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第23話 ハートに火をつけろ!!
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「これは…だめね。こっちは…うーん。ネズミに齧られてるわね」
別棟の中にある本の数はざっと数千冊。
生活をするにあたり荷馬車で何往復もして売り捌いたというのに一向に減る気配がない。
生活をする場に積み上げられていた本は奥の部屋に移動させて順番に運び出したが、奥の部屋にも元々本が積みあがっている。
壁となった本。やっと1枚壁が捲れた!と思ったらその向こう側にも本の壁。
婚約中に使用人から聞いた話では「大きな本棚があります」との事だったがアイリスはその本棚をまだ見ていない。
天井までびっしりと積み重ねられている本を見上げて思うのだ。
「2階だったら間違いなく床が抜けてるわ」
住み始めて3か月も経つとかなり分別が必要になってきた。
見た目は本だが、経年劣化で朽ちてしまい、さらに上からの重みで潰されて先代侯爵も最初の頃に読んでいたであろう本は、紙が触れるだけで崩れていくのだ。
本を開くと開いたページから1cmほど紙が張り付いていた状態で扇型になり、捲ってみようと触れるとぱりぱりと紙とは思えない音をたてて破れるのではなく崩れていく。
勿体ないとは思いつつも、もう本としての用途では使えないので暖炉へ薪替わりに放り込む本も多くなった。そのせいで灰の量も半端ない。
薪は大量にくべてもそんなに木灰は取れないが本は灰が山になってしまうのだ。
そして、売り物になるような本も激減。
「これじゃ半年で食べる物を買えなくなっちゃうわ」
服は買えなくても着まわせるが食べ物が買えないのは死活問題。
ダリオンはここで1年生活する費用を本を売って工面しろと言ったし、その言葉通り「これで何かを買ってくれ」と金銭を受け取った事はない。
片づけをするアイリスの耳に玄関扉をノックする音が聞こえた。
「誰だろう?」
鍵は、鍵そのものがないので自由に出入りできる。
ヴァルディスならノックも無しにいきなり扉を開けて入ってくるので「ノック」という行動を知らない生き物なんだとアイリスは考えている。
「はーい。少しお待ちになって」
大きな声で返事をすると「はーい」と女性の声が返ってきた。
「あ、クレアさんだわ。お裾分けかな?」
庭師ヒノーキオの妻でもあるクレアは時々差し入れを持ってきてくれる。
「息子夫婦の所に持って行くとお嫁さんがあまりいい気分じゃないと思って」と息子の妻を気遣う。
そのおかげでアイリスも1品作らなくていい事もあるし、お裾分けで1、2食を済ませる事もあるので助かってはいる。
埃塗れになった服をパンパン払いながら玄関に行ってみると…
――あれ?お裾分けじゃないわね――
手にバスケットを持っていないクレアを見て「残念!!」思わず市井で人気の「残念リュート騎士」の真似をしそうになったが我慢我慢。
「どうされたんです?」
「実はアイちゃんにお願いがあってね」
「お願い?」
――金なら貸せないわよ?どっちかと言えば同情するなら金くれ!って言いたいもん――
何のお願いかと思えば…。
「暖炉とか竈の灰。大量で困ってるって言ってたでしょう?息子に話をしたら欲しいって人がいるっていうから、勝手だと思ったけど ”どうぞ” って言っちゃったのよぅ」
それはそれで助かるのだが、勝手に決められてしまうとアイリスも困るし迷惑。
「麻袋1つで2500キャスで買い取ってくれるそうなの」
「売ります!」
即答だった。
ほんのさっき、ついさっき感じた迷惑など微塵もない。
銀河の彼方に一瞬で時空を超えて「ワープッ!」飛んでいった。
なんならアイリスはクレアの手を握り、目もキラキラ。
頭の中は燃え盛る暖炉に本を放り込む自分がお祭り騒ぎである。
「木灰も買い取ってくれるんだけど、本とか紙類の灰でも良いっていうから」
「いい~♪素敵~♪助かるぅ~クレたん最高ぉぉ!」
どうせ古書店に持って行っても買い取りの値段が付かない本がこの先は大量に出て来る。
その処分もしなきゃいけない事を考えたら、金を払って処分してもらうより、燃やした灰を買い取ってもらるなら喜びしかない。
パンが買える!ミルクも買える!そして我慢してたチーズも買っちゃう??
アイリスの脳内では暖炉の前で高笑いをしながらチーズを鉄串に刺して炙ってハフハフする自分がホパークを踊りまくる。
――足の限界まで踊るわよ!脳内だから限界ないけど――
気分はもうウクライニャの舞踊なのに「モスクァ!モスクァ!」である。
「私、頑張って燃やすわ!」
「そんなに燃やさなくても要らない分だけ…」
「全部要らないの!この心の炎も使って燃やしまくるわ!燃えて来たぁ!!」
「それは…比喩であって火は点かないんじゃ…」
「何を言ってますの!ハートに火を点ければこれ以上ないくらいにハイ!!ドア●ズ様も歌ってますわ!」
「ド●ーズ‥‥ごめんね。若い子の歌は判らないんだよ」
「は?その割にブリング・バ――」
「アイちゃん。それ言っちゃダメ。女には秘密ってものがあるのよ」
――ヒノーキオさん、踊ってるのも知ってると思うんだけど――
その後、アイリスはクレアと共に暖炉と竈の灰をせっせと掻き出し、熱を取るために外に運び出したのだったが、調子こいたアイリス。
その夜はガンガン燃やしたものだから家の中がサウナ状態。
助けを求めたのは外の雪。
バフッ!!
「サウナの後の水風呂最高って気持ちがよく解るわぁ」
強制クールダウンをしたのだった。
別棟の中にある本の数はざっと数千冊。
生活をするにあたり荷馬車で何往復もして売り捌いたというのに一向に減る気配がない。
生活をする場に積み上げられていた本は奥の部屋に移動させて順番に運び出したが、奥の部屋にも元々本が積みあがっている。
壁となった本。やっと1枚壁が捲れた!と思ったらその向こう側にも本の壁。
婚約中に使用人から聞いた話では「大きな本棚があります」との事だったがアイリスはその本棚をまだ見ていない。
天井までびっしりと積み重ねられている本を見上げて思うのだ。
「2階だったら間違いなく床が抜けてるわ」
住み始めて3か月も経つとかなり分別が必要になってきた。
見た目は本だが、経年劣化で朽ちてしまい、さらに上からの重みで潰されて先代侯爵も最初の頃に読んでいたであろう本は、紙が触れるだけで崩れていくのだ。
本を開くと開いたページから1cmほど紙が張り付いていた状態で扇型になり、捲ってみようと触れるとぱりぱりと紙とは思えない音をたてて破れるのではなく崩れていく。
勿体ないとは思いつつも、もう本としての用途では使えないので暖炉へ薪替わりに放り込む本も多くなった。そのせいで灰の量も半端ない。
薪は大量にくべてもそんなに木灰は取れないが本は灰が山になってしまうのだ。
そして、売り物になるような本も激減。
「これじゃ半年で食べる物を買えなくなっちゃうわ」
服は買えなくても着まわせるが食べ物が買えないのは死活問題。
ダリオンはここで1年生活する費用を本を売って工面しろと言ったし、その言葉通り「これで何かを買ってくれ」と金銭を受け取った事はない。
片づけをするアイリスの耳に玄関扉をノックする音が聞こえた。
「誰だろう?」
鍵は、鍵そのものがないので自由に出入りできる。
ヴァルディスならノックも無しにいきなり扉を開けて入ってくるので「ノック」という行動を知らない生き物なんだとアイリスは考えている。
「はーい。少しお待ちになって」
大きな声で返事をすると「はーい」と女性の声が返ってきた。
「あ、クレアさんだわ。お裾分けかな?」
庭師ヒノーキオの妻でもあるクレアは時々差し入れを持ってきてくれる。
「息子夫婦の所に持って行くとお嫁さんがあまりいい気分じゃないと思って」と息子の妻を気遣う。
そのおかげでアイリスも1品作らなくていい事もあるし、お裾分けで1、2食を済ませる事もあるので助かってはいる。
埃塗れになった服をパンパン払いながら玄関に行ってみると…
――あれ?お裾分けじゃないわね――
手にバスケットを持っていないクレアを見て「残念!!」思わず市井で人気の「残念リュート騎士」の真似をしそうになったが我慢我慢。
「どうされたんです?」
「実はアイちゃんにお願いがあってね」
「お願い?」
――金なら貸せないわよ?どっちかと言えば同情するなら金くれ!って言いたいもん――
何のお願いかと思えば…。
「暖炉とか竈の灰。大量で困ってるって言ってたでしょう?息子に話をしたら欲しいって人がいるっていうから、勝手だと思ったけど ”どうぞ” って言っちゃったのよぅ」
それはそれで助かるのだが、勝手に決められてしまうとアイリスも困るし迷惑。
「麻袋1つで2500キャスで買い取ってくれるそうなの」
「売ります!」
即答だった。
ほんのさっき、ついさっき感じた迷惑など微塵もない。
銀河の彼方に一瞬で時空を超えて「ワープッ!」飛んでいった。
なんならアイリスはクレアの手を握り、目もキラキラ。
頭の中は燃え盛る暖炉に本を放り込む自分がお祭り騒ぎである。
「木灰も買い取ってくれるんだけど、本とか紙類の灰でも良いっていうから」
「いい~♪素敵~♪助かるぅ~クレたん最高ぉぉ!」
どうせ古書店に持って行っても買い取りの値段が付かない本がこの先は大量に出て来る。
その処分もしなきゃいけない事を考えたら、金を払って処分してもらうより、燃やした灰を買い取ってもらるなら喜びしかない。
パンが買える!ミルクも買える!そして我慢してたチーズも買っちゃう??
アイリスの脳内では暖炉の前で高笑いをしながらチーズを鉄串に刺して炙ってハフハフする自分がホパークを踊りまくる。
――足の限界まで踊るわよ!脳内だから限界ないけど――
気分はもうウクライニャの舞踊なのに「モスクァ!モスクァ!」である。
「私、頑張って燃やすわ!」
「そんなに燃やさなくても要らない分だけ…」
「全部要らないの!この心の炎も使って燃やしまくるわ!燃えて来たぁ!!」
「それは…比喩であって火は点かないんじゃ…」
「何を言ってますの!ハートに火を点ければこれ以上ないくらいにハイ!!ドア●ズ様も歌ってますわ!」
「ド●ーズ‥‥ごめんね。若い子の歌は判らないんだよ」
「は?その割にブリング・バ――」
「アイちゃん。それ言っちゃダメ。女には秘密ってものがあるのよ」
――ヒノーキオさん、踊ってるのも知ってると思うんだけど――
その後、アイリスはクレアと共に暖炉と竈の灰をせっせと掻き出し、熱を取るために外に運び出したのだったが、調子こいたアイリス。
その夜はガンガン燃やしたものだから家の中がサウナ状態。
助けを求めたのは外の雪。
バフッ!!
「サウナの後の水風呂最高って気持ちがよく解るわぁ」
強制クールダウンをしたのだった。
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