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第32話 ♡武勇伝、武勇伝
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お隣の奥さんの旦那様は官庁に勤めるお役人である。
「どうしたんです?」
「お願いします!!力を貸してください!」
すかさずグレイスがキッチンから出てきて「むんっ!」力こぶも出ないのにガッツポーズ。
「お任せくださいませ!ネズミ獲りですわねっ!」
「は?」
「あ、あら…違いますの?」
グレイスもキースと一緒に暮らし始めてもう1年。
「空気を読む」という事を少し覚えたばかりなのだが、どうやら違っていたようでそぉぉっと腕を下ろし「恥ずかしい」とキースの背に顔を隠した。
3日程前にお隣の奥さんと垣根越しにお喋りをしたのだ。
『奥様、今日は私の武勇伝をきいてくださいまし!』
『まぁ、武勇伝?どうしたんだい?』
『私、この1週間キッチンで夜な夜な食料を荒すネズミを遂に!!捕まえたのです!』
『ネズミを?!まさか…手で?』
『いいえ。 ”俺に捕まったら最後だぜ” が売りの粘着トリモチネズミ捕りで!ですわ!』
『そ、そうなのね~すごーい(棒)』
『キース様はここだと言うのですが、私は絶対にここだ!と思う場所が御座いまして、私の仕掛けた方にかかっていたのですわ』
隣の奥さんにしてみると「どうでもいい」に近い話なのだが、このネズミにはグレイス、大いに腹を立てていた。時季外れのナスはお高いのだ。
そのナスを齧られてしまい、キースに「ここはまだ齧られてません」と訴えたのだがネズミは色々な病気を運ぶ害虫でもあるので、カリっと小さく齧られているだけなのにナスは廃棄処分。
「許すまじ!」グレイスはキースと一緒に買い物に行き ”俺に捕まったら最後だぜ” がキャッチコピーのネズミ捕りを購入し、足の踏み場もないくらいに設置。
遂に捕獲したのだ。
捕獲される以外にネズミには足の踏み場がなかったのだが…。
そしてグレイスは知らないが、キースは朝起きてグレイスの「ここも!」と言った場所のネズミ捕りと入れ替えてグレイスのお手柄にしている。
こんな時間に息子と訪れたお隣の奥さん。
きっと調理中に足元をネズミが駆け抜けていったのだろう。とんでもない大事件だからこんな時間でも来るはずだとグレイスは力になるべく名乗りを挙げたが、勇み足を踏んだのだった。
「ネズミじゃないんだよ。見つけたら頼むさね。実はね、息子の部署で…」
語り始めた隣の奥さん。
息子はまだまだ下っ端なのだが、隣の国ファルスマテア王国の領主から支援要請があったとこちらの国の領主から報告を受けた国王、王太子から勅令が下りたのである。
「ものすごく大きな地震があったみたいで、お隣の領民はね、食糧なんかが一切ないそうなんだよ。それで明日の朝には荷馬車に荷を積んで山越えで運んで配布して欲しいそうなんだよ」
奥さんの言葉にキースが応えた。
「荷を運べばいいんですか?」
「実はね、他の領主も支援を頼んできたみたいで。えぇーっと幾つだった?」
奥さんは息子の方を見て問うと息子は「11です」短く答え、説明をした。
ファルスマテア王国は国や王家としては周辺国に支援の要請はしていないのだが、国境を接する11の領主は独自判断で隣国に支援要請を申し出るべく使者を走らせた。
「国を通せば?」とは思ったものの一刻を争う事態でもあるし、ここ1年ファルスマテア王国の取る施策、政策には首を傾げる事が多かったので、国の支援や王家の号令はアテにしていないのだろうと判断した。
それもそうだろう。
井戸が枯れ、救済策として動物の肝臓を天井に吊るすなど常軌を逸脱している。
特にこれと言って信仰している宗教はない両国だが、国を挙げてカルト教を布教させる気なのか?と思ったくらいだ。
11の領地に支援物資を送るのだが、そうなると人員が必要になる。
運ぶ人間もだが、現地に到着をした後は形のある物資だけでなく、目には見えない心のケアも必要になる。
「女性の手も必要さね。留守にする間は憲兵が見回りをしてくれるそうだし、混乱に乗じた火事場泥棒は厳罰に処されるから家は大丈夫だと思うんだよ。奥さんも手伝ってくれないかい?」
「解りましたわ!お手伝いさせてくださいませ!」
「グレイスっ!ダメだ。グレイスの分は俺が働く。グレイスはここにいるんだ」
「いいえ。キース様。大丈夫です。それに人は1人でも多い方がいいんですよね?」
グレイスは隣の奥さんに同意を求めた。
当然1人と言わず、猫でも犬でもいいので手は欲しい。「勿論!」だった。
「しかし、グレイス…」
「大丈夫。それに…見て見ぬふりなんて出来ないでしょう?」
「それはそうなんだが」
隣の奥さんと息子の前で過去の事を口にする事は出来ない。
しかし、ここで断ってしまうと近所に総スカンをされるのは構わないが、何故断るのかと詮索する者がいないとも限らない。
キースとグレイスは手伝いをする事を約束し、明日の集合場所を教えてもらった。
2人になり、キースは「危険だ」とグレイスに告げた。
「もう1年よ?死んだことになってるし、他人の空似で誤魔化せるわ」
「でもっ」
「要請をしてきたのは領主でしょう?王家じゃないわ。それに王家が視察に向かうとすれば被害が少なくて道中も無理をしなくていい地だと思うわ。率先して何か対策を打ち出しているなら領主が直接他国に支援を求める事なんてあり得ませんわ」
「だけどグレイスが生きている事が解ったら!」
「解ったらどうだと言うのです?向こうには救済人様もいらっしゃいますし、私は…切捨てられたのですから、何かされたりする理由がありませんわ」
そうかも知れないがと、言おうとして言葉を飲み込んだキースは胸の奥に小さな蟠りを抱えるのだった。
「どうしたんです?」
「お願いします!!力を貸してください!」
すかさずグレイスがキッチンから出てきて「むんっ!」力こぶも出ないのにガッツポーズ。
「お任せくださいませ!ネズミ獲りですわねっ!」
「は?」
「あ、あら…違いますの?」
グレイスもキースと一緒に暮らし始めてもう1年。
「空気を読む」という事を少し覚えたばかりなのだが、どうやら違っていたようでそぉぉっと腕を下ろし「恥ずかしい」とキースの背に顔を隠した。
3日程前にお隣の奥さんと垣根越しにお喋りをしたのだ。
『奥様、今日は私の武勇伝をきいてくださいまし!』
『まぁ、武勇伝?どうしたんだい?』
『私、この1週間キッチンで夜な夜な食料を荒すネズミを遂に!!捕まえたのです!』
『ネズミを?!まさか…手で?』
『いいえ。 ”俺に捕まったら最後だぜ” が売りの粘着トリモチネズミ捕りで!ですわ!』
『そ、そうなのね~すごーい(棒)』
『キース様はここだと言うのですが、私は絶対にここだ!と思う場所が御座いまして、私の仕掛けた方にかかっていたのですわ』
隣の奥さんにしてみると「どうでもいい」に近い話なのだが、このネズミにはグレイス、大いに腹を立てていた。時季外れのナスはお高いのだ。
そのナスを齧られてしまい、キースに「ここはまだ齧られてません」と訴えたのだがネズミは色々な病気を運ぶ害虫でもあるので、カリっと小さく齧られているだけなのにナスは廃棄処分。
「許すまじ!」グレイスはキースと一緒に買い物に行き ”俺に捕まったら最後だぜ” がキャッチコピーのネズミ捕りを購入し、足の踏み場もないくらいに設置。
遂に捕獲したのだ。
捕獲される以外にネズミには足の踏み場がなかったのだが…。
そしてグレイスは知らないが、キースは朝起きてグレイスの「ここも!」と言った場所のネズミ捕りと入れ替えてグレイスのお手柄にしている。
こんな時間に息子と訪れたお隣の奥さん。
きっと調理中に足元をネズミが駆け抜けていったのだろう。とんでもない大事件だからこんな時間でも来るはずだとグレイスは力になるべく名乗りを挙げたが、勇み足を踏んだのだった。
「ネズミじゃないんだよ。見つけたら頼むさね。実はね、息子の部署で…」
語り始めた隣の奥さん。
息子はまだまだ下っ端なのだが、隣の国ファルスマテア王国の領主から支援要請があったとこちらの国の領主から報告を受けた国王、王太子から勅令が下りたのである。
「ものすごく大きな地震があったみたいで、お隣の領民はね、食糧なんかが一切ないそうなんだよ。それで明日の朝には荷馬車に荷を積んで山越えで運んで配布して欲しいそうなんだよ」
奥さんの言葉にキースが応えた。
「荷を運べばいいんですか?」
「実はね、他の領主も支援を頼んできたみたいで。えぇーっと幾つだった?」
奥さんは息子の方を見て問うと息子は「11です」短く答え、説明をした。
ファルスマテア王国は国や王家としては周辺国に支援の要請はしていないのだが、国境を接する11の領主は独自判断で隣国に支援要請を申し出るべく使者を走らせた。
「国を通せば?」とは思ったものの一刻を争う事態でもあるし、ここ1年ファルスマテア王国の取る施策、政策には首を傾げる事が多かったので、国の支援や王家の号令はアテにしていないのだろうと判断した。
それもそうだろう。
井戸が枯れ、救済策として動物の肝臓を天井に吊るすなど常軌を逸脱している。
特にこれと言って信仰している宗教はない両国だが、国を挙げてカルト教を布教させる気なのか?と思ったくらいだ。
11の領地に支援物資を送るのだが、そうなると人員が必要になる。
運ぶ人間もだが、現地に到着をした後は形のある物資だけでなく、目には見えない心のケアも必要になる。
「女性の手も必要さね。留守にする間は憲兵が見回りをしてくれるそうだし、混乱に乗じた火事場泥棒は厳罰に処されるから家は大丈夫だと思うんだよ。奥さんも手伝ってくれないかい?」
「解りましたわ!お手伝いさせてくださいませ!」
「グレイスっ!ダメだ。グレイスの分は俺が働く。グレイスはここにいるんだ」
「いいえ。キース様。大丈夫です。それに人は1人でも多い方がいいんですよね?」
グレイスは隣の奥さんに同意を求めた。
当然1人と言わず、猫でも犬でもいいので手は欲しい。「勿論!」だった。
「しかし、グレイス…」
「大丈夫。それに…見て見ぬふりなんて出来ないでしょう?」
「それはそうなんだが」
隣の奥さんと息子の前で過去の事を口にする事は出来ない。
しかし、ここで断ってしまうと近所に総スカンをされるのは構わないが、何故断るのかと詮索する者がいないとも限らない。
キースとグレイスは手伝いをする事を約束し、明日の集合場所を教えてもらった。
2人になり、キースは「危険だ」とグレイスに告げた。
「もう1年よ?死んだことになってるし、他人の空似で誤魔化せるわ」
「でもっ」
「要請をしてきたのは領主でしょう?王家じゃないわ。それに王家が視察に向かうとすれば被害が少なくて道中も無理をしなくていい地だと思うわ。率先して何か対策を打ち出しているなら領主が直接他国に支援を求める事なんてあり得ませんわ」
「だけどグレイスが生きている事が解ったら!」
「解ったらどうだと言うのです?向こうには救済人様もいらっしゃいますし、私は…切捨てられたのですから、何かされたりする理由がありませんわ」
そうかも知れないがと、言おうとして言葉を飲み込んだキースは胸の奥に小さな蟠りを抱えるのだった。
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