
「食事を?あの子と?大丈夫なの?」
「多分…大丈夫です。ライオット様を移動させるのに男性の使用人の方にお手伝いを頼むことになりますが」
「えぇ、えぇ。勿論。手配をするわ。あぁこんな日が来るなんて!!」
侯爵夫人は手にしていたハンカチでは追い付かないくらいに本気で泣き出してしまった。
侯爵の目にも涙が溢れ、夫婦で抱き合って喜びを噛み締めている。
「ライオット様の前では泣いてはダメです。あくまでも以前と同じで特別ではないのだと」
「あぁ。判っている。判っているんだが…胸が震えて…」
「最後の頼みは何?なんでも叶えてあげるわ。言ってちょうだい」
「3つ目は…ライオット様に先ず頼んでみます。それから相談をしたいと考えています」
「うむ。良いだろう。気兼ねをすることはない。何でも言ってくれ。私の力が足りなければ兄上にも頭を下げる」
「いえいえいえいえいえ!!国王陛下にもなんてとんでもない!!」
国王陛下と王妃殿下にまた会う事になったら寿命が30年は縮まりそうな気がする。
あのオーラは半端ない。常日頃から浴びている両陛下付きの従者はどんな鍛錬をしているのか知りたくなってしまうではないか。
侯爵夫妻に3つのうち2つのお願いをしたパトリシアはふと庭を見た。
夫妻が散歩を終えた後に庭師たちが庭木の手入れを始めるのだ。
ライオットの部屋に戻らねばならないが、「ハッ!もしや!」パトリシアは庭に走り出た。
その様子に侯爵夫妻も驚いてパトリシアを追い、庭に出た。
「庭師さん!これ!貸してください!」
「はぁ?!」
パトリシアが指さして「貸してください」と言ったのはまだ作業を始めようとしていたので、道具を載せたままの手押しの一輪車。作業終盤では刈った後の葉っぱや枝、抜いた草を積んで運ぶ一輪車だった。
一旦ルーフェルズ伯爵家に戻っても良いのだが、ライオットは暴れることも無く、大人しく世話をされるようになってきた。
一度心が傷ついた人を、中途半端に手を出し、投げてしまうと今度はもう修復できないくらいに心が壊れてしまう。
そこにまだする事があると解っていて投げ出すのが嫌な性格のパトリシア。
あと少しバレス侯爵家に留まる事にした。
今、考えているのはライオットを部屋からどうやって連れ出すか。
夜な夜な自由に使っていいと言われた書庫でライオットの状態を改善するための方法がないかと本を探して読む。
マッサージをしていて気が付いたことがあった。
素人判断は危険だが、ライオットは足の指が少しだが動かせるのだ。
抓ったり擽ったりすると反応は鈍いけれど「触れられているのは解る」と言う。
試しに足を隠し「どっちの足を触っているか」と触ってみればちゃんと判るのだ。
(もしかしたら歩けるようになるかも知れない。時間はかかるでしょうけど)
骨折ではなく、おそらくは神経が傷んでいると思われるので昔のように走ったり、騎乗したり、何十キロもある荷を背負っての行軍は無理だろうが、部屋の中だけ、屋敷の中だけ自力で移動する事は出来るようになるかも知れない。
しかし、歩行訓練を始める前にライオットはまだ部屋から出ようとしない。窓を開けるのもパトリシアが開けても席を外している時にメイドなどに頼んでカーテンを閉じてしまう。
「先ずはテラスで良いし、部屋から出たいって思って貰わなきゃ」
そうは思うが、問題がある。自力では移動できないので移動をさせるのには男性従者数人の協力は不可欠。ライオットは粗相の始末を使用人にさせるのが嫌で遠ざけていた。
部屋を移動するのに使用人の手を借りるのならここにいると言うだろう。
なら誰の手も煩わせることはないと理解が出来れば部屋から出てくれるかも。
どうすればいいのかパトリシアは必死で考えた。
まず思い浮かんだのは荷車だった。
「うーん。どうすればいいかなぁ。ガッタンってなっちゃうわよね」
手の甲を上にしてシーソーの様に動かし悩んだが答えが出ない。
頭の中はまだもやもやするがパトリシアはライオットの待つ部屋に戻る途中で日課の庭散歩を終えた侯爵夫妻と出くわした。
「ありがとう。あの子が大人しく湯を浴びたなんて何日たってもまだ信じられないわ」
「あぁ。私からも礼を言う。ここ最近ずっと食事もきちんと完食。皿も投げなかったなんて。君のおかげだ」
「私は何もしてません。失礼かなって思う事はしちゃいましたけど」
謙遜するパトリシアの手を握り侯爵夫妻は「ありがとう」何度も言った。
パトリシアが来た翌日の朝、散歩をしていてそろそろ戻ろうか。そんな時に開かれた窓からライオットの笑い声が聞こえて来て夫婦で顔を見合わせた。
自棄になって笑っているのでもないその笑い声はライオットが本当に面白くて、可笑しくて笑っている声。
侯爵夫人は泣いてしまった。
ライオットの笑い声が聞けるなんて考えても見なかった。
「ありがとう。何でも貴女の好きにしていいわ。とことんやっちゃっていいわ」
「そうですか?ではお言葉に甘えて3つお願いしてもいいですか?」
「なんだね?なんでも言ってくれ」
「では先ず1つ目。まだ当面御厄介になるので、家には戻らないと連絡をして欲しいです」
「お安い御用だ。…そうだな50年は戻らないと連絡しておこう」
(当面で50年…暫くになると千年単位?!)
バレス侯爵は笑顔で引き受けてくれて、通りかかった従者を直ぐにルーフェルズ伯爵家に走らせた。
「もう1つなんですけども、今夜の夕食。何とかしてライオット様を食事室に連れて行きますので、ライオット様の好きな料理にして欲しいんです」
「食事を?あの子と?大丈夫なの?」
「多分…大丈夫です。ライオット様を移動させるのに男性の使用人の方にお手伝いを頼むことになりますが」
「えぇ、えぇ。勿論。手配をするわ。あぁこんな日が来るなんて!!」
侯爵夫人は手にしていたハンカチでは追い付かないくらいに本気で泣き出してしまった。
侯爵の目にも涙が溢れ、夫婦で抱き合って喜びを噛み締めている。
「ライオット様の前では泣いてはダメです。あくまでも以前と同じで特別ではないのだと」
「あぁ。判っている。判っているんだが…胸が震えて…」
「最後の頼みは何?なんでも叶えてあげるわ。言ってちょうだい」
「3つ目は…ライオット様に先ず頼んでみます。それから相談をしたいと考えています」
「うむ。良いだろう。気兼ねをすることはない。何でも言ってくれ。私の力が足りなければ兄上にも頭を下げる」
「いえいえいえいえいえ!!国王陛下にもなんてとんでもない!!」
国王陛下と王妃殿下にまた会う事になったら寿命が30年は縮まりそうな気がする。
あのオーラは半端ない。常日頃から浴びている両陛下付きの従者はどんな鍛錬をしているのか知りたくなってしまうではないか。
侯爵夫妻に3つのうち2つのお願いをしたパトリシアはふと庭を見た。
夫妻が散歩を終えた後に庭師たちが庭木の手入れを始めるのだ。
ライオットの部屋に戻らねばならないが、「ハッ!もしや!」パトリシアは庭に走り出た。
その様子に侯爵夫妻も驚いてパトリシアを追い、庭に出た。
「庭師さん!これ!貸してください!」
「はぁ?!」
パトリシアが指さして「貸してください」と言ったのはまだ作業を始めようとしていたので、道具を載せたままの手押しの一輪車。作業終盤では刈った後の葉っぱや枝、抜いた草を積んで運ぶ一輪車だった。
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