王弟殿下は終身雇用をご希望ですって?!~溺愛は契約外です~

cyaru

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トマフィー国へ出発

「エルシー。行こうか」


お父様の声に組んでいた指を解いて立ち上がります。

今日は朝食の後、大きな馬車がクリスさんのお宅の前にやって参りました。
この馬車に乗ってトマフィー国に出立をするのですが、途中無理を言ってお母様のお墓に来たのです。トマフィー国に出国をすれば次に帰るのは何時になるのか見当もつきません。
お母様が大好きだったガーベラの花を手向たむけます。

少し離れた所でクリス様と先日から「執事です」とご紹介頂いたルディさんが待ってくださっています。ルディさんは【自称29歳】と仰っておられますが、見た目は10代後半くらいではないかと思うほどお若いのです。
ご趣味は【熟女観察】だそうでこちらも自称でございますが【ストライクゾーン】は狭いとの事で【31歳から59歳まで】なのだそうです。

「女性を見て一番先に目がいってしまうのは目尻と豊麗線ほうれいせん」と少々ドキリとする事を仰るのですが、わたくし23歳。「尻が青い」と言われてしまいました。
尻もちはついていないので、痣にはなっていないと思うのですがどこで見られてしまったのでしょう。クリス様の周りにいらっしゃる方は不思議で御座います。


「レオパス殿、もうよろしいのか?エルシー嬢も時間はあるんだ。母上ともっと話をしても問題ないぞ」

「いえ。十分です。お時間を取らせました」

お父様は、お兄様と弟のシグマの絵姿を折りたたんで胸ポケットに仕舞います。
クリス様は、わたくしを見て少し首を傾げ乍ら仰います。

「エルシー嬢も遠慮なんかいらないぞ。なんなら俺が隣で挨拶をしようか」

「遠慮致します。さぁ、参りましょう」

「つれない所がまた可愛いんだが、俺と早く馬車で語り合いたいと言うなら仕方がない」


引き攣った笑いを浮かべるのはお父様だけで御座います。
わたくしとルディさんは遠くの新緑を見て休まるのが目だけでなく心もならいいのにと遠い目になります。


「参りましょうか。エルシー様」

「そうですわね。あ、お天気もいいですしわたくし御者席に座ってみたいのですがよろしくて?」

「御者席ですか…出来ればトマフィー国に入ってからにして頂きたいかと」

鰾膠も無くにべもなく断られてしまいました。何故かと申しますと・・・。

「郊外の農村に出れば、都会とはまた違った萌える熟女を一人で愛でたいので」


と、仰られてわたくしは馬車の中に押し込まれてしまいます。
向かいには終始満面の笑みのクリス様。


「向かい合うのが恥ずかしかったら隣でもいいぞ」

――倍増しでお断りで御座います――


ですが、この馬車は確かに揺れますし振動はあるのですがあまり気になりません。
お父様も長旅ですと持病の腰痛が御座いますので心配でしたがこの馬車なら平気そうなのです。

「特注品だからな。座席は折りたたみになっているから広げると寝台にもなるぞ」

動く馬車の中でクリス様はご自分の座っておられた座面と壁に沿った背もたれの間に手を入れると、よいしょと持ち上げて手前に倒します。

「まぁ!こうなっていたんですね。揺れをあまり感じないはずです」

椅子にした時の座面は両側がクッションになっているので通常時は寝台のマット部分が重なり、緩衝材になっているのです。手で押してみるとフワフワで馬車の中で寝ても問題なさそうと思ったのですが…。


「レオパス殿を中央に、川の字になって寝られるな」

――お父様がまさかの緩衝材!?――


ふと、お父様を見ると想像をしたのか、お顔の色が蒼白になっておられます。
お父様の【いびき】と【歯ぎしり】そして【お話ができる寝言】をここ数日体感していらっしゃるのに、クリス様は学習をされないのかしら?

山と言うよりは丘を越えている時に、お父様がクリス様とお話をしておられました。


「殿下はトマフィー国から何日ほどで入国されたのですか?

「多分…3日だったか、いや2日?」

「3日?いや、ですが街道をかなり早くに抜けても1週間はかかるのでは?」

「街道は通らなかったな」

「では川で?下流から上流になれば船頭も大変でしょうねぇ」

「川は渡るには渡ったが、道を通ったぞ」

「ですが、街道は通らなかったと、仰いませんでしたか?」

「街道ではない。道は道でも獣道だったからな。俺が通ったからクリス道になるのか?」


――クリス道‥‥人生の迷子になりそうな迷い道ですわ――


「苦労したぞ?なんせ道がない所に獣が通った道を探して歩くんだ。途中で何度も崖を横歩きする羽目にもなって、羊になった気分だった」


――崖を行くのは羊ではなくヤギっ――


クリス様のご説明はところどころ危険な想像を掻き立てます。
数回の馬の交換を経て、馬車が王都の外れにある比較的大きな街に来た頃にはすっかり日も暮れてしまいました。馬車で寝るのかと思えば、宿屋がある地では宿屋で休まれると言います。
この馬車の寝台で眠れるかと思ったのですが残念です。


「この街は羊料理が美味いんだ。羊は好きか?」


好きかと聞かれても、肉料理そのものをさほどに食した事が御座いません。
川で釣れた魚を分けて頂いたり、鹿肉やイノシシ肉でしたら数切れおすそ分け頂いた事も御座いますが、羊は御座いません。

お食事の前にお父様はルディさんと男性のお花摘みに行かれます。
わたくしとクリス様はお土産物の工芸品売り場にいたので御座いますが、こんな所で貴方にお会いするとは思いませんでした。


「エルシー!エルシーじゃないのか?!」

――メェェ…違いました。ゲェェーー

わたくしの名を呼んだのは、派手な女性を両脇にぶら下げたルシオン様でございました。
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