魅了の対価

cyaru

文字の大きさ
10 / 31

第10話   真実の愛とは

しおりを挟む
エミリアとの茶会で盛り上がった歌劇の話。
システィアーナは登城ですら気が乗らなくなって、教育が小休止をしている今は出来るだけ人の目に触れる場所には行かないようにしていた。

妃教育で培ったポーカーフェイスで表情から感情を読み取らせない技は会得していても、悪しきように言われる自身への話、これ見よがしに自分の事を噂し始める者達の前に出て行きたいとは思えない。

ステファンの婚約者ジュリアもシスティアーナも「強い女性」と言われるけれど、何を言われてもいい訳ではなく心は傷つくのだ。そんな戯言に聞く耳を持つなと言われても聞こえてきた声は容赦なく心を傷つける。

自分を守るために引き籠もってしまうのも仕方のない事だった。

帰りの馬車でシスティアーナはエミリアの言葉が何度も蘇った。

【知ってる?真実の愛で結ばれた2人の愛は永遠なんですって】

エミリアは「それが正しいなら貴族の行いは間違いね」と鼻で笑った。
システィアーナも「それはどうなんだろう?」と考える。


数年前だったか。
今日と同じくエミリアと茶会をした事があって、その時も同じ話題を話した。
今日ほどに嫌悪感のあるワードではなかったけれど、システィアーナはその時初めて「真実の愛」というワードを耳にした。

それまで真実の愛など知りも知らなかった。
勿論内容もだが言葉を初めて耳にしたシスティアーナは知りえた情報を屋敷に戻って侍女たちに問うた。


『ねぇ。真実の愛で結ばれるとその愛は永遠なの?』
『その様ですよ』
『では、どうやってその相手を見つけるの?』
『どうやってと…申されましても』
『エミーが言うには本人同士が出会った瞬間らしいのだけれど』


そう問うも当時、侍女たちは顔を見合わせ誰も答えを教えてはくれなかった。

それもそのはず。
古今東西、噂されている真実の愛とは平民なら多くの人間が経験する恋愛がベースになっている。
時にそれは略奪であったり、叶わぬ恋となるもので、王子の婚約者と言う立場にあるシスティアーナには全く以て不要なものだったからだ。

親が、いや、議会や国が決めた相手がいるのに色恋に溺れ、未来の王妃となるやも知れぬシスティアーナが道を踏み外す事があってはならないのだから誰も教えずとも間違いではない。

答えが聞けなかったシスティアーナは婚約者のエルファンに問うた。
ノリとしては「こんなこともあるそうですよ?」と多くある話題の1つのつもりで、いつもつっけんどんで会話らしい会話が成り立たないエルファンと冗談交じりにでも会話があと2言、3言続けば。そんな思いで発した言葉だった。

当時、エルファンは帝王学に手を焼いていて、双子の弟ステファンにその差を縮められ焦りもあったのか、つい強い口調で返してしまった。

『殿下、巷では真実の愛が持て囃されているそうですわ』
『君は馬鹿か。そんなものにうつつを抜かしている時間があったら、王妃教育の下準備でもしていたらどうだ?』


人は切羽詰まっている時に、自身にとってくだらない質問をされれば苛立つものだ。
エルファンには余裕が全くなかったのだろうと当時も今もシスティアーナは思う。

システィアーナが妃教育でしごかれているのを見ていた時はエルファンにも「自分だけじゃない」という仲間意識もあっただろうし、「こんなことで注意を受けているのか」と、どこかシスティアーナを蔑んでいた気持ちも透けてみえていた。

システィアーナを下に見ることで苛立ちも紛れさせているようにも見えたのだ。

日頃からエルファンは口を開けば…。

『妃となるに自覚が足りない』
『その程度で満足できるんだから安いものだ』
『君といると恥ずかしい。なんだその顔は』
『愛だ恋だと随分余裕だな。くだらない』

そう言ってシスティアーナにキツくあたった。
それでもまだ一線は保たれていたが「もういい」とシスティアーナは考える。


王族、貴族の結婚に恋愛は関係がないと言っても友情も同志としての気持ちも持てそうにないし、同じ方向を向いている気さえしないのだ。

既にセレナとは関係も持っている事を想像させる言動もあり、エルファンとの間に子を作ろうなんて気にはなれない。

気持ちとして矛盾しているようだがシスティアーナはエルファンが国王となった時に側妃を召し上げる事に嫌悪感は感じていなかった。

次の国王となる子に血を繋ぐのは役目だと考えていたし、現国王にも側妃はいて否定する気は全くない。
国王なら世継ぎを残すために盤石の構えで望むのは当然だと考えていたので、側妃は世間で言えば公認の愛人で1人の夫を妻がシェアする、そんな感覚になるだろうが容認していた。

では何故セレナではダメなのか。
違う。セレナだからダメ、受け入れられないのではなく順番が違うから受け入れられないと感じた。

「決まり、決まりで雁字搦めな私だからダメだったのかも知れないわ」

自嘲気味に笑うシスティアーナを乗せた馬車はジルス侯爵家の門をくぐった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月るるな
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】どうか私を思い出さないで

miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。 一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。 ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。 コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。 「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」 それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。 「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」

顔がタイプじゃないからと、結婚を引き延ばされた本当の理由

翠月るるな
恋愛
「顔が……好みじゃないんだ!!」  婚約して早一年が経とうとしている。いい加減、周りからの期待もあって結婚式はいつにするのかと聞いたら、この回答。  セシリアは唖然としてしまう。  トドメのように彼は続けた。 「結婚はもう少し考えさせてくれないかな? ほら、まだ他の選択肢が出てくるかもしれないし」  この上なく失礼なその言葉に彼女はその場から身を翻し、駆け出した。  そのまま婚約解消になるものと覚悟し、新しい相手を探すために舞踏会に行くことに。  しかし、そこでの出会いから思いもよらない方向へ進み────。  顔が気に入らないのに、無為に結婚を引き延ばした本当の理由を知ることになる。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

処理中です...