その愛はどうぞ愛する人に向けてください

cyaru

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第32話   レーナは見た

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「重~い。半分持ってよ」
「言っとくけど既に倍は持ってるからな?さらに持てって人使い荒いなぁ」

――え?あれってサリアじゃないの?隣の男…誰?――

残念なことにレーナが知っているのは14歳で声変わりもしていない短髪サラサラヘアのマクロン。
今サリアの隣にいる男性は髪の色こそレーナの知るマクロンと同じだったけれど、長髪でうなじに髪を一括りにしていて身長もサリアより20cmは高い。声も明らかに男性の声でボーイソプラノかと思うようなレーナの中にあるマクロンとは違い過ぎた。

レーナはサリアに荷物持ちをさせられている男性がマクロンだとは露とも思わなかった。

「うわぁ。協議書突きつけて自分は不貞?あり得ないんだけど。リックこの事知ってるのかな」

しかし、ちらっと見ただけでは見間違いだろうと言われるかも知れないとレーナは2人のあとをつけた。

本屋に寄って会計は済ませたようだが品は貰わず外に出た2人はカフェに入った。ランチプレートを注文したようだが運ばれてくるとお互いの皿の品を交換しあって食べていた。

「あの2人って絶対事後の関係だわぁ。サリア穢れてるじゃないの。サイテーな女。リック超可哀想なんだけど」

カフェを出た後もレーナは2人のあとをつけた。
花屋で花を買い、向かった先は霊園。

霊園の事務所に沢山の荷物を預けた後、2人は墓に花を供えた。
レーナのスーメル伯爵家もシリカ伯爵家と同じ伯爵位なので、2人が誰の墓参りをしているのかは判る。

サリアの母親の墓に交互にしゃがんで祈りをささげた後、男性はサリアの肩を抱いて顔を覗き込んで…。

「キっ、キスした?!これって…間違いなく新しい男だわ。リックを捨ててその男と結婚するから報告に来たんだわ」

こうしちゃいられない。レーナは来た道を戻りデリックに知らせに向かった。

★~★

朝からサリアとマクロンは買い物に出掛けた。

10を超える薬草店を回って海狸香かいりこうを買いまわった。
店によっては保管状態や品質も変わるので今後の取引を考えて店の数だけショップ袋に入れてもらう。

その後は石炭酸石鹸も購入する。精製の仕方でこれも色も違えば濃度も違うので買い漁る。量がないと1個、2個では試作品に使えないからである。

「こんなに買い物してどうすんだよ。これじゃ本屋で本買っても持って帰れないよ」
「大丈夫。今はね、本屋さんも一定金額以上なら無料配送してくれるのよ?それにしても重~い。半分持ってよ」
「言っとくけど既に倍は持ってるからな?さらに持てって人使い荒いなぁ」

サリアがブーブー文句を言いながらも2人は本屋に到着するとマクロンは学術書を購入した。

「ほらぁ。この厚さで15冊でしょ?手ぶらで来ても持って帰れないって」
「確かにな。でも2冊で良かったんだけど」
「15冊で全巻なんだから揃えればいいのよ。学ぶことは大事よ?そこをケチっちゃいけないの」
「姉さんらしいな。でも足が痛いよ。石畳がこんな凸凹で馬車は我が物顔で走ってるし。倍の距離を歩いてる気がするよ」
「頑張れ♡そこのカフェでお昼にしましょう。ランチプレートが美味しいの」

2人はカフェに入るとランチプレートを注文した。運ばれてくるとマクロンの嫌いなトマトと大好物のパセリがある。

「そのトマトと私のパセリ。交換してあげる」
「マジ?いいの?」
「勿論よ」
「やった!じゃぁトマト嫌いだし、フォークとかに触れて汁が付いても嫌だから姉さん取ってよ」

サリアもパセリは好きなのだが、マクロンはそれ以上にパセリが大好き。サリアは「今回だけだぞ?」と思いながらトマトとパセリを交換した。

「じゃ、祈りを捧げましょう」

食事の前の感謝を神に捧げ、2人はカフェ自慢のランチを食べた。

「この後さ、母上の墓参りに行きたいんだ。いいかな」
「いいわよ?花屋さんで荷物を預かってくれるわ」

花屋で花を買い、荷物を預けるとすぐ先にある霊園で2人は母の眠る墓に向かった。

「あ、姉さん。顔に何かついてるよ?」
「え?何?何がついてるの?」
「花束に百合があるから花粉かな。擦っちゃダメだ。ハンカチで拭こう。目に入るといけないから拭いてあげるよ」
「助かるぅ。ほんと。顔って鏡がないと見えないから困るわよね」
「姉さんは頭の後ろにも目がついてる気がするけど‥自分の顔は見えないか。アハハ」

そんな2人の様子をレーナに見られているとは全く知らなかった2人。
母の墓参を済ませると花屋によって大量の荷物を持って帰宅したのだが、サリアとマクロンがシリカ伯爵家に帰るとクペル男爵家の従業員が来ていた。

「言葉じゃ説明できないんで現物を見て欲しいんです」
「現物を?でも…この時間だと…」

時間はもう15時を過ぎている。
今から馬でファガスの家に向かっても女性のサリアがファガスの家に宿泊するのは色々と問題がある。しかし戻るとなれば行って帰ってで用件が直ぐに終わっても21時を過ぎてしまう。

騎乗しているとはいえ、女性にはやはり夜間の移動はお勧めできない。

「僕が行くよ。ファガスさんの工房も見てみたいと思っていたし、地質学にも興味があるんだ。砥石と言えど鉱山から石を切り出しているクペル男爵家の領にある地層なんかも訪ねてみたかったんだ。許可も貰えればラッキーだろ。男の僕なら…軒先でも貸してもらえれば眠れるし朝には戻るよ」

買い物で疲れているであろうにマクロンは騎乗してきた従者に並走し、馬でファガスの家に向かった。


翌日と言わず真夜中にマクロンは興奮して戻ってきた。早速午前中馬車泊のできる馬車の屋根に必要な荷物を積み込み、マクロンとサリアは騎乗し、馬車にはルダが乗り込んで再度ファガスの家に向かう。

「姉さん、先に行くよ」

マクロンは先に正門をくぐって行った。
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