侯爵令嬢のお届け便☆サビネコ便が出来るまで☆

cyaru

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1つの部屋で泊まった日

騎乗して孤児院まで戻ってくると、すっかり掃除をされて綺麗になった内装の孤児院。
シーツも枕も新しくなり、ベッドマットだけは明日以降の配達である。

昼に調達してきた食材で子供たちは見た事もないほどの量の食事に目を丸くした。
粗食の中の粗食で耐えてきた子供たち。
でも、それはこの孤児院だけではなくこの地区の他の孤児院も同じ状態なのである。

「ハインリヒ様っ。明日からは皆ツゥルース●ーパーにセブンスピ●ーですわ」
「凄く張り込んだな。大丈夫なのか?」
「えぇ。チマチマと爪に火を灯すように貯めた豚貯金箱の貯金がありますわ」

どんな豚貯金箱なのだろうかと大きさを想像してみる。
割った時はすごく破片が出るんだろうなぁとも思ってみる。

子供たちに部屋に戻る様に言った後、2人は今日宿泊する部屋に入った。
ハインリヒは寝台は2つだけれど、同じ部屋で寝られるのが嬉しくて堪らない。
城に戻ったら采配したジェームズに臨時ボーナスを出さなくては!と思うのだ。

「お話はどうなりましたの?子供たちが心配していましたわ」
「あ、その件なら大丈夫だ。子供たちはもう行かなくていい」
「良かったですわ。成長期前にあんな重いものを運ぶのはよくありません」
「その件なんだけども、そうなると子供たちは稼ぎがなくなるよね」
「そうですわね。そこは補助で――」
「それだとダメだと思うんだ」

ん?とトーティシェルはハインリヒの顔を覗き込む。
いつもならトーティシェルの意見を優先してくれるのだがそうではないようだ。
フイフイと揺れるトーティシェルの髪。黒の中に茶色がぽつぽつ…。
何かが浮かびそう…。点と点が線で繋がりそうで繋がらない。

「子供たちは仕事がなくなる」
「そうですわね。ですからこの孤児院の空いている部屋で文字を――」
「それだ!」

バッと立ちあがったハインリヒにビックリしてしまってソファに張り付くトーティシェル。

「ど、どうしましたの?!」
「子供たちは文字をどのくらい読めるんだろうか」
「今でしたら、自分の名前も読み書きできないと思いますわ」
「そんなに酷いのか…うーん…」
「どうされましたの?」

「ここは働く場所が少ない上に、周りの地区から比べて賃金も低い。識字率も低いし…問題が多いんだよな」

「そうですわよ。明日皆で街を掃除する予定なのですが‥何人来てくれるか」

「そうか…今日ちょっと話をした御仁が近いうちにアポイントメントを取ってトーティの開発計画の内容を聞きに来るんだけど…この街…流通の拠点にしたいと言ってたよね」

「そうね。侯爵領から切り出した木材や野菜を集めるのにいい場所なの。ここから全方位に出荷できるし、港もあるから船で輸送する事も出来る。そうなれば仕事も出来るから就労する人員も増やせると思うの」

「そこでだ。流通の拠点とした時、大きな荷物だけじゃなくて小さな、そう手紙なんかも一緒に運んだり出来ないかな。子供たちや女性、老人なんかの力がないものは仕分けをする。運ぶのではなくてこの荷物はAに行く、Bに行くと色の付いた紙を貼るとか…ただ文字が読めないんだよな」

「そうなの。だから孤児院の空き部屋で子供は勿論、大人も文字を学ぶことが出来ればいいかなと思うんだけど、大人は来る時間がないわね。子供たちは朝食と昼食を付ける事と、軽作業をしてもらう事で日当は出そうと思ってるのよ」

「軽作業ってどんな?」

「例えば、お使いであったり、掃除であったり、子守であったり。今まで女性達が負担をしていた事を商売として成り立たせるのよ。それは対価が必要な事だと認識をしてもらうの。当然給料が上がれば税収も増える。街に回り出すお金も増えれば流通も多くなる。供給過多と需要過多にならないようにセーブは必要だけど、一時期は売り手市場になる雇用は行きわたれば買い手市場になって失業者がまた出てしまうわ」

「そうか‥‥なら、さっき僕が言った小さい荷物を仕分けるのをここだけじゃなく、配達先の地域にも支店のようなのを作ったらどうだろう。そうするとそこにも人員は必要なわけで」

「でも、ここから出たくないという人もいるし…行った先でちゃんとやってくれるかどうか…。ここは出来れば侯爵家主導で上下水道を完備しようと思うの。今のままでは何日も前に汲み上げた水を飲んでる状態だし…汚水、生活排水が凄いの。川にそのまま垂れ流しだから川も汚れてしまっているし…改善した時に予想ではおそらく国内で一番の進んだ地域になる筈よ。ここは底辺も底辺だから伸びしろしかないもの」

「伸びしろも前途多難だなぁ‥‥明日には城に戻らないといけないし」

「それはハインリヒ様だけでどうぞ。わたくしは暫く留まりますから」

「うっそ…それはダメだよ。危険すぎる」

「だからですわ!王子妃になろうと言う者が安心して住めるという根拠の提示が大事なのです。お話を聞いてくださるという方にはこの孤児院に来られるように言ってくださいませ」

「それはトーティの活動拠点をしばらくはここにするという事?」

「そうですわよ。そのほうが指揮をとり易いですもの。ドレス製作の学生さんにもここに来て頂きますわ。迎えは侯爵家が致しますので安全は保障致しますわ」

ハインリヒは当たり前のように話をするトーティシェルが不思議でならない。
普通の令嬢なら今日のこの部屋だって寝台だって食事だって文句を言うはずだ。
今日一日辛抱すればと考えるご令嬢も多いだろう。
なのに暫くここに留まり、ここで活動するという。

「ねぇトーティ」
「なんですの?明日は掃除ですわ。早めに休みましょう?」
「そうなんだけど…一旦城に戻ったらすぐにここに来てもいい?」
「ハインリヒ様が?執務はどうされますの?」
「えへへ。第二王子の拠点もここにしようと思うんだ」
「ゲッ…」

またもやトーティシェルの目が細くなりジト目になっている。
しかしここで折れるわけには行かない。
1人にしておくことが出来ないというのもあるが、根本から街全体を立て直すのも面白いと純粋に思ってしまったのもあった。遊びではなく人々の生活がかかっているからこそ、この場で自分も留まらねばと思うハインリヒだった。
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