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第22話 皇帝の趣味と告白
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拳を握り、闘志を燃やしたサリアだったが、ハサウェイは開口一番に一番憂慮していた事を解決してくれた。
「言っておくが、ファガスは帝国皇帝の血筋ではないし、落胤でもないからな。ファガスの家族もだ。ウッスウスの血縁者でもないぞ」
「そうなの?…でもならどうして?」
「ファガスの家は砥石を扱っているんだが、砥石だけあっても意味はないだろ?」
「そりゃ…研ぐものがあるから砥石が必要なんだし」
「ファガスの家は帝国王家の宝物品の磨きを一手に引き受けているんだよ。もう300年になるかな。未だにクペル男爵家以上の腕を持つ家はないし、お抱えってところだ。今の皇帝の趣味、知ってっか?」
「皇帝陛下の趣味?!鷹狩りとか?乗馬とか?」
「違うよ。槍の収集と製作さ」
「はぁーっ??」
いやいや。驚いたけれどサリアは思い出した。
この人にこんな趣味?と驚くような趣味を持つ権力者は意外に多い。
錠前作りの腕前が職人以上だった国王もいれば、女装をして舞台に立ち臣下に女性と思わせ贈り物をさせる事を趣味にしていた国王もいる。暇さえあれば工房でガラス細工を作っていた国王だっているのだ。
ファガスは皇帝の槍製作の磨き部分の師匠。
その関係で色々な贈り物が届くし、砥石にする時に出る粉で何かできないかと考えている事も知っていたので事業をする事を知って出資をしてくれただけだった。
「本当でしょうね?後で落胤でしたとか言ったら!!」
「違うって。ファガスだって全力否定するし、冗談でもそんな事言ったら首が飛ぶぞ」
疑わしいところもあるが、ハサウェイは言っていい冗談と悪い冗談の区別はする男。自分の屋敷とは言えどこで誰が何を聞いていて繋がっているか解らないのに余計な事を口にはしない。
「いいわ。信じる。それが聞きたかったの」
「誤解が解けて何よりだ。これでマクロンが家を継いでシリカ家が経済的に困窮しても助ける事も出来るだろ」
「ハサウェイ…貴方そこまで考えてたの?」
「当たり前だ。サリーの今後は白紙になったんだ。どうせマクロンの世話にならずに何かしなきゃとか思ってただろう?」
「そこまで解るの?」
「伊達に19年。サリーの従兄をしてるわけじゃない。儲かる道筋を作ればルダも安心して俺に嫁げるだろ?」
「はぁっ?!何言ってるのよ」
「何って…前々から俺は妻にするならルダ以外考えてなかっただけだが?」
サリアが隣にいるルダを見るとルダも初耳だったようで「知らない、知らない」と手を前に出し違うと示す。
「ルダは知らないって言ってるわ。また揶揄ったのね?」
「まさか。俺はずーっとルダの事が好きだぞ?そうじゃなきゃサリーの側付きにしろって伯父上に頼まないさ」
「な、なんでよ?」
「決まってるだろ?サリーは婚約が無くなるけどアルサール公爵家に嫁ぐ予定だったんだ。サリーの傍にいれば何かあった時、アルサール公爵家の私兵が守ってくれる。こんな安全圏は他にないからな。名付けて郭公作戦だ」
他力本願もイイところだ。郭公は自分の卵やヒナを他の鳥に育てさせる。サリアの傍にいるルダなら確かに安全なので、シリカ伯爵に頼み込んだのだ。
「ま、アルサール公爵家の庇護下から外れるのももうすぐだからバラしてもいいだろ。ルダ、安心して俺の妻になれ」
ハサウェイはルダに優しい笑みを浮かべたが…。
「え…嫌ですけど。って言うか、他人をあてにする男…サイテー」
「・・・・」
即で断られハサウェイは生きる屍と化した。
「やーい、やーい。フラれてやんの~ウケケ」
「サリー。〇すぞ?」
ギっと揶揄うサリアを睨んだハサウェイの目は本気だった。
――マジで?ルダの事、本気で好きなの?――
どうやってこの場を去るか。迷うサリアにやはりルダは救世主だった。
「お嬢様。参りましょう」
「そ、そうね。ファガスさん待ってるし行こっか」
部屋を出たサリアとルダにハサウェイは一緒に行くから少し待っててくれと言ったが、2人はさっさと馬車に乗りこんで門道を正門に向かって走らせたのだが、正門まで来て門が開かない。
「申し訳ございません。今しばらくお待ちを」
――門番までハサウェイの味方?そりゃ雇い主だから仕方ないけどっ!――
と、思ったのだが違った。
馬車の中にいるので聞き取りにくいが、柵になった鉄格子の向こう側で誰かが喚く声が聞こえてきたのだ。
「お嬢様、物乞いでしょうか」
「物乞いは叫んだりしないわ。新手の寄付集めかしら」
前を見ようにも御者の背にある小窓は御者の背中しか見えない。出入り口の扉の小窓は防犯のために手首が出せる程度にしか開かないので、扉を開けて一旦降りれば何を言っているのかはっきり聞こえるだろうけど、暴漢だったら何を投げて来るか解らないので危険すぎる。
コンコンコン。
馬車の出入り口の小窓が叩かれ、見てみればハサウェイが騎乗して追い付いていた。
「なんなの?誰か騒いでるみたいだけど」
「アルサール公爵家のボンボンさ。お前、つけられてたんだろ」
「つけられてた?え?じゃぁずっと叫んでるって事?」
「あぁ。だからアイスクリームと金平糖でお前達の滞在を引き延ばした」
――悪徳~。私たちをダシにしないでよ――
「言っておくがルダの為だ」
「ルダの?」
「あぁ。まだ婚約はケリがついてない。アイツが手を出してもアルサール公爵家の私兵は止めないだろ?そうなればルダが身を挺してサリーを守るしかない。他の男にルダを触れさせるなんて俺の矜持が許さない」
――ルダの事、本気だったの?――
「言っておくが、ファガスは帝国皇帝の血筋ではないし、落胤でもないからな。ファガスの家族もだ。ウッスウスの血縁者でもないぞ」
「そうなの?…でもならどうして?」
「ファガスの家は砥石を扱っているんだが、砥石だけあっても意味はないだろ?」
「そりゃ…研ぐものがあるから砥石が必要なんだし」
「ファガスの家は帝国王家の宝物品の磨きを一手に引き受けているんだよ。もう300年になるかな。未だにクペル男爵家以上の腕を持つ家はないし、お抱えってところだ。今の皇帝の趣味、知ってっか?」
「皇帝陛下の趣味?!鷹狩りとか?乗馬とか?」
「違うよ。槍の収集と製作さ」
「はぁーっ??」
いやいや。驚いたけれどサリアは思い出した。
この人にこんな趣味?と驚くような趣味を持つ権力者は意外に多い。
錠前作りの腕前が職人以上だった国王もいれば、女装をして舞台に立ち臣下に女性と思わせ贈り物をさせる事を趣味にしていた国王もいる。暇さえあれば工房でガラス細工を作っていた国王だっているのだ。
ファガスは皇帝の槍製作の磨き部分の師匠。
その関係で色々な贈り物が届くし、砥石にする時に出る粉で何かできないかと考えている事も知っていたので事業をする事を知って出資をしてくれただけだった。
「本当でしょうね?後で落胤でしたとか言ったら!!」
「違うって。ファガスだって全力否定するし、冗談でもそんな事言ったら首が飛ぶぞ」
疑わしいところもあるが、ハサウェイは言っていい冗談と悪い冗談の区別はする男。自分の屋敷とは言えどこで誰が何を聞いていて繋がっているか解らないのに余計な事を口にはしない。
「いいわ。信じる。それが聞きたかったの」
「誤解が解けて何よりだ。これでマクロンが家を継いでシリカ家が経済的に困窮しても助ける事も出来るだろ」
「ハサウェイ…貴方そこまで考えてたの?」
「当たり前だ。サリーの今後は白紙になったんだ。どうせマクロンの世話にならずに何かしなきゃとか思ってただろう?」
「そこまで解るの?」
「伊達に19年。サリーの従兄をしてるわけじゃない。儲かる道筋を作ればルダも安心して俺に嫁げるだろ?」
「はぁっ?!何言ってるのよ」
「何って…前々から俺は妻にするならルダ以外考えてなかっただけだが?」
サリアが隣にいるルダを見るとルダも初耳だったようで「知らない、知らない」と手を前に出し違うと示す。
「ルダは知らないって言ってるわ。また揶揄ったのね?」
「まさか。俺はずーっとルダの事が好きだぞ?そうじゃなきゃサリーの側付きにしろって伯父上に頼まないさ」
「な、なんでよ?」
「決まってるだろ?サリーは婚約が無くなるけどアルサール公爵家に嫁ぐ予定だったんだ。サリーの傍にいれば何かあった時、アルサール公爵家の私兵が守ってくれる。こんな安全圏は他にないからな。名付けて郭公作戦だ」
他力本願もイイところだ。郭公は自分の卵やヒナを他の鳥に育てさせる。サリアの傍にいるルダなら確かに安全なので、シリカ伯爵に頼み込んだのだ。
「ま、アルサール公爵家の庇護下から外れるのももうすぐだからバラしてもいいだろ。ルダ、安心して俺の妻になれ」
ハサウェイはルダに優しい笑みを浮かべたが…。
「え…嫌ですけど。って言うか、他人をあてにする男…サイテー」
「・・・・」
即で断られハサウェイは生きる屍と化した。
「やーい、やーい。フラれてやんの~ウケケ」
「サリー。〇すぞ?」
ギっと揶揄うサリアを睨んだハサウェイの目は本気だった。
――マジで?ルダの事、本気で好きなの?――
どうやってこの場を去るか。迷うサリアにやはりルダは救世主だった。
「お嬢様。参りましょう」
「そ、そうね。ファガスさん待ってるし行こっか」
部屋を出たサリアとルダにハサウェイは一緒に行くから少し待っててくれと言ったが、2人はさっさと馬車に乗りこんで門道を正門に向かって走らせたのだが、正門まで来て門が開かない。
「申し訳ございません。今しばらくお待ちを」
――門番までハサウェイの味方?そりゃ雇い主だから仕方ないけどっ!――
と、思ったのだが違った。
馬車の中にいるので聞き取りにくいが、柵になった鉄格子の向こう側で誰かが喚く声が聞こえてきたのだ。
「お嬢様、物乞いでしょうか」
「物乞いは叫んだりしないわ。新手の寄付集めかしら」
前を見ようにも御者の背にある小窓は御者の背中しか見えない。出入り口の扉の小窓は防犯のために手首が出せる程度にしか開かないので、扉を開けて一旦降りれば何を言っているのかはっきり聞こえるだろうけど、暴漢だったら何を投げて来るか解らないので危険すぎる。
コンコンコン。
馬車の出入り口の小窓が叩かれ、見てみればハサウェイが騎乗して追い付いていた。
「なんなの?誰か騒いでるみたいだけど」
「アルサール公爵家のボンボンさ。お前、つけられてたんだろ」
「つけられてた?え?じゃぁずっと叫んでるって事?」
「あぁ。だからアイスクリームと金平糖でお前達の滞在を引き延ばした」
――悪徳~。私たちをダシにしないでよ――
「言っておくがルダの為だ」
「ルダの?」
「あぁ。まだ婚約はケリがついてない。アイツが手を出してもアルサール公爵家の私兵は止めないだろ?そうなればルダが身を挺してサリーを守るしかない。他の男にルダを触れさせるなんて俺の矜持が許さない」
――ルダの事、本気だったの?――
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