魅了の対価

cyaru

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第16話   無茶振りが激しい

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「ねぇ。そんなのでアタシが守れるとでも思ってるワケ?」

騎士団を視察にやってきたセレナは先ず頭部を保護しているバイザーを取らせると騎士たちを並べ、見目のよい者から外していく。

残った者達に命じたのは‥‥。

「偽物の剣で鍛錬したって腕は上がらないでしょう?斬らねば斬られる。アンタ達は緊張感に欠けてるのよ。真剣で打ち合いなさいな」

「し、真剣で?ですがそれは危険なので!」

「じゃぁアンタたちは何のために騎士してんの?アタシが危険な目に合わないように護衛するために存在価値があるのよ?守らせてほしいなら腕をあげろつってんの」


横暴すぎるセレナには騎士たちの中からも「ちょっと図に乗り過ぎ」と声が上がるが、無茶振りをされても目を輝かせて早速斬り合いを始めようぜと鍛錬場の中央に向かう者まで現れた。

「やめろ!やめんか!」

「ですが!これが騎士の道です。腰の剣は飾りではないんですッ」

何かに取り憑かれたかのようにセレナの言葉に従い、向かい合って剣を交えようとする騎士を止めに入る騎士。
確かに実戦となれば殺るか殺られるかの勝負になる。

今でも辺境の地では奇襲を仕掛けて来る好戦的な国と命を懸けた勝負をしてはいるが、ここは王都。
斬り合いの稽古をして怪我をしたら鍛錬の意味がない。

しかもセレナは言葉を続けた。

「アタシの護衛はここからここまでの騎士でシフトを組んで頂戴ね」

護衛として身の回りに置く騎士は先に選んだ見目の良い騎士ばかり。
真剣を使って鍛錬しろと命じた騎士に護衛などさせられないとまで言ったのだ。

「不細工に守られるなんてぇ、生き恥って言わない?」

コテンと首を傾げ頬に指を当てるセレナだったが。

「護衛の意味ってなんだ?」

セレナの魅了が効いていない騎士は不満を口にした。

「じゃぁこうしましょう。勝ち抜き戦よ。残った人にはアタシのキスをあげる」

「冗談じゃない!」

反対する騎士もいるが、目をぎらつかせ魅了に取り入られた騎士は制止を振り切って打ち合いを初めてしまった。


「ウガァッ…アァーッ…」

「勝ったぞ!次!次かかって来い!」

勝手に鍛錬と称する打ち合いをしてしまった騎士の1人は致命傷にもなりかねない傷を負い、その場に転がった。慌てて駆け寄った騎士が救護を試みるが、勝った騎士はドーパミンが出たのか駆け寄った騎士の背中に斬りかかった。


「大丈夫か!誰か!担架を持ってこい!」

「うぉりゃぁぁーっ!」

「やめろ!違うだろうが!」

「うるせぇ!問答無用だぁーッ!」

「やべぇ。こいつ、目がイっちまってる!押さえろ!」

そうは言っても真剣を本気で振り回す騎士になかなか近寄れない。
他にもセレナの魅了の効果を受けた騎士たちが自分勝手に相手を選んで斬り合いを始めてしまう。

騎士の鍛錬場は無法地帯となるも、セレナはそれを見て腹を抱えて笑い始めた。

「キャーハッハ。ウケるぅ!」

「何を仰るんです!ケガ人が出たんですよ!」

「弱いからでしょ?アタシが本当に鍛えるには?ってのをレクチャーしてあげたのにその言い草は何?あ~なんかムカツクんですけど~。あんた、クビ。もう騎士やめていいわ。斬り合いも出来ない騎士なんていらないもの」

「この事は…陛下に報告させて頂きますッ」

睨みを利かせ騎士が強い口調でセレナに物申しても「すればぁ?」セレナは軽く受け流した。
その上鍛錬場にペッ。唾を吐く上に「砂埃が酷い」と言って侍女から水筒を受け取るとその場で手を洗い始める。

流石に侍女も「ここで?」と驚いた顔をするが、セレナは国王が認めた第1王子の婚約者。
逆らうには身分があり過ぎた。

騎士も鍛錬で汗を掻くが、その汗を流すのは鍛錬場に併設されている水場。
ここではない。

さらに「お腹空いたわ」と侍女に食べ物を要求し、急いで侍女が騎士団の厨房に走って手で軽く食べられるサンドウィッチを持ってくるとパンに挟まっているレタスは嫌い、ピクルスは嫌いと指で抓んで鍛錬場に投げ捨てた。

半分ほど食べたところで「お腹いっぱい」と食べかけをポトリ。足元に落とすと躊躇う事も無く踏みつけた。


「隊長!やめてください。相手は女です」

「解ってる。解っているが…」

怒りを露わにする隊長にセレナは更に挑発的な言動を繰り返した。
セレナがやってきたことでこの先、騎士を生業と出来なくなった騎士が15名も出た上に2人は意識不明。

そうなってもセレナを守らねばと奇妙な使命感に燃える騎士はいきり立った獣のように鼻息を荒くし、医療院に隔離されることになってしまった。

まさか鍛錬をしただけで鎖で拘束する部下が出るとは思わなかった隊長は運ばれていく騎士の姿が現実のものとは思えない、そんな目で見送った。

「隊長、俺、アレの護衛ッスか?嫌なんスけど」

「何故だ?」

「なんて言うか…キショイって言うか‥近くに来ると嫌な感じがするんスよ」

「俺もちょっと嫌ですね。アレ、絶対騎士を何かと勘違いしてるっぽいんで。無茶振り激しすぎっしょ」

隊長は極点と極点にいるかのような受け止め方の違いを見せる騎士。何が違うのかと本気で悩んだ。
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