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最終話 ♡新しい家族
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「大丈夫か?横になるか?」
「道端で横になってどうするのです。頑張って歩きますわ」
アルフレットに呼び止められて他人の空似を押し切ったグレイスだったが、アルフレットの気持ち悪さが生理的に受け付けなくて吐き気がすると思ったら違っていた。
立てない日が続くし、食欲はなくあるのは吐き気ばかり。
体も熱っぽくだるいし、あんなに好きだった焼きナスすら食べられなくなった。
「どうです?先生…」
キースはぐったりして顔色も悪いグレイスのために医者を呼んだ。
もしかして精霊が怒ってしまったんだろうかと考え、小さな声に耳を澄ませたがそんな時に限って声は聞こえない。
「あ~。おめでたですね。最後の月のものから計算して8週目。一般的には妊娠3か月と言われる時期ですよ」
「お・め・で・た?」
「はい。15週を過ぎる辺りまでは旦那さんも自重してくださいね。大事な時期です。悪阻もあるようですが食べられる時に食べられるだけ食べてください。全部吐いちゃう事もあるでしょうが、無理して食べることはありませんよ」
吐き気は変わらないが、原因が判れば安心できると言うものだ。
そこで再度考えることになったのが住処である。
今の時期は移動なんてとんでもないが、落ち着いたとしても森の家は何かあった時にすぐには動けない。
子供は熱を出すと高熱になったりすることもあって、やはり街中に住んだ方がいいのではないか。キースはグレイスに相談した。
「そうね。自分が不便を不便と感じないのを子供に押し付けるのは良くないわね」
「グレイスは森の家がいいんだろう?」
「だって…キース様と全てが始まった家ですもの」
「そうか。この件はゆっくり考えよう。少なくともあと7週くらいは妊娠初期で大事にしないといけない時期だからな」
「そうですわね。でも不思議。お腹にもう1つ命があるなんて」
掛布越しにグレイスのお腹に手を置くとまだ何も感じないがキースにも「不思議だな」と思えた。
‥‥のだが?
『グレイス、ちがうよー』
『1つじゃなくて2つだよー』
「え?…今、なんつった?!」
「どうされたの?キース様」
「声、聞こえただろ?1つじゃなくて2つって」
「まさかぁ。双子?あり得ないわ。キース様、まだお腹も全然膨らんでないんですのよ?」
くすくすと笑うグレイスだが、キースは耳の後ろあたりの髪がツンツン引っ張られる感覚まで出た。
『キースぅ。ブロッコリーだよぅ』
『グレイス、スイカ美味しいよー』
「解った!解ったから!植えるよ!」
「どうなさったの?何を植えますの?」
「あ~スイカとブロッコリーだな。ブロッコリー育つかな」
『お手伝いするよー』
『育つよー』
「本当にどうなさったの?誰と話してますの?」
「気にするな。グレイスを応援してんだよ」
「はぁ?そうですの?」
「今は、食べたい時、飲みたい時に食べて飲んで横になってろ」
「じゃぁ、塩を振りかけて頂ければコロコロするので運動もしないと太ってしまいますわね」
「グレイスはキュウリじゃねえから」
安定期に入る少し前にアンドレオから「ゼル侯爵家が廃家になった」と短い知らせが来たが、キースはぎゅっと雑巾のように知らせの書かれた紙を絞ると竈の中に放り込んだ。
――グレイスを捨てた家族なんかもう家族じゃない。グレイスは新しい家族を迎えるんだ――
腐っても血の繋がった親だ。教えた方がいいのかも。とは考えたがキースの家族はグレイスとお腹の子。グレイスの家族もキースとお腹の子。それでいいかなと教えない事にしたのだ。
その次の心配事は出産時期に家主が戻ってくる事だ。
子供が生まれるのだから引っ越しをやはり早めに行わねばならない。
「国営住宅!当たってくれよ~」
これで何度目だろう。
グレイスの体調を考えれば残りのチャンスは2回しかない。
キースは祈りを込めて申込書を書くが、無情な声が聞こえる。
『当たらないよー』
『書くだけ無駄ー』
「うっせ!申し込まなきゃ当たらねぇんだよ」
気ばかり焦ってしまったが、結果は落選。
いよいよ民間の賃貸住宅を探さねばならないが、空き室が出ても直ぐに手付を打たれてしまい確保が出来なかった。
――リヤカーにグレイス乗せて森の家に帰るか――
無謀な事も本気で考えねばならなくなった頃、手紙が届いた。
差出人は留守番を頼んだ家主。
ガルティア王国に帰る予定が無くなったので、留守番の報酬として家を受け取って欲しいと書かれてあった。
さらに、身重のグレイスにはやらせずに庭の畑の手入れをしていると隣の奥さんが話しかけてきた。
「旦那さん。ヤギいらない?」
「ヤギっ?!」
「番なんだけどね、飼えなくなったって。そうそう!国営住宅申し込んでたでしょ?当たった?」
「いやぁはずれちゃって。俺、くじ運ないんですよ」
「何言ってんの!知らないの?欠陥が見つかって入居者退去だってさ。当たらなくてよかったじゃないのよ~」
「そ、そうだったんですか‥」
なんだかんだ言ってグレイスが困らないようになってるのは精霊のおかげだろうか。
精霊人だろうなとキースは確信しているが、数か月後、キースは目には見えない精霊に感謝を捧げた。
生まれてきたのは双子。
授乳が追い付かず隣の奥さんに言われて引き受けたヤギがいなかったら大変な事になっていた。
ヤギの乳を搾りながら感謝を声に出した。
「ありがとう。助かったよ」
『どういたしましてー』
そんな声に重なって聞える。
『グレイス、だめー!!』
「な、なんだぁ?」
精霊の声に慌ててキースが乳しぼりを中断し、家の中に駆け込むと照れるグレイスがいた。
「お腹…空いてしまいましたの」
授乳で空腹を強く感じるのは解るが、ナスを生で齧るのはどうなんだ?と思ったキースなのだった。
Fin
★~★
読んで頂きありがとうございました<(_ _)>
「道端で横になってどうするのです。頑張って歩きますわ」
アルフレットに呼び止められて他人の空似を押し切ったグレイスだったが、アルフレットの気持ち悪さが生理的に受け付けなくて吐き気がすると思ったら違っていた。
立てない日が続くし、食欲はなくあるのは吐き気ばかり。
体も熱っぽくだるいし、あんなに好きだった焼きナスすら食べられなくなった。
「どうです?先生…」
キースはぐったりして顔色も悪いグレイスのために医者を呼んだ。
もしかして精霊が怒ってしまったんだろうかと考え、小さな声に耳を澄ませたがそんな時に限って声は聞こえない。
「あ~。おめでたですね。最後の月のものから計算して8週目。一般的には妊娠3か月と言われる時期ですよ」
「お・め・で・た?」
「はい。15週を過ぎる辺りまでは旦那さんも自重してくださいね。大事な時期です。悪阻もあるようですが食べられる時に食べられるだけ食べてください。全部吐いちゃう事もあるでしょうが、無理して食べることはありませんよ」
吐き気は変わらないが、原因が判れば安心できると言うものだ。
そこで再度考えることになったのが住処である。
今の時期は移動なんてとんでもないが、落ち着いたとしても森の家は何かあった時にすぐには動けない。
子供は熱を出すと高熱になったりすることもあって、やはり街中に住んだ方がいいのではないか。キースはグレイスに相談した。
「そうね。自分が不便を不便と感じないのを子供に押し付けるのは良くないわね」
「グレイスは森の家がいいんだろう?」
「だって…キース様と全てが始まった家ですもの」
「そうか。この件はゆっくり考えよう。少なくともあと7週くらいは妊娠初期で大事にしないといけない時期だからな」
「そうですわね。でも不思議。お腹にもう1つ命があるなんて」
掛布越しにグレイスのお腹に手を置くとまだ何も感じないがキースにも「不思議だな」と思えた。
‥‥のだが?
『グレイス、ちがうよー』
『1つじゃなくて2つだよー』
「え?…今、なんつった?!」
「どうされたの?キース様」
「声、聞こえただろ?1つじゃなくて2つって」
「まさかぁ。双子?あり得ないわ。キース様、まだお腹も全然膨らんでないんですのよ?」
くすくすと笑うグレイスだが、キースは耳の後ろあたりの髪がツンツン引っ張られる感覚まで出た。
『キースぅ。ブロッコリーだよぅ』
『グレイス、スイカ美味しいよー』
「解った!解ったから!植えるよ!」
「どうなさったの?何を植えますの?」
「あ~スイカとブロッコリーだな。ブロッコリー育つかな」
『お手伝いするよー』
『育つよー』
「本当にどうなさったの?誰と話してますの?」
「気にするな。グレイスを応援してんだよ」
「はぁ?そうですの?」
「今は、食べたい時、飲みたい時に食べて飲んで横になってろ」
「じゃぁ、塩を振りかけて頂ければコロコロするので運動もしないと太ってしまいますわね」
「グレイスはキュウリじゃねえから」
安定期に入る少し前にアンドレオから「ゼル侯爵家が廃家になった」と短い知らせが来たが、キースはぎゅっと雑巾のように知らせの書かれた紙を絞ると竈の中に放り込んだ。
――グレイスを捨てた家族なんかもう家族じゃない。グレイスは新しい家族を迎えるんだ――
腐っても血の繋がった親だ。教えた方がいいのかも。とは考えたがキースの家族はグレイスとお腹の子。グレイスの家族もキースとお腹の子。それでいいかなと教えない事にしたのだ。
その次の心配事は出産時期に家主が戻ってくる事だ。
子供が生まれるのだから引っ越しをやはり早めに行わねばならない。
「国営住宅!当たってくれよ~」
これで何度目だろう。
グレイスの体調を考えれば残りのチャンスは2回しかない。
キースは祈りを込めて申込書を書くが、無情な声が聞こえる。
『当たらないよー』
『書くだけ無駄ー』
「うっせ!申し込まなきゃ当たらねぇんだよ」
気ばかり焦ってしまったが、結果は落選。
いよいよ民間の賃貸住宅を探さねばならないが、空き室が出ても直ぐに手付を打たれてしまい確保が出来なかった。
――リヤカーにグレイス乗せて森の家に帰るか――
無謀な事も本気で考えねばならなくなった頃、手紙が届いた。
差出人は留守番を頼んだ家主。
ガルティア王国に帰る予定が無くなったので、留守番の報酬として家を受け取って欲しいと書かれてあった。
さらに、身重のグレイスにはやらせずに庭の畑の手入れをしていると隣の奥さんが話しかけてきた。
「旦那さん。ヤギいらない?」
「ヤギっ?!」
「番なんだけどね、飼えなくなったって。そうそう!国営住宅申し込んでたでしょ?当たった?」
「いやぁはずれちゃって。俺、くじ運ないんですよ」
「何言ってんの!知らないの?欠陥が見つかって入居者退去だってさ。当たらなくてよかったじゃないのよ~」
「そ、そうだったんですか‥」
なんだかんだ言ってグレイスが困らないようになってるのは精霊のおかげだろうか。
精霊人だろうなとキースは確信しているが、数か月後、キースは目には見えない精霊に感謝を捧げた。
生まれてきたのは双子。
授乳が追い付かず隣の奥さんに言われて引き受けたヤギがいなかったら大変な事になっていた。
ヤギの乳を搾りながら感謝を声に出した。
「ありがとう。助かったよ」
『どういたしましてー』
そんな声に重なって聞える。
『グレイス、だめー!!』
「な、なんだぁ?」
精霊の声に慌ててキースが乳しぼりを中断し、家の中に駆け込むと照れるグレイスがいた。
「お腹…空いてしまいましたの」
授乳で空腹を強く感じるのは解るが、ナスを生で齧るのはどうなんだ?と思ったキースなのだった。
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