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地下牢のシャーロット
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「これはどういう事だ」
バサリと目の前に投げ捨てられた書類が床に散らばります。
わたくしは顔をあげられず、頭のてっぺんから突き刺さるようなお父様の言葉に身を反らす事も出来ないのです。
「どしたの?おなかいたいの?おじいさま、おなかいたいって」
ルシオンにそっくりな息子が俯いたわたくしの顔を覗き込んで声をかけるけれど、取り合っている余裕なんかある筈もないわ。
「フォース。部屋の外に出ていなさい」
「おじいさま、あとで遊んでくれる?」
「あぁ、遊んでやるとも。だから部屋から出なさい」
「はぁい」
小さな足音が扉の閉じる音で聞こえなくなると、お父様の張り手がわたくしを床に誘ったのです。
「詳しく説明をしてもらおうか」
ベッカリー侯爵家でベルファン殿下にも脅され始め、手持ちの宝飾品は全て売り払い彼らの遊興費を賄ったけれど、遂に終わりの日を迎えたの。
王宮から呼び出し状が来た事もわたくしは知らなかったの。
何も知らないお父様は王宮で5年前のわたくしとベルファン殿下の婚約破棄について問いただされたと言った。
お父様には本当に寝耳に水な話だったと思うわ。
懸命になって【秘密を知る者】を守ってきたけれど、つくづく自分が【お子様】だったと思うしかなかったのよ。だって、そうよね。侯爵家となる前のベッカリー伯爵家で働いていた使用人達は、わたくしとルシオンの事を知っていたんだもの。
侯爵家となって雇っていたうちは彼らも【秘密】を話す事はなかった。赤字経営に転落したのは今年だけれど、実際は3年前から赤字だった。
使用人に支払う人件費は支払いの多くを占めるから3年前に半数の使用人を解雇して赤字にならなかっただけ。昨年だってさらに使用人を解雇した上に、宝飾品や調度品を売って補填したから赤字ではなかった。
でも、今年はもう補填するものが何もなかった。
赤字を黒字にする為に切った使用人から秘密がバレるなんて。飛んだお笑い種。
「そうよ。お父様。あの婚約破棄はわたくしとベルファン殿下が仕組んだの」
「どうしてそこにレオパス子爵令嬢を巻き込んだのだ」
「あの時は…ルシオンと結婚したかったの。ルシオンもわたくしと結婚したかった。そしてルシオンの父親、ベッカリーは借金を払いたくなかった。それだけ」
「それだけだと!?このバカ娘がッ!!」
またお父様に頬を張られた。大きな音を立ててわたくしの体が壁に打ち付けられるけれど、この部屋の扉を開けてわたくしを助けに来てくれる者など誰一人いやしない。
「慰謝料で貰った金は利息どころか直ぐに倍返し出来るが、お前はそれ以上に取り返しのつかない事をしてくれた。侯爵家がどうのこうのじゃない。陛下の進退にも事は及んでいるんだっ」
「そんな…そんな大それた事になるはずがないわ」
「ベッカリーと組んで、レオパス子爵を襲わせただろう。その後もお前が金を出し野盗を使って馬車を襲わせた。全て判っているんだ。首の1つ2つで済む話じゃないという事も判っているんだッ!侯爵領はもう売りに出した。それでも足りぬと親族も全て財産を没収されるだろう。本当になんて事をしてくれたんだ」
そんな事知らない。確かにやった事は認める。
絞首刑になるかも知れないけれど、もう認めるしかないもの。
でも親族も財産を没収ってどういう事?
「お、お父様、確かにトマフィー国の王弟襲撃はしたけれど…それはベッカリーがそうしようと言ったの!断れなかったのよ」
「レオパス子爵令嬢がいたから率先してやった…の間違いではないのか?」
「そ、そりゃ‥‥殿下との婚約破棄の事をバラされたら困るし…。でも生きているでしょう?わたくしはもう仕方がないかも知れないけれど、せめてフォースは」
「そう思うなら何故やめなかった。断れないならこんなに実家に入り浸っているのに兄嫁の宝飾品を盗む前に何故私に事情を説明しなかった!お前が襲ったレオパス子爵令嬢は替えの利かない存在なんだ」
「そんなっ!せいぜい王弟に気に入られているだけでしょう?!ギャッ!」
お父様はわたくしの髪を掴みあげると、無理やりわたくしの顔を自分の方に向かせたの。
「王弟が気に入っていようがいまいが関係ない。お前がレオパス子爵令嬢を騙し、あまつさえ襲ったおかげでアブレド国は存亡の危機にある。レオパス子爵令嬢の言葉一つでこの国は終わる。媚びるために侯爵領を売った金、親族からかき集めた金すら!はした金にすぎんのだ」
「どういう事なの…」
「お前が知ったところで意味がない。お前には価値がないどころか!価値を下げる価値しかない」
「あんまりです!お父様の役に立とうといつも――」
「何の役にも立っておらんだろう。王家とのパイプを作るための婚約を下らない理由で親である私どころか、侯爵家を謀り破棄し、懲りずにベッカリーなんぞと手を組んで!この疫病神ッ。お前の価値などベルファンに股を開いて子を産む事だけだったのだ!ベッカリー家との子供など…足枷にしかならん」
「お父様っ!フォースだけは!後生です。わたくしはどんな罰でも受けますっ。ですがフォースだけはお助け下さいませっ!」
「いっぱしの母親気取りか。気が付かなかったのか?私の事はお爺様と呼ぶが、お前の事は母とは呼ばなかった事に。フォースは侍女頭の家にくれてやる事にした。金は握らせてあるし腐っても男爵家だ。お前の生き死にすら知らない所でフォースは幸せに生きていくだろう。お前は悔いながら死ねる事に感謝するんだな」
わたくしは地下牢に放り込まれてしまった。
ブランセ侯爵家の地下牢にある灯りは蝋燭の灯りだけ。
得体の知れない虫が灯りに集まってくる。
不思議だわ。太陽の下なら気持ち悪い虫でも、唯一ここで自分以外が【生きている】と感じられて、蠢いてくれることが嬉しいと思えるの。
もし、太陽の下にもう一度出られるのであれば、わたくしは神に誓う。
蠢く虫がそう思っているかは判らない。だけど・・・。
生きている事が嬉しいと誰かに思ってもらえる生き方をすると。
☆彡☆彡☆彡
シャーロット、死んでません <(_ _)>
バサリと目の前に投げ捨てられた書類が床に散らばります。
わたくしは顔をあげられず、頭のてっぺんから突き刺さるようなお父様の言葉に身を反らす事も出来ないのです。
「どしたの?おなかいたいの?おじいさま、おなかいたいって」
ルシオンにそっくりな息子が俯いたわたくしの顔を覗き込んで声をかけるけれど、取り合っている余裕なんかある筈もないわ。
「フォース。部屋の外に出ていなさい」
「おじいさま、あとで遊んでくれる?」
「あぁ、遊んでやるとも。だから部屋から出なさい」
「はぁい」
小さな足音が扉の閉じる音で聞こえなくなると、お父様の張り手がわたくしを床に誘ったのです。
「詳しく説明をしてもらおうか」
ベッカリー侯爵家でベルファン殿下にも脅され始め、手持ちの宝飾品は全て売り払い彼らの遊興費を賄ったけれど、遂に終わりの日を迎えたの。
王宮から呼び出し状が来た事もわたくしは知らなかったの。
何も知らないお父様は王宮で5年前のわたくしとベルファン殿下の婚約破棄について問いただされたと言った。
お父様には本当に寝耳に水な話だったと思うわ。
懸命になって【秘密を知る者】を守ってきたけれど、つくづく自分が【お子様】だったと思うしかなかったのよ。だって、そうよね。侯爵家となる前のベッカリー伯爵家で働いていた使用人達は、わたくしとルシオンの事を知っていたんだもの。
侯爵家となって雇っていたうちは彼らも【秘密】を話す事はなかった。赤字経営に転落したのは今年だけれど、実際は3年前から赤字だった。
使用人に支払う人件費は支払いの多くを占めるから3年前に半数の使用人を解雇して赤字にならなかっただけ。昨年だってさらに使用人を解雇した上に、宝飾品や調度品を売って補填したから赤字ではなかった。
でも、今年はもう補填するものが何もなかった。
赤字を黒字にする為に切った使用人から秘密がバレるなんて。飛んだお笑い種。
「そうよ。お父様。あの婚約破棄はわたくしとベルファン殿下が仕組んだの」
「どうしてそこにレオパス子爵令嬢を巻き込んだのだ」
「あの時は…ルシオンと結婚したかったの。ルシオンもわたくしと結婚したかった。そしてルシオンの父親、ベッカリーは借金を払いたくなかった。それだけ」
「それだけだと!?このバカ娘がッ!!」
またお父様に頬を張られた。大きな音を立ててわたくしの体が壁に打ち付けられるけれど、この部屋の扉を開けてわたくしを助けに来てくれる者など誰一人いやしない。
「慰謝料で貰った金は利息どころか直ぐに倍返し出来るが、お前はそれ以上に取り返しのつかない事をしてくれた。侯爵家がどうのこうのじゃない。陛下の進退にも事は及んでいるんだっ」
「そんな…そんな大それた事になるはずがないわ」
「ベッカリーと組んで、レオパス子爵を襲わせただろう。その後もお前が金を出し野盗を使って馬車を襲わせた。全て判っているんだ。首の1つ2つで済む話じゃないという事も判っているんだッ!侯爵領はもう売りに出した。それでも足りぬと親族も全て財産を没収されるだろう。本当になんて事をしてくれたんだ」
そんな事知らない。確かにやった事は認める。
絞首刑になるかも知れないけれど、もう認めるしかないもの。
でも親族も財産を没収ってどういう事?
「お、お父様、確かにトマフィー国の王弟襲撃はしたけれど…それはベッカリーがそうしようと言ったの!断れなかったのよ」
「レオパス子爵令嬢がいたから率先してやった…の間違いではないのか?」
「そ、そりゃ‥‥殿下との婚約破棄の事をバラされたら困るし…。でも生きているでしょう?わたくしはもう仕方がないかも知れないけれど、せめてフォースは」
「そう思うなら何故やめなかった。断れないならこんなに実家に入り浸っているのに兄嫁の宝飾品を盗む前に何故私に事情を説明しなかった!お前が襲ったレオパス子爵令嬢は替えの利かない存在なんだ」
「そんなっ!せいぜい王弟に気に入られているだけでしょう?!ギャッ!」
お父様はわたくしの髪を掴みあげると、無理やりわたくしの顔を自分の方に向かせたの。
「王弟が気に入っていようがいまいが関係ない。お前がレオパス子爵令嬢を騙し、あまつさえ襲ったおかげでアブレド国は存亡の危機にある。レオパス子爵令嬢の言葉一つでこの国は終わる。媚びるために侯爵領を売った金、親族からかき集めた金すら!はした金にすぎんのだ」
「どういう事なの…」
「お前が知ったところで意味がない。お前には価値がないどころか!価値を下げる価値しかない」
「あんまりです!お父様の役に立とうといつも――」
「何の役にも立っておらんだろう。王家とのパイプを作るための婚約を下らない理由で親である私どころか、侯爵家を謀り破棄し、懲りずにベッカリーなんぞと手を組んで!この疫病神ッ。お前の価値などベルファンに股を開いて子を産む事だけだったのだ!ベッカリー家との子供など…足枷にしかならん」
「お父様っ!フォースだけは!後生です。わたくしはどんな罰でも受けますっ。ですがフォースだけはお助け下さいませっ!」
「いっぱしの母親気取りか。気が付かなかったのか?私の事はお爺様と呼ぶが、お前の事は母とは呼ばなかった事に。フォースは侍女頭の家にくれてやる事にした。金は握らせてあるし腐っても男爵家だ。お前の生き死にすら知らない所でフォースは幸せに生きていくだろう。お前は悔いながら死ねる事に感謝するんだな」
わたくしは地下牢に放り込まれてしまった。
ブランセ侯爵家の地下牢にある灯りは蝋燭の灯りだけ。
得体の知れない虫が灯りに集まってくる。
不思議だわ。太陽の下なら気持ち悪い虫でも、唯一ここで自分以外が【生きている】と感じられて、蠢いてくれることが嬉しいと思えるの。
もし、太陽の下にもう一度出られるのであれば、わたくしは神に誓う。
蠢く虫がそう思っているかは判らない。だけど・・・。
生きている事が嬉しいと誰かに思ってもらえる生き方をすると。
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シャーロット、死んでません <(_ _)>
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