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第13話 夜会での宣言
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知らせは突然だった。
「なんだと?!ティアが?!何故!」
ポルク侯爵家に出向いていたジルス侯爵夫妻にシスティアーナが捕縛された知らせが齎されると夫人のシルビアはその場に卒倒した。
「まだ第一報だ。しかし…ジルス、お前は細君と共に逃げろ」
「逃げろだと?ティアを置いて逃げられるわけがない!」
「だとしてもだ!王妃殿下は診断の付かない病に倒れ、ステファン殿下も王都に戻れずにいる。幸いに4つの侯爵家は正気を保っているが公爵家は半分が狂っているんだ。伯爵家以下となれば7割だ。押さえ込まれたら勝ち目はない。夜会にも来るなと言われているんだろう?今は王家の言葉を利用し逃げるんだ!嬢の事は私が何とかするッ!」
「私の娘だ!私が行かずして誰彼に大事な事を頼めるものか!」
「ジルスッ!聞き入れてくれ!頼む!」
行かせろと暴れるジルス侯爵はポルク侯爵の従者たちに羽交い絞めにされ、気絶させられると馬車に放り込まれた。行き先はシルビア夫人の生まれ育った国。
ポルク侯爵家も安心とは言えないが、息子のカイザーがエルファンの従者としてエルファンに張り付いている。カイザーが捕縛される事がない限りまだ包囲網はジルス侯爵家よりも甘い。
ポルク侯爵家の家紋の付いた馬車は止められることも無く出国していく。
「後は…子息に手紙を書くか。ステファン殿下と共に出向いていたのが幸いだな」
「ですが、一体何の罪で捕らえられたのでしょう」
ポルク侯爵も従者の疑問に答えられるには判断材料がないに等しかった。
第一報は誤報ではない。ポルク侯爵も侯爵家という立場を利用しいろいろな場所には間者を送り込んでいる。
騎士団に潜り込ませている間者からの報告に間違いがある筈もないし、推測を交えてもいいのなら王家からジルス侯爵家に不参加を促す招待状が届いた頃、王宮には1人の女が部屋を用意されていた。
「あの女狐。遂に城に部屋を構えるまでに至ったか」
★~★
3日後。
予定通りに開催された夜会は一言で言えば大失敗だった。
それまで王妃、若しくはシスティアーナかジュリアが下準備を行って抜かりがないように指示をしてきたが、王妃は病気療養中でジュリアはステファンと視察に出向き、王都に戻る予定は1カ月以上遅れたままでまだ遠い地にいる。
システィアーナも登城をするのをやめていたし、登城したとしてもこんな大事な夜会を仕切るのは国王と王妃。王妃が出来ないのであれば国王がすべきだし、システィアーナは国王から依頼もされていなかった。
しかし念のためにとかなり前にエルファンには前年度に行った夜会の式次第を今年開催にアレンジし、必要な者などを書き記した書類を渡そうとしたのだが、エルファンは見ることも無くセレナの元に出掛けてしまい、あの後書類がどうなったのかシスティアーナが知る由もない。
料理も飲み物も足りていないだけでなく、宗教上の理由で調理すら別に調理機材を用意して作らねばならない料理もあったのに何もかもがごちゃ混ぜ。
「この料理は、あちらの料理と同じ厨房で調理を?」
招かれた大使に問われた従者は「はい」と答える。
笑顔で手に持っていたまだ1口も飲んでいないグラスをトレーに戻されると「良い夜会になると良いですね」言い残して国王の挨拶もまだ始まっていないのに入場してくる貴族と入れ違うように去って行く。
モートベル王国の貴族の中にも「なんだ、この夜会は」眉間にしわを寄せる者がいる一方で何故かご機嫌な者もいる。
王族が挨拶をするのに入場してくると囃し立てる様子は安い大衆劇場で演者が登場した時を思わせる。
少数の貴族が戦々恐々と得も知れぬ不安を抱える中、国王は遠路はるばるやってきてくれた隣国の第2王子夫妻への言葉も各国大使への言葉をすっ飛ばし「大事な発表がある」と告げた。
「ここにいる第1王子エルファンを王太子とし、現在ジルス侯爵家のシスティアーナとの婚約は破棄。新たにセレナ、こちらへ」
およそこの場に似つかわしくない派手なドレスを身に纏ったセレナが壇上に上がると、囃し立てていた貴族は更にヒートアップし、他国からの客もいると言うのに指笛まで飛び交った。
セレナが国王とエルファンに挟まれるように壇上に立つと国王は得意げな顔、大きな声で宣言した。
「ここにいるセレナをエルファンの婚約者とし、成婚の儀は1年後に行う!」
「わー!!」
歓声は上がるには上がるが、ドン引きする一画もある。
大使たちは聞き間違いかと周囲にいるモートベル王国の貴族に確認を取り、国王の言葉が言葉通りだと判断すると退場していった。
一部の貴族からは「何故婚約者がこの時期に入れ替わるのか!」と声がとんだ。
「システィアーナは己の立場を良いことに国金を着服していたのだ。実家のジルス侯爵家と共にな!婚約者用に予算組されているとはいえ、遊興に使ってよいとはならぬ。既に捕縛し生涯幽閉の刑を言い渡している」
「なんと!!」
数人の貴族は国王の言葉を聞いて唖然とした。
議会の承認もない、これまで低位貴族と言えど次期国王に考えられる王族の配偶者選定は広く周知されてきたのにそれもない。
セレナが平民で奇を衒ったのだとしてもこれはあんまりだ。
判断がまともに出来る者はシスティアーナの国金着服や横領は理解が出来ない。むしろそれをしていたのはエルファンだと知っているからである。
そして壇上からエルファンに手を引かれ降りてきたセレナはとても王子妃の器ではない。
鼻の下を伸ばす貴族にベタベタと触れ、時にその手を取って自身の頬に当てたりと娼婦の方がまだ謙虚さを持っているような仕草であいさつ回りを始めたのだ。
自分の生まれ育った国とは言え、見切りをつけた貴族が1人、2人と去って行く。
自分たちの事で忙しい国王もエルファンも隣国の第2王子夫妻が早々に立ち去った事にも気がつかず、夜会はセレナに魅了された者達だけで大いに盛り上がったのだった。
「なんだと?!ティアが?!何故!」
ポルク侯爵家に出向いていたジルス侯爵夫妻にシスティアーナが捕縛された知らせが齎されると夫人のシルビアはその場に卒倒した。
「まだ第一報だ。しかし…ジルス、お前は細君と共に逃げろ」
「逃げろだと?ティアを置いて逃げられるわけがない!」
「だとしてもだ!王妃殿下は診断の付かない病に倒れ、ステファン殿下も王都に戻れずにいる。幸いに4つの侯爵家は正気を保っているが公爵家は半分が狂っているんだ。伯爵家以下となれば7割だ。押さえ込まれたら勝ち目はない。夜会にも来るなと言われているんだろう?今は王家の言葉を利用し逃げるんだ!嬢の事は私が何とかするッ!」
「私の娘だ!私が行かずして誰彼に大事な事を頼めるものか!」
「ジルスッ!聞き入れてくれ!頼む!」
行かせろと暴れるジルス侯爵はポルク侯爵の従者たちに羽交い絞めにされ、気絶させられると馬車に放り込まれた。行き先はシルビア夫人の生まれ育った国。
ポルク侯爵家も安心とは言えないが、息子のカイザーがエルファンの従者としてエルファンに張り付いている。カイザーが捕縛される事がない限りまだ包囲網はジルス侯爵家よりも甘い。
ポルク侯爵家の家紋の付いた馬車は止められることも無く出国していく。
「後は…子息に手紙を書くか。ステファン殿下と共に出向いていたのが幸いだな」
「ですが、一体何の罪で捕らえられたのでしょう」
ポルク侯爵も従者の疑問に答えられるには判断材料がないに等しかった。
第一報は誤報ではない。ポルク侯爵も侯爵家という立場を利用しいろいろな場所には間者を送り込んでいる。
騎士団に潜り込ませている間者からの報告に間違いがある筈もないし、推測を交えてもいいのなら王家からジルス侯爵家に不参加を促す招待状が届いた頃、王宮には1人の女が部屋を用意されていた。
「あの女狐。遂に城に部屋を構えるまでに至ったか」
★~★
3日後。
予定通りに開催された夜会は一言で言えば大失敗だった。
それまで王妃、若しくはシスティアーナかジュリアが下準備を行って抜かりがないように指示をしてきたが、王妃は病気療養中でジュリアはステファンと視察に出向き、王都に戻る予定は1カ月以上遅れたままでまだ遠い地にいる。
システィアーナも登城をするのをやめていたし、登城したとしてもこんな大事な夜会を仕切るのは国王と王妃。王妃が出来ないのであれば国王がすべきだし、システィアーナは国王から依頼もされていなかった。
しかし念のためにとかなり前にエルファンには前年度に行った夜会の式次第を今年開催にアレンジし、必要な者などを書き記した書類を渡そうとしたのだが、エルファンは見ることも無くセレナの元に出掛けてしまい、あの後書類がどうなったのかシスティアーナが知る由もない。
料理も飲み物も足りていないだけでなく、宗教上の理由で調理すら別に調理機材を用意して作らねばならない料理もあったのに何もかもがごちゃ混ぜ。
「この料理は、あちらの料理と同じ厨房で調理を?」
招かれた大使に問われた従者は「はい」と答える。
笑顔で手に持っていたまだ1口も飲んでいないグラスをトレーに戻されると「良い夜会になると良いですね」言い残して国王の挨拶もまだ始まっていないのに入場してくる貴族と入れ違うように去って行く。
モートベル王国の貴族の中にも「なんだ、この夜会は」眉間にしわを寄せる者がいる一方で何故かご機嫌な者もいる。
王族が挨拶をするのに入場してくると囃し立てる様子は安い大衆劇場で演者が登場した時を思わせる。
少数の貴族が戦々恐々と得も知れぬ不安を抱える中、国王は遠路はるばるやってきてくれた隣国の第2王子夫妻への言葉も各国大使への言葉をすっ飛ばし「大事な発表がある」と告げた。
「ここにいる第1王子エルファンを王太子とし、現在ジルス侯爵家のシスティアーナとの婚約は破棄。新たにセレナ、こちらへ」
およそこの場に似つかわしくない派手なドレスを身に纏ったセレナが壇上に上がると、囃し立てていた貴族は更にヒートアップし、他国からの客もいると言うのに指笛まで飛び交った。
セレナが国王とエルファンに挟まれるように壇上に立つと国王は得意げな顔、大きな声で宣言した。
「ここにいるセレナをエルファンの婚約者とし、成婚の儀は1年後に行う!」
「わー!!」
歓声は上がるには上がるが、ドン引きする一画もある。
大使たちは聞き間違いかと周囲にいるモートベル王国の貴族に確認を取り、国王の言葉が言葉通りだと判断すると退場していった。
一部の貴族からは「何故婚約者がこの時期に入れ替わるのか!」と声がとんだ。
「システィアーナは己の立場を良いことに国金を着服していたのだ。実家のジルス侯爵家と共にな!婚約者用に予算組されているとはいえ、遊興に使ってよいとはならぬ。既に捕縛し生涯幽閉の刑を言い渡している」
「なんと!!」
数人の貴族は国王の言葉を聞いて唖然とした。
議会の承認もない、これまで低位貴族と言えど次期国王に考えられる王族の配偶者選定は広く周知されてきたのにそれもない。
セレナが平民で奇を衒ったのだとしてもこれはあんまりだ。
判断がまともに出来る者はシスティアーナの国金着服や横領は理解が出来ない。むしろそれをしていたのはエルファンだと知っているからである。
そして壇上からエルファンに手を引かれ降りてきたセレナはとても王子妃の器ではない。
鼻の下を伸ばす貴族にベタベタと触れ、時にその手を取って自身の頬に当てたりと娼婦の方がまだ謙虚さを持っているような仕草であいさつ回りを始めたのだ。
自分の生まれ育った国とは言え、見切りをつけた貴族が1人、2人と去って行く。
自分たちの事で忙しい国王もエルファンも隣国の第2王子夫妻が早々に立ち去った事にも気がつかず、夜会はセレナに魅了された者達だけで大いに盛り上がったのだった。
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